魔の濃霧

   四季のエッセイ        @
 五月の瀬戸内海は怖い。多発する濃霧は、淡路島、中・四国、九州の山々に囲まれた海域に留まって、拡散することがないのだ。
 昭和三十年の紫雲丸衝突沈没事故は、そんな五月に起きた。修学旅行の小・中学生ら百六十八名が溺死する。折からの濃霧の中、両
船の船長が慣れたコースを過信、猛スピードですれ違ったのが衝突原因だった。読売新聞は、沈む紫雲丸の船体にすがりつく乗客たちの姿を撮った写真を一面トップに特報して他社を圧倒、世界にも配信。声価を高める。
 後日談がある。毎日記者だったエッセイスト徳岡孝夫は、抜き返そうと高松地検のトイレの窓のキーを昼間はずしておき、夜間忍び込んで見つかって、大目玉を喰らう。