椿山荘の蛍

   四季のエッセイ        @
 女将に勧められて白川の辰巳橋に立った。なるほど、いるいる。蛍が二、三匹。水深
十センチほどのきらきら流れる白川に、ぽーっと瞬いている。もうそんな季節なんだ。
 東京のど真ん中、旧黒田藩下屋敷を経て、山縣有朋邸でもあった椿山荘は蛍の名所だ。水生の蛍の幼虫は、四月の雨の日の夜に陸に上がる。その翌日から一日の気温を積算していき、五百度に達した時に初飛翔が観察されるという。その仮説を目下実証中である。
 怖い蛍がいる。北米にいる一種は肉食で、メスは別種の蛍の点滅を真似て、誘われた雄を捕らえ食い殺す。自分の交尾の時は違う点滅信号を出す。まるで結婚詐欺だ。
 ヒトの世界以上だ。生殺与奪のオキテ。