第八回 補充

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○水無月のつごもりの日
(六月の末日)

 「つごもり」は「月籠り」と書き、「月末」という意味。
 太陰暦は30日までですから、「水無月つごもり」は「六月三十日」ですね。

○『本洗馬の郷を出でなむ』と欲りするに、
(『本洗馬の郷を出よう』と思ったが)

 「な」は強意の助動詞、「む」は意志の助動詞です。
 「〜と欲りす」は、漢文によく出る「〜と欲す」と同じことで、「〜と思う」。

○「いましば」と止めて、この里の人々、うまのはなむけして、とりどりに歌ながめて我に贈りける。
(「もうしばらく」と私を引きとめて、この里の人々が送別の宴会をしてくれ、それぞれに歌を詠んで私に贈ってくれた)

 「うまのはなむけ」は「馬の鼻向け」です。
 旅人を送り出すときに、旅人の乗る馬の鼻を、目的地の方角に向けてあげたところから、「餞別・送別の宴」という意味になりました。
 「とりどりに」は「それぞれに」。
 「ながむ」は「詠む」と書きます。これは有名ですね。
 「詩歌をよむ」と訳しますが、「詩歌をよみあげる」場合と「詩歌を作る」場合とがあります。ここは後者。

○宿の主の可児永通、
  行く旅を めぐりも帰れ この里の 馴れしわがやを 住処とはして
(家の主人の可児永通は、「この里の住みなれた我が家をあなた自身の住まいと思って、これから行く旅をめぐりめぐってはやく帰ってきてください)

 この歌の解釈が問三です。
 まず、「帰れ」が命令形であることに注意してください。
 命令形は文末に出ますから、この歌が二句切れ(二句目で文が切れること)であることがわかります。
 すなわち、「行く旅をめぐりも帰れ。この里の馴れしわがやを住処とはして」ということ。
 そうすると、選択肢Bはダメですね。「帰って来て、〜」と訳して、句切れを無視しています。

 次に、「住処とはして」の「し」に着目。
 この「し」はサ変動詞です。サ変はいろいろな動詞のかわりに使いますが、この場合は「住処とはし(=思ひ)て」と、「思ふ」のかわりに使われているのでしょう。引用の「と」の下にありますからね。
 少なくとも選択肢5のように「なのだから」と訳すのは無理があると思います。
 それで、正解は@にします。

○あさゆふ、こととひむつびたる政員、
  別れては 雲路はるかに へだつとも 雁の往来の たよりをぞ待つ
(朝夕、親しく交際した政員は、「別れた後は、あなたと遠く隔たっても、あなたからのお手紙を私はお待ちしています)

 易しい歌ですね。
 「雲路はるか」はふつう「雲居はるか」といい、「はるか遠く」という意味の熟語。
 「雁のたより」は「手紙」という意味です。
 昔の中国の人が、異民族につかまったときに、手紙を雁の脚にくくりつけて送ったという故事から出たことばです。
 「雁の往来のたより」といっても意味は同じ。

○政員が家にとへば、あるじの母なむ、みづはさしたる姿して出でたちけるに、
(その政員の家を訪ねると、家の主人(政員)のお母さんが、ひどく年老いた姿で出てきたのだが)

 「とふ」は「訪ふ」と書き、「@訪ねる A見舞う」という意味。ここは@です。
 「あるじ」は「主」で、政員のことですね。

○「ふたたびとひ侍らむ」といへば、
(「またお尋ねします」と私がいうと、)

 これは筆者の会話文です。
 内容からそう判断できますが、「侍り」ということばによって、ここが会話文だと推察することもできます。
 丁寧語の「侍り・候ふ」は、会話文中でよく用いられることばです。
 「侍り・候ふ」の多用が、会話文の証明になるわけですね。
 会話文を思わせる表現として、他に「@一人称・二人称代名詞がある A命令形がある B「かし」「かな」などの終助詞がある」というのを覚えておくと便利です。

○「またとのたまへれど、わが身すでに老いたり。かく、ほけほけしうなりては、夕べの露ともたのむべき命なれば、今日をかぎりの別れにこそあらめ」と涙をまずさきだてて、・・・。
(「またとおっしゃるけれども、私はすでに年老いています。こんなにぼけてしまっては、いつ消えてもおかしくない命だから、今日が最後の別れになるでしょう」と、まず涙を浮かべ、・・・)

 この部分も「わが身」という一人称が、会話文であることをほのめかしています。
 「ほけほけし」は「ぼけている」という意味。
 「夕べの露ともたのむべき命」は重要熟語ではありませんが、「夕方の露のようにはかない、いつ消えてもおかしくない命」と考えましょう。
 「にこそあらめ」の「に」はもちろん断定の助動詞です。