現代語訳
第三回『徒然草』

 丹波に出雲というところがある。島根の出雲大社のご神体を移して、神社をすばらしく作ってある。志田の某とかいう人が領有するところだから、秋のころ、聖海上人やその他、人をたくさん志田の某が誘って「さあ、いらっしゃい、出雲の参拝に。田舎料理をごちそうしましょう」といってつれて行ったところ、聖海上人やその他の人はそれぞれ参拝して、深く信仰心を起こした。神殿のご前にある獅子と狛犬が背中を向けて後ろ向きに立っていたので、聖海上人はたいそう感動して、「ああ、すばらしいなあ。この獅子の立ち方はたいそう珍しい。何か深いわけがあるのだろう」と涙ぐんで、「もしもし、みなさん、このすばらしいことをごらんになってお気づきになりませんか。もしそうなら、ひどい話です」というと、みんなも不思議に思って、「ほんとうに他とは違っていますなあ。都へのみやげ話にしましょう」などといううちに、上人はいっそう知りたがって、年かさでものを知っていそうな顔をしている神主を呼んで、「このお社の獅子のお立てになり方は、きっと何かいわれのあることでございましょう。それを少々お聞きしたいと思います」とおっしゃったところ、神主は、「そのことでございますよ。いたずらな子供たちたいたしましたことで、けしからんことでございます」といって、獅子と狛犬に近寄って置き直して行ったので、上人の感涙はむだなものになってしまった。