招待状

2002.秋 北原千代

 
            夕餉のころ来て下さい

           尖った靴を脱いだら

           僕のスニーカー貸してあげます

           どうですか

           にびにび土に埋もれながら畝を歩くのは

           ジャガイモ好きですか

           厨に戻って蒸かしましょう

           バタにしますか 味噌もいけます

 

           青草が繁るころ もう一度来て下さい

           緑陰はミミズや虫たちの遊技場

           生き物たちの腕自慢やのど自慢の声

           聞こえますか 耳こそばゆいですか

           熟したトマトとバジルを籠に

           畝を渡って厨へ戻り

           パスタはどうですか

           なあに僕が上手に茹でます

 

           楚々としてしかも奔放なコスモスが咲くころ

           新米食べに来て下さい

           ただ美しいだけの花などひとつもない

           秋の花たちは収穫の喜びを歌うのです

           地上三十階のあなたのベランダに

           新しい命の種子 あげましょうか

 

           冬の畑の養生は 籾殻と麦わら

           手厚くやります 見に来て下さい

           大根と白菜の半分は漬物に

           半物は畑に置いといてやる

           こいつらの鍋は

           湯気からもう旨いのです

           地酒は辛口 飲んでみますか

 

           昔むかし人の足が踏みしめ

           踏みしめ造った厨に続くこの畝を

           僕はあなたと歩きたいから

           この手紙を読んだら 来て下さい

           夕餉のころ必ず 来て下さい      



2002.秋