・・・・農家の日常には
よこしまな愛・愛・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1985冬・芦田喜之
<パワフルな>おばはんに、「今どきの若いもんが田んぼで四つんばいになってなにしとんのや。」と言われると、
僕の草取りは農業の基本だと思う気持ちなどどこかへ行ってしまい、その<パワフルな>おばはんの<パワフルさ>だけにひどく納得してしまい、
「ほんまや。ちょっと考えなあかんな。」と調子を合わせると、<パワフルな>おばはんは「今ごろ何言うとんのや。」と追い打ちをかけてくる。
<パワフルな>おばはんは、こりゃ話にならんわというふうな表情をするので、僕はニコッと笑ったりするのだが、もうそうなるとこの話はつづかず、話題を変えるか、さよならするかのどちらかになる。
****ここまで11/30記
しかし僕は何を思ったのか、その夜今年田んぼの草取りをはじめた日からのばしつづけていた髭を落としてしまった。
髭を落とすと僕は実に五歳程若返ってしまい少年の気分になった。
と、やはり
>少年は日中 あそび疲れて
>風景を顔につけて帰ってくる
>少年は顔を洗う
>すると風景はおちる 洗面器に
>シャボンとまじって・・・
を思い出して、
十年も前に読んでいた詩集を捜し出してきて思い出せなかった続きの部分を読み返したりしたが、記憶に残っている部分だけがえらく鮮明で他の部分は蘇えらない。
これはヤバイことだなと思うと同時に、五歳ぐらい若返ったところで少年にはなれないことに気付いた。
****ここまで12/02記
少年にはなれないことに気付くと、ひどい悪酔いをして名曲「スーダラ節」をはち巻きをして歌ったり、蓮の池に落っこちたり、
>落葉をふんで
>藪に出れば
>崖。
であったり、
>しみ透れ、
>つきぬけ
>火事を出せ
>雪で埋めろ
>刃物のような冬が来た
であったり
>それだけの事で僕の名を言うな
であったり
>僕はつかめなかったが
>もっていた 総ゆるものをいれて
>なお限界を示さぬもの
であったり、
寝顔のいい女性の口びるを盗んだり、「11番目のタラコ」という淫らな話をえんえんとしたり、「11番目のタラコ」の話の副産物として、カネボウ資生堂事件と言うのをおもいついたりして、僕は大騒ぎ。
騒いだついでにカネボウ資生堂事件のことをもう少しくわしくいえば、口紅に養毛剤が混入されたというたわいもないこと。
大騒ぎをしていた頃、ちょうどその頃だったと思う、ちょうどその頃から耳がか痒くなった。その頃からだと思うのだが、ひょっとしたら僕が髭をのばしはじめた時だったかも知れない。
その頃とその時とは5ヶ月間程のへだたりはあるが、その頃からだったのかその時からだったのかはさしたる問題ではない。
耳が痒いのである。
ただ僕が耳が痒いと思いはじめた1番はじめの時、「―――というふうなことも考えられるわけで―――」というシールが『耳が痒い』にはりつけてあって、その時おそらく僕はねじけた会話をしながらそのねじけた世界をさまよい楽しみながらもあまりのおぞましさに僕自身の生存のメカニズムが警鐘の意味をもってそのシールを浮かびあがらせたのだろう。
耳が痒いということはとても不安なものです。
この不安には継続のものと断続のものとがあって、継続不安はその時からずっと耳の痒みがおさまらず続いているということ、断続不安とは耳が痒いという現象の原因が取り除かれてないならば46時間中耳が痒いと感じ続けていいはずなのに、日に数度とか2日に数度としか感じないという現象の空間存在。
先日シールの裏側に何やら書いてあるようで調べてみたら、
脳ミソ腐りよるで 気つけや かい人ハナマルキ
とか書いてあって、僕は冗談でしょと言いそうになったが冗談でしょと言ったら同時に弾丸が僕の胸をつら抜けると思いとっさにまあまあ旦さんとか『耳が痒い』の肩をとんとんとたたきながらシールをもとにもどした。
耳が痒いことに恐れを感じていないと言ったが、恐れを感じていないことがおそれそのものなのであって、耳が痒い←→脳ミソ腐るという図式を自覚しなければならないのかも知れない。腐った脳はその自らの脳の腐りを自覚できるか。脳が解決するしかないが、いま脳に新しいパルスは見当たらない。
シールのベールをはがし取らなければ―――シールの頃僕は♂まぐわう♀に頭の中はいっぱいであった。2月号の「タイムズ」誌に♂まぐわう♀のことが書かれていて、僕は田んぼに出るたびに在らぬことばかりであった。大地と♂まぐわう♀。もちろんテーマソングは―――いやもうよそう、そして、Kのために、「花づくし」―――
花あかり 花いろに 花のこえ 花現れ 花あまく 花あらわ
花さわぐ 花ばなし 花ごころ 花のもと 花息の 花唄は
花欠けて 花みず 花かざり 花ごえで 花じむろ 花づらの
花汗に 花をもたせ 花つまみ 花であしらい 花しずめ
花かくし 花たれ小僧 花火あげ 花虻は 花に舞い
花かずら 花笑い 花のかげ 花よめ 花むこ 花むすび
花道に 花あわあわ 花ござで 花靴の 花の兄 花の弟
花の宴 花少女 花匂い 花やいで 花のかお / 花あわれ
花冷えて 花しぐれ 花吹雪 花いくさ 花まぼろし 花消えて
花いかだ 花摺衣 花笠や 花おうぎ 花塩のせた 花机
花稲かけて 花ばさみ 花のれんわけ 花形の 花巻そばの
花うつろ 花雲なく 花蕊はなくて 花あとの 花恋の 花づくし
花相撲 花電車 花咲じじい 花ことば 花あわせ 花絹の
花ごよみ 花のすがたは 花緑青 花うるし 花あわび 花代
花欄間の 花見 花うさぎ 花札 花がつお 花垣に 花独楽
花雪 花あられたべ 花まつり
(引用 高村光太郎・中江俊夫の作品より)
(2005.01.04.記)
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