ラトザール物語

 

 

第八話                軍師(その一)

 

 側近エダマ=ルンカの反乱以後、カトマールはすっかり様変わりした。かつて大臣たちの屋敷のあった城下には兵士の仮兵舎が多数造られ、さながら一大軍事基地へと変貌した。王宮の中にも背の高い塔が幾つか建造中であり、奇妙な金属製の機械が作業を進めるさまが見られた。時折、翼を持った魔物が王宮の屋根に舞い降りる。ガーゴイルやハーピーといった連中だ。ある程度の知性を持ち、魔物どうしの連絡員の役目をかったりする。シュンラは、この王宮の奥の一室に監禁されていた。

 シュンラは、薄暗い室内で目を覚ました。蝋燭の明り。かすかな低いうなり声が聞こえる。あの機械仕掛の化物と同じ音だ。脳髄を圧迫されるような感覚をおぼえる。体の自由がきかない。部屋の中で数人の男が動いていた。鼻をつく薬草の臭い。魔法使いのシャール=ザマだ。

 「お目覚めですかな、シュンラ=リスレン殿。」

 いつものぼろ布をまとったシャールがそう言った。シュンラの体は、斜めに立てられた厚い木の板に縛りつけられていた。手首、足首と首に鉄製の輪がはめられ、硬い木の板にしっかりと固定されている。シャールは、近づいてきて、シュンラの頬を手にとらえた。

 「シャール。わたしにこんなまねをして、ただですむと思ってるの?」

 シュンラは、指を動かした。しかし、気がつかめない。いつもと様子が違う。シャールが大声で笑った。しゃがれた声。

 「鬼神でさえ恐れるといわれたロード、シュンラ=リスレンも、魔法が使えなけりゃ、ただのしょんべん臭い小娘さ。この部屋には特殊な結界がしいてあってね、一切の魔力が封じられるという仕掛さ。どうだい、気に入ったかい。」

 シュンラは、身を振り解こうともがいた。しかし、鉄の輪が手足の皮膚に食い込むだけの結果に終わった。シャールは、シュンラの顔を強引に自分の方に向けさせ、大きく見開かれた鮮やかな緑色の瞳を覗き込んだ。

 「ただの女として見ると、おまえさんも随分と可愛い顔してるじゃねえか。」

 シュンラは、シャールのその顔に唾を吐きかけた。シャールは、平然としている。シュンラは、ぷいと首をねじり、シャールの反対側を向いた。シャールは、くっくっと笑いを漏らして、シュンラの金色の髪を撫でた。そして、エルフの尖った耳を指先でもてあそぶ。

 「一つだけ、聞きたいことがある。エドガーの居場所だ。現在地がわからなければ、過去にいた場所でもいい。あるいは、連絡をとるための集合地点があるだろう。なあ、教えてくれよ。」

 シャールのくっくっと耳障りな笑い声が響く。そのひからびた指が、シュンラの首筋を通り、胸元へと下り、服の上から彼女の小ぶりの乳房を揉んだ。

 「抵抗はしないんだな。無駄だということがわかったのか。おまえさんは、無駄なことはしない女だからな。」

 シャールの手はさらに下りて、腰に巻かれた紐を解いた。裾布をめくり、へそから下を露出させた。

 「実は、兵士たちの中にも、おまえさんを恐れる者が多くてな。困ってるんだ。知り合いをおまえさんに殺された奴もいるんでな。おまえさんがこうやって、ただの女でしかなくなったということを見せてやれば、いたずらに恐れる奴もいなくなると思ってね。」

 そう言って、シュンラの股間を手でまさぐった。シュンラは、平然として顔色一つ変えようともしない。

 「どうだい、そろそろ、エドガーの居場所を喋る気になったかい。喋らなきゃ、拷問するよ。ま、このくらいのことじゃ喋らないだろうがね。」

 シャールは、何かを持って、シュンラの前に立った。兵士に命じ、彼女の胸をはだけさせた。

 「おまえさんのような強情な女に、鞭だの棍棒だのといった野蛮な拷問は無駄だろうね。だから、こういうことをするのさ。」

 そう言って、手に持ったガラス容器と針を見せた。

 「まあ、簡単に言えば毒薬だ。神経毒というやつでね。体の中から虫に食われるように痛むぜ。普通の男だったら、死ぬかもな。」

 シャールは、そう言って、針をシュンラの胸に突き刺した。シュンラの顔が歪み、体が一瞬ぴくりと動いた。

 「声一つ上げないのはさすがだな。おまえさんは、今、こう考えているだろう。どうやって逃げ出そうかとね。だが、それは無駄ってものだ。この俺様の用心深さは、おまえさんが一番よく知ってるはずだ。このシャール様はそんなへまな真似はしねえ。俺様を怒らせてチャンスを掴もうなんて考えも無駄だぜ。そうなると、おまえさんは、こう考える。喋るべきか、喋らざるべきかってね。でも、喋ったとしても逃がしてもらえる可能性はない。どのみち殺されるだろうとね。全くその通りだ。俺様はそういう男さ。そこで、喋っても、喋らなくても殺されてしまうなら、喋らないほうがましだと考える。だが、おまえさんはそこで、大きな思い違いをしているね。同じ殺されるにしても、一気に楽に殺されるのと、じわじわとこうしていたぶられながら殺されるのとでは天国と地獄ほどの差があるってことを忘れている。」

 そう言って、シャールは、もう一度針を突き刺した。

 「俺様にだって情けってものがあるんだ。もしも、エドガーの居場所さえ喋ってくれたら、楽に死なせてやろう。俺様は、薬草、毒薬の扱いに長じているんだ。知っているだろう。楽に死ねる薬を調合してやるぜ。どうだい、悪い話じゃねえだろう。」

 シャールは、シュンラの耳もとでくっくっと笑った。シャールは、兵士にガラス容器と針を手渡した。その後の作業は、兵士たちの手に委ねられた。シャールは、残忍な笑いを浮かべながら、苦痛と恥辱に歪むシュンラの顔を眺めていた。

 「さすがにしぶといな。もう止めろ。もっと太いやつをお見舞いしてやろう。この中で、自分の持ち物に自信のある奴はいるか?」

 兵士たちは顔を見合わせた。赤い髭面の兵士が手を上げた。どっと笑いが起こる。

 「よし、やれ。」

 シャールは、合図した。髭面は鎧を解き、服を脱いだ。シュンラの体に覆いかぶさって、彼女の体を乱暴に愛撫した。シュンラの顔が再び歪む。やがて赤髭は、自分の身をシュンラの体に重ねた。

 「待て。」

 シャールが男の動きを制止した。

 「さっき気付いたんだが、おまえさん、処女だろ。二百年間もの間守り続けた処女を奪われる気持ちはどうだい? 可愛いルーイにさえ捧げられなかったのにさ。」

 シュンラの顔が紅潮した。兵士たちがどっと笑い囃す。シャールは、いかにも愉快そうに笑った。その顔を、シュンラはチラリと見た。

 「シャール。おまえの命運も尽きたな。」

 シュンラは、小さいが、妙に落ち着き払った確かな口どりでそう言った。エルフの少女は、微かに笑みを浮かべているようにさえ見えた。シャールは、追い討ちをかけるように笑い飛ばした。

 「何を言い出すかと思えば、おまえさんの冗談のセンスには泣けるね。」

 シャールは、そう言って、笑い続けた。一瞬、沈黙してしまった兵士たちも笑いを取り戻した。

 「さあ、やれ。」

 シャールが赤髭に命じた。

 「待って。」

 今度は、シュンラが止めた。

 「何だよ。もうしゃべる気になったのかい。可愛い子ちゃん。」

 「違うわ。キスさせて。ただ、無理やりされるのはいやなの。」

 兵士たちは、再び静まり返ってしまった。笑うべきか、笑わざるべきか、タイミングを取りはぐれてしまったように、お互い顔を見合わせている。

 「何を言い出すんだか。ほんと、わかんない女だね。まあ、いい、熱いのをお見舞いしてやれ。ほら。」

 シュンラは、自分の目の前で荒い息をたてている男の目をきっと見据えた。

 「大丈夫。噛み切ったりしないわ。」

 そう言って、歯を見せた。赤髭は、たじろいだ様子で、身を引いた。いくら兵士たちに囃し立てられても、シュンラの唇を奪うことはできなかった。自慢の腰の一物もすっかり元気を無くしてしまった。シャールは、他の兵士を代役に立てようとしたが、皆、肘を突付きあうばかりで、名乗り出るものはいなかった。シャールは、舌を鳴らした。

 「まあ、いい。ただし、一つ言っておくことがある。」

 シャールは、そう言いながら、シュンラを縛りつけた板の横の足場に登った。

 「今日から、おまえたちの便所はここだ。おれが、見本を見せてやろう。おまえたち少し退いておれ。」

 そう言って、自分の一物を取り出し、シュンラの頭の上で用をたした。流れ出す液体がエルフの短めの金髪を濡らし、彼女の細い全身を伝った。

 「ただし、使用後は後に使う者のためにこうして水で流しておくように。それから、必ず二人以上の組で使え。一人ではくるな。この便所は少々凶暴なところがあって、おまえたちの大事な物を食いちぎるやもしれぬぞ。」

 シュンラの体に水桶の水がざんぶりとかけられた。沈黙していた兵士たちも、肩を叩き合って笑いころげた。シャールは、部屋の入口付近に三人の見張りを残して、笑い止まぬ兵士たちとともに引きあげていった。

 シュンラは、顔を上げた。見張りは部屋の中に一人、外に二人。低いうなり声はまだ続いていた。頭を圧迫するような感覚はこの音のせいだ。これが、シャールの言っていた結界の正体らしい。

 やがてどこかの部屋で酒宴が始まったらしい。酔った兵士の群が入れ替わり立ち代わりやってきては、シャールの言いつけに従った。噂を聞いた他部署の者も来ているようだ。便所には落書きが必要だと言って、シュンラの体に自分の名前などを書く者もいた。まるで、肝試しでもするように仲間同士囃し立てながら、彼女の体を痛めつけていった。シュンラは、その男たちの顔を一人ずつ脳裏に刻みつけた。

 

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