米沢城の庭の池で決まった時間に鯉に餌をやる一人の女がいる。
戦で見る忍び装束ではなく、ただ普通の着物に身を纏い愛しそうに鯉を愛でる。
曰く、命を散らすばかりの手で命を育んでいることが無性に嬉しいのだそうだ。
それを聞いて、妙に胸が騒いだのは記憶に新しい。



「今日も鯉の世話か」
「はい。この子らは誰かの助けなければ生きていけぬ身故、がしかと面倒をみてやらねば」
「それはご苦労なこった」
「別に苦ではありませぬ。それに存外可愛いものですよ」
「何を考えているかわからんこいつ等がか?」
「目を見ればどのような生き物も大概何を考えているかわかるものでございます」



鯉もまた然り、とは優しく笑んでから屈んだ。
それに倣うように屈んでみると、池の鯉がしかりに口を開閉していた。



「なんだ?Hungryなのか?」
「この子らは私たちの影に反応し餌を食べねばと思っているのでございます」
「Why?」
「食べても食べても、この子らは餌を求めるのでございます。己の腹が満たされていることも知らずにただ食べねばと思うのでございましょう。それが己の腹を破き死ぬことになろうとも」
「ようするに馬鹿なのか。Is it foolish?」
「正直なのでございます。欲しい物を欲しているだけ。本能とでも言うのでございましょう。・・・ですのでとこの子らは似た者同士、気が合うのでございます」
「似た者同士?と鯉が?」
「はい」



あっさりと是と答えたは満たされているような、それでいて泣いているような顔を一瞬して、またいつもの穏やかな笑みを浮かべた。



「政宗さまに命をお預けし、本能のまま貴方さまをお守りする。幾度お守りしても自分の不甲斐無さだけが目につき不安になって満たされぬのです」
「そしていつか、鯉のように死ぬとでも言うのか」
「わかりませぬが今はまだ死ねませぬ。政宗さまの天下を見るまでは絶対に」
「・・・お前は死なん。なにせ竜に飼われているのだからな」
「・・・そうでございますね。貴方さまが見放さぬ限りこのは決して死にませぬ」



開閉を繰り返す鯉を見ながら、鯉に似た女は誓った。
その目は力強く、飲み込まれそうなほどの生気に満ちている。
が今、何を考えているのか探りたいが、その目は巧みに色を変えそれを許さなかった。



「貴方さまの命尽きる時がの命尽きる時でございます」
「それでいい・・・」



今はそれでいい。
でも、いつか、いつかその目に特別な柔らかな光を宿して俺を見て欲しい。
鯉に向けるのとは違う、特別な愛情を与えて欲しい。

それこそ、腹が破けて死んでしまうくらいの愛情を。









平成18年9月30日