「着地がね、大切なのよ」



女のチェリーを思わせる赤い唇が弓形を作った。
理知的にゆったりとした口調の女。名は知らない。
ただ、なんとなく入ったBARでたまたま隣同士に座っただけだ。
だが、この女ただの女じゃない。上着に隠れたホルスターに納まっているものが証拠だ。



「競うスピードよりも着地が大切。速くても着地が下手じゃ不様でしょ」
「・・・随分と可愛らしい意見だな」
「ふふ。そうかもしれない。でも、本当のことだもの」
「着地ばかりを気にして結局、獲物を逃がしちゃ同じだろ」
「流石カウボーイ。まったく長生きしようとか思ってない無茶な発言ね」



可笑しさを流し込むように女は杯を呷った。琥珀色の飲み物が揺れる。
つられるように自分の杯を手に取ると中身は空だった。



「マスター。この勇敢な殿方に一杯ちょうだい」



すぐに老主人は反応して空の杯が琥珀色で満たされる。
どういうつもりかと女を見ると、酔いそうな琥珀色の双眸と目が合った。



「やっと目が合った。はじめまして」



瞳を細めて、なにがそんなに嬉しいのか。
女は確かに笑っていた。華やかに。



「ハジメマシテ、カウガール」
「GIRLって言われる歳じゃないけれど、ね」
「俺だってBOYって呼ばれる歳じゃないぜ」
「そうね」
「そうさ」



言葉が終わるのを合図に自然に杯がかち合った。
硬い響きの余韻を聞きながら喉に流し込むと心地良い香りが鼻に抜ける。



「不思議ね」
「なにが?」
「貴方の名前も素性もしらないのに、家族より余程か信用できるような気になることが」
「アンタ、男をみる目があるぜ」



冗談めかして言うと女は静かに「ありがとう」と零した。
そこいらにいる安い女とは違う。色んな意味合いに取れる、そんな一言だった。



「・・・カウボーイ。折角なんだけれど私、そろそろ行かなくちゃ」
「何処へ?って聞いたら野暮か」
「そうね。ここは静かに見送って」
「そうか」
「そうよ」



カツンっとヒールが床を叩く音がし、チャリンっと小銭がテーブルに置かれた。
女は口調と同じようにゆっくりと歩き出し、



「ねえ、カウボーイ」



一際高く足音が鳴らしてから女は店のドア前で止まり、こちらを振り返った。
琥珀色の瞳も真紅の唇も鮮やかに微笑んでいる。



「着地の話なのだけど、あれは最後の最後は間違っちゃいけないってことなのよ。幾ら無茶した人生でも償いきれない罪を犯したとしても最後は絶対に間違った場所に着地しちゃいけないの。あるべき場所に着地しないといけないのよ」



それじゃあね、

結局、女は名も告げずに店のドアを押し開け出て行った。俺も名を告げずじまい。
名も知らない同士、酒を酌み交わして他愛無い雑談で時間を潰しただけの話だ。


数日後、何処かのなんとかって言う悪徳組織が何者かに壊滅させられて
琥珀色の瞳と真紅の唇をもった女が裏世界で莫大な賞金首になったことを聞くまでは
普通によくある、なんてことはない話だった筈だ・・・。