「お前、目はれてねぇーか?」
「・・・そりゃ、午前中ずっと泣いてましたから、ね」
前から思っていたが、この部下には表も裏も存在しない。
秘密といったものもなければ、嘘といったものもない。
それ故に、気を使うこともあるわけだが。
「・・・あ、そう」
「理由は聞かないんですか?」
「聞いてほしいのか?」
「いえ、別に」
向かいに座るやつは腫れぼったい目を少し伏せ、唇を閉じた。
書類処理の間に話題にするようなことじゃなかった。
今さらながら自分の迂闊さに嫌悪する。
「土方さん」
「あ?」
「ここは禁煙です」
無意識のうちに俺は制服の内ポケットを探っていた。
なんとなく、決まり悪くて「わかってる」と強めに言い返した。
やつは溜息に似た呼吸を一回し、また手の中の書類に目を通していく。
「・・・土方さんの予想通り、フラれたんです」
本当に俺は迂闊だった。
「叶わぬ恋だとは承知してたつもりでしたが、私もまだまだ甘い」
「別に言わなくていい」
「いいじゃないですか、聞いてください」
時刻は深夜二時。単調なやつの口調は俺の意識を朦朧とさせる。
眠気を誘う破れた恋の話。だが、それはただ単に退屈だからなのではなく
俺がそれを聞いて安堵し最低にも心地良いと思っているからだ。
お前は一人でいる方が綺麗だ。
表も裏も真実も嘘もなく、ただそこに潔く存在し
ごくたまに、そんな腫れぼったい目を俺だけにみせていればいい。
そんな、お前に俺は恋をしているのだから。
忍ぶ恋だなんて、そんな上等なものではないけれど。
2005年10月21日(再録:2005年5月19日)