肺結核症診断の信頼性の策
肺結核症の診断においてDNAプローブ法、PCR、MTD、MGIT法等、最近の進歩は著しい。診断の原点に戻ると感染症である肺結核症での従来の検査法(菌検査,塗抹法、従来の培養法等と胸部XP)の重要度は最新の診断手段が加わろうがなかろうが不変と考える。いたずらに最新の診断手段だけに頼らず、従来の手法でどこまで診断可能か、もしくはその信頼性と限界を熟知することが肝要である。その認識を基にしてこそ、最新の診断手段も活用できると考えられる。その趣旨の下において以下述べていく。
医師,技師,患者側の問題点
まず、診断の信頼性と限界を考える前に、診断時に生じる各三者でのバイアスを述べたい。
医師側の問題としては
1.3回連続喀痰検査の順守がなされていない
2.胸部XP診断でのoverdiagnosisとunderdiagnosis
3.患者の症状等診断へのヒントにつながる 問診の軽視
4.菌検査所見へ過度の信頼性をおく
5.Doctor's delay
が考えられる。
技師側の問題としては
1.検査手技の技術上の差がある
2.コンタミネーション
3.所見に偽陽性と偽陰性が生じる可能性が常にある
4.検鏡手技が不十分
5.精度管理が不十分
が考えられる。
患者側の問題としては
1.喀痰喀出不良や不適当な検体の存在
2.Patient's delay
が考えられる。
上記三者のバイアスをいかに改善していくか、それについての根拠となるevidenceを以下列挙していくこととする。
肺結核症診断改善へのevidence
喀痰検査
SchlugerとRom2)によれば、塗抹法と従来の培養法はともに良好な感度と特異度を示し、特に培養法において著しいと述べている。もちろん、BoydとMarr3)、が示すように有病率が低くなると偽陽性が生じやすく、塗抹法の信頼性が低下するとの報告もあるが、今までの報告では塗抹法と培養法の信頼性は、精度管理が十分なされていればおおむね良好である。
D.喀撰検査を補う菌検査
喀痰塗抹で菌が証明しにくいとき、胃液での菌検査を選択するのは妥当である。Bahammamら17)は、胃液と喀痰での塗抹検査の成績を比較し、胃液での塗抹検査の感度19%、特異度100%、陽性適中率95%であり、一方、喀痰塗抹検査の感度45%、特異度99%、陽性適中率92%、陰性適中率88%であると報告している。胃液塗抹検査は喀痰のそれに比し、感度は劣るが特異度は極めて高い検査と位置付けている(表7)。
気管支鏡による検体採取の有用性については、Kvaleら18)の報告がある。それによると喀痰・胃液検査が十分なされているのであれば、 気管支鏡による検体の培養検査をルーチンにする必要はないと結論している。その理由は検体の約2/3が偽陽性になるからとしている。数回の塗抹結果が陰性で胸部XP上肺結核が疑わしいときにこそ、気管支鏡が有効であると考えられている19),20)。また、気管支鏡の適用はHIV感染ありでも、HIV感染なしと同様に考えてよいとしている21),22)。
E.胸部XP診断
胸部XP上で肺結核を疑う所見としては表8 に示した23)。しかし、胸部XPのみで喀痰等の菌検査をせずに結核の診断を下すことは大きな間違いである。Gordinら24)は、胸部XP所見のみで喀痰を開始し、後に菌所見で確定された例は48%であり、半分以上が非結核性疾患だったとしている。むろん胸部XP上典型的活動性肺結核の所見がなく、2週間以上の咳、痰、体重減少等がない症例は肺結核でないとしてよい25)。ましてやAIDSを合併している場合の胸部XP所見はAIDSがない所見と大いに異なってくる(表9)26)27)。Greenbergら28)は、喀痰かBALからの培養で結核菌が証明されたAIDS合併症例の胸部XP所見を検討し、32%の症例で活動性肺結核の所見が見出せなかったとし
ている。
F.診断率向上の工夫
Sambら29)は、ブルンジとタンザニアの首都の2大学病院に入院中の2〜3回の塗抹陰性の結核患者で、多変量解析を用いて症状より結核診断が可能かどうか検討した(表10)。その結果によると@3週間を超える咳、A15日を超える胸痛、B痰の喀出がない、C息切れがない、の4項目のうち、2項目を満たすときの診断感度は85%、特異度67%であり、3項目を満たすときの診断感度は49%、特異度86%であった。同様の研究が外来患者にも必要として結論しているが、この手の方法も実際には先進国、途上国を問わず肝要であると考えられる。
Wilkinsonら30)は、喀痰塗抹検査と抗生剤への胸部XP上の反応より、結核診断アルゴリズムを提唱している(図1)。それによると、胸部
XPと自覚症状から肺結核が疑わしい患者に、3回塗抹検査を施行し、その結果、塗抹陰性のときはアモキシシリン(AMPC)1日1,500 mg分3を5日間投与し、自覚症状の改善や消失があれば肺結核でないと判定する。さらに、
AMPC投与後も症状が持続する患者にはエリスロマイシン1日2,000mg分4を5日間投与し、自覚症状の改善や消失があればやはり肺結核でないと判定する。それでも症状がとれないときは胸部XPと喀痰塗抹を繰り返し、塗抹陰性肺結核として治療するというものである。この手技での結核診断の感度は89%、特異度84%、陽性適中率95%、陰性適中率70%であったと報告している。途上国での地区病院での診断手法として有効と結論している。
検査結果のモニタリングが悪いと、Creek ら31)の報告にみられるように、最初の塗抹陽性判明から治療まで2週間以上かかる症例を調査したところ25%以上の患者がこれに当てはまったとしている。
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