高分子構造材料のタフネス
2012年8月16日
石川 優
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本書は山形大学大学院博士前期課程の応用高分子力学の講義資料として書かれた 題目の"高分子構造材料のタフニング" の基本的な目標は構造物の強度をそれを構成する高分子材料の一次そして高次構造と関連して理解 し、その設計システムを構築することである。低い負荷を担う構造材料として高分子材料は最も一般的な材料であるが、現状において少 なくとも高分子構造物の強度設計システムは完成していない。構成する材料の構造が確定すれば、凝集強度あるいはせん断降伏応力はそ の構造から予測することは基本的には可能であろう。従来そのような検討によって評価された値は現実のそれより大きな値を示している。 それは明らかに計算に用いた構造モデルの極端な理想化に原因がある。高分子材料の場合このような構造モデルの構築の他にさらに困難 な問題がある。それは高分子材料が破壊を開始するときの構造がそれに負荷を加える前の構造とは塑性変形により大きく変化し、その構 造の予測が現状では困難なことにある。この困難を解決する最も有力な方法は分子力学を用いて変形に伴う構造変化を解析することであ ろう。その努力は現在盛んに進められているが、現実にタフネスの設計に用いられることが可能になるにはまだ多くの時間が必要である。 構造物の剛性の設計において、機械工学では弾性定数を材料の特性値とし、実験によって評価されたその値を用いて任意の形状の構造物 の剛性を推測し、設計を行っている。強度設計においてもそのような手順が可能であればそれは有用であろう。そのためには材料の構造 のみに依存する破壊の特性値を明確にする必要がある。高分子材料の破壊の特性値は知られていないし、 またこのような観点に立った努力も数少ないように思える。
筆者の尊敬するArgonが唯一極めて基礎的ではあるがその努力を継続して行い、着 実にその成果を積み上げている。著者は本書において高分子材料の破壊を支配する特性値がクレイズ強度、と降伏応力そしてひずみの拘束 であることを提案し、それに基ずく高分子構造材料のタフネスの設計システムを提示する。それは十数年前から著者の研究室の大学院生を 中心に、このような主旨を理解して頂き、キャクタライズされた組成の明確な試料を提供頂いた多くの企業の協力のもとに検討した結果か ら導かれた提案である。しかしこの提案が高分子構造物のタフネスの設計においてどの程度有効であるかは今後の検討をまたねばならない。 その意味で本書は著者の研究室の高分子構造材料のタフニングに関する中間報告書でもある。本書の初版は1996年で本年までに数回新たな 知見を元に改版している。今後も可能な限り、タフニングの設計システムを実現を目指したいと思っています。。
1.高分子構造材料の強度設計とタフネス
1.1 固体材料の変形による力の発現と強度
1.2 凝集破壊強度
1.3 せん断降伏強度
1.4 強度成形とタフネス
2.構造材料の変形と応力分布
2.1 固体力学の基礎方程式
2.2 切り欠きを持つ弾性体の応力集中
2.3 切り欠きを持つ塑性体の応力集中
3.高分子材料の塑性変形
3.1 非晶性ガラス状高分子の塑性変形
3.1.1 降伏
3.1.2 ソフトニング
3.1.3 配向効果
3.2 結晶性高分子の塑性変形
3.2.1 降伏
3.2.2 ソフトニング
3.2.3 配向効果
3.3 不安定な局所塑性変形
3.3.1 ネッキングの形成機構
3.3.2 クレイズの形成機構
4 高分子材料の破壊機構
4.1 高分子材料の破壊と境界条件
4.2 弱い拘束の下での破壊
4.2.1 非晶性高分子の一軸伸張破壊
4.2.2 結晶性高分子の一軸伸張破壊
4.2.3 架橋高分子の一軸伸張破壊
4.2.4 ソフトニングと配向硬化が一軸伸張の破壊挙動に及ぼす効果
4.2.5 伸張速度が一軸伸張の破壊挙動に及ぼす効果
4.3 強い拘束の下での破壊
4.3.1 切り欠きによるひずみの拘束の下でのクレイズ形成 過程の有限要素法解析による
シミュレーション
4.3.2 非晶性高分子の切り欠きからのぜい性破壊
4.3.3 結晶性高分子の切り欠きからのぜい性破壊
4.4 クレイズ強度とタフネス
4.5 クリープ破壊
4.5.1 一軸引張りクリープのオレフィン系結晶性高分子の破壊の機構
4.5.2 膨張応力によるオレフィン系結晶性高分子のクリープ破壊の機構
4.6 オレフィン系結晶性高分子の疲労破壊
4.7 アルミニュウム合金の破壊との比較
4.7 高分子材料の破壊条件と破壊力学
5.構造体のデザインとタフネス
5.1 構造体のひずみの拘束と変形の安定性
5.2 形状の調整による非晶性ガラス状高分子(連続体)のタフニング
5.2.1真応力-ひずみ曲線の決定
5.2.2PC構造体のタフニングと強度予測
5.2.2.1切り欠き先端半径の効果
5.2.2.2リガメントの厚さの効果
5.2.2.3試験片の幅の効果
5.3 形状の調整による結晶性高分子(ボイドを含有)のタフネニング
5.3.1 境界条件とPOMの破壊様式
5.3.2 POMの構成方程式
5.3.3 破壊条件の推定
5.3.4 POM構造体の 形状の調整によるタフニングと強度予測
5.3.4.1 切り欠きの先端半径の効果
5.3.4.2 リガメントの厚さ
5.3.4.3 試験片の幅
6 高分子の構造とタフネス
6.1 平均分子量の効果
6.1.1 非晶性ガラス状高分子
6.1.2 結晶性高分子
6.2 分子量分布の巾の効果
6.2.1 非晶性ガラス状高分子の分子量分布の巾がタフネスに及ぼす効果
6.2.2 結晶性高分子の分子量分布の巾がタフネスに及ぼす効果
6.2.2.1 ブレンドにより調整した分子量分布の幅の調整がi-PPのタフネスに及ぼす効果
6.2.2.2 過酸化物による分子の切断による分子量分布の巾の調整がタフネスに及ぼす効果
6.2.3 クレイズ強度と粘度に及ぼす分子量分布の効果
6.3 タクチシチーの効果
6.4 結晶構造の効果
6.5 共重合の効果
6.5.1 オレフィン系高分子の共重合
6.5.2 非対称ナイロン塩型モノマーを共重合したイミド
6.5.3 共重合分子鎖の構造とPCのタフネス
6.6 分岐の効果
6.6.1 非晶性ガラス状高分子
6.6.2 結晶性高分子
6.7 相溶性ブレンドの効果
6.8 熱履歴とタフネス
6.8.1 非晶性ガラス状高分子
6.8.2 結晶性高分子
6.9 劣化とタフネス
7.ブレンドの構造タフニング
7.1 ブレンドによるタフニングの機構
7.1.1 ホイドのひずみの拘束の解放によるタフニングのGurson モデルを用いた有限要素法解析
7.1.2 修正Gurson モデルを用いたよるひずみの拘束の解放によるタフネスの予測
7.1.3 ボイドの分散状態が塑性不安定に及ぼす効果の検討
7.1.3.1 分散モデルによるシミュレーション
7.1.3.2 分散条件が変形の安定性に及ぼす効果
7.2 ひずみの拘束の解放にタフニングの例
7.3 ポリマーアロイのタフネスに影響する要因
7.3.1 分散粒子の強度の効果
7.3.2 分散粒子の径の効果
7.3.3 多成分系の分散粒子の効果
7.3.4 マトリックス樹脂の平均分子量の効果
7.3.5 部分架橋の効果
7.3.6 相溶性がタフネスに及ぼす効果
7.3.6.1 部分相溶するエラストマーをブレンドしたi-PP
7.3.6.2 エラストマーの相溶性の調整とタフネス
7.3.6.3 ブロックポリプロピレンの分散構造とタフネス
7.3.7 マトリックス樹脂の配向硬化の影響
7.3.8 成形加工によるエラストマーの配向構造の形成とタフネス
7.3.9 劣化によるぜい性化の抑制
7.4 無機微粒子充填によるタフニング
7.5 繊維の充填によるタフニング
7.5.1 繊維と樹脂が強い界面強度を持つ場合
7.5.2 繊維と樹脂の界面が適切な強度ではく離する場合
7.5.2.1 はく離強度がタフネスに及ぼす効果
7.5.2.2 繊維長のアスペクト比がタフネスに及ぼす効果
7.5.3.3 繊維への締め付け力がタフネスに及ぼす効果
7.5.3 界面強度の調整によるタフネスの改善の例
7.5.3.1 酸変性低分子量PE改質剤によるガラス繊維充填 PCのタフニング
7.5.3.2 アラミド繊維によるPLAの弾性とタフネスの改善
付録 1 U字型切り欠き試験片の三点曲げにおける局所塑性変形領域の応力分布と全面降伏条件
付録 2 高分子結晶における理論弾性率の計算と結晶形態の推定
付録 3 球殻の塑性変形

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