海上自衛官時代の回想記

嗚呼,花の艦隊勤務其の参
勤務雑記篇





(陣形航行の護衛隊群)



1.舷門当番(げんもんとうばん)


この制度については、前にも紹介したことであるが,もう一度説明しておこう。
海上自衛隊の艦艇部隊では、舷門(げんもん)当直というものがあり、砲雷科と
船務科の海曹士が2人づつ、およそ3〜5日に1度、更にそれを4つに分けて日中は
3〜4時間、夜間は2時間交代であたっている。ちなみに舷門とは,停泊中の艦艇で
は陸上と艦との間に設ける梯子のようなもの(舷梯=げんていという)をかけたところ
に設ける,陸上部隊で言うところの警衛所のようなものである。
さて、この舷門であるが、仕事は主に来艦・面会の取次ぎ、電話の呼び出しと応対・
艦の警備、号令の放送など、やることはたくさんある。俸給日近くには借金取り立て
の電話が相次ぎ,課業時間後には女性からの電話が頻繁にやってくる。基本的に停
泊中の電話はこの舷門用と士官室用の2回線なので、舷門でラブラブな会話をやっ
ているバカモノには思わずケリをいれたくなる。しかし、最近は船乗りのあいだにも
携帯電話やPHSが普及し,わざわざ艦の電話に掛けなくても直接本人と会話できる
ので,舷門電話のコールは減っていると聞いているが。
外での業務なので,雨が降ったり冬場の当直の際には舷門小屋と呼ばれるテントの
部屋が設けられる。この中に小さな電気ヒーターを入れて暖をとるのだが,大の男2
人がよりそって小さな掘っ立て小屋にこもる様は非常にまぬけ。
舷門当番に立つものは制服であたるのが規則である。海上自衛官の制服は自分の
体にピッタリ合ったものをもらっている。今の若者の様にだぶだぶな着こなしはカッコ
悪いとされているのだ。そのため、冬場は下に服を着込むことが出来ないため,とって
も寒い思いを強いられる。



2.当番寝台


これは、明け方まで舷門当番(明け方の2時から4時についた者が標準)についた
海曹士に限って通常6時(冬期は6時30分)に起床するところを、もう少し寝させてくれ
るありがたい制度。みんなが起きて体操をしたり掃除をしたりしていても、もうちょっとだ
け、という感覚で寝かせてくれる。しかし、時の私の上司は、どうしてだか寝かせてくれ
なかった。「総員起こし(起床のことを海上自衛隊ではこう言う)」のラッパが鳴ると、
「さあO君、すがすがしい朝だよ―!起きたまえ!僕ちんと一緒に、体操やろうぜ!!」
なんていって、カーテンを開けてたたき起こす。「今日は自分、当番寝台なんすよ―」と
いったところで、聞いてくれるわけでもない。
こういう上司は、多分どの艦にもいるはずである。



3.神聖なる自衛艦旗


海上自衛隊の艦艇部隊ではいわゆる「日の丸」は使っていない。
海上自衛隊のシンボルとも言うべき「自衛艦旗」という旗を使っている。
いわゆる「日章旗」だが、暴走族や右翼系団体の皆様が利用してらっしゃる,あれ
である。海上自衛隊の場合,いかにもミリタリーっぽいワッペンだらけのジャンパー
には必ず自衛艦旗のワッペンをつけるのだが、あれをつけて街中に出ると,たまに
暴走族と間違われることがある。実際,私はそのジャンパーで埼玉の実家に帰った
ら,「おまえ、どこのチームか?」と因縁をつけられてしまったこともあったくらいだ。
しかし、本来は海上自衛隊の神聖なシンボルであることを暴走族のカタガタは
理解しているのだろうか?そもそも、彼らは「海上自衛隊」というものを知っている
のだろうか?
甚だ,ギモンである。

 (嗚呼,堂々の自衛艦旗。)



4.広報行事


現在の自衛隊は「開かれた自衛隊」を目指しているそうで,閉鎖的イメージから脱却
したいとあの手この手でいろいろな方策を講じている。
海上自衛隊とて自衛隊なのだから、協力しないわけにはいかない。
そこで、出港して地方で停泊した際や、夏休みなどの期間中,様々な広報行事を
設定している。その主なものは「艦内公開」と「体験航海」である。
行事の際には多少のイベントもやる。乗員で売店をやったり,ミサイルランチャー(発射
機)の展示作動をしてみせたり。
この行事の際は,隊員は制服で臨むのだが,夏場にやるのはあまりありがたくない。
海上自衛官の夏服は真っ白。これは見た目には非常にかっこいいが、実際はその
都度洗濯しないと黄ばんでくるので困りもの。
また、子供は声をかけてくるときや写真を撮るときに裾や袖をつかんでくるケースが
多いが,お菓子やアイスを食べた手で掴んでくるので,服がべたべたのまっくろくろすけ
になってしまう。思わず、「うわっ!このクソガ・・・もとい、お子様達!!」と言いたくな
るが,そこは国民の皆様の自衛隊、「いやー、いいですよ、このくらい、はっはっは。」と
かわしておいて,あとで居住区で「くそー!!」なんて思ってたりする。
お子様連れのお母様方,お菓子を食べたら手を洗わせましょう。



5.訓練いろいろ


今回は,戦闘訓練のお話。
海上自衛隊では、いろいろなパターンに応じて様々な訓練がある。
その一部を,秘密に触れない範囲で出来るだけご紹介。

 A・対潜戦(たいせんせん)
  「対潜水艦戦闘」のこと。敵潜水艦を空と海から探知,追い詰めて攻略する
  戦闘。この戦闘は追い詰めるまでに非常に時間と忍耐力を要するので、
  苦手な者が多い。適役はもちろん自衛隊の潜水艦だが,敵もさるもの,逃げ
  るために必死にもがく。本当に逃げられてしまったり、逆にこちらがやられる
  ことも多々あり,そんなあとの訓練報告は気が重いと当時の艦長は嘆いて
  いた。

 B・対空戦(たいくうせん)
  「対航空機戦闘」のこと。敵航空機を探知し,ミサイル等で攻略する。
  航空機は高速なため、一瞬の判断ミスが命取りになる。いかに早くこちらが
  探知し,対処するかが戦闘のカギを握る。とってもスリリングな展開でことが
  進むので,私は大好きだった。

 C・水上戦(すいじょうせん)
  いわゆる「艦同士の戦い」。これは壮絶。対潜戦の要素と,対空戦の要素を兼
  ねている。敵艦をキャッチしたと思ったらいきなりミサイルが飛んで来たり,敵艦
  だと思って追い詰めたら実は味方だったりして,大混乱の戦闘。

 D・電子戦(でんしせん)
  近代の兵器は電子化が進み,これをいかに利用するかは戦闘において大事な
  こと。自分の電波を感づかれない様にしたり、敵の電波を無力化したり逆用し
  たりと、まさに現代の戦闘様式。



6.やめてくれー!!


艦艇では戦闘時,「アラーム」という警報ベルが艦内に響いて状況が開始される。
それまでは自分の時間を過ごしたり,食堂などで和んでいた人達が一変,装備を
整えて自分の配置に一目散に向かっていくのだが、当然ながら戦闘状況は時間
を選ばない。訓練計画は事前に決められているが,乗員は知らされていない。もっ
とも、知ってたら訓練にならないのだが。そんなだから、夜中の3時に寝ていようが
真昼間だろうが,いきなりアラームがなる。航海中は乗員に休みはない。夜中の航
海当直が終わり,寝たと思ったらアラームがなって,訓練が終わったと思ったら警戒
配備に変わってそのまままた何時間も当直なんてことはザラ。頭がボケて航路を
間違えてこっぴどく叱られたこともあったし,もう「やめてくれー!!」という心境にな
ったこともしばしばあった。



7.艦砲射撃


ミサイル全盛の近代海軍でも砲という装備は現存している。
これは、その訓練時のエピソード。
この日は艦砲射撃の訓練があり,久々の実弾射撃。フツウの銃に限らず、弾は自
衛隊にとって貴重品なので、年に数回しか撃たせてもらえない。
そんなわけで、非常に張り切っていた乗員の皆さん。
今回は,数百メートル先を航行する訓練支援艦が曳航する標的への射撃訓練。
この日に訓練する艦艇は3隻。うちの艦はその2番目。
早速,1番目の艦の訓練開始。その間,他の2隻の乗員は,その成果がどんなものか
しばしご見物。通常,標的の少し手前に撃つのが通例(そうしないと的が粉々になって
あとの訓練が出来ないから。)で,最初は順調に進んでいた1番目の艦。ところが、
その1発が訓練支援艦の至近距離に命中。訓練支援艦のすぐ近くであがる水柱。
一瞬,心臓が止まる。その直後,訓練支援艦からの「バカヤロー!!」という信号。
一同,大爆笑。
そして、ついにうちの艦の番。成績も上々,上機嫌な艦長。
しかし、お約束というものは必ず存在する。
あと1発で終了という所で,なんと的に命中してしまった。粉々に崩壊した標的。全員
沈黙。結局,この後の訓練が出来ず,3番目の艦の射撃訓練は中止。入港後,その艦
の面々は一様に機嫌が悪かったらしい。



8.満艦飾(まんかんしょく)・電灯艦飾(でんとうかんしょく)


「満艦飾」とは、記念日や慶事に際して,マストから艦の前後に懸けて信号旗をつな
げて吊るし,慶意を表すもの。(下の写真・左)
「電灯艦飾」とは、艦の形が浮かび上がる様に電球を配し,日没になるとそれを点灯
するもの。(下の写真・右)
両方とも,年に何回か港で実施するので,興味のある方は一度見てもらいたい。
さて、この「満艦飾」と「電灯艦飾」、準備の方はものすごく大変。
自分たちの持ち場があって,それぞれに電球の取り付けや球切れのチェックなど、
いろいろあるのだが,私のいた部署の持ち場はなんとマストの上。ここにワイヤーを
伸ばすためのロープを持って上り、作業しなければならない。
一応,安全帯とヘルメットは用意してあるのだが,マストのてっぺんから海面までの
高さは50m。足がすくむ。私は2回ほどこの作業をやったが,生きた心地がしなか
った。しかし、私の先輩は元鳶職だったので、なんの問題もなく足取り軽やかに
上っていった挙句,マストの上で梯子乗りのようなことまでやっていた。どの世界に
特異な得意な人はいるものである。

 (←満艦飾)(電灯艦飾→)



9.秋は海上自衛官の別れのシーズン


・・・なのである。悲しいことだが。
これには、日本の風物詩「台風」と密接な因果関係がある。

台風が来ると,海上自衛隊の場合、港に係留したままでは荒波で船体が岸壁に
打ちつけられて大損害を被るため、港を離れて沖へ避難し,台風が過ぎるのを待
たなければならない。これを「台風避泊(たいふうひはく)」という。

ある日、遊びに行って帰ってくると,留守電のランプがチカチカ。「2件の伝言があり
ます。」
1件目。私が気にかけていた女の子からの伝言。
「○○ですー、明日お暇ですか?よかったら、一緒に出掛けませんかー?」
ついに来た,この言葉。待ってましたよってな感じで大喜び。
ウキウキしながら2件目のメッセージ。
「あ、O?」 なんだ、同僚の男かい。まあいいや。今の私ならなんでも結構。
「台風避泊だから,帰ってきてね。21時出港だから。」
ガーン。
それじゃ、明日の休みは!?デートは!?
それからというもの、その女の子からの電話は,なかった・・・。
台風なんて,キライだー!!
・・・といったドラマが,秋の海上自衛官にはやってくる。



10.火事ですか?


最近の護衛艦のエンジンはガスタービン・エンジン。煙が薄く、少ないので相手に
気付かれにくく,しかも高速で航行できるという長所がある。
あるとき、航海中に上甲板に出たとき,隣の艦の煙突から真っ黒い煙をもうもうとあ
げているのを見た。先輩に「あのフネ,すごい煙ですね。ガスタービンなのに。」と声
をかける。それから、上司に、機関科員にと声がかかり,様子がおかしいが向こうは
どうもきづいてないようだということで、「煙突に異常あり」と信号を送る。
その直後,向こうの艦では大騒ぎ。一時は火事だと思い,警報まで出る始末。
結局,原因は煙突の内部にたまった燃料の燃えカスが発火し,それが不完全燃焼だ
ったために黒い煙を吐いたことが分かったのだが,余り聞かない話なので,そのときは
みんなであせってしまった。



11.派遣防火隊 


これは、他の艦で火災や災害が起こったときに,応援のために編成される,いわば「消
防団」のような組織。当直員の中からメンバーを決める。
この派遣防火隊,制度はなんでもナイが,問題は服装。
海上自衛官の海曹士は、作業着は紺色。機能性重視で着心地はいいのだが,
戦闘時や派遣防火隊に出るときは,作業着のズボンの裾をなんと靴下の中に突っ込み,
帽子のあご紐をかけ,軍手をはめ,後ろのポケットには手ぬぐいをベルトにかけていれて
おく。これじゃまるで田舎の農夫。しかも、派遣防火隊に行くときに掲げるのぼりまで持
った姿は,ほとんど百姓一揆の世界。機能性を考慮した結果ながらも,非常にナンセンス
なカッコウである。

  (派遣防火隊の出動訓練。)



12.暁の脱走者


これ、たまに現れる。自衛隊では脱走することを「脱柵(だっさく)」といい、脱柵した者の
ことを「所在不明隊員」という。
脱柵の理由は訓練がきついとか,人間関係に疲れたとか,いじめられるとか、船酔いに耐
えられないとか実に様々なのだが,それに気付かなかった同僚や先輩にもそれなりの
責任はある。しかし、借金苦だの仕事がイヤだのなめ切った奴もいて、こんな奴のこと
を相手しなければならないのは非常に迷惑極まりない。
しかしながら、それで脱柵した後にどこかで自殺だの事故だのされたら海上自衛隊の
威信にかかわることなので,まずは近隣へ捜索隊を出すことになる。
捜索場所は,主に基地と下宿の近辺と,最寄の駅,所在不明隊員の行きそうな場所や,
盛り場など。同時に,実家にある最寄の地方連絡部(注参照)にも連絡し,行方を探し
ます。
私が艦に乗っていた頃,乗艦して2週間の新人が,朝になって見当たらず,艦に住んでいた
彼の荷物が消えていたうえ、ベッドがまだ暖かかったので,所在不明隊員として捜索する
ことになった。私達の部隊はJR横須賀線沿線の捜索。横須賀駅から1駅づつ降り,駅員
さんに聞き込みをする。結果,彼は大船駅で電車を降りたことが分かった。
すぐさま艦に連絡。大船駅では東海道本線に乗換えが出来る。彼の実家は静岡。・・・と
いうことは、実家に帰ったに違いない!ということで、地方連絡部の担当者に電話。
翌日,彼は地方連絡部の人間に付き添われて艦に帰ってきた。
結局,彼の脱柵の原因は船酔いに耐えられず逃げたかったと言うもので,長い時間話し
合いをしたものの,結局彼は自衛隊を去った。
このケースもそうだが,脱柵者はかなりの確率で実家に立ち寄る傾向がある。
逃げるならもっと遠くへ逃げなければいかんぞ,脱柵予備軍の諸君。

 注:地方連絡部・・・都道府県(北海道は支庁)ごとに設置され,隊員の募集,部隊との
             調整業務や地元への協力など,自衛隊と地方公共団体,国民との
             掛け橋となる役目を持つ、3自衛隊の共同機関。
             「ニイチャン、ええ体しとるね。カツ丼食わへん?」とやっているの
             はこのカタガタ。(ただし、今はこういったポン引き行為は全国的
             に禁止されているのでやっていません。念のため。)



13.セーラー服マニア?


このタイトル,少しいただけなかったかもしれない。
しかし現実として,海上自衛隊の海士の制服はセーラー服である。
ここから上に上がると,ダブルの制服になる(アメリカ海軍とほぼ同じデザインです。)
が、大の男がセーラー服。実家の方へはとてもではないが着て帰りたくない。

しかし、私は声を大にして言いたい。全国のこれを読んでいる皆さん!いまでこそ
セーラー服は女子高生の象徴だが,本当の由来は海軍の水兵の制服だということを
忘れてはいけない!
それから「日の丸・君が代」は軍国時代の象徴だだの言っているカタガタ!
その割に校則には厳しい様だが,その制服そのものが軍隊制度の象徴であり,学ラン
の起源だって陸軍の制服であることを忘れてはいけない!
それを知らずにモノを語るのは平和ボケ日本国民の典型だぞ!!



14.どか〜ん!!


「♪どか〜んと景気よく、やってみよ〜うよ〜♪」という歌,あったのを覚えているだろう
か。今回は,海上自衛官版「どか〜ん」なお話。
海上自衛隊の装備品は、国内では発射できないものがあります。
そんな装備ははるばる海外まで出張して撃ちに行くのであるが,私が乗艦した翌年,つ
いにその発射が出来るときがやってきた。
今年発射するミサイルは対潜ロケットのアスロック(注2)・対空ミサイルのシー・スパロ
ー(注2)・対艦ミサイルのハプ―ン(注3)の豪華3本仕立て。
私はその発射シーンを見たことがナイうえ、通常は艦内でのシゴトなため,上司の計
らいで後学のためにと見せてもらえることになった。
どんな感じかって,それはもうすごい迫力。艦自体に「ゴゴゴゴゴ」という地響きがとど
ろき,炎を上げてあっという間に飛んで行くミサイル。大迫力だった。
しかし、この訓練が終わって入港後は,お約束の展開が待っている。
これらのミサイルを撃つと,甲板の塗料が焦げたり,塗料が熱でめくれたりするので,
手空きのみんなでペタペタとペンキ塗りが始まる。
めったにない経験だから,こういったお約束がもれなくついてくる。
これ、自衛隊の常識。

 (注2)アスロック・・・護衛艦装備の水雷兵装。より遠くの潜水艦を撃破するために,
             魚雷の尻にロケットブースターをつけたもの。どのくらい飛ばせ
             るかは防衛秘密。でも、私は知ってるよん。
 (注3)シー・スパロー・・ミサイルや航空機を撃破する対空ミサイル。
               元々は航空機用のミサイル「スパロー」を艦船用に改造し
               たもの。
 (注4)ハプーン・・・・「ハープ―ン」とも言われるが,発音上は「ハプーン」。
             予めミサイルに敵のデータをインプットしておき、発射するとそ
             の直後にレーダーから隠れるため海面すれすれを飛行し(こう
             すると海面反射でレーダーに映りにくい)、目標の直前でいき
             なり飛びあがって当たるという恐怖のミサイル。
             1発ウン億円の超高級品。
 
(対空ミサイル「ターター」の発射シーン。)



15.恐怖の防火訓練


護衛艦部隊においても実施されるが、教育隊や術科学校においてでも行われる。
直径4〜5mの円形のミニプールに重油を入れて火をつけ、数名一組で2組の
ホースで消火に当たる。この訓練、一応防火服は着ているものの、死ぬほど熱い。
普通のノズルと違い、海上自衛隊では水幕を張って炎の中から酸素を奪って消火
する方式を用いるため、2人のコンビネーションが悪いと、隙間から容赦なく炎が
襲ってくる。で、2人のコンビネーションの優劣は訓練後の当事者の顔に現れる。
すなわち、コンビネーションが良かった者は汗だくのナイス・ガイとなって帰還する
が、そうでなかった者は眉毛がなくなってたり、前髪にパーマがかかってたりと実
に滑稽な顔になってしまう。
円形プールの他にもより実戦的な室内型訓練場もあり、こちらは前から下から後ろ
からとあらゆる方向から炎が襲ってくるので恐怖の訓練。最悪火だるまになってしま
うこともあるから油断はできない訓練である。

  (防火実習。円形プールでの実習風景)




16.防水訓練


防火訓練と併せて大切な訓練。万が一の事態に艦体に穴が空き、そこから水が入ると
艦体が傾き、通常の航行は困難となるうえ、最悪は転覆・沈没という事態に発展するた
め、乗員の知恵と技術を結集してこの穴を塞いで艦の被害を最小限に食い止めなけれ
ばならない。
方法には色々ある。小さな穴なら円形のパッチと呼ばれる板を外からはめ、水圧によっ
てフタとする方法から、箱パッチといわれる箱型のフタを内部から穴に押しつけ、角材で
押さえつける方法まで多様にある。
訓練では箱パッチによる方法での訓練が一般的で、この訓練では実際に訓練場で水を
入れながら行われる。応急工作員などのその筋のプロだったらあっという間に作業が進
むが、専門外の慣れない者がやるとこれはもう大騒ぎ。下手をすると胸までつかってるの
に水が止まらないという最悪の事態へと陥ることもある。



17.不沈艦し○ね


海上自衛隊における戦闘訓練では当然だが実弾は使っていない。実弾を使う訓練は「実
射訓練」や「射撃訓練」と名称を区別している。
通常の訓練には当たりはずれの判定はコンピューターを使って行う。通称「ポケコン判定」
というのであるが、これによって自分の艦の被害を判定し、戦闘にこれ以上参加できなく
なると「不関旗(ふかんき)」という旗を揚げて戦列離脱となる。
さて、この戦闘訓練において海上自衛隊では史上最強の護衛艦が登場する。
すなわち、「司令官の乗っている艦は絶対に沈まない」という定説である。
ある訓練の際に、第1・3護衛隊群対第2・4護衛隊群による大訓練が行われ、この際に
我が方の指揮官が座乗する「護衛艦し○ね」は、12発の対艦ミサイルと8発の魚雷攻撃
を受けたにもかかわらず、沈まなかったらしい。ウチの艦は3発の対艦ミサイルで致命傷を
負って大破したのに、だ。



18.謎の業務・F作業


「エフさぎょう」とか「フォックス作業」という。「フォックス」とは、国際協定上で定められた
アルファベット「F(FOXTROT)」の呼び方。
なんの作業かといえば、なんと釣り。単調な航海中においては娯楽が少ないため、まれに
許可されることがある。ちなみに公式業務ではない。念のため。
艦内に艦長から「F作業許可」という号令が流れると、出口のハッチから各自愛用の釣り竿
を持った乗員がわらわらと甲板上に現れ、出撃開始。日本国防衛に貢献する護衛艦は一時
釣り舟と化してしまう。
ちなみに作業は各国の領海内でやると密漁行為になってしまうため、あくまでも領海外でし
かやらないのが建前である。
地方隊所属の護衛艦は領海内の沿岸での任務が主であるにもかかわらず、隊内でのあだ
名が「イカ釣り舟」とか言われてしまっていることについてはあまり追求してはいけない。
このときの釣果が良いときには、その日の夕食に新鮮な刺身が登場することもある。当然
だがいちばんいいところは艦長を初めとする士官に持って行かれてしまう。

ちなみにこのF作業に似通った言葉に「G作業」というのがある。
とどのつまり、艦が地方に帰港した際に司令や艦長をはじめ上級士官達が地元の自衛隊
協力会や地方連絡部の連中と接待ゴルフに行くことを指すのだが、アルファベット「G」は
協定上の呼称は「GOLF」。わざわざ隠語にしている意味がない。