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ちょっと役立つ海軍さんのお話(3) |
| 挙手の礼(Hand-salute) |
自衛隊のみならず、列国の軍隊では個々の一般的な礼式として「挙手」による敬礼を行います。 この「挙手の礼」、その発祥についてはいくつかの流れがあります。 <説その1> ローマ王朝時代、決闘に勝った勇士が女王から褒美を賜るとき、その美しさに目がくらまないように、右手で目をおおっていた。 <説その2> ローマ人の着物はゆったりとしていて、袖の下に短刀などの武器を隠すことができたことから、目上の者に対して敬意を表する際に右手を示し、「私はこの通り手には何も持っておらず、あなたに敵意はありません」という意思表示が敬礼の起源と言われている。 <説その3> ヨーロッパの中世時代、騎士は全身を鎧かぶとで全身を覆っており、目上の者に対して敬礼する際にはかぶとの面覆いの部分を右手で押し上げて顔を示したことが敬礼となった。 <説その4> ネルソン提督時代には、「脱帽後右手を前頭部に当てる」という礼式があったらしい。 これは現在の敬礼にだいぶ近くなっていますね。 <説その5> 19世紀に入ると、脱帽の代わりに「帽子を右手で少し押し上げる」ことが敬礼となった。 その後、現在のような形式の敬礼が一般的となり今日に至っていますが、意図しているものは共通で、通常銃や刀を手にする右手を上げることで相手への敵意がないこととともに敬意を払う意思表示としての解釈は共通しています。 細かい動作を追うと国によって若干違いがあり、上げた手のひらを表に向ける国、下方へ向ける国(日本はこれに当たります)、やや内側に向ける国、完全に内側へ向ける国と誤差があります。 また、有名な話ですが、同じ自衛隊でも陸上、航空自衛隊と海上自衛隊ではひじの角度にも誤差があります。 ・陸、空自衛隊ではひじは正面に対して直角 ・海上自衛隊ではひじの位置はやや前方に出る これは、海上自衛隊では「狭い艦艇の中でひじを張るのは邪魔になる」という言われがありますが、真相は定かではありません。 |
| 捧げ銃(Presenting arms) |
儀じょう隊などで見かける、体の前に銃口を上に向けて送る敬礼。 通常の「捧げ銃」のほかに、銃剣を着して送る「着剣捧げ銃」があります。 捧げ銃の基本精神は、「武器を捧げ持つだけにとどめて、相手に対して敵意のないこと」を示すことが発祥。 部隊全員が捧げることで、部隊の敬意を示すことになるわけです。 ちなみに銃の場合は「捧げ銃」ですが、 無反動砲などの場合は「捧げ筒」?? (「捧げ筒」はありませんが、「立て筒」や「担え筒」は基本教練に実在します) |
| 舷門の礼・舷門送迎(piping the side) |
艦艇において、然るべき賓客を出迎える際、あるいは送り出す際に舷門において号笛(boatswain's pipeとか、side pipeと言われています)を吹奏して行う礼式。 この舷門の礼式には面白い逸話があります。 その昔、艦隊間の通信がまた整っていない時代は艦長たちを旗艦に招集して会議や命令伝達をしていたらしいのですが、この時代には会合の後に宴会となることが当たり前で、ご機嫌な各艦長がご帰還の際には見送る側も出迎える側もとにかく気を使ったのだそう。特に深夜であったり、海が荒れているときは特に気が気でなかったらしく、格別丁重に扱っていたそうな。 で、このような際には艦長を吊り腰掛に乗せ、帆げたの先端についている滑車にロープを回して艦長を乗せた吊り腰掛ごとかけて中空に吊り上げて帆げたを回転させて相手の艦まで回し、相手艦上でゆっくり下ろしてからロープを解き、艦長を下ろすという手順で移乗していたのです。 このときの一連の諸作業は水夫長が一作業ごとに吹く号笛によって行われ、この一連作業の笛をつなげたものが今日の舷門の礼の起源とされています。 ちなみにこの舷門送迎の号笛、実際に吹く際は約30秒吹き続けます。結構至難の業(笑 |
| ボートの敬礼・櫂立て(tossing oars) |
海上自衛隊では発動機のついた内火艇が主流となったため、現在では教育隊にしか置かれなくなったカッターですが、このカッターによる礼式に櫂立て(かい・たて)という敬礼があります。 艇長の号令により、乗員全員が一斉にオールを垂直に立て、艇長は起立して挙手の礼を行うのが正しい櫂立ての礼式。 これの意味については「本艇には運動力は既になく、武器を構える者もまたなし」という、敵意のないことの意思表示が敬礼となったと言われています。 櫂立てには敬礼という意味もありますが、櫂を上げることから「万歳!」という意味もあるらしいです。 |
| 降 旗 |
降旗(こうき)とは、読んで字のごとく「旗を降ろす」ということです。 軍艦が降旗することには2つの意味があります。 一つは、 「降伏」、または「占拠」によって艦を明渡すという意味(striking the flag)。 地上戦闘で言う「降伏」「占領」とまったく同じ意味合いで、自国軍艦としては最も悲しい事態です。 *strike=降ろす、降ろして撤退する の意。 もう一つは、 敬礼としていったん旗を降ろし、再度掲揚する礼式(dipping the flag)。 降旗に対しては、降旗で答えるのが原則です。 *dipping=ちょっと下げて、またすぐ上げる の意。 |
| 半旗の礼(flag at half mast) |
敬弔の際の意思表示で、旗を一度マストか旗ざおの頂点までいっぱいに上げた後、約半分の位置まで降ろして止めること。 街中などでも弔事の際に見かけた方も多いと思います。 半分降ろすことは、その降ろしてできた空間に人を奪っていった悪魔の旗が目に見えず翻っていることを示しています。 つまり、半旗とは「我々はこのたび悪魔に敗れたり」という意を示すことが同時に敬弔の意思表示になったとされています。 |
| 斜桁の礼(yards apeak) |
現在の艦船では行われませんが、帆船において行われる敬弔の礼式で、帆船の各マストの帆げたをすべて同一の角度に傾けて行う礼式です。 傾ける代わりにX字型に交差させることもありますが、これは十字架になぞらえていると言われています。 ちなみに大型の帆げたを持つ帆船では入港時に邪魔にならないように舷外に出る帆げたを邪魔にならないように傾ける場合もありますが、これは例外です(笑 |
| 礼 砲(gun salute) |
外国艦船の入港時や、逆に外国への入港の際にお互いに(空)砲を発射して行う礼式で、今日も一般的に行われています。 昔の砲は先込め砲と言って一発発射するにはものすごく時間がかかったため、先に各砲に装薬も弾丸も詰めておくのが常識で、いかに百戦錬磨の砲員たちでも一回発射すると次弾の発射までには数分の時間を要していたそうな。 で、相手の港へ入港の際にはこの先込め砲を全部撃ち払い、「本艦はご覧の通り全弾撃ち尽くしました。再度装填するためには時間がかかりますが、その間は我々はまったく無防備であります」という意思表示が礼式に変わったと言われています。 当初はこのように実弾を発射していたのですが、経費がかかることや、事故が起こることもあったので国際間の申し合わせにより礼砲は空砲で行い、発射数も切り詰めて現在に至っています。 礼砲の場合も、礼砲には礼砲で答礼します。 さて、この礼砲ですが、何発撃つかは慣例があります。 基本的に祝砲の場合は奇数、敬弔の場合は偶数というのが通例。 また、受礼者の職位に対しても慣例があり、国家や国家元首に対しては21発とされています。 ちなみに、礼砲を発射する機会の多い海上自衛隊の練習艦「かしま」には、礼砲専用の砲が艦橋前部に2基設置されている例や、神奈川県の観音崎にある海上自衛隊の警備所にも2基の礼砲用の砲台が設置されている例などがあります。 |
| 登舷礼(manning the side) |
観艦式などで舷側に乗員が整列している礼式をご覧になった方が多いと思いますが、これが登舷礼(とうげんれい)です。 受礼者が向く舷側に整列して下士官・兵は姿勢を正す礼を、士官は挙手の礼を行うのが通例です。 ここまでお読みになった方は察しが着くと思いますが・・・ 意味するところは「ご覧の通り、本艦は総員を舷側に並べてご挨拶(お見送り)申し上げております。艦内に潜んで発砲や斬り込みをしようとする者は一名もおりません」という意思表示が礼式になったと言われています。 帆船の場合は帆げたの上にも整列させるので、登桁礼とも言われます。 しかし、実際は登舷礼でほとんどの乗員は舷側に整列しておりますが、実際には航海に必要な最低限の人員は艦内にいたりしますので、お乗りになる皆さんはご安心を(笑 |
| おまけ・倒旗(flag-upside down) |
倒旗(とうき)は、礼式ではなく軍艦旗や商船旗を逆さにして掲げる一種の遭難信号として通例化していました。 現在では信号制度などが発達してほとんど用いられないのですが、イギリスの軍艦旗や商船旗は左上約4分の1に自国の国旗をあしらっていたり(この部分をfirst cantonと言います)、アメリカではこの部分に星がはまっていたので逆さにすればひと目で見分けが付いていましたが、日本の日の丸や軍艦旗のように、逆さにしても同じ柄に見えるので見分けが付かない場合は旗の横幅の中央部分を紐で縦に結んで掲げていたそうです。 このような遭難信号などは、その後無線電話や通信の発達によって今ではなくなってしまっています。 文明というものは、ときにこのようなロマンをも無情にかき消してゆくのですね・・・ |