イタリア各地巡り
湖へ行く
【ローカルバスの激走とコモ湖の真珠〜ベラッジョ〜】
<イタリア的優雅な週末>
休日に行く別荘をもつとしたら、どれ位の距離が理想的であろうか? せいぜい1時間車なりバスで飛ばして着くような距離が、例えば毎週末に 訪れるには良いように思える。それ以上離れていると「ああ、今週はパス して都心でうだうだしていよう...」などといって、次第に足が遠のく のではないか?そうといっても、近いことは近いのだが、日常の喧騒を そのまま引っ張ってきて、変わり映えのしない場所では、別荘の役割を 果たしていない...。なかなか難しいところである。
さて、コモの話である。北の大都会ミラノ中央駅から電車でおよそ 1時間で、そのアルプスの麓にある湖水地方に到着する。漢字で「人」 という文字を描いたような形のコモ湖は北部はもうスイス国境に接している。 夏場の息苦しいミラノからほんの1時間で、清涼な空気の流れる北の湖に 着いてしまうのだ。しかも標高も高いのか、ミラノを出たときは30度を 越していたような気温も一気に下がり快適な空間に一変するのだ。
かのようなコモの街はミラノをはじめロンバルディアにすむ人々の 憧れの別荘地なのである。湖畔にたたずむ豪華なヴィラ、高級ホテル、 キラ星のセレブリティーの所有する個人別荘が湖畔の斜面を彩る...と、 行く前はさながらモナコやモンテカルロのような浮世離れしたところを 想像していた。だが、コモの駅に着いてみると、なるほど、観光地である 風情のある明るい駅前の風景ではあるが、静かなほんとうに静かな街なの である。まあ、駅は市街の外壁の外にあるのでしばらく街に向かい歩き はじめて、しばらくすると、コモ湖はようやく出現するのである。
<コモのイントロダクション>
ちょうど駅から向かうと「人」型の左側の足の部分にコモの市街地 があるのだ。こじんまりとした街であるが、大聖堂を中心にした古い町並み そのままであり、しかし過不足のない町が展開している。店の品揃えも、 高級品から庶民の生活用品まですべてここで完結しているようである。
コモはこのような風光明媚な気候と環境を生かし、昔から養蚕業が 発達し、絹製品の生産でも有名である。市街地には絹の博物館もあり、その 歴史がしのばれるのだが、養蚕自体はとっくに終わってしまっているという ことらしい。では、絹はいったいどこから?と考えると、やはり中国や、 アジア各国からの生産・供給を受けているということらしい。レースで有名 なベネチアのブラーノ島のレースの多くも中国から輸入しているものが ほとんどということだ。わざわざ6000マイルのかなた日本からやって来て、 お隣中国の品物を買って来たというのでは...少し興ざめというところか? しかしそんな中でも技術は根強く、このコモあたりに工房を構えるメーカー も多くある。最近では、絹製品のみならず、メーカーのアウトレットが 日本の買い物フリークには有名である。小さい工場が、ブランド名を伏せ いわゆる下請けをするところから、大規模なアウトレットまでさまざまと いうことである。
コモのイントロはこんなもんである。実はこの市街と「人」型の左端 を見ただけでは、ここがどんなところなのかちょっと分かりにくいかもしれ ない。私達はそのコモの端の湖水を眺め「これでは山中湖とあまり差がない かもしれない...」と、少し落胆したものだ。しかし、このあと、その イメージは一変することになる。
<コモの真珠へ向かう>
国鉄(FS)の駅前から私達は、ローカルバスに乗りベラッジョへ向かう のだ。ベラッジョといっても私は地名しか知らなかった。いや雑誌で見ただけ の場所である。駅を出た右手にあるバスのチケット売り場で「べらっじょ。どぅえ びりえってぃ」と、それらしい発音で切符と「け、おーらぱるて?」発車時刻 を確認(できたようだった...)。おっさんの指し示すバスに乗り込む。 ここからおよそ1時間ほどのドライブになるわけだが、こんなにすごいとは、 思わなかったよ〜。と、言ってるうちにバスは発車。市街で普通の人々と、 お家に帰る子供たちを次々ピックアップしてバスは走る。程なく市街を抜ける と、すぐに急坂山道にさしかかる。急坂山道は右側通行だが、バス一台分の 幅しかない。しかも恐ろしいことにガードレールというものは存在していない。 そのまま、愛しいコモ湖の湖面が迫っているのである。しかし、そんなこと はおかまいなくバスは走る。走るといっても激走するのである。ああ... そして、いつでもバスの運転手は街の人気者である。どこへいっても誰を乗せ ても知り合いばかり(今日はちょっと違うのが少しいるが...)子供は 激走する運転手に今日の学校のことを話しかけたりしているのか、なんだ かんだ、盛り上がっている。と!正面からこれも急坂を転がるように降りて くる激走対向車が出現!ををを!ピンチ!とおもったが難なくお互いほんとに 何事もなく「すりぬけ」ていく。コモの湖水はだんだんだんだん透明度を増し ていゆく。ああ、こんなにきれいな湖なんだな...と、カーブを曲がるたび に色の変わって行く湖水を眺める。断崖を覗き込むと断崖にへばりつくように 赤茶色の居心地よさそうなヴィラが見える。人も見える。しかしそこにどうや って降りて行くのかさっぱりわからん?!ああ、そうかモーターボートか? などと混乱しているうちに誰かが降車ブザーを押す。そして何人かが降りて 行く。学校帰りの子供も降りていく...こんなところに住んでいるのか?! と、思うようなところである。崖に住んでるツバメのようだ...。カーブの 度に人気者の運転手は調子よくクラクションをならす。幾重ものカーブと、 恐怖のトンネルを超え(このトンネルも崩れそうで暗いのに対向車がすっ飛んで くるのだ...ひ〜!)私達はいたいどこにつれて行かれるのだろう?と、言う 思いとは裏腹にコモ湖の自然はどんどんその全貌を現していくのである。
<そしてベラッジョ...>
そして、ほんとうに1時間ほどして終点のベラッジョに無事に到着したの である。結局終点間で乗っていたのは私達とあともう一人だけであった。みな あの途中の崖のそこここに「普通」に住んでいる人々だったのだ。ああ。 なんていうことだ。帰りのバスをチェックして、ベラッジョを歩き始める。 それまでの細い坂道からは一変湖畔に面してテラスをめぐらす建物、カフェ、 レストランと、すっかり湖畔は高級リゾート地である。湖畔は高級なホテルも 軒を連ねていて、その先にはプロムナードさながら美しいショーウインドーが 続く。しかし日差が強い為に日中は緞帳のように重たい日よけをめぐらせて おり、通行人もその緞帳の中を歩いて行く。お土産用とおぼしきシルクのスカーフ はそとにぴらぴら風に舞っていたりしたが、内側に飾ってある品物はなかなか よさそうなものがならんでいる。プロムナードの裏側は山の斜面そのままに なっており、その両側にも趣味の良い店が数多く並んでいる。例えてみれば、 渋谷のスペイン坂のような幅の坂道が何本も斜面に沿って開かれているのだ。 そぞろ歩くにはちょっと坂はきついのだが、その道の一つ一つを見て回るのは とても楽しい。坂を登りきると、今きた坂道を通して向こう側にはコモ湖の 湖面が見える。なんという美しい街なんだろうか!
渋谷だなんて...向こうに見えるのがコモの湖面。坂道の両側には素敵な店が 並ぶ

このベラッジョは「コモの真珠」と呼ばれているが、なるほどそう称する に値する場所であるなと思った。更にこの場所は、先ほどの「人」型を思い 出していただくと、ちょうど2本足の交わったところに位置する。くねくねと 激走してはるばる1時間。この湖はかなりの広さなのだ。そして、坂道の街 の外れを進むと、このちょうど交わったところの先端まで行くことができる。 その岬の先端に立つと、正面には白い雪をたたえたアルプスの山々の連なり があり、夏の終わりの濃い青と緑の外輪の山々に囲まれ、コモ湖は更に濃く 青く透明な水を更に遠くまで広げているのである。その風景のなかに自分一人 佇むことができるのである。天気も湖も山も全てがここに来たことを祝福して いるような風景に出会えるのである。
ベラッジョ半島の先端よりスイス方面を望む。ああパノラマ日和なのだなあ〜

こんな風景を独り占めにして、しかも憎いことにこの場所には雰囲気 の良いレストランがあったりするのだ。そこには立ち寄らなかったが、ま、 1日過ごしてもいいかもなんて思わせる場所。はあ〜参りますねえ...。
風景のみならず、高級リゾートだけあって店の品揃えも只者ではない、 と、同行者も大満足していた。私は靴はいいからとおもってほかのところを ぶらぶらしていたんだが、なかなか店から出てこない。痺れを切らして店に 入っていくと、彼女は4足も5足も並べて迷っている最中であった。 「だって品揃え豊富なんだもん〜」と、散々迷った挙句2足購入していた。 ついでに、新作のカタログも買わなかった私にまでくれたり、街の観光案内 までくれたりして、イタリアは小さい街に限るな〜と、再確認してしまった。
<転がる石の如く...>
さていつかここに滞在する日が来ることを、と願いつつ帰りのバスに 乗る。が、これがまた曲者なのである。チケット売り場が難解なのである。バス停 に「○○通り○○商店にて購入のこと」と、あるがー。もう!またきた道を もどり○○商店(だいたい雑貨屋みたいなところか煙草屋みたいなところが 多いようだが...ここもそんな店)で購入。これに気づかなかった何人かは 運転手に「買って来い」と降ろされていた。もちろん待っていてくれるのだが。 車掌の乗っているバスは車内でも購入できることがあるが、ま、まちまちなの で、往復買えるようならまず往復。それ以外は必死に宝捜しのようにして乗る しかないようで...ここでは。
そして帰路は当然坂道である。今度は転げ落ちる番である。帰りの人気者 運転手は行きよりも年上の男前(?)である。当然先輩だけあり運転は更に 華麗に飛ばす!この日は暑かったので、前の乗車用の扉はあけたまま激走する。 (ここは前乗りね)1番前に座ったいた小学生くらいの子供たちは、やや顔を ひきつらせ、しっかりとシートにつかまっている。ここで気を抜いたら、崖の 下の湖水にダイブすることになる!道の途中で、きれいに着飾った女性を拾う。 どうやら運転手の顔見知りらしく、乗り込むとすぐに話をはじめる。東京のバス の注意書きに「むやみに運転者に話しかけること禁止」とあるが、そんなものは ここには存在しない。このおねえさんはしばらく行ったところで降りて行った が、チケットを買っていた形跡はない。かといって、定期を持っていた様子はなく 堂々の無賃乗車(?)ということか〜ああ...。
西日を浴びたバスはコモの湖面に沿った断崖を華麗にかつ豪快に転げ落ち ていき、予定よりも速くコモの市街に到着した。人々は平然と待ちの中に消え て行き、私達だけがなんとなく足元がおぼつかなく、コモの湖畔のベンチに しばらく腰をおろしたりしていた。コモに来たらこのバスでベラッジョへ行く。 お勧めである。ただし車酔いする人は覚悟したほうがよいかもしれない。 優雅で華麗な週末をお望みなら、遊覧船でのアプローチと、長期の滞在を お勧めしたい場所である。
<コモとベラッジョの行き方>********************
ミラノ中央駅よりIC などで30分各駅で70分ほど。Como S Giovanni下車 (乗車料金:10400、特急料金:8000リラ。98年9月時点) ベラッジョまではコモ駅右手端にあるバスチケット売り場で購入し駅前のバス乗り場 より乗車。約1時間半でベラッジョに到着。ベラッジョ行きは1時間に1本程度 なので、時間をよく確認したほうがよい(時刻表はチケット売り場か駅の外側の 壁にも掲示されている。休日平日ダイヤあり)