好きな作曲家
J.S.Bach
先日(2001年3月3〜4日)、ミサ曲ロ短調BWV232を演奏する機会を与えていただいた。私自身の音楽人生(物心ついてからだと約37年)の大きなmilestoneとなった演奏会であった。マタイ受難曲とロ短調ミサは言わずと知れたバッハの2大作である。マタイには物語性があってキリストの受難に向けてのドラマがある。ある人は最もオペラ的な音楽とも言っている。これに対してミサ曲の方は抹香臭くて堅苦しく、わかり難いとこれまで感じていた。この曲はいつとは覚えていないものの、カール・リヒターの演奏で耳にして、キリスト教音楽としての厳粛な面ばかりを感じていた。加賀乙彦の小説「宣告」にも死刑囚に牧師がこの曲を聞かせるところが出てくるので、そういう重苦しいイメージで捉えていた。今回演奏するにあたってラテン語のミサ典礼文の3〜4種類の訳文を読むこともやってみた。今のところ、このミサ曲はバッハが自らの人生の最後にあたって自分の持っている音楽上の能力を結集して作り上げた彼の神へ信仰告白だと思っている。たとえKyrieとGloriaが就職のために書かれたとしてもである。私は決してキリスト教徒ではなく、一応仏教徒になるのであるが、美術にしても音楽にしても宗教を背景に作られたものは宗教の壁を越えて人間を高いところへと導いてくれるのだと確信している。この(2001年)2-3月に東京都美術館で開かれた「鑑真和上展」で見た鑑真和上像の静謐な崇高さは仏教徒以外の方にも深い感動を与えるであろう。それはともかく、純粋に音楽として見てもこの音楽はJ.S.バッハの音楽芸術の最高の集大成といいたい。この曲を演奏するには演奏家にバッハの協奏曲を演奏する技術、アンサンブル能力、そして声楽曲を演奏する能力を要求する。私などの一介のアマチュアに成し得るものではないと知りつつ、挑戦させていただいた。
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2001年3月3日 鳥取県淀江町 さなめホール
この演奏会はもともとバッハ没後200年の節目である昨年に演奏する予定で99年に立案され、私はこれに参加させていただく様お願いしてoboe d'amoreの新品を1本買い足して備えた。従来から持っている楽器は2ndを吹いてくださる方にお貸しするためである。合唱の仕上がりの問題,スケジュールの都合で2000年内には間に合わず、2001年になってからの演奏会となったが、合唱団(米子第九合唱団)、オーケストラ(ミンクス室内管弦楽団)双方にとって極めて大きなステップを踏めたと思っている。もちろん、4人のソリスト、Trumpet,Celloなどに迎えたプロの演奏家の力も大きい。
W.A.Mozart
それまで交響曲や協奏曲、室内楽しか経験していなかったが、2年前に「フィガロの結婚」全曲のピット入りをやらせていただいてオペラに開眼した。モーツァルトのオペラにはその後のオペラのエッセンスがすべて入っている。
D.Shostakovich
彼が交響曲第1番を書いたとき、Mozartの再来と言われた。そのとおりだと思う。しかし、彼がその後体制に迎合した作品しか書かなかったら平凡な作曲家として終わり、今では忘れられていただろう。彼は抑圧されたから素晴らしい芸術を生み出したのだと信じている。彼の傑作の一つ、オペラ「鼻」を見ればその才能が理解できるし、それゆえに当局から目をつけられてしまったのだと思う。
これまで演奏したことがあるのは交響曲第5番、8番、10番である。初めて演奏したのは有名な5番で、3楽章に劇的なソロがある。このときに指揮をしていただいた増井信貴先生は中間部でGPの後、チェロが同じ悲哀に満ちたメロディーを弾くところを映画で場面転換のところだと言われた。それまではチャイコフスキーもショスタコーヴィッチも破廉恥なところが多くて好きではなかったが、自分で演奏してみてその魅力にとりつかれた。ショスタコーヴィッチは映画音楽を沢山書いているが、彼の音楽はまさに映画的に場面転換しているのだ。その後、ショスタコーヴィッチを演奏するときにはこんな映画に音楽をつけたのかな?と考えながら演奏している。実際、有名な「戦艦ポチョムキンの反乱」という映画(これは無声映画)を見るときにはいつも5番がバックにかかっていて見事に映画の場面に一致している。
10番はスターリンの死の直後に書かれた曲として有名だが、オケにとってこんなに労力の要る曲はなかなかないであろう。プロオケだったら本音はやりたくないだろうと思う。実際、2楽章の疾風怒涛のごとき快速テンポはついていくためには殆ど暗譜する必要があった。
8番は昨年(2000年)に楽友協会オケで演奏した。ご存知の方は少ないかもしれないが、English Hornにとっては難曲の一つである。English Hornには古今東西多くのオケ曲の中にいいソロが沢山ある。最右翼はシベリウスの「トゥオネラの白鳥」、「トリスタン」第3幕冒頭のアカペラのソロで、有名な「新世界」の2楽章、ラヴェルのピアノ協奏曲の2楽章、「中央アジアの平原にて」などがある。この交響曲第8番のEHソロは交響曲の中のEHソロとしては最も長く、辛く、苦しいソロである。私の演奏では約3分40秒であった。この曲、アカペラではないので、オケのテンポ、音程に合わせねばならないし、指揮者が4つで振っているのにソロは3連符だったり、5拍子だったりと、気を使うことおびただしい。おかげで翌日は長崎に出張だったのだが、昼過ぎから夕方までホテルで熟睡してしまったほど疲れた。
English Hornのことはともかく、8番は戦時中に書かれた暗い曲とはいえ、私は名曲だと思っている。
R. Wagner
私はワグネリアンである。「オランダ人」以降の作品は昨年、「マイスタージンガー」を見たので、実際のステージを全て観た。初期の作品も「恋愛禁制」を見てしまったので、残るは「リェンツィ」のみとも言えよう。
尊敬するオーボエ奏者
彼の演奏したVivaldiやAlbinoniを聴くと他にどんな表現法があるんだろうと思ってしまう。現代楽器で、これらの曲を吹く以上、彼の模倣しか音楽の表現方法は残されていないであろう。最近オーボエでの演奏会がなくなってしまって淋しい。
このオーボエ奏者を知っていたらマニア度が少し高いかな?戦前から戦後にかけて名手の名をほしいままにした人。何度も事故にあって最後は下顎の感覚が無くなってしまっても絶妙の演奏をした。彼は若い頃からたった一本のLoree,しかもセミオートでないセパレート・オクターブキーの楽器を一生涯吹きとおした。最近山野楽器から1960年代にEMIに入れたLPの復刻CDが出た。
現首席、Josef Robinsonの前任の New York Philharmonic の首席奏者。1950−70頃のNYPの録音のソロは殆ど彼が吹いていると思われる。アメリカのオーボエ奏者の中でも特に暗い音色を持っている。ソロのレコードも沢山あったが、殆どが廃盤となっている。彼は戦前のプロトタイプからLaubinの楽器を生涯愛し、個人的にもAlfred, Paul父子と親交があった。弟のRalphはボストン交響楽団の首席を長く勤め、Laubinを愛用していた。
David Weiss
Los Angeles Philharmonic (日本ではロスフィルと言うが、アメリカではLAPと略さないと通じない)の首席奏者。昨年、残念ながらリタイアし、南カリフォルニア大学(USC)で教鞭を取っている。私の師匠。近くで聞いていると体全体から音が出ているようなとてもパワフルな音の持ち主であり。現在も私の演奏したCDを送って批評していただいている。Crystal Recordsからヒンデミットのソナタなどのレコードが出ていた(残念ながらCD化されていない)。使用楽器はLoreeを3本くらい取り替えて使っている。そのうちの1本(JU47)を譲ってもらった。
実はのこぎり音楽(Music Saw)の世界では第一人者。のこぎり音楽のレコードも出しており、おばけの出そうなこの世のものとは思えない実に不思議な音である。日本でも寄席などで弾く人がいるが、音楽の格として全くレベルが違う。絶対音感の持ち主であることがかなりプラスになっているのだろう。
Robert Bloom
Bloomはコロンビア交響楽団でBruno Walterの指揮のもとに多くの録音を行った。60才を越えてから再婚、子供を作ったらしい。彼の弟子にはLAPのWeiss, シカゴ響のRay Stilなどの数多くのアメリカのオケ奏者がいる。彼の楽器もLoreeだった。Walter/Columbia Symphonyのリハーサル盤の中でWalterが"Mr. Bloom"と呼びかけているのが聞こえる。最近 Boston Records よりバッハなどの演奏が一括して発売された。
John Mack
クリーブランド管の首席をセルの振っていた60年代半ばから勤めている、現役最長老のオケ奏者。現在アメリカのオケ奏者の殆どが彼の弟子か、レッスンを受けた経験がある。アメリカオーボエ界のドン。録音されたクリーブランド管のレコードの殆どを彼が担当していると思われる。彼は長くLoreeを愛用している。CDを聞いても「木でできたサクソフォン」のような音がする。Crystal Recordsからソロ、室内楽が多くリリースされている。
Thomas Stacy
アメリカで、いや世界で最高のEnglish Horn奏者。New York PhilharmonicのEH奏者である。70年代半ば以降のNYPの録音は彼の演奏。独特の暗い音色、無限のスタミナで吹かれるEHの音色はこの世のものとは思えない。以前Londonレーベルからクリスマスソングを入れたCDが出ていた(日本盤あり)。バーンスタインが振って入れた「トゥオネラの白鳥」は絶品。彼のEHはLaubinである。
Hans Kamesch
1930-50年頃のウィーンフィル首席奏者。典型的なウィーン奏法で独特の節回し、ヴィブラ−ト、音色(チャルメラに近い)で魅了する。Westminsterレーベルに多くの室内楽、ソロを録音しているが、この時代のFurtwanglerやWalterの振ったレコードの多くは彼の演奏と思われる。彼のほかにもKarl Meyerhoferも名手である。
Harry Shulman
1950年ころまでのNBC交響楽団の首席オーボエ奏者。もちろんMarcel Tabuteauの弟子。私はロサンゼルス留学中にこのShulmanの息子、Ivan Shulman氏と友達になった。Ivanもオーボエ奏者だが、本職は外科医である。Los Angeles Doctors Symphony Orchestraの指揮者(Music Director)を勤めている。この父子もLaubinを愛用している。
尊敬する音楽家
Sviatoslav Richter
Wilhelm Furtwangler