13『易冒』程元如著

   

   清代の新しい断易理論の方向性を定めた書。10巻。著者の程元如(良玉)は5歳の時、疱瘡を患って失明した。その後、父から医書を与えられ、読み書きの手ほどきを受けた。長じて医を捨て、卜筮の道を志し、複数の「日者」から占卜を学んだ。『易林補遺』(1604年)を著した張星元を師と仰ぎ、研鑽を重ねた。40歳を過ぎた1661年、夢に青衣の吏が現れ、書を著すようにと告げられ、三年かけて本書を著した。友人の胡旅堂に体裁を整えてもらい、ようやく完成した康煕3年(1664)に胡旅堂は急逝し、後を追うように程元如も亡くなっている。
 本書は、明版断易書の雑多な内容の中から理論部分のみを抽出し、その理論の補強に重点を置いている。特に如元は卜筮における「象」ということを強調する。自序の中で「愚、以為らく、易は象なり。象なりとは像なり。」と言い、また巻5の類総章第41に「卜筮の道は、象に因りて以つて吉凶を見るなり。」とある。では、具体的に「象」とはどのようにして現れるのかという点については、元如は吉凶の兆しは「用神」に繋がっているとしている。胡旅堂の注にも「此の言は卜筮の大法にして、用神を以つて本と為す。」とあるように本書の最も大きな役割は断易理論における用神という概念の補強にあると言ってよいだろう。
「用神」は「用」「用爻」とも言い、占いの対象物を司る爻であり、六親五類と結びつけることになっている。明代の『断易天機』によると六親五類とその司る対象は、「父母」は年長の尊族・文書・印綬・衣服・車船・契約・天地・墳墓等、「子孫」は福徳・僧尼・医薬・毛皮・象牙・珠等、「妻財」は奴婢・飲食・気象・貨物等、「官鬼」は神邪・病・盗・失物・災・主人・庁殿・溝渠等、「兄弟」は姉妹・口舌・貪淫・嫉妬・無礼・不正等となっている。そして、それぞれの用爻に配されている五行の相生相尅によって吉凶を判断することになる。
『断易天機』では「用」「用爻」「用神」といったように表記に統一性がなく、どちらかと言えば、飛伏による相生相尅によって吉凶を判断することの方に重点が置かれていた印象が強い。しかし清代の『増刪卜易』、『卜筮正宗』では「用神」を用いた吉凶判断の優位が目立つ。こうした「用神」の格上げに寄与したのが本書だったと考えてよいだろう。
 本書は、1巻から4巻までは「甲子」「成爻」といった断易理論の項目毎の解説の形式を採り、5巻から10巻までが「国事」「家宅」といった占いの内容別に「用神」を中心とした占法を説く形式になっている。それは、これまであった雑多な内容の明代の断易書の影響を払拭し、新たに清代の断易書の形式を確立したものと言ってよい。本書は10巻4冊に91章を収める大著であるが、先行する書物の引用が正確である点が注目される。例えば、6巻の「疾病章第五十五」には「卜筮元亀、鬼在初爻両足傷、二爻雙腿患非常、三爻腰股常軽軟、四爻心腹及胸堂、五爻臓腑司喉咽、六爻頭上患為戕」とあって『卜筮元亀』の本文が引用されているが、これが京都大学所蔵『大易断例卜筮元亀』「占病在何処章第三」の本文とほぼ合致する。『卜筮元亀』は明の万暦年間の断易書に先行書として断片的に引用されている断易の書物であるが、清朝になって散逸したものと見られる。
本書中の引用箇所については、明代の断易書に見える部分とは異なっていることから、孫引きではなく、程元如が実際に『卜筮元亀』を見ていた可能性が高い。当時としてもおそらく希少な書物だったと考えられるので、いかに程元如が本書を著すまでに真摯に研究に取り組んだかがうかがえる。本書は、後の『増刪卜易』、『卜筮正宗』のように具体的な占例を豊富に示しているわけではないが、程元如自身が学問的に断易を研究した成果であると言えよう。
  一方、『四庫全書総目』子部・術数存目二では『易冒』について、「其説謬 固難通。」「穿鑿支離、尤無理解。」といった大変厳しい批評を加えており、残念ながらこれによって断易の時代的な評価はある程度決定されてしまったと見て良かろう。

home