自己免疫寛容

リンパ球は抗原に対して特異的に反応する抗原受容体を持っています。膨大な種類の抗原に対応するため、生体は遺伝子再構成という仕組みを使ってこれまた膨大な種類の抗原受容体を生み出しています。しかし、遺伝子再構成は非常にランダムに行われるため、生体は外来抗原だけでなく自己抗原に反応する抗原受容体も作ってしまいます。そうなると、自分の組織を異物として認識するので、自分の組織に対して免疫応答を発動する、つまり自己免疫疾患になってしまいます。
しかし私たちの体は、自己反応性のリンパ球を排除する仕組みを何重にも備えています。どんな仕組みがあるのでしょう??


B細胞の免疫寛容
1. 中枢性自己寛容
B細胞はその細胞表面に発現している抗原レセプター (B cell receptor; BCR)によって外来抗原を特異的に認識し、活性化します。BCRは、膨大な種類の外来抗原に対応するために遺伝子再構成という仕組みを使ってレパートリーを増幅しますが、レパートリーの分化はランダムなので外来抗原だけでなく、自己分子に特異的なレセプターも産生されてしまいます。しかし、自己反応性B細胞は未熟なうちに除去される仕組みが私たちの生体には備わっています。

(a) 未熟B細胞が自己の細胞表面抗原 (MHCなど)を認識する抗原受容体BCRを発現した場合、そのB細胞はアポトーシスをおこすか(クローン消失)、再度、遺伝子再構成を受け異なった特異性を持った抗原受容体を発現します(レセプター編集)。
(b) 未熟B細胞が可溶性の自己抗原により架橋される抗原受容体を発現した場合、その未熟B細胞は抗原に不応答性となります(アネルギー/アナジー)。アナジー状態に陥ると、抗原特異的T細胞の補助があっても抗原によって活性化されません。
また、このアナジー状態のB細胞は末梢リンパ組織へと移行しますが、リンパ組織のT細胞領域に分布し、濾胞へはたどり着けません。濾胞では生存シグナルを受け取れるのでB細胞の寿命は長くなりますが、濾胞にたどり着けないB細胞の寿命は3日程度となりすぐ死んでしまいます。よって、アナジー状態のB細胞は、長くは生きられないことになります。
生存シグナルは、BCRの刺激によるものであると考えられています。ただし、生存のために必要なシグナルは抗原特異的な結合には依存しないようです。
(c) 未熟B細胞が可溶性の自己抗原に低親和性、または単価で結合する抗原受容体を発現した場合、正常に成熟し末梢へ移行します。しかし、抗原が存在しても架橋されない、または弱くしか受容体と結合しないため、B細胞が活性化することはありません(クローン無視)。
(d) 骨髄内に存在する時に自己抗原に遭遇しない未熟B細胞は、正常に成熟し末梢リンパ組織へと移行する。

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自己抗原の種類
未熟B細胞はどうなる?
(a)
多価表面自己抗原
クローン消失
レセプター編集
-
(b)
可溶性自己抗原
- アナジー状態のB細胞になる。IgMlowIgDnomal B cell。
(c)
低親和性非架橋自己抗原
- 成熟B細胞となるが、クローン無視。IgM+IgD+B cell。
(d)
自己反応なし
- 成熟B細胞となる。IgM+IgD+B cell。
未熟IgM+B細胞(骨髄)
末梢


2. 末梢性自己寛容
中枢性自己寛容が行われているにも関わらず、末梢には多くの自己反応性B細胞が存在します。これは、特定臓器のみにしか発現していない自己抗原がたくさんあるからです。また、活性化B細胞が体細胞突然変異をおこしてランダムな遺伝子再構成が行われた結果、自己抗原に特異的なBCRをもったB細胞が分化してしまう可能性もあります。このような自己抗原に対するBCRを持つB細胞は、骨髄で寛容を受けることができないので、正常な成熟B細胞として末梢に移行してしまいます。しかし、末梢で自己抗原に反応するB細胞が活性化しない仕組みも生体は持っています。

(a) 通常B細胞は血中からHEVを介してT細胞領域を通り、T細胞領域で特異抗原と出会うとB細胞濾胞へ移動します(→参照・2006/7/5の免疫部へ)。しかし、自己抗原に特異的なBCRを持つB細胞は、T細胞領域からB細胞濾胞へ移行することができません。これは、外来抗原に応答する細胞の場合はそれに相当するエフェクターCD4 T細胞がT細胞領域に存在するのに対して、自己抗原に応答するB細胞の場合はそのようなヘルパーT細胞は存在しないからです。B細胞濾胞へ移動できないB細胞は、生存シグナルを受けることができないのですぐにアポトーシスを起こして死んでしまいます。
(b) 中枢(骨髄)で可溶性抗原と出会ったB細胞はアナジー状態に陥るのですが(→中枢性自己寛容)、末梢でも可溶性自己抗原に出会うとアナジー状態が誘導されます。
(c) もしFasリガンドを発現した自己反応性T細胞が存在し活性化・成熟していれば、アナジーB細胞はFas依存的に除去されます。アナジーB細胞はFasリガンドとFasによるアポトーシスへの感受性が亢進しているからです。
このようなメカニズムが欠損すると、つまりFasやFasリガンドを欠損したマウスではSLEと類似した自己抗体を産生してSLE様の自己免疫疾患を起こすようです。
(d) 外来抗原への応答のための体細胞高頻度突然変異の結果、自己抗原特異的なBCRを発現するB細胞に分化してしまった場合、これら自己反応性B細胞は胚中心で大量の可溶性抗原と出会うことによりアポトーシスが誘導されます。

3. 最近の知見
Signaling in transitional type 2 B cells is critical for peripheral B-cell development.
Su TT, Guo B, Wei B, Braun J, Rawlings DJ. Immunol Rev. 2004 Feb;197:161-78.

B細胞は、幹細胞→(早期/後期)プロB細胞→(大型/小型)プレB細胞→未熟B細胞→成熟B細胞の順に分化るることが知られています。未熟B細胞までは骨髄で分化しますが、骨髄でIgM陽性B細胞へ分化した後は血流を介して脾臓へ移動し、成熟B細胞、ナイーブB細胞となります。

脾臓で成熟B細胞となるまでにB細胞はtransitional type 1 (T1)とtype 2 (T2)ステージを経るようです。このように、骨髄におけるimmature B細胞と区別するため、脾臓における未熟B細胞は「transitional B細胞」とよばれます。これは、これらの細胞の寿命が3-4日と非常に短いためこう呼ばれるようになりました。

T1細胞は骨髄、血中、脾臓のPALS領域に存在します。また、T2細胞は脾臓の濾胞に存在し、T1細胞が分化したものであると考えられています。T2細胞が分化すると、FM B細胞やMZ B細胞になるようです。
骨髄を出たT1細胞は、血中や脾臓のPALS内で血行性に移動してきた可溶性自己抗原に特異的なBCRの刺激を受けるとアポトーシスを起こし死んでしまいます(ネガティブセレクション)。
生き残ったT1細胞はBAFFという液性因子によってT2細胞へと分化します。T2細胞に分化すると、T1細胞の時とは逆にBCR刺激を受けないと生きていけません(ポジティブセレクション)。また、T2細胞からFM B細胞やMZ B細胞へ分化するためにも必要です。

T1
T2
FM
MZ
CD21
+++
+
+++
CD24
+++
+++
+
+++
CD23
+++
+++
ー/+
IgM
+++
+++
+
+++
IgD
+
+++
+
+


4. B細胞自己免疫寛容の破綻
(a) BAFF
自己抗原反応性BCRを持つB cellは、自己抗原に出会うとアポトーシスによって死ぬ(ネガティブセレクション)。しかし、そこに多量のBAFFが存在していると、BCRを介したdeathシグナルよりBAFFによる生存シグナルの方が優位になってしまうため、自己反応性B細胞はネガティブセレクションを受けず生き続けることになる。
(b)



T細胞の免疫寛容
1. 中枢性自己寛容
自己抗原を認識するTCRをもったT細胞は胸腺細胞はダブルポジティブ細胞の段階で消去され、シングルポジティブT細胞へは成熟しません。ただし最近では、自己抗原ペプチド・MHCクラスII複合体に対してアフィニティーを持つTCRを発現する一部の胸腺細胞は、CD4+CD25+Tregにコミットするという報告もあります。
(→参考・2006/7/2の免疫部へ)


2. 末梢性自己寛容
(a) 活性化起因性細胞死 (Activation-induced cell death; AICD)
T細胞は、持続的に繰り返される抗原刺激によってT細胞上にFasとFasリガンドの発現が誘導されます。これらの結合はアポトーシスを誘導します。
(b) アネルギー/アナジー
ナイーブT細胞が活性化するためには、抗原提示細胞上のペプチド・MHC複合体による刺激(第一シグナル)と補助刺激分子による刺激(第二シグナル)の両方が必要です。
自己抗原を貪食した抗原提示細胞は、補助刺激分子を発現していないので、T細胞には第一シグナルのみしか入りません。そうすると、T細胞はアネルギー状態になります。
(c) 調節性細胞による免疫抑制
c-1)CD25+CD4+制御性T細胞(Treg細胞)
特徴
・正常免疫系に自然状態で存在し、免疫自己寛容の維持に関与します。
・CD25 (IL-2受容体α鎖)を恒常的に発現しています。
・CD25-CD4+T細胞と比較して、CTLA-4やGITR発現が高い。
・正常個体のCD4+細胞の5-10%を占めており、Tr細胞を正常マウスの免疫系から除去すると、様々な自己免疫病が自然発症することが報告されています。これは、Tr細胞を補えば発症を阻止できます。
・転写因子Foxp3を発現しています。この分子はTr細胞に極めて特異的な分子マーカーです。また、Foxp3を強制発現させたT細胞はTr細胞の特徴を持つことから、Foxp3はTr細胞群の産生・機能のマスター制御遺伝子であると考えられています。

発生・分化
・詳細は不明ですが、胸腺中で自己抗原と反応したためアネルギー状態になったT細胞と推測されています。実際に、CD25+CD4陽性T細胞は、TCR刺激によって増殖しなません。ただし、IL-2共存下でTCR刺激すると、増殖反応がみられるようです。
・少なくとも一部のTregは、胸腺において選択され分化していると考えられています。未分化胸腺細胞が胸腺上皮細胞によって提示される自己ペプチド・MHCクラスII複合体に対して強いアフィニティーをもつTCRを発現するとCD4+CD25+Tregにコミットされるという報告もあります。

抑制活性の機序
Treg細胞は自身は抗原に不応答性ですが、他のT細胞の活性化を抑制することができます。この抑制作用の詳細は不明ですが、細胞同士の接着が必要であることが分かっており、CTLA-4 (CD152)やPD-1などの分子が関与している可能性が高いと言われています。
CTLA-4はB7のレセプターで、CD28よりも高親和性でB7と反応します。CD28とは異なり、負の補助を伝達します。
PD-1は、CD3またはCD3とCD28が刺激されるときのT細胞活性化を抑制する。
また、TregによるT細胞増殖抑制にIL-10やTGF-βなどの液性因子には非依存的であると考えられています。


参考
Regulatory CD4(+) T cells expressing endogenous T cell receptor chains protect myelin basic protein-specific transgenic mice from spontaneous autoimmune encephalomyelitis.
Olivares-Villagomez D, Wang Y, Lafaille JJ. J Exp Med. 1998 Nov 16;188(10):1883-94.

マウスの名前
どんなマウス?
マウスの特徴
T/R+ mice
MBP-specific TCR transgenic mice
MBPに対するトレランスが欠損しているはずなのにも関わらず、EAEは自然発症しない。
T/R- mice
T/R+ mice
×
RAG-1 KO mice
全てのマウスがEAEを自然発症する。

MBP (myelin basic protein)とは、EAE発病時の主要な抗原です。
胸腺において自己抗原として存在します。MHC class IIと低親和性に結合し抗原提示されますが、その低親和性故に、胸腺でのnegative selectionは誘導されません。つまり、MBP(自己抗原)に反応するTCRをもったT細胞が、正常T細胞として末梢へ流出してしまいます。
にも関わらず、T/R+ miceではEAEの自然発症はみられませんでした。(ちなみに、このマウスの末梢にはたしかにMBP特異的TCRを持ったT cellが存在していた。しかも、このT cellはanergicではなかった*1。)

このT/R+ miceとRAG-1 KO miceを掛け合わせると、100%の確立でEAEを自然発症するマウスが生まれてきました。

ということは…
・T細胞の多様性が失われたときに、自己免疫疾患が発症するといえる。
・多様なT細胞の中に、自己免疫疾患を抑制するT細胞群が発生する可能性がある。
論文中では検討されていないが、この「自己免疫疾患を抑制するT細胞群」というのが、Tr細胞ではないかというところで落ち着いているようだ。
またこの論文から、thymocyteのTr細胞へのcommitmentには、特異的なTCRの刺激が必要であることが明らかとなりました。

reference*1
High incidence of spontaneous autoimmune encephalomyelitis in immunodeficient anti-myelin basic protein T cell receptor transgenic mice.
Lafaille JJ, Nagashima K, Katsuki M, Tonegawa S. Cell. 1994 Aug 12;78(3):399-408.

c-2) Tr1細胞
ナイーブT細胞をIL-10や免疫抑制剤などの抗炎症物質存在下で抗原刺激することにより得られ、IL-10依存的に抑制活性を発揮する。

c-3) Th3細胞
経口免疫によって誘導されTGF-β依存的に抑制活性を発揮する。






参考書


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