このホームページを開くにあたって是非書いてみたいことがありました。それはミレッラ・フレーニについてです。
フレーニは私が今更何か書くまでもなく現在のオペラ歌手の中の頂点にいるひとりだと思うのですが、私が感じた&思ったフレーニのことを書いてみようと思います。
私がフレーニの歌を初めて聴いたのは、1988年のミラノ・スカラ座の来日公演の折に行われたオペラ・アリアを集めたリサイタルがFMラジオで放送された時でした。
フレーニの名前だけは音楽雑誌か何かで知ってはいたものの、オペラに縁のない生活をしていた私は来日公演があったことすらその時まで知りませんでした。
何故その時ラジオを聴いてみたくなったのかは全く憶えていないのですが、ラジオは時折聴いていましたので「たまにはオペラでも聴いてみようか?飽きてしまったらスイッチを切ればいいんだし」というような軽い気持ちだったのではないかと思います。その割にその放送を録音までしていたのですが。何か勘でも働いたのでしょうか?その時の自分に訊いてみたい気がします。
ラジオから流れてきたフレーニの歌声は、それまで聴いたことがないような美しい声で、しかも多彩な表現に溢れていて、オペラの内容も言葉もわからないのに私に大きな感動を与えてくれました。その時はアイーダ、トスカ、ボエーム、カルメン(ミカエラ)、エフゲニー・オネーギン(タチャーナ)等のアリアで構成されたプログラムで、多くは初めて聴いた曲でもありました。
その後すぐにフレーニのアリア集のCDを買い、録音テープと共によく聴いていました。翌年には新しいCD(ヴェルディ/プッチーニ:オペラ・アリア集)が発売され、飛びつくように買ったものでした。
その時の小遣いでは複数枚組のオペラ全曲のCDを買うことができなかったのです(この頃私は少年でしたし。勿論今も瞳は少年)。
いつか生演奏を聴いてみたいと思っていたのですが、その後フレーニが来日公演をしたのは1993年のボローニャ歌劇場の日本初公演の時でしたので、私は5年間フレーニを待ち続けることになりました。
1993年、念願叶って初めてフレーニの演奏を聴きました。それまで他にも色々な歌手の演奏を聴いたのですが、勿論素晴らしい歌手も沢山いましたがやっぱり私はフレーニを待っていました。
果たしてフレーニは…やはり思った通り、いやそれ以上の感動を与えてくれました。夫君ギャウロフとのジョイント・リサイタルで、ボローニャ歌劇場公演の一環でした。
私の近くの席に小澤征爾さんが座っていらしたのですが、プログラムが終わると「ブラーヴォ(ブラーヴァ?ブラーヴィ??よく聞き取れませんでしたが)」を立ち上がって叫んでいらっしゃいました。そしてアンコール曲が始まるとお座りになり、その曲が終わると再び立ち上がり「ブラーヴォ」…そのことも印象的でした。
私のフレーニ初体験はギャウロフの歌声と、小澤征爾さんの「ブラーヴォ」と共に素晴らしい想い出となりました。
リサイタルから数日後、私はNHKホールの1階8列目の中央近くの席に座っていました。アドリアーナ・ルクヴルールを観る為です。それまでに友人にアドリアーナ・ルクヴルールの映像を観せてもらい予習は万全でした。
予習で観たものと同じ演出の舞台がそこにはありました。ただ違うのは実際に目の前にフレーニがいて、すぐそこで、手が届きそうな距離で、まるで私に対して歌っているかのように思えたことでした(かなり勘違い)。その舞台に立っていたのはフレーニでありながら紛れもなくアドリアーナだったと思います。何度も体中に震えがきたことをはっきり憶えています。
その時ブイヨン公爵夫人を演じたコッソットも印象に残りました(それ以前にコッソットを聴いていた友人は「前はもっと凄かった」と言っていましたが、前を知らない私にはよくわかりませんでした)。
いずれにせよ、その時の来日で二度聴いたフレーニはどちらも素晴らしかったことは確かだと思います。ただオペラ歌手はアリアの演奏会よりもオペラの役柄になっている時の方が私は好きです。
その後1994年にドミンゴと、1995年(フレーニ・デビュー40周年記念)にギャウロフと来日し、その度に素晴らしい演奏を聴かせてくれました(いずれも演奏会のみ)。
1998年にボローニャ歌劇場が二度目の来日公演を行いました。フレーニも同行しフェドーラを披露してくれました。私は東京公演の初日と最終日の二度観に行きました。
この時のフレーニも素晴らしかったと思いました。やはり、舞台上ではフレーニでありながら紛れもなくフェドーラだったように思います。
どうやらフレーニは舞台に上がる前に相当周到な準備をするのだそうです(演奏家は皆そうだといえばそうなのですが)。50代にしてレパートリーに加わったこのフェドーラという作品。この作品を選ぶ時点からフレーニの準備は始まっていたに違いないのですが、滅多に上演されることのないこのオペラを私が観た(聴いた)のはこの舞台が初めてだったにも関わらず一度目にして感銘を受ける場面が多かった記憶があります(私がオペラを初めて観る&聴く場合だいたい物語を追うのがやっとで、歌手の素晴らしさに感動することはあっても「この場面が良かった」と具体的に思うことは皆無に等しいのですが)。二度観られたことにより、この公演を深く心に刻むことができたことはラッキーだったと思います。
この時相手役のロリスはカレーラスだったのですが…実は私には印象が残っていません。好みの問題なのかもしれませんが、誰がロリスだったのかプログラムがなかったら忘れていたかもしれません。東京公演の前に一度だけびわ湖ホールでホセ・クーラがロリスを歌ったのだそうなのですが、そちらの評判は良かったようなので東京でもクーラに歌って欲しかったと密かに思ってみた憶えもあります。
アドリアーナ・ルクヴルール、フェドーラ、どちらも頻繁に上演される演目ではないのではありませんが(アリアだけでしたらよく取り上げられたりもしますが)。見事にこれらの作品を魅力的に観せてくれたように感じます。
翌年の1999年、今度はギャウロフと共に藤原歌劇団のボエームに客演することになりました。
ボエームといえばフレーニの代表作品と言っても過言ではない演目ですが、正直レパートリーを声に合わせて移行している時期のように感じられていたので、生でミミを観られるとは思っていませんでした。
1988年にフレーニの歌声に出会った時、スカラ座公演ではボエームに出演していたのです(私がラジオで聴いたのは、ボエーム出演のために来日した際に行われたリサイタルの方でした)。
私はそれまでCDや映像でフレーニのミミは何度も(1幕のアリアのみでしたら実演も。これは何度も聴けませんでしたが)聴いていましたので、「ここはこう歌う」と頭にインプットされているようなところがありました。だからでしょう、この時の公演でそれまで慣れ親しんできた演奏と少し違う部分に気付いてしまい、一瞬はっと我に返ってしまった部分がありました。30年以上もの間このミミを歌ってきた訳ですので変化がない方がおかしいといえばおかしいのですが。
私がはっとした事を笑っているかのようにフレーニはミミとして舞台上にいました。
この公演はフレーニ&ギャウロフ、そしてロドルフォ役で招かれたロベルト・アローニカの外国人キャストのみならず、藤原歌劇団の歌手の演奏も素晴らしかったことも付け加えさせて頂きます(ひとりを除いて…)。
この時の来日でもご夫婦でのリサイタルがありました。
1999年から5年が経ちましたが、フレーニが来日する予定は今のところないようです。
女性の年齢を口にするのには少しためらいがありますが…フレーニもパヴァロッティと同じく来年70歳を迎えます(出身地も同じイタリアのモデナ)。
フレーニは現在でも時折オペラに出演しているとのことなのですが、「体調が整わない場合は開演ギリギリでもキャンセルをする。という条件を聞いてくれる劇場とだけ契約をする」のだそうです。フレーニは若い頃からも大きなチャンスよりも「声」を大切にしてきたとも聞いたことがあります。レパートリーの選択も慎重で、自分の「声」に負担が大きいと感じる作品には殆ど手を出さなかったということでした。
ベルカント唱法というものがどのようなものか、私にはわかりかねるところが多いのですが、一説によると現在において、「これぞベルカント唱法!」という歌い方をしている歌手は、フレーニとパヴァロッティの二人だけとのことです(真偽はよくわかりません)。しかしその魅力を存分に発揮するにはパヴァロッティは歳を取り過ぎたかもしれません。現在のフレーニがどのように歌っているのか心配です(私が心配したところで何も変わらないでしょうけれど)。
2006年まで「直前キャンセルの可能性あり」のスケジュールは入っているようですので、自分の声に敏感なはずのフレーニのことですから信頼して機会を待とうと思います。劇場に行ったらキャンセルになっているかもしれませんが。
ところで3種類の録音・映像(音と映像は別々に収録)を残している「蝶々夫人」を、実は全幕舞台で歌った事がないのだそうです(ガラ公演だったのでしょうか、一度だけひと幕?ひと場?(どの幕、またはどの部分かはわかりませんが)を上演した事はあったようです。その公演のカーテンコールでの写真を見たことがあるのですが、メトロポリタン・オペラでの公演のようでした)。
フレーニにとって蝶々夫人は自分の声には負担が大きく、一晩で全てを歌うのが大変な為、休み休み歌うことができる録音という形で表現したのだそうです。私は演奏会で「ある晴れた日に」だけでしたら聴いたことがあります。そのような方は沢山いらっしゃるでしょう。
三度も収録していることを考えると、どうやらフレーニはそうまでしても蝶々夫人を歌ってみたかったようです。
<続編あるかも>