1991年6月11日、東京芸術劇場でアニー・フィッシャーのリサイタルを聴きました。正直私はフィッシャーの演奏をそれまで録音を含め一度も聴いたことがなかったのですが行ってみることにしました。
私がそれまでフィッシャーについて知っていたことといえば、ハンガリーのピアニストで、どうやら天才少女としてデビューしたらしいということと、1965年のショパン・コンクールの審査員のひとりだったということ位でしたので大した先入観があったわけではありませんでした。別の言い方をするならば特に期待もしていなかったということでもありました。
ところが舞台に現れたフィッシャーは歩いている姿にお歳を感じたものの演奏は素晴らしく驚きました。
その晩はベートーヴェンの10番のソナタ、シューマンのファンタジー、休憩を挟みベートーヴェンの月光ソナタ、そしてシューマンの幻想小曲集Op.12というプログラムでした。
殊にシューマンのファンタジーはそれまで、そしてそれ以降も私はこの時ほどの素晴らしい演奏に出会ったことがありません。
後にフィッシャーの弾くシューマンのファンタジーも収録されているCDを手に入れました。演奏会ほどのインパクトはありませんでしたが(あくまで録音ですので)、やはり素晴らしい演奏でした。もしかするとフィッシャーの十八番だったのかもしれません。
その時の演奏会は「さよならコンサート」とのことでした。1914年生まれということでしたので極東の国・日本での公演は最後だろうということだったのでしょう。
がしかし(確か)翌年あたりにももう一度来日したのです。私は行けなかったのですが「あの「さよならコンサート」というのは何だったのか?」と思いつつ、「まだお元気ならまた来日するかもしれない」とほのかな期待を抱いてみたのですが、それは叶わず1995年に亡くなってしまいました。
今でもCD店に行くと新たなフィッシャーのCDが出ていないか探すことがあります。フィッシャーの場合、ほとんどが輸入盤のCDとなりますので大きな店でないと見つからないことが多いです。亡くなった後も何故かポツリポツリと新たな録音が出てくるので目が離せません。もしかしたら放送用のもの等をCDにしているのかもしれません。或る時私の好きな曲が収録されているライヴCDを見つけ、早速購入したのですがミスタッチが多く少し残念に思ってしまったことがありました。しかし解釈や弾きっぷりはやはり好きでした。
たった一度半分きまぐれで行った演奏会で出会ったアニー・フィッシャー。もっと早く出会いたかった演奏家のひとりです。
<おしまい>