ホルへ・ボレット(1914-1990)というピアニストに出会ったのはいつのことだったのでしょう?
はっきり憶えているのは1988年にN響と共演した時に弾いたラフマニノフ:ピアノ・コンチェルト第3番をラジオで生放送していたのを聴いた時でしたので、その時初めて聴いたのかもしれません。残念ながらその時の来日が最後の来日だったようですので、生演奏を聴くことは叶いませんでした。
そのラフマニノフの3番は割と最近「過去の名演奏」という形でTVで放送されました。1988年当時、私はラジオ聴いていたのでボレットの弾いている姿を見ることはできなかったのですが、ボールドウィン(あれ?ベヒシュタインだったかも?)のピアノを弾いているのを見て「このピアノどこから持ってきたんだろうか?」と思ってみました。
そりゃ日本にもボールドウィンだのベヒシュタインのフルコンサートピアノが無いとは思いませんが、使用頻度や状態を考えたら「よくもまぁ」と思ってみたというわけです。もしかしたらボレットが持参したのかもしれません。
ボレット(「ボレ」と呼ばれることも。ファースト・ネームは「ジョージ」と呼ばれる場合もあります)は晩年にリストの作品をまとめて録音したことで日本では有名になったようです。私もN響のラフマニノフの次に聴いたのは多分リストのCDだった気がします。
私は全てを聴いたり持っているわけではないのですが、主に1980年代にDECCAに録音された晩年の一連の録音(リストのみならず、ショパンやラフマニノフなど色々)はボールドウィンかベヒシュタインが使われているようです。
レコーディングに関わるスタッフの方針なのか、ボレットのオーダーなのか、ピアノそのものの音なのか、それともボレット独特のものなのか…それらの「音」は少し聴いただけでボレットのものとわかります。
そういえば…私はボレットの録音で晩年のものでは「ない」CDを1枚持っています。1969&1970年にライヴ録音されたラフマニノフの3番(少しカットあり)&リストの編曲物(こっちはスタジオ録音)が収録されているのですが(ピアノはボールドウィン)、やはり「ボレットの音」が聴こえます。発売はDECCAではありません。
これはボールドウィンだのベヒシュタインの音なのか???
…つい最近ボレットがショパン、リストの作品を弾いている映像を観ました。収録は1987年でDECCAから発売されたものです。勿論「ボレットの音」がします。が、よく観ると…弾いているのは
スタインウェイ。
ボレットは恐らくボールドウィンやベヒシュタインのピアノが好きだったのでしょう。しかし、他のメーカーのピアノを弾いても自分の音を出すことができる人だったのでしょう。少し感動してみました。
晩年の録音は全体にテンポを遅めに取っていると思うのですが、1969年&1970年の録音を聴くと結構速めに弾いている曲もあります。思うに、ボレットは或る程度年齢を重ねた時にテンポを取るか音色を取るかの選択をしたのでしょう。そして(恐らく)音色を取った。
私は(恐らく)初めてボレットを聴いた時に(N響とのラフマニノフの3番)、テープに録音しながら聴いていたのですが、テンポが遅かった為に片面45分のテープには収まらずがっかりしてしまいました。しかしそれでも(曲が完結する前にテープが終わってしまっていても)その録音を気に入って時々聴いていました。最近放送された「過去の名演奏」はMDで録音してみたので最後までばっちり録音できました。
1982年にスタジオ収録された同曲のCDもあるのですが、10数年前のライヴより遅めになっています(カット部を考えても遅いです)。44分と少しかかって演奏されているのですが、それから6年後には(楽章間はあるにせよ)ライヴにも関わらず更にゆっくりになっています。
どうやらボレットは自分の音がよく聴こえていたピアニストなのでしょう。嗚呼、あやかりたい…。
<おしまい>