いろいろはじめました  
◆ 野島稔さんのピア二ズム 2004.6.24.


野島稔さんは私の好きなピアニストのひとりです。

 初めて演奏をお聴きしたのはいつだったでしょうか?TVでプロコフィエフの5番のコンチェルトを弾いていらっしゃったのですが、正直その時の私はプロコフィエフの5番のコンチェルトの響きがいまいちピンとこなかった為、感想らしい感想をここに書くことができません。

 それからどれくらいの月日が流れたのかわからないのですが、次に野島さんの演奏をお聴きしたのは1994年にサントリーホールで開かれたリサイタルへ行った時でした。
その日のプログラムはオール・ラヴェルで「亡き王女のためのパヴァーヌ」に始まり「鏡」、休憩を挟み「優雅にして感傷的なワルツ」そして「夜のガスパール」というもので、アンコールにリストの「ラ・カンパネッラ」を弾かれました。

リサイタルの最初から最後まで神経が行き届いた上、スケールの大きい演奏だったとも思われ、とても感銘を受けました。中でも「鏡」の第3曲“海原の小舟”のトリルの部分の美しさは今でも耳にはっきり残っています。勿論他の曲も素晴らしかったのですが。

 野島さんのCDの中にはラヴェルの作品集があります。こちらもまた素晴らしいと思います。ただ生で聴いてしまった私はやはりライヴの方が好きでした。CD等の録音物はあくまで「ライヴの代わり」であったり「記録」のものなのではないか?と思ってみたり…素晴らしい演奏は記憶にずっと残るものなのでしょう。

野島さんは比較的演奏会の数が少ないピアニストの方のように思います。ですので都合で行けない場合にとても悔しい思いをします。

 数年前にモーツァルトの22番のコンチェルトをお聴きしたことがありました。ラヴェルの演奏会から年月が経っていましたが、野島さんのモーツァルトはどのようなものなのだろうか?と楽しみに聴きました。やはり思った通りの素晴らしい演奏でとても楽しくお聴きすることができました。勿論ラヴェルとはまるで違う雰囲気でした(当たり前ですね)。

 昨年7月にはドビュッシーのプレリュード全曲というプログラムのリサイタルが開かれ聴きに行きました。この曲集は第1集12曲、第2集も12曲の全24曲です。第1集と第2集の間に休憩が入りました。

…きっと素晴らしい演奏をされるに違いない。と思いながら、演奏会の前に私は「あれだけ素晴らしいラヴェルの演奏をされる方がドビュッシーを弾いたらどうなるのだろうか?」という心配(!?)のようなものをしていました。ラヴェルの演奏会の印象が私の中で壊れてしまうのが怖かったのかもしれません。

 ドビュッシーとラヴェルは「印象派」として同じくくりで語られる場合があるのですが、私は全くそうは思っていません。つまり私は全くの別物ととらえているのです。

 果たして…私の心配は取り越し苦労でした。流石野島さんです。ドビュッシー・ワールドを聴かせて下さったばかりか、アンコールではラヴェルの「鏡」の第1曲“蛾”を弾かれ、ドビュッシーの音楽の時とはまるで違う音色・空気を創り上げてしまわれたのです!!なんだか私の「取り越し苦労」を笑われたようで何とも心憎いものを感じました。

 ドビュッシーとラヴェルの温度差のようなものを目の前で聴かせて下さったことに感激し、演奏会の後少しだけお話をさせて頂きに行きました。

「ドビュッシーとラヴェルでは空気をガラっと変えられましたよね?」
とお尋ねすると、
「少し大袈裟にやってみたんです」
と仰いました。

 ドビュッシーとラヴェルは(私は)全く違うとは思うものの、例えばバッハとストラヴィンスキーほどの違いがあるとは思いません。ですので演奏として一晩に両方を「弾き分ける」のは実は物凄く難しいのではないかと思います。それこそ「バッハとストラヴィンスキー」くらい差があるのならまだしも…です。
「少し大袈裟にやってみたんです」というお言葉の陰には「企業秘密なので教えられません」というニュアンスもどこかに含まれていたのかもしれません。

 実は野島さんは演奏会のみならずCDも少ない演奏家だったりもします。前に挙げたオール・ラヴェルの1枚(鏡や夜のガスパール等)、それからオール・リストの1枚(ソナタやメフィスト・ワルツ、鬼火等)、ブラームスのパガニーニ・ヴァリエーション&リスト数曲の1枚、計3枚を私は持っているのですが、他には邦人作曲家の作品のものとヴァン・クライバーン・コンクール入賞時のライヴがある位です(私は自分が持っているもの以外はお聴きしたことがないのですが)。

 演奏会の数といい、録音の数といい、ご自分のペースというものをお持ちでそれを一切崩さない方なのかもしれません。恐らく演奏の質へのこだわりがおありなのでしょう。
 そして大分前から後進のご指導もされておられるようですので余計に演奏をお聴きするチャンスが減ってしまっている予感…。つい先日終わった仙台国際コンクールの審査委員長もされていらっしゃいましたし。

 こうなったら目を皿のようにして演奏会のスケジュール・チェックをしなければなりません。それもまた楽しかったりするのですが。今度はいつお目に掛かることになるのでしょうかねぇ?


  <気長に待ってみます>