私が小山実稚恵さんの演奏に巡り会ったのは、1985年の秋〜冬頃にFM放送で流れてきたショパンのライヴでした。それが小山さんのショパン・コンクールの演奏だったのかは定かではありませんが、小山さんのショパン・コンクールの実況CDに含まれていなかった曲も放送されましたので、コンクール前か、コンクール直後の演奏かと思います。
なんとなく「ノリ」が気に入って録音したテープをよく聴いていました。その頃は「チャイコフスキー・コンクールで第3位の小山実稚恵さんのリサイタル」という認識でしたので、その後、ショパン・コンクールで入賞されたことを知り、ビックリした記憶があります。
恐らく10月に新聞やテレビでニュースになっていたと思うのですが、私が小山さんの入賞を知ったのはそれから1〜2ヶ月後の音楽雑誌の特集を見てからでした。
年末だったでしょうか?年明けだったでしょうか?「NHK特集」で「若きピアニストの17日間(←記憶が定かではありません)」というショパン・コンクールを扱ったドキュメンタリーが流れました。
ソ連の天才ブーニン、そして彼のライヴァルのピアニスト達…といった内容で(内容の割には殺伐としていません)、日本から審査員で参加された故・園田高弘氏が「彼(ブーニン)は100年にひとりの天才でしょう」のひとことのお陰で、いわゆる「ブーニン・フィーバー」が起こりました。
第3次予選を経て6名が本選へ進み、第2位となったマルク・ラフォレが第2番のコンチェルトを選んだ以外、あとの5名は第1番のコンチェルトを弾きました。そしてブーニンは第1位。小山さんは、ポーランドのヤブウォンスキに続き第4位に。第5位にはジャン=マルク・ルイサダ。第6位にはタチアナ・ピカイゼンというソ連の女性が入賞を果たしました。
そういえばこの年は日本人参加者が26〜27名を数え話題にもなりました。実際第3次予選へ小山さんも含め4名が進みましたので、海外のメディアでもちょっとした話題になっていたようです。
それらの一連の放送(「NHK特集」の他に「芸術劇場」でもかなりの時間を取り演奏を紹介していました。ブーニン、ラフォレ、小山さんのコンチェルト全曲、ヤブウォンスキのコンチェルトの冒頭と第5番のポロネーズ全曲など)を観て是非ブーニンと小山さんの演奏をお聴きしたくなりました。
小山さんの演奏会はその6月、お聴きすることができました。ポロネーズとワルツだけで組まれたプログラムで少し驚きましたが、元々ショパンの作品には三拍子ものが多いので実際お聴きしても違和感はありませんでした。
その夜の最初に演奏されたポロネーズ第1番と、ワルツ第8番、ポロネーズ第5番、アンコールで弾かれたエチュード第1番は今でもはっきり憶えています。小山さんの「ノリ」を体験できた記念すべき演奏会になりました。そしてブーニンの演奏会はチケットが取れず今に至っております。
それから大分時間が流れました。昨年秋には「ショパンコンクールから20周年」という記念演奏会が行われ、二晩に渡り小山さんの演奏を堪能することができました。
その間、沢山の演奏会と共にCDを発表されたり、今度はコンクールの審査に当たられるというお立場にもなられました。
レパートリーも大変広くJ.S.バッハからラフマニノフ・プロコフィエフ・ベルク・ウェーベルンまで演奏されます。
その集大成と言って差し支えないと思われる大きな計画が昨日より進み始めました。
12年間・24回リサイタルシリーズ「小山実稚恵の世界」ピアノで綴るロマンの旅
…という大型企画です。昨日、1年目・第1回のリサイタルが満席の聴衆に見守られ無事終了しました。
これまでにも小山さんはラフマニノフやスクリャービンなどの作曲家を見つめる企画を行ったり、様々な作曲家の作品を集めたリサイタルでも、ひとつの大きなテーマを柱にされたり、ユニークといえる企画を行っていらっしゃいましたので、この企画も小山さんらしいのかもしれないと思いました。時間の長さには驚かされましたが。
この20年間で小山さんの「ノリ」ははっきり表に現れていたものが、少しずつ内面に向かったようで、最初に気に入った「ノリ」はたまに片鱗を見せるだけとなりました。
その代わり(!?)に多彩な音色や幅広いレパートリーを手にされ、また一味違う魅力をお聴かせ下さるようになりました。たまに以前の「ノリ」が懐かしくなりますので、そのような時はデビュー当時のCDを聴かせて頂いております。
東京藝術大学時代のデビューから様々な刺激を受け、現在に至っているのでしょう。それをひとこと「進化」と呼んでしまっていいのかわかりませんが、なんとなく私には小山実稚恵さんは進化し続けるピアニストだと感じられます。
この12年のチクルスを終えた時もいつもの笑顔でステージに立ちながら、既に次の進化の計画を練っていらっしゃるような気がします。つくづく面白い方だなぁ――と、昨日の演奏を聴いていても思いました。気が早いですが12年後も楽しみなピアニストです。