いろいろはじめました  
◆ それでいいのか!?トスカっ!!! 2004.7.3.


 プッチーニのオペラ「トスカ」は個人的にとても好きなオペラです。聴きどころ・観どころも多く、名アリア、そして劇的な物語には心惹かれます。

 このオペラのクライマックスと言っても過言では無い、第2幕・ファルネーゼ宮殿のシーンでトスカは、政治犯&脱獄犯・アンジェロッティをかくまった罪で処刑される運命になってしまった恋人・カヴァラドッシの命を助ける為警視総監・スカルピアのものとなり、それを条件にカヴァラドッシの命を助け国外へ逃亡できるよう取り引きをするか、その取り引きをせずにカヴァラドッシの処刑を待つのかという「究極の選択」を迫られます。仕方なく取り引きに応じることにしたトスカはふとテーブルの上にナイフがあるのに気付きます。そしてトスカは思い余ってそのナイフをつかみ、自分を抱きしめようとするスカルピアを刺し殺します。「これがトスカのキスよっ!!」と叫びながら(皆さまご存じの予感…)。

 う〜ん劇的。でもちょっと待ってトスカさん。トスカさんはその究極の選択を迫られた緊迫した場面でいきなり 「歌に生き、恋に生き」というアリアを歌いますが(ナイフを見つける前)、それは「神さま、どうして私だけがこのような過酷な運命を背負わなければならないのですか?私はあなた(神さま)へのお祈りも花を捧げることも欠かしたことがないのに…」という内容。つまりトスカさんは敬虔なクリスチャンなのです。そのトスカさんが「これがトスカのキスよっ!!」「女の手にかかって死ぬのよっ!!」と言いながら人殺しとはどのようなものなのでしょう?

 しかもその後スカルピアの亡骸に向かって「この男の前でローマが震えたわ」という台詞があります。きっと確かにスカルピアはそのような暴君だったに違いありません。しかし、そんな言葉を言っちゃぁ神さまも過酷な運命を与えたくもなるんじゃないですか?トスカさん。

 そして更にその後、自分で殺しておきながらスカルピアの頭の左右に蝋燭を並べ、胸に十字架を置くというのも何かおかしくありませんか?トスカさん。
…私はクリスチャンでもなければ神さまを信じているわけでもないので、あまり宗教がらみの話をするのは好きではありませんし、すべきでもないのかもしれません。しかしこのトスカさんの行動は目に余ります!!

 そういえば第1幕で嫉妬深いトスカさんはカヴァラドッシの後をつけて浮気の現場を押さえようともします。しかしカヴァラドッシは浮気はしていません(友人の政治犯・アンジェロッティをかくまっているのをトスカさんに知られたくなかっただけなのです)。こういう行動は如何なものなのでしょうねぇ?トスカさん。

 そしてオペラの最後にはスカルピア殺しが見つかって、捕まることから逃れる為に(カヴァラドッシのところへ行く為に?)飛び降り自殺までしてしまうトスカさん。嗚呼!!


 …このような激しい女性トスカ。しかもこのオペラの設定は、第1幕から最後の第3幕まで24時間以内の出来事です(上演時間は全3幕で約2時間。除・休憩等)。つまり24時間前までは平和に暮らしていたはずのトスカがいきなり翌日には自殺してしまうのです。お、恐ろしい。もしもカヴァラドッシの友人で政治犯アンジェロッティが脱獄してこなければこのようなことには…。

 そのアンジェロッティも警官に見つかり自殺(カヴァラドッシがアンジェロッティをかくまっているに違いないと確信したスカルピアは、カヴァラドッシを逮捕し尋問・拷問をします。それを止めさせる為にトスカが隠れている場所を教えてしまったのです)。折角の脱獄も台無しです。しかもトスカのひとことによってカヴァラドッシの犯人蔵匿の罪が証明されたも同然ですので、カヴァラドッシを死に至らしめたのも実は…トスカ?

 そして第3幕では、まだスカルピア殺しが見つかっていない時間にスカルピアとの取り引きの条件のひとつである「みせかけのカヴァラドッシの処刑」のシーンがあります。しかし「みせかけ」と約束したはずのスカルピアは実はトスカを騙しており「本当に」カヴァラドッシは処刑されてしまうのです(銃殺刑)。そしてそのすぐ後にスカルピア殺しの容疑をかけられ警官に追われるトスカは「スカルピア!神の御前で!」と叫びダイブ(そこはサン・タンジェロ城の屋上)。つまりこのオペラでは主要な登場人物は全員死にます。

…救いのないお話。悲劇とはこのようなものなのでしょうけれど。

 しかしプッチーニの音楽が素晴らしいからでしょう。このオペラは非常に人気があり、歌いたいという歌手も多いようです。そして多少どうかと思われるところもある内容の台本も、この劇的な展開には欠かせないものでしょう。

因みに私は何だかんだ言いながらもこのトスカというオペラは名作だと思っています。
そして「この男の前でローマが震えたわ」という台詞を初めて聴いた時は寒気すら感じたものでした。


 以前トスカを演じたことがおありの歌手の方に最後の「飛び降り」のことをお聞きしたことがあります。どうやらコツは「お尻から着地すること」なのだそうです。飛び降りる場所にはちゃんとクッションの効いたマットが置いてあるので大丈夫とのことでした。
いくらクッションが効いていても頭から飛び降りたら危険でしょう。また、クッションが効き過ぎてはね返り、客席から見える高さまで飛んでしまったという冗談みたいな話も聞いたことがあります(真偽は不明)。

トスカは物語だけでなく、時に演じる側にも波瀾を起こすオペラなのかもしれません。


  <おしまい>