第63回 三重県高等学校演劇大会・県大会


日時:8月9日(木)〜10日(金)
場所:三重県総合文化センター 中ホール
審査員:小熊 ヒデジ
            (俳優・演出家 てんぷくプロ所属 KUDAN Project代表)
    浜村 修司
            (アトリエ劇研スタッフルーム代表兼技術監督)
    中條 健太
            (愛知県・名城大学附属高等学校演劇部顧問)
審査結果
最優秀賞(三重県知事賞)
 いなべ総合学園高校 「Liar Liar 〜はなの演劇部〜」
最優秀賞(中日賞)   
 神戸高校 「ともことサマーキャンプ」
優秀賞         
 久居高校 「聞こえないあなたと人魚姫」
 津商業高校 「痛み、傷み、悼み」
優良賞
 四日市高校 「From I to Y」
 三重高校 「なんとかなる」
 四日市農芸高校 「モンスターテール」
 暁高校 「あけよ」 
創作脚本賞
 
いなべ総合学園高校「Liar Liar 〜はなの演劇部〜」
  作・蔦野 若葉
 四日市高校「From I to Y」
  作・四日市高校演劇部
舞台美術賞
 いなべ総合学園高校

上演順    ※ ▲は創作作品

8月9日(木)
 開場 12:30 開会式 12:40

(1)13:00〜 津商業高校
「痛み、傷み、悼み」

原作・田宮 虎彦/脚色・津商業高校演劇部
講評
小熊 ヒデジ 先生 
 戦争、沖縄というテーマを正面から捉え、創作する姿勢に心強さを感じました。誠実な演技も好感が持てました。欲を言えば、あまりにも壮絶な体験をしてい る登場人物たちのリアルさを、どうやって皆さんの身体に落とし込み、アウトプットするのか、だと思います。人は悲しいとき、辛いとき、嬉しいとき、どのよ うに感情を表すのか。その答えはきっと、皆さん自身の記憶の中にあるのだと思います。美術、音響、照明などスタッフワークは、もう一度検証してみるとさら に良くなると思います。味のある舞台美術は、風景がもっと直感的に伝わるとリラックスして観劇できます。沖縄の夏の夜、戦闘機や爆音以外に何が聞こえるの か。ちょっとしたアイデアが世界を豊かにします。暗めに設定した照明は良い雰囲気を出していたと思いますが、光と陰の使い方をもっと追求してみると新たな 可能性を見つけられると思います。

浜村 修司 先生
 オー プニング、アカペラの歌は素晴らしかったです。作品への導入のためにも、緞帳の上がる時、暗転時の途中から歌い始めても良かったかもしれません。山台と ドームで構成された抽象舞台。非常に努力して作っているのは感じられましたが、物語が進む主なアクティングエリアのガマが下手寄りになっており、レイアウ トが悪いと感じました。ランタン、骸骨、櫛などの小道具や衣装の精度は高いのですが、美術の抽象性とのバランス、ガマへ続く通路のマイム表現とのバランス がうまくいっていない気がした。脚本について。内容への意識の高さは素晴らしいのですが、詰め込みすぎていて、こんなに入れると作品中で回収されず、やる 側は勉強する要素が多くて良いと思いますが、観る側は受け取りきれないと感じます。ポテンシャルの高さは感じますが、非常にもったいない部分が多く、上演 の精度をあげるためにも要素の選択を出来たらと感じました。全般としては、不安の無い素晴らしい上演でした。

中條 健太 先生
 戦争と差別という難しいテーマを、役者自身がよく理解して演技していました。ただ、どうしても従軍慰安婦の人生の重みが伝わりにくい。女子高校生に従軍慰 安婦の人生の重みを求めるのは酷なのかもしれませんが。 年齢の近い女性の演技は自然でしたが、年齢差のある人物の演技にもう少し研究が必要と感じまし た。日本軍人は男性なのに演劇部には男性生徒が不在。それを演出の工夫で処理していたのは大変良かったです。舞台装置はガマの暗さを表現しようという努力 の跡が見られました。ただ、照明が暗くてせっかくの演技や表情が見えにくかったのは残念です。また、演技の場所が舞台の下手に集中し、中央をあまり使って いないのも気になりました。

生徒講評委員会

 この劇は多様な「いたみ」を扱います。題名の「痛み、傷み、悼み。」は、てるこ、あつこ、貞妃、兵士、その他の人にそれぞれあてはまります。兵士の怪我 などの「痛み」、てるこやあつこの精神的な「傷み」、そして残されたてるこやマリーたちの死者への「悼み」などの多様な「いたみ」を表しています。その 「いたみ」はてることあつこ、貞妃らが差別や戦争と向き合っていく中で生じてきます。てるこは貞妃と出会ったとき汚らわしいものを見る目で彼女を見ており 3人の心の距離は離れていました。しかし、互いのことを知っていくにつれて距離が縮まります。別れの際、てるこはミンサー織りの大切なお守りを貞妃に渡す ほど、貞妃はてるこにとって大切な存在になったのだと感じました。沖縄戦の後には、マリーが直面しているイラクでの戦争があり、戦争が終わっても次の戦争 があることが示されます。戦争と無関係だと感じている現在の私たちも、強烈に戦争を実感させられました。


(2)14:30〜 四日市高校
「From I to Y」


作・四日市高校演劇部▲
講評
小熊 ヒデジ 先生 
 主人公の精神世界を電車としたのが面白いと思いました。忘れたい思い出を一番後ろの車両に詰め込むと いう設定は、無形のものにビジュアル性を伴わせ、楽しく感じます。複雑で難解な理論でも、それを言葉として車両に書き込むと主人公はすんなりと理解すると いうアイデアも素敵だし、キャラクターが動き出すというアイデアも面白いと思いました。沢山のアイデアに溢れた作品でした。しかし残念ながら、なぜ主人公 が精神世界に入りこんだのかが判然としませんでした。主人公が追い詰められる展開も唐突さを拭えませんでした。ドラマを牽引するのは、観客の想像力です。 その辺りを丁寧に掬い上げて具体的に提示することが、ドラマの豊かさに繋がります。演技における人格形成、台詞回し、所作なども含め、もっと丁寧に作り込 めば、さらに良い作品になると思います。

浜村 修司 先生
  パネルと吊り革、ベンチだけでシンプルに電車を表現したのは好感を持てました。セットチェンジも変に頑張らないで堂々とスタッフが出ているのが良かったで す。SEとの連動が悪かったので、そこは事前の準備で解決できることなので、努力しましょう。照明についてですが、白パネルは見た目にきれいなんですが、 照明的に難しい装置です。パネルがハレやすく、光量を押さえ気味になって、舞台上の人が暗くなります。今後、変更を許すのであれば、グレーパネルに変更し たり、ステージスポットを使用したりと、色々研究をした方が良いです。間が悪い瞬間もありましたが、楽しいお芝居でした。楽しみました。

中條 健太 先生
 男子高校生のインナースペースという興味と共感を得やすいテーマでした。舞台装置はシンプルでしたが、それだけに細かいところのツメを徹底した方が良い と思います。ホリゾント幕の芝居でしたが、ホリが白いことが多く、照明にもう少し工夫が欲しいと思いました。配役、演技、脚本、全てがバランスよく、見て いて安心できる芝居でした。特に前半のギャグが好印象です。ただ、後半の女子キャラの演じ分けに工夫が欲しかったと思います。テーマに迫る部分だっただけ にもったい無いと感じました。

生徒講評委員会
 『この電車の行き先は僕の未来・・・』電車は前に進み止まることを繰り返す。だが、後ろに戻ることは出来ない。人生が、過去には戻れないのと一致してい ると思う。篠部は、友達や親に流されるばかりの人生だった。嫌なことから逃げてしまった。私たち人間は自分が出来ないこと、向き合いたくないことから逃げ 出したくなる。そして、篠部はどこでもいるような人間だ。が、他の皆と違うところは自分を見直し、行動に移すことが出来るところだ。それは彼の心の支え、 彼の大好きなアイドルかりんちゃんが彼に教えてくれた。逃げたら何も解決できないのだ。そして彼にとって神同然のかりんちゃんがそれを教えてくれたからこ そ彼は素直に受け入れ、未来に向かって一歩踏み出せたと思う。一時間前の彼よりも「今」この瞬間の彼は成長することが出来た。そして次の瞬間彼の人生の1 ページを刻むのだろう。私たちの生きてきた人生も、深く振り返ることが出来る劇だった。                              


(3)16:00〜 三重高校
「なんとかなる」

作・大橋 慰佐男/潤色・三重高校演劇部

講評
小熊 ヒデジ 先生 
 しっかりと稽古をした、力のある演技でした。演じることをとても大切にしていて、声も良く通ります。 基礎訓練を大切にしている証拠だと思います。演技の緩急や声の変化などを試み、登場人物の個性をさらに明確にすると、作品の魅力が大きくアップすると思い ます。台詞は、それ自体を喋る事が目的ではなく、登場人物の状態を、台詞を利用して伝えることが目的です。それは決して説明ではなく、皮膚感覚で観客と共 有することです。その辺りをじっくりと考えてみて下さい。アクティングエリアをあえて狭くし、色々な置き道具を配置したのは、世界観を明確にして良かった と思います。「誓いの板」をもう少し作り込めば、さらに雰囲気を良くしたと思います。転換が多いので、再考が必要と思いました。見せるのであれば、もっと 大胆に見せても良いと思いました。それが演劇のダイナミズムにつながると思います。扉の効果音も個人的には不要に感じました。その方がスピード感も出る し、観客の想像力に委ねることがドラマ創りの大きな力となると思うからです。

浜村 修司 先生
  既成の台本であり、ある程度装置や小道具の指示があったと思われますが、高い精度で実現出来ており好感が持てました。転換や照明の工夫も好ましかったで す。劇中劇の「銀河鉄道の夜」はかなり良く出来ており、楽しみました。ダンスは悪く無かったのですが、もっと向上できると思います。一度専門家に見てもら うって、ひたすら踊れば更によくなります。演技も構成も演出も破綻の無い素晴らしい作品でした。

中條 健太 先生
 高校演劇のよくある話をテーマにしており、等身大の演技が好印象でした。前半のギャグなどはもう少し思い切りが欲しいと思いました。
元の脚本の問題かもしれませんが、劇中劇の「銀河鉄道の夜」がテーマと関係することなかったのがもったいないです。演出家の解釈で意味のある劇中劇に仕上 げても良かったかもしれません。道具は大変凝っており、部活の雰囲気がよく出ていました。それだけに、PCの画面がオフだったり、カゴに名前が書いてある のかどうかよくわからなかったり、細かいところのツメが気になりました。

生徒講評委員会
 この劇のタイトルになっている何が起こっても『なんとかなる』が私たちに一番伝えたいことなのだろうと思いました。「高校生って、無限大やもん」という セリフが将来に対する期待を感じてとても印象に残りました。ただ、実際に『なんとかなる』というよりは、『なんとかできる』の表現の方がべその行動から劇 の内容にあっている気がします。また、語りの演出を多用しており、リアルさを重視してるのであれば語りの内容をセリフに入れたほうがより自然なのではとい う意見もありました。 語りがあることにより全員が主人公だという解釈もできるので演出方法としては効果的だと思いました。それぞれの役の個性が強く、見 る人が登場人物の性格を捉えやすい演技も魅力的でした。会話のテンポもよく、また「○○やん」などの方言を使ってあったので、物語の世界に入りやすかった です。ダンスの時の手拍子はお客さんとの一体感が生まれ、会場全体が盛り上がりました。黒パネルを場面転換に上手に使っており、移動がスムーズになる工夫 も良いと思いました。                          

(4)17:30〜 四日市農芸高校
「モンスターテール」

作・谷津田▲
講評
小熊ヒデジ 先生 
 身近な題材に工夫を加え、最後の展開に結びつけるアイデアは面白く拝見しました。劇中劇から始まる冒 頭も、なにが始まるのだろうという期待感を高めます。スマートフォンという機器を自然な形で物語に取り込むのも、さすが高校生だと感心しました。等身大の 日常的な会話で創り上げた作品には、親しみを感じることができます。そういう作品だからこそ、小さなドラマを大切にしていただきたいと思います。学校や家 庭での会話を注意深く観察してみて下さい。予想以上に速いテンポで会話をしていると思います。そのスピード感は、日常の大きな要素であり、ドラマが立ち上 がるきっかけになります。身振り、視線、距離感なども含め、日常には沢山のヒントが埋まっているはずです。さらに、舞台美術を含めたミザンスを再検証して みることも大切だと感じました。人がそこにいること自体が、すでに大きなドラマだと思います。

浜村 修司 先生
  オープニングのアナウンサー登場の演出は面白かったです。不自然なシチュエーションですが演技で成立していました。緞帳が上がってからの劇中劇がやや長い と感じました。稽古も日常なんだろうけど、なんでもない日常的な会話がもう少し見たいなと思いました。装置はきちんと具象で作ってあったのですが、窓の位 置がどうしても不自然で、観客にも窓の外の状況を共有してもらおうという意図かもしれませんが、客席側を俳優が向くだけで、窓と外の状況は観客には想像で きたと思います。テーマや作品の状況は非常に面白いと思いましたが、セリフだけでシーンを進めてしまうところがあり、台本の情報をスタッフワーク(音響、 照明、装置、衣装、小道具)で足すようにもう少し工夫した方が良いです。そして、それは出来るはずだと思いました。厳しめに書きましたが、俳優の演技は良 く稽古されて立派でした。

中條 健太 先生
 緞前芝居からの快調なオープニングと、緻密な舞台装置で一気に芝居に引き込まれました。ただ、それだけに「ここはどこなんだろう」という疑問がずーっと 頭に残ってしまいました。セットがしっかりとした具体であるがゆえに、創造の入り込む余地がないのです。ホリゾント幕の使い方が効果的でしたが、具体だか らこそ、目線や窓の方向にもっと注意すべきだと思いました。演技は大変自然で、共感しやすく、好印象でした。しかし、後半に感情的なセリフを「不自然に」 感情的に演じることが多くなり、前半とのギャップが気になりました。友情のこと、上演の可否のこと、進路のことと、ややテーマを盛り込みすぎたかもしれま せん。焦点がぼやけた印象は否めませんが、最後がハッピーエンドで安心できました。
 
生徒講評委員会
 この劇を見て全体で伝えたいことは「3年間努力してきたことは将来につながっているはず」ということだと思いました。この言葉は、劇中劇と本編の登場人 物の心情が重なっていくことを示す重要な台詞であると感じました。「尻尾を踏まないように」という台詞も劇中劇での誰よりも練習を重ねた和美と現実での吃 音で悩む洋子が重ねられていて、「尻尾を踏むこと」=「リスクを冒すこと」と考えることができる構成が巧みでした。また、登場人物の立ち位置がそれぞれの 関係性を表しているととらえることができ、台詞がないようなシーンであっても対立している人物やグループを形成している人物などが視覚的にわかりやすく伝 わりました。役者の技術が高く、全員が自分の登場人物の設定を十分に理解して演じていると思いました。だから、ケンカ中のピリピリとした空気感や緊張感、 感情の起伏を素直に受け止めることができました。さおりの服が紫色で特別警報の色と同じなのもさおりが「警報によって運命が決まる部員たち」の中でもキー パーソンであることを示しており、細かな演出も行き届いていました。


8月10日(木) 開場 9:10

(1)9:30〜 久居高校
「聞こえないあなたと人魚姫」

作・福馬 恭子▲
講評
小熊 ヒデジ 先生
 繊細さを感じさせる作品でした。「音を伝えたい人」と「音を受け取ることができない人」にスポットを 当てた着想が良かったです。台本上、後者と比べると、前者を扱うボリュームがもっとあっても良いように感じました。そうすると「音」の存在感を浮かび上が らせることができ、より厚みのあるドラマになると思います。影を見せる、転換を見せるなど、視覚に訴える演出も作品に広がりを持たせていました。人魚が海 に飛び込むシーンで、波役の人と飛び込む人の呼吸がピッタリで見事でした。些細なことと感じるかもしれませんが、その丁寧さは大切なことで、勢いや雰囲気 に流されない作品創りは、客観的な視点を担保してくれます。演技については、とても素直さを感じました。語尾を大切にして、身体をコントロールすることを 会得できれば、観客に染み入る演技へと昇華できるはずです。良い意味での余白があり、そこに伸び代の可能性を感じる作品でした。 

浜村 修司 先生
  テーマに感心しました。現在起こっている身近な問題の解決でも無く、過去からの教訓でも無く、今から未来の話。表現者としての話。素晴らしい視点だと思い ます。演技やセリフがつたない部分がありましたが、サスやSSなどの照明の使い方が良かったです。転換も意思を持って見え方を選択していたのは好感が持て ました。また、劇中劇の「人魚姫」の俳優の演技も手話もシンプルな演出も、精度が高く非常に楽しみました。本当に素晴らしい作品でした。ありがとうござい ます。

中條 健太 先生
 耳が聞こえない人にとっての演劇とは? という演劇の本質迫るテーマを、高校生ならではの視点から大変丁寧に構成してありました。最初のシーンはもっ と、手話で通して、観客を手話の世界に引き込んでも、良かったかもしれません。劇中劇の人魚姫と本編の関係性が明確で好印象でし。ですが、最後に「青春」 でまとめてしまったのがもったいないと思いました。自然な演技は好感が持てましたが、年齢差の演技に工夫が必要だと思います。スタッフワークについて、黒 子の腕が目立ちました。暑い中大変ですが、長袖の方が良かったと思います。照明について、劇中劇、高校時代、現在、というのをホリゾント幕の工夫で説明し ても良かったかもしれません。プロジェクターの利用は効果的でした。

生徒講評委員会
 『言葉が無くても伝わる、・・・』台詞が無い舞台は本当に観ている人に伝えることが出来るのでしょうか。はるかは、耳が聞こえないけれども自分が伝えた いことを相手に伝えようと必死です。その姿をきっかけとして物語の展開を大きく動かす人物になっていると感じました。聞こえる、観える人にとって言葉の重 みはどれくらいでしょうか。聞こうと思えば、いつでも聞こえるし観ようと思えば、いつでも観ることが出来ます。そこからはるかにとっての言葉の重みを特別 に感じました。はるかをきっかけに、台詞が手話という形で観ている私たちに伝えました。はるかは、観ていた私たちにも勇気を与えてくれるような存在だと思 いました。出来ないからと言って諦めてしまう人に向かってメッセージも感じることが出来ました。


(2)11:00〜 いなべ総合学園高校
「Liar Liar 〜はなの演劇部〜」

作・蔦野 若葉▲
講評
小熊 ヒデジ 先生 
 ダイナミックさを感じさせる作品で、強く引き込まれました。多くの出演者のアンサンブルが素敵で、上 演中に建て込まれていく舞台セットもワクワクします。劇中劇も魅力的で、ピノキオの鼻が伸びる演技では、思わず本気で笑ってしまいました。「三年生の主 役」と「一年生の演出」という設定も良い薬味になっています。残念だったのは、「まい」の言動が大きなポイントとなる作品なのに、その「まい」の背景が希 薄だった点です。過去に遡り、彼女の経験を綿密に掘り起こす作業を行えば、きっと彼女の人格やエピソードなどが説得力を持って浮かび上がり、さらに魅力的 な人物形成ができると思いますし、より良い台本構成に結びつくと思います。畳み掛けるようなスピード感は、まだまだブラッシュアップの余地がありますが、 演劇の楽しさ、力強さを感じさせてくれる作品でした。

浜村 修司 先生
  導入がしっかりしていて、終始安心して観ることが出来ました。舞台セットが出来ていく様子をみせながら、大きなこの場所の説明をして不要な説明を省き、見 た目も楽しい展開は素晴らしかったです。いくつかの仕掛けもきちんとネタを明かしていって、必然で機能していたのが好感を持てます。しかし、物語上の問題 が表出してから、その問題があまり説明されず、登場人物の葛藤に共感しずらく、解決の方法が今ひとつ腑には落ちませんでした。しかし、俳優もスタッフワー クも十分な作品であり、全体としてはすばらしい作品でした。
 
中條 健太 先生
 思春期特有の人間関係の難しさという普遍的テーマを、演劇部の人間関係という具体的舞台にうまく落とし込んだ芝居でした。「どこの演劇部でもあり得る葛 藤」という、まさに普遍的ドラマを描いていました。ドタバタシーンと劇中劇、シリアスシーンのメリハリもありました。一方で、主人公(まい)の中学時代の エピソードや母親との関係が説明不足で、主人公の印象が薄いのは否めません。中学時代のエピソードがなくとも「仲良し部活」のために、言いたいことを言わ ず、自分の気持ちに嘘をつくことはあり得るわけで、そこは最後まで気になりました。舞台装置はよく作り込まれている反面、体育館という設定はセリフを聞く まで(脚本を読むまで)わかりません。工夫が必要です。また、客席を巻き込む演技ではもっとテンションを上げて一体感を作って欲しいと思いました。

生徒講評委員会
 “自然”という言葉が最も当てはまる劇だった。まいを始めとする登場人物は現実の私たち演劇部員の中に実際にいるかのように思えた。3年、2年、1年そ れぞれの演劇部員たちの人間関係を巧みに描いていて、日々の日常の様子を的確に表していた。劇中劇については、ジェペット爺さんから人間になってほしいと 願われるキノピオと、母親や部員に「いい娘」、「いい部長」であることを求められるまいと繋がる。ジェペット爺さんのために嘘をつくピノキオと、母や部員 のために自分を偽るまいが重なっている。共感しやすくなっている。最後にまいはピノキオの台詞として「おいらは、人間になれた」と語る。これは、りこに対 して演劇部に関して自分の思いを打ち明けたことで、人間的成長を得たまいの姿を示唆しているように思えた。ななみが客席から演出を行い手拍子などの働きか けを行うことにより、観客との一体感が生まれ、こころの距離が近くなっていた。                             


(3)13:00〜 神戸高校
「ともことサマーキャンプ」

作・畑澤 聖悟/潤色・神戸高校演劇部
講評
小熊 ヒデジ 先生 
 力強い演技と十分な稽古時間が迫力のある作品に仕上げていたと思います。完成度が高いからこそ、今一 度、台本と向かい合ってみてください。人は、様々な感情を抱きます。それはとても複雑で、笑っているから機嫌が良いわけでもなく、怒鳴っていても泣きそう な場合もあります。善意や愛情もありますが、弱さや狡猾さもあります。それらは全て人間の愛おしいところであり、一つの台詞にあらゆる可能性を吟味してみ ることが、さらに一歩前へ進むことに繋がると思います。しなやかな心と身体で再検証してみることが、思いもよらないドラマの発見へと導いてくれます。すで に完成した作品を、一度壊してみるという作業も、ブラッシュアップするためには必要な過程だと思います。サブテキストの可能性は、無限にあります。

浜村 修司 先生
  既成の台本で、指定では素舞台とのことですが、具象気味の抽象舞台で大きくパネルを立てた意思は素晴らしいと思います。素舞台では出来なかったであろう、 透かしの照明のシーンがあったりと非常に努力していて好感が持てました。俳優の演技も、役の解釈はオリジナルの演出とは違うと思いますが、問題なく演じ分 けもきちんと出来ていたと思います。パネルを立てたことにより、やや作品が具象に寄ったので、手紙を食べるや暴力を振るうシーンがそれっぽくやるでは醒め てしまいました。やり方の研究が必要ですが実際に食べてるように、もっと暴力がふるわれているように見せる演出方法が必要です。
しっかりまとまった良い舞台でした。
 
中條 健太 先生
 冒頭、「ゆとり教育」というキーワードから生徒の日常が始まりますが、ゆとり教育はすでに終了しており、2018年現在から見ると「これは10年以上前 のできごとなのか?」という疑問が最後まで抜けませんでした。元の脚本が2008年。2011年から「脱ゆとり教育」のかけ声の下、教育は大きく変わりま した。数年前の既成脚本を使う場合、このような点に細心の注意を払うべきです。「2008年当時」なのか、「2018年現在」なのか? 明確にして欲しい と思いました。この作品はブラックユーモアに仕上げても、ひたすらリアルに演じても、底知れぬ恐怖を演出することができそうです。今回は後者でしたが、そ う考えると演技、特に大人の演技に不自然さが残ります。ひとりの役者が子供と保護者の両面を演じることをもっと突き詰めて欲しいです。特に保護者は最低で も「親+社会人+個人」の三つの顔を持ちます。その葛藤が見えにくいと思いました。舞台は非常に効果的で、抽象と具体のいいとこ取りでした。その一方で女 性教師の服装がリクルートスーツみたいで、もうすこし工夫して欲しいと思いました。

生徒講評委員会
 この作品は、いじめが原因で自殺してしまったともこの周囲の混乱を、高校のサマーキャンプを舞台に描いたものです。ともこの遺書に名前を書かれた5人の 同級生とその保護者の不安や葛藤などが台詞の細かいところに組み込まれていて、とても引き込まれました。あまりにも白々しい5人の保護者へのホソヤさんの 憎しみが痛いほど伝わってきました。自分の子ども達がともこを死へ追い込んだという事実を突きつけられ、自分と子どもを守るために証拠隠滅を考える保護者 の焦りと緊張、それに対応する先生の心情なども会話の中から汲み取ることができました。ナツイ先生の「この世で一番あの子達を殺したいと思っているのは、 私です。」という台詞は、先生という立場上、子ども達を擁護しなければいけないナツイ先生の心からしぼり出した魂の叫びであると捉えました。重い空気感を 最後まで保つのは簡単なことではありません。最後の台詞「でも、うちらは、生きていかなきゃ」までとても考えさせられました。                                


(4)14:30〜 暁高校
「あけよ」

作・暁高校演劇部▲
講評
小熊 ヒデジ 先生 
 多くの登場人物たちによる躍動的な舞台は、魅力的です。出演者が楽しんで創ったと思えることも、良いことだと思います。しかし、最終的に演劇は、観客と 一緒に創らなければなりません。観客に対する説得力が弱いと、せっかくの作品も未消化なものになってしまいます。海辺にある過疎の小さな村という設定は、 もっと大切にすべきだと思います。物語はそこを基盤として構築されていくので、それが弱いと観客の感情移入が難しくなってしまいます。ドラマの展開も、登 場人物たちの造形も、俳優の演技も、もっと慎重になる必要があります。大きなポテンシャルを感じさせてくれる舞台だからこそ、具体的で説得力のある構成と 演技が必要です。音楽の使い方やダンスの取り組みにはダイナミズムを感じるので、もっと大胆に取り組んでみることが、オリジナリティの発見につながると思 います。

浜村 修司 先生
  話はめちゃくちゃで穴だらけでしたが、全員楽しんでいて、しかも、一定以上の技術があったのでなんだか楽しめました。舞台奥の山台とホリでツラ側にエリア 明かりを作ってと、ある意味、王道の演出技術を駆使していて安心して見ていることが出来ました。大人数のひとの使い方もうまいなと思いました。ただ、過疎 の村なのにあの大人数の若者は設定を否定しすぎていて、ちょっと困惑しました。太陽も無事昇って、祭りも存続して、まあ安心しました。よくわかりません が、楽しかったです。次はどんな作品を作るのだろうと気になります。

中條 健太 先生
 ダンス、ギャグ、演技、全てがハイレベルで見ていて安心できました。特に会話の自然さは特筆もので、圧倒的な演技力・演出力を感じます。友情が積み上げ られる過程や、同世代の対立など、大変自然でした。ギャグの切れも良く、何度も笑いました。それだけに、リアリティの甘さが気になりました。まず、「廃れ る一方」の漁村なのに18歳だけで20人くらいはいる。となると、20歳以下で400人くらいはいるのだろうか? 高齢化を考えると、村の総人口は結構多 いのではないだろうか? といった疑問が浮かびます。また、若者の演技・衣装に対して、村長があまりにもステレオタイプなギャグ的老人かつ衣装も不自然 で、一考の余地があります。祭りの由来等に関しては大変良い設定を作り上げているだけに残念です。舞台装置は漁村の雰囲気が出ていました。最後の太陽も効 果的でした。

生徒講評委員会
 ある村での、カイトたち高校生と、転校生ユイとの「あけよ祭り」に向けてを描いた劇です。わかりやすい対立構造を軸に、ある意味漫画チックに描かれる シーンの数々は、怒涛の迫力でした。転校生のユイは、カイトたちと過ごすにつれて、その「あけよ祭り」で踊りをしたいと思いました。しかし、父に祭りは今 年限りと言われ、ユイはみんなに言えずにいましたが、村人たちとなんとかユイの父に、踊りをみてもらおうと説得し、祭り当日、踊りは成功。さらに、父に来 年も楽しみだと言われ、祭りはこれからも続いていくという大団円を迎えました。私たちも、すっきりした気分になりました。この劇を観て、ユイとユイの父と の距離がはじめは遠かったように感じました。それゆえ、ユイは村のことを良く感じていても、父には窮屈だ、みんなとうまくいってない、など思いのすれ違い がありました。挿入されるシーンから、ユイは本当はお父さんに話を聞いてほしかったという思いがとても伝わりました。なんでも人は話をしないとわからない ことがたくさんあると改めて思い返すことができました。