私設図書館 ”三上神社”へようこそ。ここにはHirokoの小説 「 Eveには微笑って 」を奉納してあります。 境内入口へ戻る



 となり町よい子保育園。お昼寝Timeが終わって、園児達は広場で自由に遊んでいる。砂場で大きな山を作ってトンネルを掘ったり、泥団子を作ったり。鉄棒に両足をかけて逆さにぶらぶら、棒の上を歩いてみたり。四人がけのブランコの六人で乗ったり、またそれをジャマしようとしたり。保母さんのスカートをめくったり、ケンカしたりおもらししてたり。”メチャおに”なんて鬼ごっこをして走り回って、転んで、ケガして泣いてたり。『素直すぎる個性』が服着て転げ回っているような、そんな子供達をまとめてる保母さんって、ほんと大変だなって思います。ちょっとしたなげやりな言葉やいいかげんな態度が、その子の将来にまで影響を及ぼしたりするし、親側からは「保育園に入れておけば大丈夫」なんて過大に信頼されてたりするし。でも、子供が好きな人にとっては、キツイ仕事ではあるけれどやっぱり楽しいし、やりがいのある仕事でしょうね。まぁ実際には「そんな甘いモンじゃないわよ」なのかもしれないけれど、誰だって小さい頃、あの素敵な微笑みに憧れて、幼心に「あたしも大きくなったらセンセみたいになるんだ」なんて思ったんじゃないかな。
 学校が終わったら、この保育園に飛んできて、お手伝いをしながら子供達と遊んでいる彼女、田沼美子ちゃんも、そんな素敵な保母さんを目指している女の娘。子供達と一緒に飛び回っている彼女は、だからとてもイキイキしていて、ありきたりな表現だけど、やっぱり”キラキラ”している。
だからそこを通りかかった、早川光というドジで有名な少年が、彼女に一目惚れしたのも至極、当然の事なんだ。

 この「となり町」には、福島悠一がバイトしている『夢番地』という喫茶店があって。いつもは『スカイハウス』にたむろしている連中(作中の主な登場人物達)も、時々”オリジナリティな面では勝っているのでは”という共通の意見のもとに、この店にたむろしたりもするのだった。(たむろするきっかけには第一部での、風見遙ちゃん恋物語が関係しているのだけれど、それはまたいづれ) となり町学園通りにあるこの店。赤と白がハウスカラーのレンガ造りで、わざとらしく蔦なんか這わせていたりするところもニクイのだが、店の中がまた面白い。日曜大工が好きなマスター手作りの、色々な形のイスと、名物アトミック形のテーブル。気に入った人には販売したりもしているらしく、少しずつ形の違ったテーブルが入れ替わりに登場している。そしてこの店のもうひとつの特徴は、オーダーの際のテーブルの呼び方が、店の名前とひっかけてあるという点。カウンターからテーブルまで全てに”番地”が振り当てられているのだ。「3丁目1番地にHOTお願いします」そんなカンジに。

 その日、久々に『夢番地』に寄った帰り、早川光は、一緒にいた山口聡の懸命のこずきなど感じる風もなく、保育園前の路上で、ちゃりんこにまたがったまま、ひたすら田沼美子に見とれていた。そして次の日から、彼は毎日放課後、わざわざ家とは反対方向にあるとなり町まで行き、彼もまた子供好きだったという利点を生かし、園児達と仲良くなる事によって、彼女と親しくなる事に成功したのだった。
 二週間かかって、彼は彼女が「一つ年下で、となり町高の一年生。将来保母さんになりたくて、隣家の仲良しのお姉さんが働いているこの保育園に、勉強も兼ねて手伝いに来ている」という情報を、彼女自身からGETした。
 そして持ち前の明るさと素直さで受けて、園児達にはもちろん、保母さん達の間でも彼の人気は上がっていったのだ。

 そんなある日、彼がヤジ馬、山口聡、三上夏樹と一緒に、いつものように保育園に行くと、園児達はお昼寝Timeで、保母さん達は何やら静かに討論めいた事をしていた。そしてそれに彼らが首を突っ込んでしまった事が、この物語の始まるきっかけとなるのであった。





「‥‥気持ちはわかるんだけどさ。はっきり言って無理なんじゃない?」
 スカイハウス奥の、海がよく見える一等席を、今日も陣取った山口聡、三上夏樹、早川光の三人は、無理矢理光におごらせたコーヒーを頬づえをつきながらすすっていた。
「で、でもさ、やってみなくちゃやっぱりわかんない‥ 」
「無理だって」
 光が言いかけると、聡がたたみかけるように否定した。
「お前さぁ、クリスマスまで、あと何日あると思ってんの? あと三週間だよ、三週間しかねーのに。オレ達は人形劇の”に” の字も知らないんだぞ。これから始めたところで、間に合うもんか」
「ボク”人形劇” って書けるけどさ、‥大体光は動機が不純だぁ。彼女にいいとこ見せようと思って引き受けたんだろー、このスケベ」
「違う! オレは純粋に園児達の為にと‥‥そりゃ少しは‥‥でも」
「それにさ」
 Pocky を一度に三本まとめてがりがりやったあとで聡。
「あそこのクリスマス会って、父兄とかも来るそーじゃないか。”ごっこ” じゃ済まされないんだぜぇ。わかってんのかなー」
「だからさー、やってみなけりゃわかんないって」
「だぁめ」
「聡ぃ‥‥ 」

 光が途方に暮れていると、ガランガランと威勢良くカウベルを鳴らして、銀河陽史と中沢敬之が、何やら小脇に抱えて入ってきた。
「おーっす、マスター。今日も客少ないねー」
「ほっとけ。お、”Sky Club” できたのか?」
「うん。今回はギリちょんだったけどね。はい、まゆみちゃん」
 敬之から”Sky Club"というミニコミ新聞の束を受け取った、ウェイトレスの星まゆみは、それをカウンターの端にあるラックに入れたあと、二人のためにグラスに水を注ぎながら、奥で光がさかんに手招きしてるのに気付くと、カウンターに着いた二人の前にグラスを置きながら、人差し指を宙で遊ばせながら。
「ねぇ、なんか奥で珍しく”悩める青春”やってるんだけど」
「へぇ? おや、ほんとだ」
 まゆみの言葉で初めて奥の連中の存在に気が付いた二人に、光が真剣な顔でおいでおいでをしていた。他の二人はそっぽを向いている。
 陽史と敬之は、その奥のテーブルへと向かった。
「よぉ、どーしたのさ、ガッコ出る時は、あんなにウキウキwake me upしてたのに」
「ほれ、できたてホヤホヤのSky Club」
 そう言ってSky Clubを差し出しながら、敬之は、光の隣に滑り込んだ。陽史は隣のテーブルからイスをひとつ運んできて、それに座った。
「ん、さんきゅ。‥‥陽史ぃ、ちょっと相談乗ってくれよぉ」
「けっけっ、おおかた、この二人には見捨てられたんだろーな。何かね、悩める子羊よ」
 陽史のからかい気味の言葉にも、光はホッとした表情を見せて、そのまんまの顔で隣の敬之の袖を軽く引いた。
「敬もさ、ちょっと聞いてくれよ」
「うんうん」
 敬之は頷きながら表情も変えず、おもむろに、刷り上ったばかりのSky Clubを光の顔の前で広げて見せた。
「‥‥コーヒーおごるからさぁ‥‥」

                       

 二人分のコーヒーを運んできたまゆみが「まぜて、まぜて」と、陽史の隣に座ったのを見計らって(彼女は店内に自分用のイスを用意してあるのだった。もちろん”MAYUMI ONLY”と書かれてあって、店のイスとは異なるモノだ)光は、それまでの経緯を話し始めた。
 それによると、先程、いつものように保育園に行くと、保母さん達が、クリスマス会に子供達に見せる、いわゆる”出し物”について話し合っていたそうだ。そこで田沼美子が、「あたし、人形劇なんてやりたいなぁ」と発言したのだが、前年に実はその”人形劇”に取りかかってみたものの、結局忙しさの為、練習も思うようにいかず、クリスマス会の前日になって、急遽”ぬいぐるみ劇”に変更したとの事。
「そうかぁ‥‥」とうなだれる美子を見ていた光が、そこでいきなり首を突っ込んだのだ。 「ぼ、僕等がやりますっ! あ、あの、テストも終わって、どーせこれから暇だし。仲間、もいっぱいいるから、あ、それに、その、いつも僕、ここに関係のない人間のくせにお世話になってるし、可愛い子供達の為に、なんかしてあげたくて」
 そして彼は周りの心配など全く無視して、 「ま、とにかくまかせて下さいって」と、ドン、と胸を叩いては、むせてみせたそうだ。

「と、いう事なんだけど‥‥」
 聡や夏樹の愚痴攻撃にもめげす、一気に話し終えた光は、すでに冷たくなったコーヒーも一気に飲み干した。

「ふーん、それで?」
「それでって、だからさ、オレ」
 身を乗り出した光を、丸めた新聞で押さえ込みながら、陽史は聡に、にやり。
「聡ぃ、その美子ちゃんて、どんな娘?」
「どんなって… 光にはもったいない。それになんとなく見覚えがある顔立ちで… あ、お前まさか引き受けよーってんじゃないだろーね」
「ふふん、それさ、Eve研の今月のテーマにしよー!」
 光の頭をポンと叩いて、「けってー」と陽史は言った。

 Eve研。正式名称は”Everything研究会”。もともとは一年前に作られた”UFO研究会”が始まりなのだが、ある事件以来、他の物事についての認識不足を知って改名。もとの部長が転校したため、現在は発案者である陽史が部長を務めている。いっつも何か変なモノに首をつっこんでは、必ず失敗に終わるという情けない会ではあるが、活動意欲はどこにも負けない、とは部長の弁。

「あのな、陽史、お前そんなカンタンに… うわっ!」
  いきなり銃を向けられて、聡は思わず夏樹の後ろに隠れた。陽史は、いきなり自分で改造したおっかない物を出すので、敏感になっているのだ。
「部長命令が聞けないってんなら、今すぐ仏にしてやってもいいんだぜ」
「や、やめろ! 陽史、お前やっぱりそれ完成させてたのか。聡、気をつけろ、この銃は、世にも恐ろしい、その名も『言うこときかねーと耳の穴ほじくっちゃうぞ銃』なんだ!」
「ぎえ――――――――っ!! …へ? なんだ、おどかすなよなぁー」
「ほー、坊や、ずいぶんオレも甘く見られたもんだねぇ、うりゃっ! うりうりうりっ」
 引き金を引くと、銃口から綿棒が伸びてきて、それが聡の耳を襲った。
「うっうわわっ、くっくすぐったい! や、やめてくれっ おれ耳の穴弱いんだ、あー」
「はっはっはっ動くと鼓膜やぶけるぞー、どーだ、まいったか」
「もー止しなさいよ、聡くんかわいそー、涙流してるよ」
「冗談はこれくらいにして。大体、もう引き受けちゃったんだろ? 大丈夫。オレも一回人形劇ってみんなでやってみたかったんだ。いいチャンスじゃないか、やろーよ」
「陽史ぃ、やっぱりオマエは頼りになるよぉ。よしっ、今日はオレがおごろうっ!」
「え? おごってもらえんの? じゃあナッちゃんも強力しちゃう」
「夏樹お前なぁ…」
「聡、いいじゃん。まぁ、思慮深いお前のことだから”人形劇なんて並大抵じゃできない”なんて先の苦労を思ってんのかも知れないけどさぁ。ムズかしい事だからこそやってみるっていうのがウチの研究会の方針だぜ」
「そうよ、やってみもしないうちからウジウジ悩んでるのは聡くんらしくないと思うな。きっと真奈ちゃんだってそう言うよ」
「…そうか? 真奈も? そうかな。…うーん、わかった、やってやろーじゃん。そのかわり、光ぅ、うまくいった暁には打ち上げの費用、全部お前持ちだかんなー」
「あ、打ち上げったら花火もやろう!」
「陽‥ しゃーない、おごるよ。そのかわりしっかり頼むよぉ、みんな」
「どっちかっつーと、てめーが足引っ張りそうだけど」
「あー、それはひどい。やってみなくちゃわかんないだろー」
「くすくす、光くん、それ3回目」
「よーし、決定! さっそく今夜からやるぞー」
「えー?」陽史の発言にみんな不服らしく疑いのまなこ。
「せっかくテスト終わってゆっくりできると思ったのにー」
「そーだそーだ」
「聡ぃ、気持ちは解るんだけどさぁ、クリスマスまであと3週間だよ」
「‥光くん、そりゃさっきのオレのセリフだ」「くすくす」
「まぁとにかくそういう事。やるからにはいいものやりたいしさ」
「そうそう、うーん、やっぱり陽史はエラい」
「んじゃ成功を祈ってバンザイ三唱! あっそれ!」
「バンザーイ、バンザー‥って、何かおかしくない?」
「まーよいではないか。それよか光くぅん、オレ腹へったなー」
「オレもー」「ナッちゃんもさー。なっ、スパゲティくわしちくりー」 「オレ、ピラフー」「あっずりー、んじゃおれハンバーグステーキ」
「‥光くん、ところでお金あるの?」「あはは、もちろん”ツケ”」
 と、どんっ!! と大きな音がカウンターから。大きなカンバンには『今月はツケはだめなんだもんなっ!』。
「ひぇーっ、み、みんなー、それギャグだろー。コーヒーくらいにしておいて」
「んじゃナッちゃん、スパゲティのコーヒー」「へ?」

                       


 そんなわけで、陽史、光、敬之、聡、夏樹と、陽史の連絡で「おもしろそう」と加わった風見遙、佐々木真奈の、Eve研メンバー7人はその夜から人形劇に取り組む事になった。
 あらかじめ決めていた通り、その晩、7時を過ぎた頃には全員が陽史の部屋に集まっていた。
 このアパート、名前を『愉日微恵荘(ゆかぬけそう)』といって、外見はボロだが、その実頑丈な造りで、各部屋にはキッチン、電話、洗濯機はもちろん、バスルームまで付いていて。それでいてここの持ち主(管理人さん)の好意で、(学生さん用という事もあって)部屋代は殊の外安くと、至れり尽くせりのアパートなのだ。で、部屋が9つの3階建て。
 1階A1に星まゆみ。A2は空きで、A3は管理人さん。2階B1には遙と真奈が同居。B2は暗そうな浪人(明るいうちはほとんど姿を見せない)、B3に敬之。3階C1には美大に行ってるハズの素敵なお姉さん。C2も空きで(開かずの間との噂もあり)、そしてC3が陽史の部屋。 近くに「LittleTownうみねこ」というおっきな団地があるおかげで、必然近隣にいろんな商店やら施設やらが集まっているわけで、暮らしていくにはひじょうに羨ましい環境下に、この愉日微恵荘はあるのだった。

「お待ちー」一番遅れて、光と聡の二人が、大きな袋を抱えて入ってきた。
「遅いぞー」「悪い悪い。ちょっと話し込んでたもんで。よいしょっと」
「おー、ずいぶん買い込んできたじゃん。おっひょー、夜食のカップラーメンまであるぅ」
「いいのかよー、光ぅ。こんなに張り込んじゃって」
「へっへー」お菓子の箱を開けながら光、ニヤニヤして。
「実はさー、オヤジに全部話したらさー、”さすがオレの息子だ、ほれ、頑張りな”って、現金の援助をね」
「それは素晴らしーじゃないかっ。さっそくスパゲティを食べに行こうー」
「夏樹くん、君がスパゲティ好きなのは良く良くよーくわかってるけどさ!」
 夏樹の肩に光が崩れ落ちるのをくすくすしながら見ていた遙が、気を利かせて立ち上がった。
「あ、私コーヒー入れようか‥な?」
「‥どこあるか解る?」「多分‥うん、あった」
 陽史と遙のやりとりには、不思議な雰囲気があって、みんなの動きが止まった。
「ほほー、まるで新婚さんのよーですなー」聡がうらやましそうに茶化した。
「‥同じアパート住んでたら、このくらいフツーだろー」
「ふーん。 あ、それよかさ、お前『おみせやさん』の郁子ちゃん知ってた?」
「んー? ああ、お前初めてだっけ? 何? 気に入ったとか?」
「こらこら、そーゆー事を真奈の前でゆーなっつーの! あ、真奈ぁ、なんだよその目は。そーじゃなくてさ、彼女高一なんだって」
「知ってる。今回のヒロイン美子ちゃんと同じ、となり町高だろ」
「なんだー、知ってんのかー」
「よく行くしね。敬はもっと詳しーんじゃない?」陽史のフリに、みんなが色めきたった。
「ええーっ、何だーそれ、初耳」
「知らん知らん、陽史デタラメ言うなよなー」敬之はポテトチップをがりがり。
 そんな敬之のコップに、コーラをつぎながら、陽史。ウィンクひとつ。
「冗談だよ。それでどーしたのさ、聡。彼女と付き合いたいって?」
「陽史ぃ、お前さっきの銃、真奈にやっただろー」「うりうりっ」
 再び『言うこときかねーと耳の穴ほじくっちゃうぞ銃(略して”聞かん銃”)』にやられている聡の姿に、大笑いしながら、光が続ける。
「わははははっ、あのさ郁子ちゃんがオレの事知ってたんだ」
「あれ? 初めてじゃなかったの?」
「だからさ、美子ちゃんと友達なんだって。んで、彼女からオレの事聞いてて」
「そう、『あっ、美子が言ってた”おもしろい人”でしょう』だって」
「へー、話題になってるって事は、まんざらでもないんじゃない?」
「そーでしょ? いやーオレもそうじゃないかとは思ってたんだけどさ」
「早くお目にかかりたいな、その美子ちゃんとやらに」
「聡がさ、スカイハウスの事教えたから、明日は来るんじゃないかなー」
 夢見る少年になっている光をそっちのけで、真奈の攻撃は続いていた。
「ふーん、さすが聡くんねぇー、うりうりっ」「やめちくりってばよー」
「ふふん、お楽しみだね」
「はい、コーヒー入ったわよぉ」「おー、さんきゅう」
「それでさー、さっきも真奈ちゃん達と話してたんだけどさ、”ギニョール”っていう指人形使おうと思ってさ」
「はい、こーゆーのです」
 遙がすかさず、手袋を代用して作った簡易指人形を手にはめて、動かしてみせた。
「こんなカンジに、親指と人差し指と小指を使ってね、ほら」
「へー、かしてよ」
「いーんじゃない? カンタンそーで。作るのも時間かかんないみたいだし」
「だろ。じゃ、作るのは、彼女らに任すとして。ほら、みんな頭下げるっ」
「お願いしまーす」「‥なんか歳末助け合いみたい」
「おー、さすが真奈ちゃん。おもしろい!」「バカにしてんのー、うりうりっ」
「あー、く、くせになりそー」「わはははは、聡ってば変態!」

「んで、演題だけど。偶然、オレと真奈ちゃんが同じ絵本持ってたんで、それやろーかと」
「はいっ、これです」
 と、またまたすかさず遙が、『サンタさんは魔法使い』という絵本を広げて見せた。
「どーでもいーけど、ほんとこの頃、二人息会ってるねー」これまた再び聡がつっこむ。
「ほーんと、いつの間に仲良くなっちゃったんだろーね。あんなにいっつもケンカばかりしてたのにさっ」
「別にオレはさー、嫌ってなかったんだよー。遙ちゃんが一方的に、オレを寄せ付けなかっただけの事。まー。この頃やっとオイラの良さが解ってきたんでしょー、ね、って、タンマ! 遙ちゃん、絵本で叩いちゃやだっ。やるならムチにして」
「あ‥、あのね‥」絵本を頭上に掲げたままの遙は、顔を真っ赤にしていた。
「ふははー、陽史もヘンタイだー」「おー、仲良くしよーぜっ」
「‥ちっとも話、進んでないんですが‥」敬之はイライラしていた。
「あっ、敬、仲間外れにしてゴメン! 許して、今夜ナワ持っていくから」
「うん、いーの、ローソクも忘れないでって、何を言わせるんだっ! 人形劇はどーしたのさ、人形劇はっ!!」
「おっ、忘れてたー。あー、ポテチはうまい」 
「‥ぶつよ」「嫌ぁ! ぶってぶって!!」「お前なー」「おーい、ナッちゃんも混ぜてくれー、楽しそうだなー」「だ、誰かー!! 収拾つけてくれー」
「よし。冗談はこれくらいにして。明日は日曜だ。早く話し終わって飲もー! みんなで飲もー!! ほら、缶ビールもなんかもあるっ」
「いーかげんにしろっ! 帰るぞっオレは」
「まて、敬。秩序を乱す気か」「乱してんのはお前だっちゅーに」
「悪かった。本題に戻ろう、みんな。とにかく、この絵本はクリスマスにぴったりの内容なので、缶ビールが美味しい‥いてー! てめ、本気で殴ったなー、敬ぁ、涙出てきたぞー」
「殴るわ! なんでクリスマスだと缶ビールなのさ、え? こら」
「決まってんじゃないかー。クリスマスといえばパーティ、パーティといえばケーキ、ケーキといえばシャンペンで、シャンペンといえばシャープペンシルで、ペンシルといえばペンギン、ペンギンといったら缶ビール!」
「おぉー、さすが夏樹、すばらしい論法だ」
 聡が立ち上がり、拍手を始めた。アルコールに弱い光もそれをあおり始め、そうこうしているうちに、陽史の部屋は小宴会場に変身してしまった。
「も、こーなったら飲んだるわっ!」と、敬之も開き直り、何が何だかわからないうちに、最初の夜は更けていくのであった。


**ギニョール**フランス語で、頭部と両手に指を入れて操作する操り指人形の総称。基本的には3本指で操ります。手全体を使うのでこのタイプを「手づかい人形・Hand Puppet」と分類する事もあります。ちなみに『サンタさんは魔法使い』は童話作家Milkさんの絵本です。


                       


「ふわーーーーーっ…ありぃ? えーっと…あ、そか昨夜あれから飲んで…。あーあ、聡の寝相ったら、真奈ちゃんに見せてやりたいな」
 12月2日、日曜日。一番最初に目覚めたのは、早川光だった。ぐるーっと、ねぼけまなこで部屋を見回してみる。昨夜あれほどハデに食い飲み散らかしていた筈なのに、ゴミはきれいに大きな袋にまとめられてあり、ビンもしかり。グラス達も、きちんと洗ってカップボードの中に収められているらしい。そのかわり、といってはなんだが、部屋の中には、男たちが乱雑に転がっていた。
「うーん、思わずふんずけてやりたいっ」などと考えていると、陽史が目を覚ました。
「…んー…おー光ぅ早いーなー、何時だぁ?」
「んーっと、あれー? 陽史ぃ、お前の部屋時計なかったっけ?」
「…11時過ぎぃ… カバ、てめー腕時計してんじゃねーかっ」
「おや、敬も起きたのか。聡はしぶといのー」
「んー、うるさいぞー、ったく何時だと思ってんだー… ムニャ」
「また寝ちゃった。 うりうりしよーかっ」
「やめとけ。それにしてもハラへったなー… あれー、なんか、ゆんべ騒いだのがうそみたいに…」
「女の子たちじゃないかぁ。夏樹がやったとも思えんし」
「いやー、実はオレが寝ぼけてさー」「んなの信じられるかっ」
「やっぱり? …おやーっいー匂いすると思ったらメシ作ってあるー」
「うそー、うわー、ほんとー、うまそー」
 なるほど、キッチンとこのテーブルの上に簡単な食事。
 厚焼きタマゴを一口、そして顔をほころばせて陽史。
「この塩加減は遙ちゃんだな 嬉しーっ、いただきまーす」
「…うらやましーなー、やっぱ、そーゆー仲だったワケ?」
「しがない一人暮らしだもんね、なっ敬。それよかさ、これ、なんか食いかけっぽいのはどーしてでしょーかっ?」敬之が手をあげておどけた口調で言うと、光がすかさず答える。
「はーい、ぼくはぁ、多分夏樹くんがかじっていったんだと思いまーす」
「ピンポーン、多分正解でーす。はい、ごほうびにこのみごとな歯型のついたチキンをあげましょー」
「んなもんいらんわいっ」
「んははははっ おーい おきろー聡ぃ。おまえの女房のつくったメシなくなっちゃうぞー」
「…おきるっおきるっ」
 窓を開け放つ。流れ込む心地良い風。テスト明け、日曜日のお昼。出来すぎのお天気。
「スカイハウス行こっかー」「そーしよー。あ、フリスビーも持ってくなー」
 そしていつものように、陽史たちは自転車こいで、海沿いの道をスカイハウスへと走る。

 アパートの手前の道と平行して、国道がある。で、この二本の道の間には、○印の店がいくつもある。
 アパートに向かい合って、電気製品やレコードなんかを置いている『RECO・DEN』と、小さいけれど二階建て、ほとんどの書籍類が揃っているという、BOOKS『まちのほんやさん』。
 国道側には、まず岬郁子のウチ、STORE『おみせやさん』、ケーキの『MILKYWINK』、食堂『一般大衆』、弁当屋さん『ひとみちゃん弁当』、そして立ち食いラーメンの店『はふはふ』。どれも個性的でステキな店ばかりである。
 12月だというのにめっきり天気が良くて、雪どころか冷たい雨さえも降らない。遊ぶのにはもってこいの天気なのだが、なんとなくさびしい感じもしないではない。人間ってほんと欲張りで勝手なんだ。
 途中、ひどく波の荒い処がある。サーフィンの隠れた穴場となっている汐が浜だ。今日も黒いウェットスーツに身を包んだ”カラスの群れ”が、浜に焚き火をして、高い波に向かってボードを進めている。ここら辺は、底の方が岩場になっているので、危険といえば危険なスポットなのだけれど、そういった要素があるからこそFightがわく、といったものかもしれない。
 光たちはいつもここを通る度「オレもやりてーなー」と言い合う。そして「ドルフィンスルーは、あそこでテールの蹴りがポイントなのよ」とか「あのバドリングは遅いよー、もっとスピードあげないとノレないよー」などなど、知ったかぶりのテクニックの事や、自分のサーフィン観、映画「ビッグウェンズデー」の事などをひとくさりやったあとで、結局は「ボード買えねーしなー…」などというひもじい結論に達してはがっくり肩を落とし、それでもいつかはとかすかな望みに胸をはずませるのであった。
 その汐が浜の上を通る道路、坂を下りると夏場は海水浴場として賑わっている、みなみ海岸が道の右手にずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと続く。
 7月、8月と、いつもクルマが一杯で向こう側の砂浜どころか、きている人達のすがたまでも隠してしまう程になってしまうこの駐車場も、今はがらんとしていて。道路向かいにあるケーキ&コーヒーの店『EAST OF EDEN』のマスターが乗っている黄色のビートルと、そのマスターの恋人兼ウェイトレスの女の人の赤いミニだけがぽつんと、だからこそよけいに目立って仲良くいつも並んでいる。
 EDENには、ちゃんと専用の駐車場があるのに、どうしてわざわざ離れた場所に置くのかというと「お客さんの車を置くスペースの確保」と、それから。マスター達は毎朝仕事の前に海辺を手なんかつないで散歩しているから、そのついでなんだそうだ。ちなみにEDENのケーキは全部二人の手作りで、これがまた美味しくてなんとも女の娘の好みそうな味なのだ。味の秘訣はやはり”愛情”なのだそうで。コーヒー・紅茶は二杯までおかわりができたりして、いろんな意味でとてもいい店である。

                 

 そこから少し行くと左に入っていく道がある。ここを上っていくとデートの名所として知られている『港が見える丘公園』だ。が、そこを上っていかずに交差点を先に百メートルほど進むとスカイブルーの屋根が見える。真っ白な壁にマリンブルーのドアと窓枠。大きなウィンドウに、屋根の右に描かれた七色の橋…スカイレストハウス『風流空海(ブルースカイ)』通称「スカイハウス」だ。

「ちわーーっす」
「いらっしゃいませぇ、今日もニコニコ現金払い!」元気なマスターの相変わらずなお出迎え。
「…帰ろうかー」
「あはは、まゆみっちゃん、お水ちょーだい」そして相変わらずくじけずカウンターに陣取る陽史たち。
「今起きたのぉ?朝まで飲んでたんでしょー、まったく不健康なんだから。まだ高校生のくせに」
 それでもみんなに水をだしながらウェイトレスの星まゆみが口をとがらせる。
「いーじゃんたまにはさ。やっとテストから開放されたんだし」
「『テスト明けの酒盛り・急性アルコール中毒で高校生死亡』なんてのさっきニュースでやってたぜー」コーヒーを入れながらマスター。
「こえーなー…まさか夏樹じゃねーだろーなー。あいつどーしたんだ?」
「んー、昨日は、翔翼(つばさ)んとこ見舞いに行くとか映画も観たいなーとか言ってたような」
「ふーん、そういえば今回、いつもは『出たがりの星(しょう。翔翼星と書いて、つばさしょうという名前)』の異名を持つあいつがまだ全然出てないねー、どーしたんだ?学校でも見かけないような」
「知らなかったー?そーか、聞いてくれよ。あいつさー『冬休みはばっちりスキーやるんだもんねー』なんて言ってその資金稼ぎのバイトをさぁ、土方なんだけど、一日目のテスト終わったあとから初めてさー」
「ケガして入院しちゃったんだ」
「どわはははははーっ! アホじゃあいつはぁ、何考えてんだか」
「ねーえ」ランチタイムセット二人分を、お客のテーブルに置いてきたまゆみがカウンターの中に入りながら。
「そろそろ、置くの女の子達に気が付いてもいい頃じゃなくて?」
「へぇ… おっとーSCENE1と同じパターンになってしまったー」
「…光ぅ、一人知らない娘いるけど、あれかー?」
「そのよーですねー… へっへっ私服の美子ちゃんもカワイイ…」
「光…よだれよだれ。じゃさ、奥行くから、えーっと、濃い目のコーヒーと、せから、カンバンの”星くずサンド”大盛りで4つ」
「サンドイッチの大盛りというのは聞いた事がないが…?」陽史の注文にマスターが横目で苦笑い。
「あっ、3つでいい3つで。オレの分いらないから」「どーすんの? 光」
「もちろんお前らのつまむ。金出すのはオレだもんね」
「…そーゆートコはしっかりしてんだけどねー」
 敬之の苦笑いに、まゆみがお腹を抱えて笑いころげた。

 風見遙、佐々木真奈、岬郁子、田沼美子の4人が、奥のテーブルで人形を作っている。陽史は隣の席からイスを運んで。
「お食事どーも、おいしかった。歯型ついてたのもあったけど」
「歯型ぁ? なーにそれ。あっ、夏樹くんだなぁ、彼ひとりあたしたちがあれ持ってった時に起きたの。どっか行く用事あるって」
「ふーん。で? この人かな、渦中のヒト、田沼美子さんとゆーのは」陽史がイスに反対に座りながらカオを覗き込むようにすると、一番小さな女の子がカオを寄せてきた。
「そーです。陽さん敬さん、お久しぶりの郁子です。あたしも来てしまいました仲間に入れて下さい。ほら美子、ごあいさつごあいさつ」
「あ、はい、えーと、銀河さんと、敬さんと、山口さんと…どうもはじめまして。銀河さんの名前はいつも聞いてます、郁子から。敬さんのお友達だって。それであの、なんか無理させちゃったみたいでスイマセン。風見さん達のお話しだと、まるっきり初めてだそうで、なんか罪悪感…」
「そんな事ないって!な、陽史」光がウインク。
「げっ…キモチ悪…お前もいよいよヘンタイの仲間入りかー。美子ちゃん、光はヘンタイだから気をつけるよーに」「ヘンタ…イ?」
「な、なにをゆーんだっお前はっ!? ち、違う、オレは」
「んじゃなんでまっ昼間からオレにウインクなんてくれんだよ」
「だっからさー」光は赤い顔でうつむきながら頭をかき始めた。
「うそうそ、冗談だよ。あのさ、美子ちゃん、これで結構みんな楽しんでんだ。むしろこんなChanceをくれた君に感謝したいくらい」
「ひょーしょーじょー、たぬまよし…」「お前、立ち直り早いねー」
「あたしたちにも何か出来る事があればお手伝いします」美子と郁子が身を乗り出してそう言うとすかさず光が。
「いいよ、美子ちゃん」
「お前は黙ってろ。保母さん志望だったらさ、当然、絵も描けなきゃいけないんだろ?練習だと思って、背景何枚か描いて欲しいんだけど」人形を作っている遙にちょっかいを出しながら陽史。
「はい、絵は割と得意な方なんで、なんて、でもそれやります、ね」
「うん、まー、なんとか頑張りましょー」
「…大丈夫かよ」敬之がつぶやく。
「大丈夫ですっ」郁子が勢い込む。
「…じゃーま、頑張りなさいね」「はいっ」ガッツポーズで。
「…ふうん、なんか初めて見るけど、二人けっこー仲いーんだ」
 聡が真奈のサンドに手をつけながら言った。
「そんなんじゃないよ、たださ、陽史がオレに絵の担当やらせるって言ったからさ」
「きゃー、じゃ敬さんに指導してもらえるんだ
「あのねー、そんなあから様に喜ばないように」「だってー」
「はい、お待たせ。サンド3とコーヒー4。…チラッ」
「あ、なんだー、今の。まゆみちゃん、そのチラッて何さー、やだなー」
「別にぃ。はいどーぞ」
 まゆみが意味ありげな横目をくれながら去っていくのを目で追いながら肩をすくめてサンドイッチをかじる敬之。
「…聡ぃ、今日はダブルディスクやるぞーっ!ゆんべからのイライラがまだスッキリしない」
「なーまいきー、はぐっ。勝つ気でいやがる。あまいぜー、なっ聡ぃ」
「トーゼンですっ。オレ達が組んだらこわいものなしだもんなー」
「そーゆー事、まいったかー もぐもぐ」
「全然オレはモンダイにされてないみたい…くすん」
「光っ! 落ち込んでる場合か!!お前美子ちゃんにいいとこ見せなきゃ」
 敬之の言葉に光は思わずサンドイッチをのどにつまらせ、むせながら。
「お、おまえ、んな大きな声で。わかったよー、陽史なんかに負けてたまるかー」
「おー、その意気その意気」
「考えが甘いの、ここのコーヒーより甘い」と、陽史はコーヒーを一気に飲み干して。
「あー、食った食った。聡ぃ、先出て練習してよーぜっ」
「おっひぇー」
 
 一旦、人形を作る手を止めて。慌しくフリスビー片手に外に出て行く陽史達を見つめて。ため息ひとつ、そしてまた針を進める遙。
「まったく、好きなんだから…」
 そんな遙の様子をずっと見ていた美子が突然口を開いて。
「あのー、遙さん、ちょっと聞いていいですか?」「はい?」
「さっきから見てると、とても仲良さそうにしてるんですけど… 恋人同士ですか?」
 と、ぼっと火がついたように遙の顔が赤くなった。
「ちょ、ちょっと急になんでそんな事…やぁだ、違うの。違うんだから…」
「そっかなー、あたしにもそんな風に見えるんだけど?」真奈がからかい口調で。
「…そんなんじゃないもん。そんなんじゃ…」
 そう言ったまま遙は黙り込んだ。裏の空き地ではしゃいでる陽史を、頬杖をついて見つめながら。
 未だにサンドイッチをぱくついている敬之が低い声。
「光ぅ、美子ちゃんってひょっとして…」
「言うな… あいつなんかにはもったいない。ふん、勝負はこれからだい!」
「おー、頼もしー。その意気込みでまずはこの試合勝とーなっ」
「…それはムリかもね…」
「なさけないやつ…まゆみちゃーん、確か”オールアメリカン”ここに置いといたよねー」
「はい、これ」
「そうそう、これ…違うよー、こんな紙じゃなくって…え?」
「マスターが、『入る時ちゃぁんと言ったよね』って。レシートです、これ」
「あははー、だってさ、光くん」
「あ… マスターにも負けたー… くすん…」

**ダブルディスク**正確にはダブルディスクコート。1チーム2人で、2枚のディスクを投げ合い、 相手コート内にディスクを落としたり、 相手チームに2枚のディスクを持たせたりすると得点となる。パートナーとのコンビネーションが大事なゲーム。ちなみにオールアメリカンは敬之のお気に入りのディスク。彼らはちゃんと公式のディスクを使用して遊んでいます。


                       


「人形できたよー」
 この夜、またも7時過ぎ、愉日微恵荘3階の奥にある陽史の部屋に、人形劇のメンバーが集まった。遙と真奈が一番最後に人形を持って入ってきて。
「よーし、これでみんな揃ったねー。じゃ今夜はカントクの私から…」
「…誰があいつなんかカントクにしたの?」
「人形やる自信がないんじゃない? まー、やりたがってんだからやらせとけば?」
「コホン、そこうるさいよ。部長がカントクやってあたりまえだろーが。文句つけると役から外しちゃうからね。もしくはツリーの役とか…」
「参りました…」
「んでは、ゆーべ夢の中で考えた配役を発表しまーす。まず、主人公の女の子役は、真奈ちゃーん」
「おっとー」
「となると、男の子役は息の合ってるオレに決まりね」
「甘いの。男の子役は、光くーん」
「やたっ」
「サンタクロースは敬」
「オ…オレはぁ? べ…べつにいーけどさ…」
「いじけないで。聡くんには、トナカイの役をやってもらいまーす」
「どわっははははっ」
「ちょ、ちょっと何だよそれぇ、カッコ悪いよー。んなのやらない方がマシだぁ」
「聡くん、この物語をよく読んでないねー、トナカイはとっても大切な役割を果たしているんだよー。だからあえて君にやってもらおうと思ったのに」
「え? そーなわけ? …いや、いい、いいよそれで。うん、十分。なんだー、それ先に言ってくれればいいのにぃ」
「陽史ぃ、ボクは?」
「おー、夏樹も大役。語りと女の子の両親。一人三役ね」
「おーっと、それはまたすごい役を」
「ま、がんばってくらさい。で、あとテーマ曲とかの歌はオイらと遙ちゃんで」
「なんだよそれーっ、いらんいらん、お前はいらん。遙ちゃんだけにしてよー」
「るせー、この機会にマジで遙ちゃんと懇意になってしまおうというコンタンなんだからなー」
「…あたしの意見も聞かないでそんなこと決めちゃうワケぇ?」
 少し赤面しながら不機嫌をきどる遙に、顔を突きつけて迫る陽史。
「…引き受けてくんないワケ?」
「べ、別にいーけどっ…あたしヘタクソだよ、いいの?」
「だぁいじょうぶっ! このオレがついてるって」
「それが心配なんだよなー」「うんうん」
「ほっとけ! いーの、それで。あと舞台装置は、オレと敬で暇見つけて作るとして」
 陽史がちらりと見ると、すかさず郁子。
「あ、あたしたちも背景がんばります、ね、美子」「うん」
「わかんないことあったらさ、敬に聞けばいいからね」
「はい
 素直なコ…と、郁子のありようが遙は少しうらやましかった。
「んでー、台本の方、まだできてないんで、いちお全員分絵本コピーしといたから」
 陽史はそんな遙の横顔を見ながら、側に置いた袋からきれいなコピー本を出してみんなに配り始めた。真っ先に受け取った光が驚きの大声を出した。
「おわー、カラーだぁ、すげー、さすが陽史だぁ」
「でしょ。あとでコピー代いただくからね、光くん
「…すげーっさすが陽史だぁ…」

 配られた本に各自目を通していると、急に何か思いついたように光が顔を上げた。
「そーだ、オレこの劇団の名前考えたんだけど」
「え?『劇団・ひろしくんとおめでたい仲間たち』じゃダメなの?」
「お、お前なー、主役はオレだっつーの」「…ウソ」
「とにかく、そんな事どーでもいいのっ。『劇団Eve』なんて、どう? Eve研とクリスマスイヴと絡めてさ」
「…タイトルにこだわり過ぎと違う? 作者にこびうって出番増やそうとしてるなー、星がいないことをいい事に」「え? タイトル? 出番? 何のこと?」「…さっき主役がどーのと言ってたくせに…」
「ま、いーんじゃないそれで。さすが光くん、ヒラメキがすごいよ、ねぇ美子ちゃん?」
「え? ヒラメがすごい? ヒラメ…も出てくるんです…か?」
「あ…いい、いいよ。それ続けて読んでて」

 時計の針が8時をまわった。昨夜は土曜だったから良かったものの、明日は学校もあるし、あまり遅くまでやっていられないな、などと本に見入ってるみんなの顔を見回しながら陽史は思っていた。
「んじゃーさっ、明日は学校だし今夜はこれぐらいにしよー。遠いとこから来てる人もいるしさっ」
 光がしきりにうなずいて。
「そーだね、じゃみんな、家で各々人形で練習しといてねー。陽史ぃ、本格的な練習はいつからやんのさ」
「んー、まぁ台本ができてからな。なるたけ急ぐけどさ」
「ふぅん。頼むよ」
「んふふ、燃えてるね光くん」
「トーゼン! ボクはこの人形劇に青春をかけてるんだいっ!!」
「お金もかけてるでしょ?」
「…うん」「はははははっ」
「いーじゃんかよっ、聡ぃ帰ろーぜ」
「あー? オレは夏樹と帰るから。お前誘う相手間違ってるだろ」
「え? う、うん、よし、ぃこーなんちゃって。あはっくだらない事言っちゃった」
「…でも私だけ反対方向で、なんか迷惑みたい…」
「いいんだって。光は喜んでんだからさ」
「よせよー、テレるぜ」
「そーだ、敬、お前ジュース飲みたいって言ってたなー。ちょーどいいじゃん、郁子ちゃん送ってったら?」
「お前さー、…わかったよ。じゃ行こ」「はぁい
「じゃね、諸君」
 陽史が手を振ったあとで、ドアを閉めようとノブに手をかけると、聡が走って戻ってきた。忘れモンかな? と部屋の中に目をやろうとすると
「うっかりしてたー。あのさ、お前家庭教師のバイトやる気ない?」
 三階までの階段を走って登ってきたのだろう、息をきらして。
「…お前の? お前のアタマはもー、それ以上はムリなんじゃ」
「違うっつーの! かずみのさぁ。あいつ今中3でさぁ。ウチとこ受けたいからって、結構ウチは入る時はレベル高いからさー」
「大丈夫、お前だって入ったじゃないか」
「うーるーさいっ、しゃべらせろってば。んで、かずみ、自信付けたいからお前に頼みたいって言ってるんだ。オレだって勉強見てやったりしてるんだけど、あいついわく『お兄ちゃんに見てもらうとますますわかんなくなっちゃうんだもん』だとさ。オヤジに頼んで何とかOKもらって。ほらお前だったらよく家にも来るしさ、面識もあるから」
「パチパチ、長いセリフを良く言った。んで、もちろんバイト料の方は」
「ん。でも払うのはオヤジだからさ、具合見てからサラリー決めるんだって」
「ま、それが妥当でしょうね。 …いつから?」
「やんのか? まぁオマエが良いってゆーなら。オレもかずみにおこらんないで済むし。じゃ、さっそくで悪いけど明日8時頃来て。少し面談したいんだって。あれでなかなかキビシイから気ぃつけろよ」
「ん、わかった。おいしい話ありがと。オヤジさんとかずみちゃんによろしく」「あぁ」
 夏樹待ってくれーっと、聡が必死にちゃりんここいで去ったのを見届けてから、ドアを閉めると、遙がまだ中に残っていた。
「聡くん、妹さんいたの?」
「おわっ、びっくりした。まだいたのかー」
 ぷくっと頬をふくらませて遙。まったくかわいいんだから、と陽史。
「まだいたの、はないでしょー。お部屋帰っても暇なんだもん。それに…」
「ふーん」陽史はそんな遙の肩を軽く叩いて。
「ま、二人っきりというのも良いね。たまにはおタクとゆっくり話しがしたいと思ってたんだ。コーヒー、飲むだろ?」
「あ、私がいれる」
 立ち上がろうとした遙を制して。
「いいから。たまにはオレのも飲んでみて。ぜったい美味しいからさ
「…スイミン薬なんて入れないでね」「あのねーっ」
「うふっ、うーそっ、えへへっ」
 (それでも別にいーんだけどさー)なんて考えてしまった遙は、そんな自分の顔が赤面していくのがわかり、ごまかそうと窓辺に進んだ。
「…今夜は、星がキレイね」
 陽史もまた、コーヒーを作りながら(あぁ、まるでボク達の幸せを祝福してるみたいだね、なんて言いながら肩を抱いたりしたら、うーん、かっこいーなー、クサいかなー)などと考えながら勝手に赤面していた。

 こちらは横断歩道で信号待ちしている敬之と郁子。
「あのー、敬さん」「お前さ、その”敬さん”っていうの…」
「きゃーっっ!! ”お前”だって ハズカシー」「あ、あのね…」
「えへへっ、で、さっきの事ですけど」
「さっきの事? 何だ、それ。あ、青だよ」
 先にスタスタと行ってしまう敬之の後を小走りに追いかけながら郁子。
「またはぐらかしてー。まゆみさんとの事ですっ、敬さん、」
 立ち止まり、振り返る敬之。
「STOP。悪いけどその話は…」
「よくない! それじゃダメなんです。はっきりしてくれないと。…敬さんずるい、あたしの気持ち気付かない筈ないくせに、いっつもはぐらかしてばっかり」
「…君の、気持ちっ…て?」「馬鹿っ!!」
 瞳をうるませながら郁子は敬之の頬を強く引っ叩いた。
「…あ、あたし、あやまってあげないんだから、敬さんが悪いんだもん。嫌いなら嫌いって、…言ってくれればいいのにっ!!」
 そうして泣きながら家の中に走り込んでいった。
「あ…郁! …泣かしちゃったな、でも、オレ…」
 横断歩道で立ちすくむ敬之に、信号待ちの車のクラクション。
「兄ちゃんさー、ブルーになるなら、あの電柱のカゲでしてよねー」

 一方、こちらは美子を送って行った光。美子に合わせてペダルをゆっくりこぎながら。
「あの、本当にごめんなさい。迷惑かけてしまって」
「え? あ、いや、いいんだ。ほんと、あそこの子供達かわいいし、よくなついてくれてるしさ。それに、ほら、陽史も言ってただろ。みんなも結構楽しんでやってるんだからさ」
「そうですか…でも、ほんと銀河さんってすごいですね。いろんな事テキパキこなしていくし、フリスビーも上手いし。なんかみなさんと同い年には見えないような」
「…ふーん…」
「あ、ごめんなさい。別に光くんが頼りない、とかそういう事じゃないんです。光くんは光くんで、いい人だし、おもしろいし…」
「それは、どーも…」
 (ちぇっ、あいつはスゴいでオレはおもしろい、か。んなのわかってるけどさー、なんか、なんかつまんねーっ、くそっっ!!)
 と、力一杯ペダルを踏み込もうとしたら、勢い余って、足をすべらせてしまい、空回りしてきたペダルで、彼はすねを痛いほど強く打ってしまったのだった。
「あてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 みんなのいろんな思いを静かに見つめるお月様は14番目の月。
 ややこしいのはこれからですよとささやき合う星々。
 今のところ平和なのは「くっそー、出番が欲しー」などと嘆きながらも、病院のベッドの上で高いびきの翔翼くんくらい、だな。

        ACT2につづく!

I am sorry to have kept you waiting so long.

私設図書館 ”三上神社”へようこそ。ここにはHirokoの小説 「 Eveには微笑って 」が奉納してあります。 境内入口へ戻る