「人形できたよー」
この夜、またも7時過ぎ、愉日微恵荘3階の奥にある陽史の部屋に、人形劇のメンバーが集まった。遙と真奈が一番最後に人形を持って入ってきて。
「よーし、これでみんな揃ったねー。じゃ今夜はカントクの私から…」
「…誰があいつなんかカントクにしたの?」
「人形やる自信がないんじゃない? まー、やりたがってんだからやらせとけば?」
「コホン、そこうるさいよ。部長がカントクやってあたりまえだろーが。文句つけると役から外しちゃうからね。もしくはツリーの役とか…」
「参りました…」
「んでは、ゆーべ夢の中で考えた配役を発表しまーす。まず、主人公の女の子役は、真奈ちゃーん」
「おっとー」
「となると、男の子役は息の合ってるオレに決まりね」
「甘いの。男の子役は、光くーん」
「やたっ」
「サンタクロースは敬」
「オ…オレはぁ? べ…べつにいーけどさ…」
「いじけないで。聡くんには、トナカイの役をやってもらいまーす」
「どわっははははっ」
「ちょ、ちょっと何だよそれぇ、カッコ悪いよー。んなのやらない方がマシだぁ」
「聡くん、この物語をよく読んでないねー、トナカイはとっても大切な役割を果たしているんだよー。だからあえて君にやってもらおうと思ったのに」
「え? そーなわけ? …いや、いい、いいよそれで。うん、十分。なんだー、それ先に言ってくれればいいのにぃ」
「陽史ぃ、ボクは?」
「おー、夏樹も大役。語りと女の子の両親。一人三役ね」
「おーっと、それはまたすごい役を」
「ま、がんばってくらさい。で、あとテーマ曲とかの歌はオイらと遙ちゃんで」
「なんだよそれーっ、いらんいらん、お前はいらん。遙ちゃんだけにしてよー」
「るせー、この機会にマジで遙ちゃんと懇意になってしまおうというコンタンなんだからなー」
「…あたしの意見も聞かないでそんなこと決めちゃうワケぇ?」
少し赤面しながら不機嫌をきどる遙に、顔を突きつけて迫る陽史。
「…引き受けてくんないワケ?」
「べ、別にいーけどっ…あたしヘタクソだよ、いいの?」
「だぁいじょうぶっ! このオレがついてるって」
「それが心配なんだよなー」「うんうん」
「ほっとけ! いーの、それで。あと舞台装置は、オレと敬で暇見つけて作るとして」
陽史がちらりと見ると、すかさず郁子。
「あ、あたしたちも背景がんばります、ね、美子」「うん」
「わかんないことあったらさ、敬に聞けばいいからね」
「はい

」
素直なコ…と、郁子のありようが遙は少しうらやましかった。
「んでー、台本の方、まだできてないんで、いちお全員分絵本コピーしといたから」
陽史はそんな遙の横顔を見ながら、側に置いた袋からきれいなコピー本を出してみんなに配り始めた。真っ先に受け取った光が驚きの大声を出した。
「おわー、カラーだぁ、すげー、さすが陽史だぁ」
「でしょ。あとでコピー代いただくからね、光くん

」
「…すげーっさすが陽史だぁ…」
配られた本に各自目を通していると、急に何か思いついたように光が顔を上げた。
「そーだ、オレこの劇団の名前考えたんだけど」
「え?『劇団・ひろしくんとおめでたい仲間たち』じゃダメなの?」
「お、お前なー、主役はオレだっつーの」「…ウソ」
「とにかく、そんな事どーでもいいのっ。『劇団Eve』なんて、どう? Eve研とクリスマスイヴと絡めてさ」
「…タイトルにこだわり過ぎと違う? 作者にこびうって出番増やそうとしてるなー、星がいないことをいい事に」「え? タイトル? 出番? 何のこと?」「…さっき主役がどーのと言ってたくせに…」
「ま、いーんじゃないそれで。さすが光くん、ヒラメキがすごいよ、ねぇ美子ちゃん?」
「え? ヒラメがすごい? ヒラメ…も出てくるんです…か?」
「あ…いい、いいよ。それ続けて読んでて」
時計の針が8時をまわった。昨夜は土曜だったから良かったものの、明日は学校もあるし、あまり遅くまでやっていられないな、などと本に見入ってるみんなの顔を見回しながら陽史は思っていた。
「んじゃーさっ、明日は学校だし今夜はこれぐらいにしよー。遠いとこから来てる人もいるしさっ」
光がしきりにうなずいて。
「そーだね、じゃみんな、家で各々人形で練習しといてねー。陽史ぃ、本格的な練習はいつからやんのさ」
「んー、まぁ台本ができてからな。なるたけ急ぐけどさ」
「ふぅん。頼むよ」
「んふふ、燃えてるね光くん」
「トーゼン! ボクはこの人形劇に青春をかけてるんだいっ!!」
「お金もかけてるでしょ?」
「…うん」「はははははっ」
「いーじゃんかよっ、聡ぃ帰ろーぜ」
「あー? オレは夏樹と帰るから。お前誘う相手間違ってるだろ」
「え? う、うん、よし、ぃこーなんちゃって。あはっくだらない事言っちゃった」
「…でも私だけ反対方向で、なんか迷惑みたい…」
「いいんだって。光は喜んでんだからさ」
「よせよー、テレるぜ」
「そーだ、敬、お前ジュース飲みたいって言ってたなー。ちょーどいいじゃん、郁子ちゃん送ってったら?」
「お前さー、…わかったよ。じゃ行こ」「はぁい

」
「じゃね、諸君」
陽史が手を振ったあとで、ドアを閉めようとノブに手をかけると、聡が走って戻ってきた。忘れモンかな? と部屋の中に目をやろうとすると
「うっかりしてたー。あのさ、お前家庭教師のバイトやる気ない?」
三階までの階段を走って登ってきたのだろう、息をきらして。
「…お前の? お前のアタマはもー、それ以上はムリなんじゃ」
「違うっつーの! かずみのさぁ。あいつ今中3でさぁ。ウチとこ受けたいからって、結構ウチは入る時はレベル高いからさー」
「大丈夫、お前だって入ったじゃないか」
「うーるーさいっ、しゃべらせろってば。んで、かずみ、自信付けたいからお前に頼みたいって言ってるんだ。オレだって勉強見てやったりしてるんだけど、あいついわく『お兄ちゃんに見てもらうとますますわかんなくなっちゃうんだもん』だとさ。オヤジに頼んで何とかOKもらって。ほらお前だったらよく家にも来るしさ、面識もあるから」
「パチパチ、長いセリフを良く言った。んで、もちろんバイト料の方は」
「ん。でも払うのはオヤジだからさ、具合見てからサラリー決めるんだって」
「ま、それが妥当でしょうね。 …いつから?」
「やんのか? まぁオマエが良いってゆーなら。オレもかずみにおこらんないで済むし。じゃ、さっそくで悪いけど明日8時頃来て。少し面談したいんだって。あれでなかなかキビシイから気ぃつけろよ」
「ん、わかった。おいしい話ありがと。オヤジさんとかずみちゃんによろしく

」「あぁ」
夏樹待ってくれーっと、聡が必死にちゃりんここいで去ったのを見届けてから、ドアを閉めると、遙がまだ中に残っていた。
「聡くん、妹さんいたの?」
「おわっ、びっくりした。まだいたのかー」
ぷくっと頬をふくらませて遙。まったくかわいいんだから、と陽史。
「まだいたの、はないでしょー。お部屋帰っても暇なんだもん。それに…」
「ふーん」陽史はそんな遙の肩を軽く叩いて。
「ま、二人っきりというのも良いね。たまにはおタクとゆっくり話しがしたいと思ってたんだ。コーヒー、飲むだろ?」
「あ、私がいれる」
立ち上がろうとした遙を制して。
「いいから。たまにはオレのも飲んでみて。ぜったい美味しいからさ

」
「…スイミン薬なんて入れないでね」「あのねーっ」
「うふっ、うーそっ、えへへっ」
(それでも別にいーんだけどさー)なんて考えてしまった遙は、そんな自分の顔が赤面していくのがわかり、ごまかそうと窓辺に進んだ。
「…今夜は、星がキレイね」
陽史もまた、コーヒーを作りながら(あぁ、まるでボク達の幸せを祝福してるみたいだね、なんて言いながら肩を抱いたりしたら、うーん、かっこいーなー、クサいかなー)などと考えながら勝手に赤面していた。
こちらは横断歩道で信号待ちしている敬之と郁子。
「あのー、敬さん」「お前さ、その”敬さん”っていうの…」
「きゃーっっ!! ”お前”だって

ハズカシー」「あ、あのね…」
「えへへっ、で、さっきの事ですけど」
「さっきの事? 何だ、それ。あ、青だよ」
先にスタスタと行ってしまう敬之の後を小走りに追いかけながら郁子。
「またはぐらかしてー。まゆみさんとの事ですっ、敬さん、」
立ち止まり、振り返る敬之。
「STOP。悪いけどその話は…」
「よくない! それじゃダメなんです。はっきりしてくれないと。…敬さんずるい、あたしの気持ち気付かない筈ないくせに、いっつもはぐらかしてばっかり」
「…君の、気持ちっ…て?」「馬鹿っ!!」
瞳をうるませながら郁子は敬之の頬を強く引っ叩いた。
「…あ、あたし、あやまってあげないんだから、敬さんが悪いんだもん。嫌いなら嫌いって、…言ってくれればいいのにっ!!」
そうして泣きながら家の中に走り込んでいった。
「あ…郁! …泣かしちゃったな、でも、オレ…」
横断歩道で立ちすくむ敬之に、信号待ちの車のクラクション。
「兄ちゃんさー、ブルーになるなら、あの電柱のカゲでしてよねー」
一方、こちらは美子を送って行った光。美子に合わせてペダルをゆっくりこぎながら。
「あの、本当にごめんなさい。迷惑かけてしまって」
「え? あ、いや、いいんだ。ほんと、あそこの子供達かわいいし、よくなついてくれてるしさ。それに、ほら、陽史も言ってただろ。みんなも結構楽しんでやってるんだからさ」
「そうですか…でも、ほんと銀河さんってすごいですね。いろんな事テキパキこなしていくし、フリスビーも上手いし。なんかみなさんと同い年には見えないような」
「…ふーん…」
「あ、ごめんなさい。別に光くんが頼りない、とかそういう事じゃないんです。光くんは光くんで、いい人だし、おもしろいし…」
「それは、どーも…」
(ちぇっ、あいつはスゴいでオレはおもしろい、か。んなのわかってるけどさー、なんか、なんかつまんねーっ、くそっっ!!)
と、力一杯ペダルを踏み込もうとしたら、勢い余って、足をすべらせてしまい、空回りしてきたペダルで、彼はすねを痛いほど強く打ってしまったのだった。
「あてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
みんなのいろんな思いを静かに見つめるお月様は14番目の月。
ややこしいのはこれからですよとささやき合う星々。
今のところ平和なのは「くっそー、出番が欲しー」などと嘆きながらも、病院のベッドの上で高いびきの翔翼くんくらい、だな。
ACT2につづく!
I am sorry to have kept you waiting so long.