詩集『回漕船』思潮社から
            背景のサウンドはベートーベン作曲ピアノソナタ「月光」です。
  
回漕船

           三田 洋



 海に船をうかべてはこぶ

 柩をまんなかにして
 
 父とわたしはすわりこむ



 海はすこし荒れて

 ときどきしぶきがかかる



 こんなとき

 むこうからやってくる船もある



 しぶきは素足にもかかる

 せなかにもかかる



 しぶきは柩にもかかる

 すると

 おおさむいとだれかがおもう



 とうとうここまできてしまった
 

                   
                              青海島の中の浜 母親はこの浜辺で焼かれた。

作品の背景
 
長門市・青海島(おおみじま)にわたしの実家はある。金子みすゞの父はここの出身だ。この海の色彩
の美しさは譬えようもない。海に浸って底をのぞくと、子供のわたしはエメラルド色の空を羽ばたく鳥に
なった。ここには病院はない。現在は橋が架かっているが、当時は重い病いに罹ると船で仙崎(み
すゞの生まれた町)の病院に入院する。死ぬと船で運ばれ、島の浜辺で焼かれた。わたしは高校卒
業後、上京し置き去りのかたちで母親を死なせた。 この作品はそのときのことをかいたものである。

作品評
 
「母」とそれとはいわずに、肉の母と寄りそうている「回漕船」は輓近の傑作である。詩人にとりつき、詩人
のからだを通過するものに、詩人は耐えて寡黙に、このように、かろうじて、喩としての言葉を発するほ
かはないのである。 (及川均)                      「新・日本現代詩文庫」解説より