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閉店後、市場のシャッターを下ろしていると切羽詰まった顔のご婦人が駆け込んできた。
「ト・トイレはありませんか」
よほど緊急を要するのだろう、すごい形相だ。
「あります、あります、この奥に」
電気の消えた通路を指さした。
「真っ暗じゃないですか」
「灯を全部おとしちゃったもので」
悩んだ末に
「そうだわ、裏のスーパーがまだ開いてるはずだわ」
おばちゃんは、市場から飛び出して近くのスーパーの方へと駆け出して行った。
「やれやれ」
シャッターを全部下ろした。
と、しばらくして家内がはたと気が付いた。
「今日は、裏のスーパー、休みなのよ」
僕は新聞の一般紙を二紙購読している。
新聞は読むモノだけれども、果物屋の僕にとっては、その後、包むモノであったり、まな板代わりになったり、
宅配便荷物の隙間埋めなどに役だっている。
「読む新聞」「使う新聞」・・・新聞にはいろいろな利用価値があるのだ。
最近は近所の奥さんがスポーツ新聞をどっちゃりくれる。
だが、中程の色っぽい写真がいけない。
パインの皮をむきながら、スイカを切りながら、宅配の用意をしながら、つい見入ってしまうのだ。
その度に仕事が中断して、はかどらない。
やはり、「使う新聞」は一般紙に限る。
「デラ葡萄とメロンと桃と、ねぇ**ちゃん、スイカ食べる?」
訊かれた女の子は何すねてんのか「いらーーん」。
「馬鹿野郎!せっかくお母さんが買ってやろうと言うのに、いらーんとはなんだ、いらーんとは」
心の中で押し隠し「そうかー、お嬢ちゃん、スイカ嫌いなのか」と僕は笑って見せた。
「種があるけ、好かーーーーん」
「おらおら、もう一度言ってみな。種があるけ、すかーーーん。魚だって肉だって骨付きの方が美味しいんだぞ。
スイカだって種があるからうめーんじゃねーか。なま言うんじゃないや」
同じく心の中で押し隠し「そうだね。種って面倒だよね」って僕は笑って見せた。
女の子は大きな絵本を持ってる。
ちょっと、持ちにくそうだ。
「ねぇー、お嬢ちゃん。本が重そうだね。スーパーの買い物袋だけど、これに入れなさいよ。ほら、楽に持てるだろう」
「ありがとう、おいちゃん。ねぇー、ママ、スイカが食べたい」
「まいどありーーー。この大きいのにしょうか?」
「**ちゃん、食べれるの」
「うん、その大きいの」
「うひゃー、こんなの食べきるなんて、おいちゃん吃驚だーー」
気が変わらない内にと、大急ぎでビニール袋に包んだ。
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