別冊 モジョの秘密


迷作「轟音mojoメイツの秘密」が一気に読める!


誕生秘話編 旗揚げ公演編 紫苑祭03〜X'mas公演編  新歓公演2004編
第一話 「神話誕生」 第一話 「動けない部員」 第一話 「次なる挑戦」 第一話 「陣痛」
第二話 「長い冬」 第二話 「山が動いた」 第二話 「第2幕」 第二話 「不完全燃焼」
第三話 「遅い春」 第三話 「そして感動へ…」 番外編 第三話 「慟哭
第四話 「サクラチル」 第四話 「ビギナーズ・ラック」  第三話 「寂しいクリスマス」    第四話 「ため息」 
第五話 「夢に見た新歓コンパ」       


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[誕生秘話編 旗揚げ公演編 紫苑祭03〜X'mas公演編 新歓公演2004編]


誕生秘話編


第一話 「神話誕生」

 それは、2002年の冬、へろポン(仮名)という奇妙奇天烈な名前(正確にはあだ名)の3年生が、ゼミ担当教員のところに就職相談に来たことに始まる・・・。

(中略)
教員「ほな、演劇部を自分で立ち上げたらどないや。」
へろぽん「そうですね!」

 その場は一瞬、熱い想いが煮えくりかえるようになった。

教員 (よし!これを足場に大学を変えたるでぇ!)

学生 (よし!これをネタに就職するぞう!)

 その勢いは、二人に大きな錯覚を感じさせた。まるですぐにでも演劇部が動き出すかのような・・・。しかしそれは、「轟音mojoメイツ」の小さい種が蒔かれたに過ぎなかった。

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誕生秘話編

第二話 「長い冬」


 へろぽんは、就職活動で忙しい3年生を、言葉巧みに勧誘して回った。

  「演劇部いかがすか〜」

 その言葉は、学食にむなしく響くだけだった・・・と思いきや、何を勘違いしたのか、数名の学生が集まってきた。

 へろぽんは、飛び上がるように躍り上がった。

  「私は間違っていなかった!」

 さっそく、サークル名が決められた。

  <轟音モジョメイツ>

 演劇部立ち上げを勧めた教員が顧問になった。しかし、その顧問はサークル名を聞いた自分の耳を疑った。

  (ゴウオンモジョメイツ・・・?なんじゃそりゃ?)

 メイツというと、スクールメイツとYAMAHAの原付しか頭に浮かばない中年教員には、ピンと来なかったが、

  (それは年寄りの冷や水。黙っとこ・・・)

 違和感は、心の奥底の貸金庫に一生しまっておくことにした。

 一方へろぽんは毎週ミーティングを開くが、集まった仲間が必死に読んでいるのは、台本ではなく日経新聞だった。それほどまでに就職戦線は厳しいのであった。へろぽんは、自分の就職に対する姿勢の甘さを思い知るのであった。

  (まあ、そのうち就職できるじゃろ)

 自分の甘さを鋼鉄製の棚に上げたのは良かったが、演劇部としては、まったく動かなかった。


注:実は、轟音モジョメイツとしての最初の活動は、なんと就職模擬面接であった。 模擬面接をエチュードとしてやろうという考えもあったが、実際には、演劇部員が模擬面接官を担当する普通の模擬面接だった。 これで演劇部の知名度をあげて、部員も集めようという魂胆だった。大学主催の模擬面接など皆無だった時代なので、 そこそこ学生は集まった。しかし、最初のイベントが就職模擬面接とは・・・。


 そんなある日、顧問の教員は、非合法的な秘密の指示をへろぽんに与えた。

  「すっごいちっちゃな部員勧誘ビラを一枚だけ、学生ロッカー室に張り出せ。なるべくひっそりとな。」

 へろぽんには、その教員の意図がまったく分からなかった。大学教員の頭の中はどうなっているのか。若者には知るよしもなかったが、とりあえず、言われた通りにしてみることにした。

 へろぽんの予想に反して、そのビラは確実に「お芝居大好き学生」たちの心をとらえていた。しばらくして、へろぽんのKタイに、何人かの1,2年生から「入部希望」のメールが届いた。
 へろぽんは、思わず口ずさんだ。

  「求めよ、さらば、開け豆」

  (いやいや、希望者はわずかに4名。ヘンリーさんを入れても・・・?ヘンリーさんって誰?少し疲れたかな。とにかく、まだまだ春は遠い・・・。)

 しかし、気象学的な春はやってきた。そのことをしっかりと認識していたのは、やはり科学者である顧問であった。

  (あかん。このままやったら演劇部は桜とともに散ってまう。これでは、私の「卒業式でウェンウォン泣く大学に改造するぞ」計画は頓挫してまう。なんとかせんと・・・)

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誕生秘話編

第三話 「遅い春」


 そして、2003年4月がやってきた。4月は入学式。新入生がやってくる。そう、新しい部員を獲得するのにまたとないチャンスである。しかし、就職戦線にまだまだ春は来るわけもなく、3年生の幽霊部員が大半を占めるモジョメイツに、新陳代謝能力はなかった。
 
 (困った・・・)

 顧問はそう思いながら、忙しさにかまけて何も出来ずにいた。そして入学式の前日を迎えた。
 顧問は、ダメもとで3人しかいない1,2年生部員に緊急招集をかけた。昨年ビラを一枚張り出しから、その日まで、演劇部は全く活動をしていなかった。1,2年部員ともほとんどはなしたことはない。来てくれるだろうか。
 はたして、2年のムラ(仮名)と1年のザキ(仮名)が顧問の研究室に集まった。二人とも高校演劇でブイブイ言わせていた口だ。
 顧問は言った。

  「明日からの入学行事に、部員勧誘を行う。これからやることは立て看設置、ビラ配り、勧誘目的の履修相談だ。」

 ムラが言った。

  「やるんですね・・・」

 2年生のムラは、入部希望を申し出ていながら、自分が再び演劇の道に戻ることに、どこか信じられないでいた。高校時代、演劇の世界にどっぷり浸かっていた。あれから2年。平凡だが、おだやかな日々に慣れ親しんでいた。それなのに、再び泥沼へと戻ろうとしている自分がいる。やはりこれは運命なのだ。ムラは、どこかでそう思い始めていた。

 一方、1年生のザキは当たり前の疑問を抱いていた。

 (今頃、急に何をいいだすんろう、この顧問は。いや、まだ大学に登録もされていなサークルやき、顧問やからん。立て看、ビラを今から用意しろらぁて。たいてえ、この大学の入学式に勧誘用の立て看らぁて見たことないし、勧誘目的の履修相談だって、誰もやっちゃーせん。まあ、誰もやっちゃーせんことをやるがはおもしろけどな。)

 二人とも、間に合うのかどうか半信半疑のまま、作業に取りかかった。しかし、いったん仕事が始まると、二人は見事にやり遂げた。ビラのデザインから印刷、立て看も小さい看板になったものの、大学への設置許可まで、一気に仕事は片づいた。顧問は、その出来に満足していたが、気になることがあった。

 (勧誘には人手がいる。明日、何人動けるかが、成功の鍵になるぞ。しかし、これまで、ろくにミーティングもしていなかったのに、何人集まるのだろう・・・)

 しかし、それは杞憂に終わった。

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誕生秘話編

第四話 「サクラチル」


 果たして入学式当日、早朝から他のサークルに混じってビラを配る部員の姿があった。校門近くの木には「演劇人急募」の小さな看板。新入生勧誘の看板など、顧問がこの大学で働きだしてから始めてのことだ。
 そして広場には「履修相談」の大きな張り紙。その下には、ムラ、ザキ、日を間違えて登校したザキの友人、四年生になりたての部員が、新入生を待ちかまえていた。
 広場に新入生勧誘のための出店を出しているのは演劇部だけだった。その光景はマンモス大学を卒業した顧問には寂しく、しかし力強く映った。

 (よし、これから変わるんだ。いや変えるんだ!)

 しかし、入学式、翌日からオリエンテーションと連続の履修相談の出店を出したものの、新入生で履修相談に訪れた学生は、ほんのわずかだった。三日目、新入生全員へのサークル紹介の行事が行われたが、当然、そこに未登録の演劇部の姿はなかった。

 (うーむ、手応えがない。ここからどうする。非公認サークルには部室もない。履修相談を続けるにも限界はある・・・。)

 しかし、履修相談を受けた新入生の中には、後の9期生の看板女優ノモラがいた。後にノモラはこう語っている。

 「演劇部に入りたかったから、連絡先ちゃんと書いたのに全然連絡ないからどうなってるのかと思いました。」

 後で考えればフォローが足りなかったのだ。その時点で新入生の希望者はたった一名。日を間違えて登校したザキの友人の友人だけだった。
 顧問は困った。困ったが、また日々のルーチン・ワークに埋没してしまい、ただいたずらに時間は過ぎていった。
 顧問は思った。

 (人間諦めが肝心。いつまでも勧誘ばかりしているわけにはいかない。現有メンバーの絆を深めることの方が大事だ。そのためには、具体的なサークル活動を始める前に、とにかく「飲み」だ!新歓コンパだ!芝居はそれからだ!!)

 何故か「飲み」に固執する顧問だったが、最後に一勝負打つことにした。それは教員としては、禁じ手かも知れないことだった。

 (空白の10分間を使うんだ!授業開始前の休み時間、つまり授業開始直前なら、演劇部の宣伝をちょっと位してもいいだろう。いや、思い切って、授業前の10分間を学生にサークルの宣伝の為に自由に使わせたらどうだろう。サークル活動の活性化につながるに違いない!)

 顧問はそんなこじつけで自分を納得させた。実は、この教員がもう一つ顧問をしているサークルも部員が少なくて困っているのだった。一石二鳥。

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誕生秘話編

第五話 「夢に見た新歓コンパ」


 顧問は、いわゆる一般教養の科目も担当していた。出席者はおよそ300人。1年生のほぼ全員が履修していた。顧問にはまさしく鴨が葱をしょって椅子に座っているように見えた。
 しかし、授業を私物化するわけにはいかない。そこで提供した授業の前後の休憩時間に、いろいろなサークルがイベントのお知らせや部員勧誘に活用していく。
 しかし、実働部隊が不足しているモジョメイツの部員が教壇からアピールする余裕はなかった。

 計算違い。
 仕方がない・・・。顧問が自ら口を開いた。
 
「この大学に演劇部ができました」

 顧問が、溢れる想いを短い言葉に託した日は、既に5月8日、「新歓コンパ」の当日だった。

 授業が終わり、教材を片づける顧問に誰かが声をかけた。

「先生」

 顧問が顔を上げると二人の学生が立っていた。

「演劇部に入りたいんですけど。」

 ノモラとワン・タンメンだった。

 顧問は驚いた。そんな!入れ食いじゃないか!それも二人も!
 嬉しかった。世の中、捨てたもんじゃない。夜に新歓コンパがあることを伝えた。二人とも来るという。

 その日の夜、顧問が行きつけの上海料理の店に、モジョメイツのニューフェイスが集った。当然、今日まで一緒に戦ってきたヘロポン、ムラ、ザキの顔もあった。
 顧問は、隣に座っていたヘロポンに言った。

「本当に、演劇部ができたな。」

 ヘロポンは黙ってうなずいた。

 数日後、ヘロポンはサークル新設の申請用紙を学生課に届け、モジョメイツは正式なサークルとして認められた。

 こうして、キャンパスに演劇文化の嵐が吹き荒らすことになる轟音モジョメイツは、やっと動き始めたのである。

 しかし、難産だったサークルの立ち上げと同様、旗揚げ公演もまた難産だった・・・。

「誕生秘話編」終わり

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旗揚げ公演編


第一話 「動けない部員」


 ついに演劇部は、大学の公認サークルとしてのスタートを切り、新入部員まで集まった。次は、旗揚げ公演だ! 新歓コンパでは、「飲み」もそこそこに、高校演劇経験者を中心に練習メニューの話しで盛り上がった。観劇はそこそこ好きでも、演劇活動は全くの素人の顧問は、そんな彼女たちを頼もしく思った。

  しかし、いざふたを開けてみると、部室もなく、部員たちは昼休みに学内のサロンに集まるものの、昼食をモソモソ食べているだけ。時間だけがいたずらに過ぎていく。

 今いるのは、「ただ、演劇をしてみたい!」という気持ちだけで集まった、ある意味烏合の衆である。連帯も組織もあったもんではない。彼女たちに、いきなりサークル活動=劇団運営をしろ! というのも無茶な話しである。立ち上げにかかわった顧問も、学生時代に映画制作に打ち込んでいたとはいえ、演劇とは畑が違う。このまま学生の自主性に任せていては、夢が潰えてしまう。
 
 ここは一つ、一緒に夢をかなえようと誓い合ったヘロポンに頼むしかない。

 「先生っ! 私まだ内定ないんですよ! 卒論だってまだまだだし。先生、私の卒論指導教員でしょっ!」

 そうだった。
 初代部長のヘロポンは、就職活動のまっただ中。部活どころではなかったのである。おまけに、ヘロポンは顧問のゼミ生でもあった。
 しかしこの時点でヘロポンは、顧問(卒論指導教員)が、卒論より就活を優先させているのは知っていたが、まさか、卒論より演劇部を優先させようとするとは思いもしなかったった。それに気づくのは、彼女の卒論が佳境に入ってからのことであった・・・。

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旗揚げ公演編

第二話 「山が動いた」


 顧問は、昼休みの集まりに一冊の本を持っていった。

 いとうせいこう、『幻覚カプセル』、扶桑社、1992年。

 短編コント集であるが、ただコント集ではない。この中のコントのうち数本がナイロン100℃によって上演されてるし、大学の演劇部でもよく上演されているのに、本そのものは絶版で、入手が困難な一冊である。なぜ、顧問がこんな貴重本を所持していたのか。実は、同じ作者の『ノーライフキング』という小説が滅法面白く、一人の作家にはまる傾向の強いこの顧問は、中身もみずに買っていたのである。
 そして、モジョメイツ創設者の一人であるヘロポンと、劇団を立ち上げた暁には、これをやったらどうかと話していた本でもあった。

 顧問は、学生の自主性に任せてみようと、しばらく様子をみていたというわけではなく、以前、ヘロポンと話しをしたときに、ヘロポンが借りて帰ってそのままになっていたからだった。

 やっとこさ戻ってきた本を部員たちに読ませた。
 
 実はこのコント集、いとうせいこう作だけあって、ただものではない。扱われているのは、そこらへんにある「笑い」ではなく、人間、絶望の淵に立つと、最後には笑いが漏れるという「笑い」なのである。いとうせいこう自身、本のあとがきで「観客がくすくす笑えば成功だ」と書いているように、コント集なのに大爆笑がとれるものではない。それでなくても、笑いをとるのは難しいのに、絶望の笑いなんてものを狙うような本を素人劇団の、それも旗揚げ公演に選ぶなんて、顧問に、いったいどんな魂胆があったのか。

 何もなかった。顧問もヘロポンも、ただ「これ面白い!」と単純に思っていたのだ。そして、部員たちも同じように思ったのだった。

 『幻覚カプセル』の中から、「自己否定する霊」という作品が、旗揚げ公演の演目として選ばれ、公演日程も7月17日(木)・18日(金) の二日間と決まった。
 
 このとき、既に5月の下旬。公演まで2ヶ月を切っている。間に合うのか。

 

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旗揚げ公演編

第三話 「そして感動へ…」

 上演作品は、わずか10分ほどのもの。しかし、部員のほとんどは演劇素人だ。

 部員の内、高校演劇経験者はわずか3人。合唱部出身が3人、放送部出身が3人。韓国からの留学生も参加した。
 さらに、他のサークルとの掛け持ち部員が多い。茶道部、箏曲部、美術部、写真部、手話サークル、児童文学研究部、ワークキャンプ、聖書研究会、ネイチャーゲーム研究会…。演劇は総合芸術。今のモジョはスペシャリスト集団、演劇部にはぴったりとも言えなくもないが、やはり無理がある。
 2代目部長こそ、3年生で経験者のムラに決まったものの、ムラ本人は、当時、演劇企画室ベクトルの舞台に参加が決まっていて、モジョどころではなかった。

 明確なリーダーのいない「こじつけスペシャリスト集団」は、それにも関わらず動きはじめた。しかも、その動き方は、なんとも不思議なものであった。

 役者以外は何も決まっていない。演出家すら決まっていない。それでも、不思議なムードが部員全員を覆っていた。できたばかりサークルであるにも関わらず、他のサークルから「演劇部はホントに仲がいい」という評判がたっていた。出会ったばかりのメンバーなのに、変に気のあった奇行が目立った。
 
 スケジュール表すらないのに、本読みが始まる。小道具、宣伝、衣裳、効果音の準備。こっそり立看を組み立てる顧問。そして舞台稽古。授業の前後に公演のCMが流れた。
 短い期間に、本当に一から始めた演劇活動。決して完璧な準備ではない。しかし、部員全員が、自ら自分の役割を認識し、自主的に主体的にそして積極的に動いた。

 そして公演の日。大学構内に、公演をしらせる大きな立看が設置され、ポスターが貼られ、ビラが配られる。顧問が思い描いていたことが、現実になろうとしていた。あとは、舞台そのものがどうなるか。客が何人はいるか。そして、その反応はどうか。

 二日間に渡る旗揚げ公演が始まった。


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旗揚げ公演編

第四話 「ビギナーズ・ラック」

 暗闇の会場。唐突に木魚の読経の声が響く。

 そして遺影をもった黒子集団が列をなして客席から舞台へと上がっていく。劇団旗揚げ公演という雰囲気などみじんも感じさせないスタートだ。

 大道具などいっさいない。照明も、教室の装置のみ。しかし、演技が始まると客席をぐいぐいと引き込んでいくのが分かる。

 わずか10分強の芝居はあっという間に終わった。そして大きな拍手。

 旗揚げ公演は、二日間で延べ約150名の観客を動員した。昼休みだけの公演なのにである。


 公演終了後、片づけが終わった舞台の上で、部員全員が、自然に万歳をしていた。とにかくやりとげた満足感に満たされていた。


 部室に戻り、あらためて乾杯。続いてむさぼるように、観客のアンケートを読んだ。絶賛の嵐であった。

 「大学に、こんな酔狂なことをしている人たちがいるとは知りませんでした」というものまであった。うれしかった。

 実質的な創部から旗揚げ公演まで2ヶ月。よくここまでたどり着けた。そして、集客、評価も十分なものであった。

 しかし、旗揚げ公演の成功が、後になってモジョメイツを苦しめることになろうとは、誰も思わなかった。



 事実、この後しばらくは、モジョメイツは、それなりに活動をつづけて行けたのである。



 
  
「旗揚げ公演編」おわり


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紫苑祭2003〜クリスマス公演編


第一話「次なる挑戦」

 旗揚げ公演が終わると、部室は火が消えたようになった。

 できたばかりの演劇部には年間活動計画があるわけでもなく、大学演劇部に目指すべきコンクールがあるわけでもない。また、多くの部員たちは、他のサークルとかけもちをしていた。つまり、旗揚げ公演というイベントが終わったモジョメイツのメンバーは、元の生活に戻っていったのである。

   いつも灯りが消えている部室の窓をみては、顧問は寂しい気持ちになった。自分が大学の時は、登校しても授業には出ずに、部室にいりびたったものだった。旗揚げ公演の際に、4年生が用意した花束は、花瓶代わりのゴミ箱の中で、しおれ、そしてカビだらけになっていった。

 それでも、大学には学祭(紫苑祭)があった。しばらくすると団員たちは、再び部室につどい始めた。学祭のステージでの公演の依頼もあったが、それは断り、いとうせいこうの『幻覚カプセル』より「幻覚カプセル」「魔がさして」を選び、旗揚げ公演で演じた「自己否定する霊」の再演を含め、三本立ての計画を立てた。公演場所は一般教室。「藻女茶房」という中国茶カフェをライブハウスに見立てての公演である。

 3つのグループに分かれ、遅くまで練習が続いた。

 喫茶店の準備はほったらかしだった。

 旗揚げ公演の観客は学生だけだった。しかし、今度は一般客も多い。一般教室で舞台装置はないに等しい。

 新たな挑戦である紫苑祭公演が始まった。



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紫苑祭2003〜クリスマス公演編

第2話「第2幕」

 第2回公演であり、初めての学外者対象の紫苑祭公演は、コンサート等の他の人気プログラムに客を取られたり、校舎内に人が入って来にくいといった状況もあり、決して動員数は自慢できるものではなかったが、まずまず成功であったと言えよう。

 『幻覚カプセル』は、大爆笑コントという本ではないが、そなりにウケた。旗揚げでは昼休みだけの公演だったのが、今度は二日間、延べ7回の公演をこなした。喫茶の方もドタバタしたものの、それなりに利益も出た。つまり、それなりの満足感にひたることができたわけである。

 こんなレベルで満足していてはいけないはずだったが、「それなりの満足感」はモジョメイツを蝕んでいた。できたての素人劇団が、大学演劇部へと変わっていくための第2幕は、まだ上がらなかったのである。

 すでに一部には、「このまま、ちょっとした刺激と満足感が得られるショートコント劇団で終わってしまうのだろうか。本格的なお芝居なんて、モジョメイツでは無理なのか」という不満が出始めていたものの、「それなりの満足感」が、そんな不満を隠すように全体を覆っていた。

 それでも、モジョメイツには、まだ、<できたてほやほや>というエネルギーがあった。その力は、年末のクリスマス公演へと向けられていった。

 モジョメイツが所属する女子大は、すでに翌年4月から共学になることが決まっていた。女子大最後のクリスマスを飾ろうと、感動作+ミニコンサートという企画が持ち上がった。

 O.ヘンリー原作「賢者の贈り物」を舞台化し、さらに団員全員によるクリスマスソング・コンサートで盛り上げようというのだ。また、1年間の留学で、モジョに参加している交換留学生のヂンミも舞台に立つことが決まった。

 「今度はまじめなモジョメイツ」というキャッチフレーズとともに、また、新たな挑戦が始まった。それは、本当の「第2幕」を上げようという内なる欲求だったのかも知れない。しかし、部員の体は思うように動かなくなっていた。

 練習に人が集まらない。伴奏曲が手に入らない。宣伝、衣装、小道具、すべての面で、思うように進行しない。ついに歌の練習は、最後まで全員が揃うことがなく、本番を迎えることになってしまった。

 果たして、新しいモジョメイツが見られる幕は開くのだろうか。

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紫苑祭2003〜クリスマス公演編


「番外編 −勉強と部活の両立−」


 貧乏弱小サークルにも小型のスポットライトがやってきた。さっそく顧問は、4年生のヘロポンと一緒に団員が練習中の大講義室へと出向いた。

 顧問「よし、どのぐらいの距離で効果があるか、試してみよう。へろぽん、ちょっとコード持ってくれ。」

 へろぽん「先生、私、図書館で卒論を書きたいんですけど。」
 
 4年生のヘろぽんは卒論提出締め切りまで一ヶ月足らずという段階に来ていたのである。

 顧問「お前、卒論と部活とどっちが大事なんや!」

 へろぽん「卒論です。」

 顧問「お前なあ、卒論は一生にたった一度のことやから、書き終わったらそんでしまいや。しかし、演劇は違うぞ。芝居とは一生付き合っていくんや。今、どっちが大切か分かるやろ。」

 へろぽん「はいはい、手伝ったらええんでしょ。」

 顧問「ほな、このコードをそこへつないで。ありゃ、大講義室で使うには、ちょっとランプくらいなあ。」

 へろぽん「先生、これ、スナックとかのカラオケ用ステージで使うやつでしょ。」

 顧問「おっ、このマスクつけたら、形変えれるでえ。おもろいなあ。」

 へろぽん「先生、やっぱり図書館行きます。」

 顧問「あっ・・・。行ってもた。」
 
 顧問は、ヘろぽんの卒論指導教員でもあるのだ。いや、でもあるのに・・・・。 



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紫苑祭2003〜クリスマス公演編

第3話「寂しいクリスマス」

 mojoメイツの第3回公演の幕が切って落とされた。12月の授業最終日。動員できた客は、わずかに50人余り。300人以上収容できる大講義室は、旗揚げ公演に比べて、閑古鳥がなくような寂しい状況だった。直前に、プロのゴスペルグループが学内で無料コンサートをおみやげつきで開催するといった不利な状況はあったものの、やはり宣伝不足であった。

 しかし、たとえ少なくとも、モジョメイツを観るためにわざわざ足を運んできたお客さんである。そんな「いいお客さん」が見つめる中、芝居は始まった。


 O.ヘンリーの『賢者の贈り物』。誰もが知っているお話だ。女子大の演劇なので、男役も女子学生がこなしている。そんな不利な状況ながら、観ている者がどんどん引き込まれていく。あるムードが舞台と客席を覆い始めた。役者が役になりきってしまうと演技が出来なくなる。それでも役者が、本当の涙を流す。当然、観客にもその感動は伝わっていった。

 人を感動させるのは、そう簡単なことではない。計算しつくされた映画や音楽とは違い、人が、人前で、生で演技を見せる。それが感動を呼ぶ。モジョメイツもなかなかやるやんかと思っているうちに、お芝居は終わってってしまった。さすがに短編小説。あっという間だった。

 暗転したあと、ラストシーンのまま明転となり、シームレスにコンサートが始まった。これはなかなかよい。まるでミュージカルのようだ。

 歌の方は、さすがに練習時間に比例したできではあったが、今回の公演の意図は、十分観客に伝わったようだった。

 ***

 寂しいクリスマス公演の幕が閉じた。そして、いつものように「よいアンケートの結果」「それなりの満足感」というコースをたどって、打ち上げへと流れていく。

 いったい、なんの為に練習をしているのか。

 一生懸命練習していい舞台を作ったら、一人でもたくさんの人に観てもらいたい−−−このプロセスの途中、舞台を作るだけで終わってしまっている。自己満足以外の何ものでもないはずだが、そこそこの満足感を得られるのだから、話はやっかいなのである。

 しかしモジョメイツには、自己改善力があった。この<それなりの満足>という呪縛からが逃れるために、ついに長編に挑戦することになったのであった。



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新歓公演2004編


第1話「陣痛」

 創設メンバーである。ひろぽんが卒業していった。もともとクリスマス公演は、ヒロポンも顧問と一緒に舞台に立つはずだったが、実現せず、結局、一度も舞台に上がることもなく、ひろぽんは卒業していった。
 彼女は、舞台づくりに、積極的には関われなかったけれども、モジョのメンバーには、先輩がいるというだけで心強かったに違いない。
 彼女がいなければ、モジョそのものが存在しなかった。演劇のすばらしを感じることもなかったのである。

 芝居を作っていく、ただそれだけで楽しい。本が悪くても、演技が下手でも、やっぱり楽しい。演劇とは、なんと魅力的なものなのか。そして、向上心をもくすぐる。もっといい演技がしたい、もっといい舞台にしたい、もっとお客さんに来て欲しい。

 いまのMOJOの芝居に足りないモノはなんだろう。追い出しコンパの余韻にひたることもなく、団員たちは考え、そして、当たり前の結論に達した。もっといい本で芝居をしたら、もっといい舞台になる。旗揚げから何度かつかったいとうせいこうは、笑いをとるのに苦労する難しい本。ウケは良かったがO.ヘンリーは短すぎた。適度な長さがあり、それほど難しくなくて、演劇らしいもの。彼女たちの本探しがはじまった。

 つかこうへい、鴻上尚史、高校生向け台本集・・・。いろんな本が集まる。次は、新団員を集めるための新歓公演。それにふさわしいものではなくてはならない。あーだ、こーだと議論は空中分解。決め手がない。
 最後に残ったのが、恵比須平作「割腹自殺(仮)」。高校演劇ではよく演じられている本だが、小道具に音響、照明など、これまでにはなかったことが要求される。また、ネットでこれまでの批評を調べると、どうも観客には難解なお話らしい。「あー、なんでまたこんな大変な本を選んでまうんや−。もっと万人受けして、お話だけで十分おもしろものを選べばいいのにい」という顧問の想いは通じることもなく、キャスティングが始まる。今回はWキャストにするという。それも、同じ芝居を二つのチームで別々に上演するというのだ。そんなことができるのか。


 例によって演出家も決まらないまま、春休みの練習スケジュールが組まれる。そして、例によって練習に人が来ない。同じ事の繰り返し。二チームどころか、一チームの練習すらままならない。出演者以外が見守る中、三人の芝居なのに、二人の練習が続く。

 演技をどうしたらいいのか。本がよくない。こう手をいれてはどうか。おもしろい。その展開はちょっと。前に進まない。いらだつ日々。これが産みの苦しみなのか。

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新歓公演2004編

第2話不完全燃焼

 結局2チームの内、1チームは出演を見送ることになった。

 どこか「やっぱり・・・」という気分の中、体育館の大型ピンスポットライトを貸借が決まり、小道具も集まり、効果音の作成も順調にすすみ、ついに4月27日の公演日がやってきた。


 立て看設置、ビラまき、呼び込み・・・そして、開場。しかし・・・、しかし客がほとんどいない。

 必死の呼び込み。それでも客足がのびる様子もない。開演時間をそうそう遅らせるわけにもいかない。ついに、新歓公演の幕が上がった。

 僅かな客の前だったが、役者は熱演だった。客がすくないからこそ、熱演になるのかも知れない。


 みんな一生懸命、舞台を作っていた。
 しかし、幕が下りても、いつもの感動はなかった。
 キャスト・スタッフの胸には、いろいろな思いが溢れていたに違いない。悔しさか、怒りか、それともあきらめか。
 いずれにしろ、やりきれないムードが公演後の舞台を覆っていた。

 照明、音響、小道具、大道具、立ち回りに、幻想的なシーンと多彩な場面設定。おまけに一時間近い公演時間。宣伝に力を入れる余裕がなく、観客動員数が致命的に少ない。まだ、モジョにはこんな舞台をする力はなかったのか。

 いや、団員のやりきれなさは、そんなことから来たのでなかった。自分たちの限界はこんなところではない。やればできたはずだ。なのに、できなかった。いや、しなかった。なぜだ。なぜしなかったのか。

 これまでの3回の公演では、いずれも「それなりの達成感」を味わうことができた。それに引きかえ、このむなしさはなんだ。

 さっそく、反省会が開かれた。

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新歓公演2004編

第3話慟哭


 部員ががらんとした食堂に集まった。部室では部員が入りきらない。いつの間にかモジョも大所帯となっていたのだ。

 暗い反省会が集まった。
 一人づつ、思い思いの反省点を述べていく。
 まるで集団懺悔のように。
 目には涙を浮かべ、嗚咽が漏れる。
 内容は、具体的なことよりも、精神的なことになっていった。

 どういうつもりで、芝居をやっているのか。
 自分の学生生活のなかに、モジョがどれほどの場を占めているのか。
 演劇にどういう姿勢でとりくむのか。
 いったいなぜ演劇をやっているのか。

 演劇部創設から、一度も問われなかったことが、部員一人一人に重くのしかかっていた。

 「もっと練習に参加するべきだった。」「時間がなかなかとれなかった。」・・・
 顧問は、抱き合って涙を流して反省している部員たちのそんな言葉を聞きながら、何かが違うと感じていた。

−そんなことやない。「毎回練習に出ます」とか、「私はモジョが全てです」とかじゃないんや。持てる時間を全て演劇につぎ込む。学生時代ならそれも可能かもしれない。でも、人生すべてを一つのことに打ち込むことはできない。だから、一人一人が出来ることを精一杯やればいい。その気持ちが大事なんや。そして、その気持ちをうまく合わせることがもっと大事なんや。では、誰がそれをリードするのか。

 モジョの公演には一度も制作・演出・舞監がいたことがない。やろうという者もいない。小さい劇団なので仕方がないのかも知れないが、弱点であることは間違いなかった。

 この涙の反省会の結論は、今回の公演そのものにダメをだすことになった。

 追加公演の決定である。

 もう、こんな気持ちになるのはたくさんだ。新たな気持ちで、舞台づくりが再開された。

 再演は、一ヶ月後の5月23日。日曜日である。学内公演なので平日の方が客を動員しやすい。今回は、それでも動員できなかったのに、敢えて日曜日に設定をした。
 これは勝負である。授業のついでに、という客を排し、本当にモジョのお芝居を観たい人だけを対象にやる。
 いったいどれだけ客がよべるのか。
 
 第4話 「ため息」へつづく