キンゴジ『キングコング対ゴジラ』(1962)

不遇な作品『キングコング対ゴジラ』

 ゴジラシリーズ最大の動員数を誇る『キングコング対ゴジラ』。本編、特撮ともにまさにあぶらののりきった、東宝映画黄金期の傑作である。ゴジラ造型史上不世出の傑作「キンゴジ」という名獣の魅力も大きい。
 それだけの作品でありながら、実は恵まれない作品であることも確か。70年代の「東宝チャンピオンまつり」でのリバイバル上映のために短縮版を制作、その際にオリジナルは失われてしまった。そのため、過去のビデオ発売に際しては様々なフィルムの断片をつなぎ合わせることでオリジナルを「復元」していたのである。画質は、退色したような場面が入り混じり「ゴジラ初のカラー作品」を微塵も感じさせない悲しいものだった。
 『ゴジラVSキングギドラ』公開時(1991年)にビデオソフトがリニューアルされたが、これは新たなマスターから復元されており、大変鮮やかなカラー映像に感動したのを覚えている。
 そして2001年、DVDソフトとして過去最高の画質・音質で復活。2002年には『キングコング対ゴジラ』は公開から40年を迎えた。ただし、DVDでは復元されたシーンに合わせて全体の色調を統一してあり、解像度は高いものの必ずしも発色がいいわけではない。LD『ゴジラ激闘外伝 東宝チャンピオンまつりコレクション』収録の短縮版がもっとも画質に優れているとも言われているが、ま、コレは余談。
 それでは、人気がありながら謎の多い名獣キンゴジについて考察してみよう。

謎多きキンゴジ

7年ぶりにスクリーン上に姿を現したゴジラ、通称キンゴジは過去2作のゴジラとは「違う怪獣か?」と思わせられるほど、モデルチェンジが施されている。以後のゴジラに引き継がれていく大きな変更が、耳がなくなったこと、足の親指がなくなり3本指になったことの2点。
 その他の特徴をつらつらあげると、爬虫類的な鋭角的な横顔、眉間が狭く極端に口の大きい少々マヌケな前顔。ボリュームを増したフォルム。これでもかと太い上腕、他の指と同じ向きに向いた親指(物をつかめないゴジラはキンゴジだけではないか)。背ビレは、ステゴザウルスの菱形の背ビレをアレンジした初代、逆ゴジから、長方形基調へと変更された。
 キャラクターも変化した。原水爆の恐怖の具現化、人類の被害者、強暴な野獣、獰猛なるファイターから、やんちゃな巨大生物へと(擬人化はされてないと思う。あくまで動物的。地球最大ゴジラ以降とはそこが違う)。
 物をつかめない、と先述したがそれは親指の向きだけの問題ではない。実はキンゴジは小指に役者の指は入っていない。親指もあの形状では入っていても動かせないだろう。実際自由に動かせるのは中央2本の指だけだったのではなかろうか。

 何故キンゴジはこうなったのか?それがぜんぜんわからないんである。確かにこのミステリアスなところも魅力のうちではあるのだが・・・・・・。ファンとしては推測するしかない。しかしこれまた不運なことに、初代、逆ゴジ、モスゴジでは詳細に残されているメイキング写真がキンゴジにはまったく無いときている。
 だが、逆ゴジとキンゴジをつなぐミッシングリンクがあった。アメリカから発注されたジャイガンティスである。初代の顔にキンゴジの体形、耳は無く足の指は3本。つまりキンゴジはジャイガンティスのデザインを踏襲しているわけだ。キンゴジを知るためにはジャイガンティスについて考えてみる必要もありそうだ。
 さて、その他キンゴジの特徴をあげつつ、謎に迫ってみよう。

小ぶりなキンゴジ

 ボリュームたっぷりなキンゴジだが、着ぐるみとしては小ぶりなものである。理由として考えられるのは2つ。一つ目は演者の中島春雄氏にあわせて造られたこと。そして二つ目が、対戦相手のキングコングに大きさをあわせたこと。というのは、両者が対等に見えないと面白くないという理由で、撮影中もコングを台にのせるなどして大きさをあわせ、見た目で強弱がわからないようにしていたという話があるからで、それは着ぐるみ製作中も意識していたのではないだろうか。
 また、そのボリュームのわりにすばやいイメージがある。もしかしたら、通常のハイスピード撮影以外にノーマルスピードでの撮影も併用しているのかもしれない(埋没作戦直前の、見守る防衛隊員とワンカットで収まったシーンはノーマルスピードで間違いなかろう)。

頭部は逆ゴジ?

 当時特美に所属していた村瀬継蔵氏の証言によると、キンゴジは頭部の原型を新造していないという。つまりすでに存在していた型から抜いたということ。初代ゴジラはありえないとすれば(流用可能なら逆ゴジも同じ顔になったはず)、逆ゴジかジャイガンティスということになる。
 実際、逆ゴジ、ジャイガンティス、キンゴジは頬の肉取りなどよく似ている。キンゴジは異質なようだが、それはあの三白眼と下アゴ、歯並びによると思われる。
 筆者はジャイガンティス・キンゴジともに逆ゴジの型を流用していると考えたい。型から抜いたまま使っているのがジャイガンティス(やや鼻面が長いか)、頬を太らせたのがキンゴジではなかろうか。逆ゴジからジャイガンティス、逆ゴジからキンゴジへは変遷が見やすい気がするが、ジャイガンティスからキンゴジというのは写真を見る限り想像し難い。耳は表面のモールドと同じく後付けだったのだろう。
 逆ゴジの頭が小さいのに対しキンゴジが頭でっかちに見えるとしたら、それはキンゴジ自体が小ぶりだからだろう。

メイキング写真があった!!

 94年ゴジラ誕生40周年を記念して発売された『ゴジラ大全集』。これを見てびっくりしたのが、個人スナップとして一枚だけ掲載されている製作途中のキンゴジの写真。小さい写真だが、確かにキンゴジのボディを作る村瀬氏といったもの。キンゴジ自体は金網をベースに肉づけが終わった状態で、頭・手首は付けられていないが、足首は爪まで造型されている。そしてこの写真がさらなる謎を呼ぶのであった。

足の指が四本!?
 
 本を持っている人はよく見てほしいのだが、なんと!足の指が4本あるのだ。初代より前に付き逆ゴジほど退化してない親指がちゃんとある。ジャイガンティス以来3本指じゃないの?完成したキンゴジに親指が無いのはいったいどうしたわけじゃ?云えるのはこの写真の存在で「ジャイガンティス・ミッシングリンク説」を無条件に認めることはできないということだ。
 それでは、完成版のキンゴジにその痕跡は残されていないだろうか。実はある。キンゴジの足をよく見ると、3本の指がバランスよく生えているわけではないことがわかる。モスゴジ以降では中指を中心に左右対称であるが(左右の足の原型が共通なためか)、キンゴジでは外側2本がほぼ平行で内側の1本がやや角度をつけて離れて生えている。次に足の裏を見てみよう(『大ゴジラ図鑑』参照のこと)。かかとからアウトラインのやや内側を通って中指と人差し指(か?)の間に抜ける接合痕が見える。これがもともとの足裏のアウトラインであり、親指と人差し指を切断して1本にまとめて新造した痕跡なのじゃなかろうか。付け根が太いため(2本分だね)、新造された指は他の指より太めになっている。
 もう一つ、キンゴジはヒザ頭と足首の向きが一致してない。ヒザ頭が外を向き、足首は前を向いている。これも作業途中での足首デザイン変更が原因と考えればつじつまがあうのではなかろうか。
 ちなみにキンゴジまでは、足首から爪にいたるまで型抜きではなく金網成形で作られていた。

背ビレの系譜

 デザイン変更がされた背ビレ。理由は不明だが、昭和ゴジラはこのデザインを踏襲していく。いや、デザインだけじゃなく型そのものも大戦争ゴジラまで共通のものを使っているようだ。
 モスゴジと大戦争ゴジラはともかく、キンゴジが同じ型の背ビレであることには異論が多いかもしれない。だが、当時の造型物へのスタンスからして、新しく原型を造ったのならあそこまで忠実に前作を再現しないのではないだろうか。ましてや背ビレ以外キンゴジとモスゴジに共通点はないのだから。ただし一番大きいものは、特に下側のトゲの並び・形状に違いが見られ新造している可能性がある。
 「いや、キンゴジは背ビレの大きいのが魅力。モスゴジの背ビレは小ぶりじゃないか」という意見もあるかもしれないが、やっぱりそれはキンゴジ自体が小さいからだろう。背ビレ自体は共通なのだ。
 ちなみに大戦争ゴジラは、上の2枚の背ビレが上下ひっくり返して取り付けられている。これも謎だ。単なるケアレスミスで、意味は無いのかもしれないが・・・・・・。
 またキンゴジの背ビレはヤマダマサミ氏によると金網細工だそうだが、筆者はラテックス成形だと思う。富士山麓決戦でのキンゴジのあの転げっぷりでもつぶれたりしていない。金網ではあの動きは耐えられないのではなかろうか。ただ金網説だと上記の「モスゴジと同型説」が若干怪しくなる。まあ金網細工のキンゴジの背ビレを直接原型にしてモスゴジの背ビレを作った可能性もあるので両説が並び立たないわけではない。またそうすると最大の背ビレの形状が違う理由を「(原型にした)キンゴジ背ビレの劣化」にもってこれる。

キーパーソン円谷英二

 では何故、逆ゴジと共通の頭部をもち、足には4本の指があったキンゴジが実際に映画に登場した姿になったのか。キーを握るのが円谷英二特技監督である。
 製作途中のキンゴジを見て円谷特技監督は「目がきつすぎる。頬も落ちすぎだから、もっと膨らませろ」と言って特美のスタッフに修正させたとか(『ゴジラデイズ』の有川貞昌氏のインタビューより)。この一言でほぼ逆ゴジの型を流用したままだった頭部は、眉間が狭く下ぶくれな顔になり、下アゴは頬に合わせて大きくされ、結果としてそれまでになく歯並びが悪くなり、耳はバランス的に付けられなくなったのではないか。また同時に全身のバランスが見直され、貧弱だった足首はボリュームアップに伴い3本指へと変化を余儀なくされたのではないか。
 
 ともあれ、名獣キンゴジはあの姿で誕生した。

そして、謎のジャイガンティス
 
 以上が筆者の新(珍)説だ。でもこれじゃ、謎を増やしただけのような気がする。特にジャイガンティスについては存在を無視しただけのような・・・・・・。しかしジャイガンティスに耳が無いのも足指が3本なのも事実。アメリカからの依頼で爬虫類ぽさを押し出し耳を付けなかったのだろうか(違う怪獣という設定だし)。キンゴジももしかしたら、海外での公開にむけて、アメリカで撮影されてるはずのジャイガンティスのデザインにあわせることになった、とか。謎は深まるばかり・・・・・・。

「キングオブゴジラ」キンゴジ

 「バランスの中のアンバランス」名獣キンゴジはまさにきわどいバランスで成り立っていた造形だった。紆余曲折を経て誕生したキンゴジ。最初からあの形を目指したものではなく、ゴジラのデザインとして完成したものでもなかった。製作者にとっての「究極のゴジラ」は2年後のモスゴジで完成することになる。
 
 未完成であるが故に、意図していないが故に、キンゴジには確かに「何か」が宿っている。
(2003.10.2若干の加筆訂正、2005.8.25文章全体を再校正)
追記

 2005年発売のDVD『ゴジラ ファイナル ウォーズ』スペシャルエディション特典ディスク『スピリット オブ ゴジラ 〜怪獣を演じた男たちの軌跡〜』の中で、開米栄三氏のインタビューでキンゴジ変貌の謎がわずかに明らかになった。東宝の営業サイドからの要望でゴジラの恐怖感をなくせ、という要望があった。そのために恐怖感を感じさせる尖った耳と2本のキバが排除されたのだという。(2005.8.8加筆)

 2ちゃんねるの特撮!板の【利光・高山】 特殊造型職人列伝 【エキス・開米】でも興味深い議論が交わされており、キンゴジについてもおもしろい説が取り上げられている。
 ジャイガンティスの顔原型は東宝では『獣人雪男』に関わった大橋史典が製作、キンゴジは東宝が大橋作の原型を勝手に流用したものだというのだ。ちなみに『獣人雪男』は1955年、ジャイガンティスの製作は1957年頃と推測されている。またジャイガンティスのスナップ写真に写る造型スタッの中には大橋はいない(雪男に入った大部屋俳優、相良三四郎は大橋史典その人だという)。(2005.8.25加筆)

参考文献

ヤマダマサミ 1995 『大ゴジラ図鑑』 ホビージャパン<BR>
ヤマダマサミ 1995 『絶対ゴジラ主義』 角川書店<BR>
テレビマガジン特別編集 1994 『ゴジラ大全集』 講談社<BR>
岸川 靖 1994 『ゴジラ写真館 第二集』 大日本絵画<BR>
冠木新市 1993 『ゴジラ映画40年史 ゴジラデイズ』 集英社