東宝DVD『大怪獣バラン』で造形を考える


 平成17年1月21日に『大怪獣バラン』のDVDが発売された。このDVDのオーディオコメンタリーは村瀬継蔵氏。黄金期の東宝特撮で怪獣造形を手がけた人物である。今回のDVDは造形を中心に村瀬氏が語っておられるが、初期東宝怪獣の造形を考察する上で貴重な証言である。また、特典映像としてバランの皮膚とトゲの造形実演が収録されている。これは過去に書籍等で村瀬氏が語ってこられた内容を裏づけ、補完するものであった。
 ここではそのDVDから得られる情報をまとめておきたいと思う。また、過去にバランの造形について一番詳しかった、ヤマダマサミ氏が関わった文献との相違点についても触れてみたい。
 ※発売間もない商品ですので一部ボカした表現をしています。
 
1、当時の東宝特美
 『大怪獣バラン』製作時の東宝特美のスタッフは以下の5名。初代『ゴジラ』以来のメンバー、チーフ利光貞三、八木康栄・勘寿の八木兄弟、開米栄三。そして同年の『美女と液体人間』より参加した新人、村瀬継蔵。それぞれの担当は、利光が頭部、八木兄弟が金網によるボディの成型、以後の和紙貼り、布貼り、ラテックス皮作りを開米と村瀬という具合だった。塗装は八木兄弟を除く全員がかかったという。
 バランのデザインはおそらく特技監督円谷英二、特殊美術の渡辺明、そして利光貞三が中心になって作られたものではないか、とのこと。ただしトゲと甲羅のモールドの造形プランは村瀬のアイデアである。

2、皮膚のモールド


 バランの特徴的な甲羅のモールドである。
 スーパーディオラマシアターゴジラで村瀬氏は「体のモールドは平たい石を粘土に並べて型を取り、皮膚のパターンを造って貼ったもので、後にエキスプロのガメラでも同じようなやり方をした」と語っている。大ゴジラ図鑑2ではそれを受ける形で「河原の平たい石を並べて粘土原型を作ったものから型取りしたもの」と書かれている。
 最初それを読んだ時から、納得できる部分もあれば、「ガメラにそんな部分あったか?」という疑問もあったのだが、今回その疑問が氷解した。
 今回実演された製作方法は、『落花生の殻をモチーフに粘土でイボをつくり、それに(表面の荒れた)石を軽く押し当ててザラザラ感を出す』というものだった。石にはブロックを砕いた、多泡質のザラザラしたものが使われていた。これをスタンピングして質感をつけるわけだ。
 実演の映像に関しては「なるほどなァ」。これはDVDを実際に見てもらう方が早いので未見の方はぜひDVDを入手して欲しい。

3、トゲ
 これも上記のヤマダ氏の二つの文献で「ビニールホースを斜めにスライスしたもの」と言われていた。コレに関しては間違いはなく、さらに詳しい製作法が判明した。ビニールホースを斜めにスライスし、その切断面に「スリガラス状の半透明のビニールシート」を貼り付ける。こうすることで光が反射し、質感が出るのだそうだ。一体分のトゲで4〜5日の製作期間を要したという。そうやって出来たトゲは甲羅のパーツに糸で縫いつけて固定した。そのため撮影時に取れてしまうことは一切無かったそうだ。
 実演映像では製作秘話を聞くことも出来る。ちなみに生徒の品田冬樹君は切断面とホースの湾曲方向の沿わせ方を間違っているようだ・・・。あれでは上手くいかないだろう。
4、わき腹の皮膜

 バランが飛翔する時展開する皮膜、これもやはりスーパーディオラマシアターゴジラの村瀬氏インタビューから天竺布を使用しているといわれてきた。今回のDVDではスリガラス状の半透明ビニールシートが使われているという証言に変わっている。実際に現存する飛び人形のカラー写真を見ても、半透明のビニールシートで間違いないように思われる。DVD内では言及されないが、おそらくトゲで使われたものも同様のシートなのだろう。塗装は根元の方から素材の色とグラデーションをかけるようにオレンジ色が塗られている。塗料はザボンエナメルだという。
 なお、着ぐるみの皮膜は取り外し式ではなく、わき腹に付いているものを引き出して(腕を伸ばすと展開するようになっている)皮膜を広げるシーンに対応したという。『大ゴジラ図鑑2』掲載の試着風景を見ても、着ぐるみ自体に皮膜が着けられていたことがわかる。

5、頭部

 バランの頭部は粘土原型から型を起こしてラテックスで複製したものではない。金網成型した芯の上に和紙を貼り、ラテックスでドンゴロスを貼り付けたものに脱脂綿などで直接肉付けしていったものだという。これには少なからず驚いた。頭部のような複雑な部分は当然型抜きだという先入観があったからだ。確かに初代ゴジラは張子の芯に肉付けしていったものであるのはメイキング写真からもわかるし、ラテックス導入後のアンギラスの頭部も同様だったというのはこれまでも言われていたことで、バランもそうだったというだけのことだ。だが1958年のバランがそうなら、1957年頃製作と推測されるジャイガンティスは?ジャイガンティスが直付け造形なら、その型を流用したという説がある1962年製作のキンゴジは?村瀬氏はキンゴジについて『新たに顔の原型を起こしていない』というが(ヤマダマサミ『絶対ゴジラ主義』)、それはすなわち「原型を起こす必要がない方法をとった」と言う意味ではないのか?『東宝特撮映画全史』には中島春雄の「(ゴジラの顔の)型を取ったの、円谷さんの要望で」という談話がある(キンゴジのページだがおそらく顔の型を取ったのはモスゴジ時)。これはモスゴジの前はゴジラの頭部は型起こしではないという事ではないか?などなど、さまざまな推測と憶測を呼ぶが、話をバランに戻そう。
 頭部の担当は利光氏。脱脂綿によって肉付けした後は、金網を残した上で内部に5ミリの鉄のアームで骨組みを組み、そこにモーターを仕掛け口の開閉を行った。その頃は無線が無かったため有線によるバッテリーのスイッチングでのコントロールだったという。開閉にはマブチモーターとモリコウのユウセイギアを使用(『大ゴジラ図鑑』のキンゴジの解説と同じ)。また、バランの目玉は電飾されていたという事実も村瀬氏の口から明らかになった。

6、体

 八木兄弟が作った金網の芯の上にまず和紙を貼り込む。そして次に布を貼り、ラテックスで型抜きした皮を貼っていく。バランの身体は非常に筋肉質なイメージだが、これが金網の芯の時点で非常にリアルに形作られていたという。ただし、あくまで金網成型のため、ぶつかったりするとペコッとへこんでしまったという。芯のイメージは初代ゴジラのメイキング写真にある張子を想像するとよいだろう。
 また、着ぐるみは非常に薄い作りだったというが、これは動きやすさのためではなく、硬いものだと甲羅の脱着が出来ないという理由によるという。
 尻尾は10ミリ厚のスポンジが70枚程重ね、全体のフォルムを作るためにグラインダーで削って滑らかにし、全体に皮を貼っていったという。ここから判明する事実が1つある。このころすでに怪獣造形にスポンジが使用されていたということだ。確かにバランの尻尾のしなやかな動きは金網造形では難しいだろうと思う。

7、カラーリング

 バランの色は着ぐるみ、飛び人形ともにカラー写真が現存しており、また『怪獣総進撃』でも確認できるため、他のモノクロ怪獣とは違い、色に関する謎はない。村瀬氏が語るところによれば、「セピアより明るく黄土色に近い色」ということである。前述のとおり、トゲと皮膜は素材の色がベース。『東宝特撮怪獣映画未公開写真集』掲載の着ぐるみのカラー写真を見ると、トゲにも皮膜同様のオレンジ色のグラデーションが根元に入れられている。同じくザボンエナメルという塗料を用いたものだろう。
 映像特典によると、「塗料は壁塗り用の水性塗料、アンモニアで溶いたラテックスを混ぜてエアブラシで吹く。ラテックス皮にもあらかじめ塗料が混ぜてあり、色がはがれても大丈夫」ということである。ただしこれがバラン当事の再現か、その後の村瀬氏の経験によるものかはやや不明瞭である。
 前述の『東宝特撮怪獣映画未公開写真集』をみると、実際の着ぐるみはかなりオレンジ味が強く、多くの模型の作例で見られるような「地味な黒褐色」というイメージはない。透明な素材を生かしたトゲの色味とのコントラストともあいまって、怪獣として非常にキャラが立った存在感がある。

8、まとめ

 さて、以上のような過程、素材、方法でバランは誕生した。モノクロ怪獣ということもあって、地味で、結局平成に入っての復活は無かったバランだが、非常に魅力的な怪獣だ。
 今回のDVDでは長らく封印されてきたと思われる予告編や、近年発見された幻の海外テレビ版日本語音声が収録されており、資料性が非常に高い。テレビ版から映画版への異同など、ぱっと見つじつまが合わないところなんかもあり(映画版の切り貼りで映像を復元しているための錯覚もあるかもしれない)、新たな謎が増えたともいえる。またそこらへんも掘り下げてみたい。

参考文献

東宝DVD 2005 『大怪獣バラン』
田中友幸監修 1983 『東宝特撮映画全史』 東宝株式会社出版事業室
ヤマダマサミ他 1992 『ワンダーライフスペシャル愛蔵版 SUPER DIORAMA THEATER GODZILLA』 小学館
ヤマダマサミ 1995 『絶対ゴジラ主義』 角川書店
西村祐次・ヤマダマサミ 1995 『大ゴジラ図鑑2』 HOBBY JAPAN
竹内博 2002 『ファンタスティックコレクション 東宝特撮怪獣映画未公開写真集』 朝日ソノラマ

 TOP