シナリオ
  
   「アマゾネスたちのいた夏 1 /7」        

                            村 澤 正 英 

        

<登場人物>

高橋春男 ・・・ 主人公。ダイビング・インストラクター候補生。26才。

アマゾネス(5人全員、男のような言葉づかい)
  ヒロミ ・・・ リーダー格。
  聡子 ・・・ 春男が密かに思いを寄せている相手。
  ケイ ・・・ ちょっと頭が足りない感じ。彼(サトシ)が浮気をしている。
  ジュン ・・・ 気が強い。
  マリ ・・・ 気が強い。

北山 ・・・ ダイビング・ショップのオーナー。
マミ ・・・ 春男の指導教官(インストラクター)。春男より年下。
テツ ・・・ ショップのチーフ・インストラクター。
倉本 ・・・ 島の黒幕。土建屋の社長。
ヤス爺 ・・・ 倉本の腰巾着。(「爺」と云っても三十代)
玄爺 ・・・ 島の漁師。頑固オヤジ、五十代。

        

 「珊瑚群島 黒島 大神山展望台 1991年6月」

 黒島の中心地、大村を見下ろす大神山神社の展望台に高橋春男が膝を抱えて腰を下ろしている。6月と云ってもこの島ではすっかり夏で、夕暮れを迎えた今、ようやく涼しい風が吹き始めていた。大村を端から端まで見渡して、ため息をつく春男。背中越しの大村の全景にかぶって、春男のモノローグ。

春男 (生きることって難しいんだろうか、易しいんだろうか、時々判らなくなる。 難しいぞって身構えると肩透かしを喰うし、易しいさってナメてかかるとシッペ返し喰うし、どっちか判らなくてオロオロしてるとオイテケボリ喰うし、本当に、何だかよく判らんよな・・・。26年も生きてきて、今さらこんなこと言ってんのも情けないけど、アイツら・・・アマゾネス軍団見てると、ホント、判らなくなる・・・)
 
 その日の昼間。碧い海を疾走するダイビングボート。客が十人くらい、双眼鏡で海を見ている。春男も双眼鏡でイルカを探している。海側から見ると、クッキリと赤い目をした双眼鏡が5つ、並んでいる。一斉に双眼鏡を下ろす5人。この、高価だが高性能の双眼鏡「レッド・アイ」を持った面々がアマゾネスである(全員20代前半)。
 そして、波間に見え隠れするセビレを発見! ボートの上では歓声があがり、各々ドルフィン・スイムの用意を始める。。
 透明な海中をイルカと泳ぐ女たち。回転して見せると、それに合わせて回転するイルカ。右へターンすると右へ、左にターンすると左へ、人とイルカが楽しげに入り乱れて遊んでいる。
 ダイビングボートの船尾。春男が海面に漂っている人たちに声をかける。

春男 「は〜い、イルカ遠くに行っちゃったから、上がってェ!」

 船尾のラダーから一人一人上がる。3人目に上がって来たのがヒロミ。いきなり、大きな声で捲し立てる。

        

ヒロミ 「すっげ〜! 1匹、ペニス出してたヤツがいやんの! 先っぽ尖ンがっちゃって変なペニスぅ〜!、もうちょっとでマグわいそうだったのになぁ、惜しかった〜! それにしても、イルカのペニス、初めて見たな、ねェ、ねェ、見た? 見た? イルカのペニス! すっげ〜長いんだけど、細っちいポコチン!」
 
 船上。先に上がっていた女の子たち、「ペニス」の連発に唖然としている。スタッフ、その様子に顔をしかめる・・・。
 静かな湾でアンカーを打ち、昼休み。船首のデッキで春男、キャプテンの北山、インストラクターのマミ、ほか女の子の客数人、弁当を食べている。

春男 「・・・しかし、さっきフジ丸、ひどかったですね、一人うちのチームに紛れ込んじゃってんのに気がつかないで走り出しちゃうんだもんな。人数確認するなんて最低限のルールじゃないですか。それに、うちの船に近づき過ぎだし・・・」
 
北山 「まぁ、この島のドルフィン・スイムもこのまま行くと、いつか事故が起きるな」

春男 「ドルフィン・スイミング協会の方から何か言ってもらえないんですか?」

北山 「協会牛耳ってんのが・・・、まぁ、そんな話はいいじゃない。それより、みんな、イルカと泳いだのは今日が初めて?」

女の子 「はい! もう、チョー感動ですよ〜! 全身鳥肌って感じ! 目が合ったんですぅ、目が! 可愛いですねぇ〜、イルカの目って・・・」

        
 
 そこへ突然、船尾の方から、春男に声がかかる。

ケイ 「ハルさ〜ん、このハンバーグ食べるぅ? よかったら私もいかがぁ? 食べ頃よ〜ん!」

ヒロミ 「ば〜かッ! 昼間っからサカリついた猫やってんじゃね〜よ!」

ジュン 「いちいち声がでけぇ〜んだよ、ほかのお客さん、ビックリしてるじゃねぇ〜か」 

 船首デッキ。全員、思わず弁当食べる箸が止まっている。北山、我に帰って・・・

北山 「お前ら、あんまりうるさくしてっと料金倍にするぞっ!」

 船尾のアマゾネスたち5人、「きゃ〜、それだけはやめて〜、北さん、愛してる〜、恵まれない私たちに愛の手を〜」等、口々に叫ぶ。唖然としている観光客の女の子たちを振り返り、北山、苦笑して言う。

北山 「まぁ、悪いコたちじゃないんだけど、この島じゃ、野放しだからね」

女の子 「島の人なんですか?」

北山 「イルカやダイビングが好きで住み着いちゃったんだよ。結構、自然保護派なんだけど、建て前で生きなきゃいけない都会から解放されて、本音が弾けちゃったってとこかな? 自分達のこと、アマゾネスなんて言っちゃって、やりたい放題、し放題!」

女の子 「ふ〜ん・・・」

マミ 「ハルさん、ちょっといい?」

春男 「え? あ、はい・・・」
 
 マミ、弁当を置いて立ち上がり、先を歩いてキャビンに入る。春男、ドアを閉める。振り返ったマミ、先ほどまでの笑顔とは打って変わって厳しい表情。怯む春男。

マミ 「ハルさん、あれはマズイな・・・。お客さんの前ではネガティブな事は口にしないこと。他の船の悪口なんて言うと、お客さんとしては自分達の悪口もどこかで言われるかもしれないって思うんじゃない? インストラクターになるんなら、それ位の気配りは必要よ・・・」  

春男 「はい、すいません・・・」

マミ 「これから気をつけてね」

春男 「はい・・・」

                 <続く>