病気 その3
形成外科の医師はまだ若い (後で判るのだが、ほぼ私達夫婦と同年代だった…いや、ちょっと上と
言うべきか)人懐っこい笑顔の感じのいい方だった。彼はその病院の医師ではなく、週に1度だけどこ
か別の病院 (これも後で判るのだが、神奈川県川崎市の聖マリアンナ医科大学病院だった) から
来ていて、私は全くの初対面だった。「形成外科医のTです。」と慇懃な挨拶をいただき、初めに形
成外科と整形外科の違いの説明から入り …この時点で、私は話の行きつく先が見えたような気が
して、ある意味で覚悟をした。T 医師は人間的にも出来た方のようで、出産直後の産婦の扱いも
心得ているようだった(またまた、後日判明するのだが、彼の奥様も私とほぼ同時期に出産をされた
らしく、そんな関係もあるのかもしれない…) ま、私の場合はマタニティブルーや育児ノイローゼとかと
は無縁であったし、つわりがむちゃむちゃひどかった。きっと、ホルモンの分泌が他の方とは若干違うのだ
ろう …よく判らないけど。つまり、T 医師の心配というか心遣いは、私にとってあまり意味はなかった。
彼も話しながらそう判断したらしく、早々にある単語が彼の口からこぼれ出た…。 予期していたが。
話を少し戻す前に。 身近に経産婦がいない方は「出産直後の産婦の扱い」とは何ぞや、とお思い
だろう。 まず、妊娠からして自分とは別の生き物が体内に宿る訳である。 母体に大変な負担がか
かり、色々な変化 (外見だけでなく、体内でも)がある事は想像に難くない。 そして、徐々に変化
しつつも10ヶ月もその状態が続くのだ。その間ですら、ホルモンバランスの変化により著しく情緒不安
定になる方も稀ではないし、出産に至っては10ヶ月かかって少しずつ変化していった体内環境が一
気に元に戻るのだ(…いや、まるきり元には戻らないが。雰囲気として、お判りいただけるだろう) これ
でフツーでいろ、 と言う方が無理というものである。 昔から、産まれてきた子供に何らかの異常があっ
ても、決してその場で母親には言ってはいけない…と言われてきた。 もちろん、その場だけではなく、
しばらくは産婦に動揺を与えたりストレスを与えてはいけない。 周りの者はただ労を労い、心穏やか
でいられる様、細心の注意を払うべきである (甘やかすのとは訳が違うので、誤解なきよう…) 母乳
の出にも影響があるし、 中には赤ん坊の世話を放棄してしまったり、 我が子に愛情を持てなくなる
方もいる。本当にデリケートな問題なのだ。 …長くなったが、T医師はそういった事を理解しており、
慎重に慎重に話を進めていった。前述したように、形成外科と整形外科の違いの説明から入り、息
子への褒め言葉をはさみつつ、私への労いの言葉も織り込み私の反応を確かめつつ、徐々に核心
に近づいていった。 私はすでにうすうすと感づいていたので、それが表情にも出ていたのだろう。 フト
気が抜けたような表情になった彼は言った。 この時のダンナは、間抜けもいいとこの表情をしていた。
「お母様はお気づきのようですが、ガン化する可能性があります。」