| 水道関係のかたへ |
Haasらが提唱したアクションレベルという数字があります。 これは水道水に含まれると集団感染が発生する可能性が高いというもので、その数は20-40個オーシスト/10Lです。
きちんと浄水処理を行っている凝集沈殿・砂ろ過での除去率は99.9%と言われています。 ですから原水10L中に数万個のオーシストが含まれない限り浄水がアクションレベルに達することはありません。 したがって、きちんと処理を行えば集団発生の心配はないと思われます。
ただ、気になることが2つあります。
一つは、久しぶりに大量降雨があると原水中のオーシストの数が激増するということです。 普段は100L中に不検出であったのが、数ヶ月ぶりの大量降雨で100L中に数万個検出したという報告があります。
もう一つは配水系統での蓄積です。 1998年のシドニーの汚染事故の際、消火栓を開いて配管の洗浄を行おうとしたところ、大量のオーシストが排出されたという報告があります。
今後これらは注意して監視しておく必要があると思います。
また、Haasらはアクションレベルのほかに水道の水質基準を決める目安となる年間10万分の1のリスクに相当する数字も提唱しています。 これは0.03個/1000Lです。 これは非常に厳しい数字で、オーシストが1個/10L含まれる原水を処理して99.9%除去できたとしても、浄水に0.1個/1000L含まれる計算になります。 ですから10万分の1のリスクを常時クリアできると期待できないと思います。 これが一番大きな問題でしょう。
もう一つの問題。 厚生労働省は質疑応答で浄水10Lに1個含まれれば集団感染の恐れがあるので、給水を止めるべきであると言っています。
では、浄水で検出したら止めるのでしょうか。
よく検出したら止めなければならないと言われていますが、検出することイコールその濃度で含まれている、ではないと思います。
検出するという事象には色々な理由があります。 陽性コントロールのコンタミや、他のものを間違える誤陽性など。 これらは論外ですが、そんなことが起こっているという噂もちらほら聞くこともあります。
それよりも、問題なのはたまたま見つかった場合です。
上にも書いていますように除去率は100%ではありません。 長いこと検査していて、検水量のトータルが10000Lぐらいになってくると、1個を検出する確率は1に近づいてきます。 原水10Lに1個含まれていれば、計算上浄水10トンに1個含まれてもおかしくないからです。 もちろん、平常の濃度なのですからそのために給水停止するのはおかしな話です。
一方、満遍なく1個/10Lの濃度だと大変なことです。 ですから、これらを見分けるための方法も考えておく必要があると思います。 このためには次のようなことを確認するのがいいかと思います。
・同時に同じ量の水をくんでおき、再検査する。そのためには浄水の結果は採水日当日に出るようにする必要がある。
・原水も同時に検査しておく。
・浄水工程に異常がないか調べる。
・毎日10L-20L汲み置きをしておき、前日、前々日の水を調べる。
・採水時間帯の水が到達している供給点等の水を調べる。
これらがすべて不検出あるいは異常なかった場合は、おそらく10トンに1個のものがたまたま出たのだとみなしてもよいのではないかと思います。 決して完全に10トン分調べてないですが。
間違って止めることも、間違って給水することもどちらも重大な結果になります。 検査に高い精度が求められるのはもちろんですが、やはりいくら以下ならOKというような数字がほしい気もします。
これには3種類のろ過濃縮、IMSによる精製、ウェルスライド法による観察が含まれています。ろ過濃縮に関してはPole(Gelman)のカートリッジフィルターはかなり現実的で有効であると思われますが、ちょっとコストがかかります(振とう器30万円、カートリッジ1.2万円)。 我が国の関係者が行った実験では回収率がとても悪いと言う結果が得られていますが、Method1622の開発者であるClancyらの実験では回収率が高く、今後の検討が必要かも知れません。 私が行った実験では誘出液をPETに換えることで回収率は向上しました。
ポリカーボネイトフィルター法は高い回収率が得られますが、目づまりするため大量の原水のろ過は困難です。 浄水用にはいかもしれません。
また、セルロース系のフィルターを使ってスティック型の超音波破砕器で剥離する方法はかなり有効であると思われます。
さらに最近、孔径5μmの親水性PTFEでろ過しボルテックスで剥離させる方法が開発されました。 孔径5μmでもクリプトは抜けないことが確認されており、逆に小さな粒子が除去されるためか、IMSとの組み合わせで非常に高い回収率が得られています。
IMSによる精製について、かなりの好結果が報告されていますが、高濁の試料では回収率は低くなり、特にコロイダル・クレイを大量に含む試料ではほとんど回収できない事も報告されています。
この方法は繊細な面があり、いわゆるコツを知っているかどうかで回収率が大きく異なってきます。日本の表流水を考えた場合、特に河川の場合、その流れが欧米に比べて速い事からより多くの様々な種類の土壌粒子が試料に含まれているのが普通だと考えられます。これら様々な粒子がIMSにとっては障害になりそうです。
また、フェライトがオーシストにくっつくと言う研究もされており、自然水中でのそういった物質がIMSを妨げている可能性もあります。
下水等の汚水を含む試料もむつかしい面があるようで、今後更なる改良が必要であると思われます。
ただ、以前の精製法に比べると作業上も回収率の上でも大幅に改善されたのは間違いなく、遺伝子を調べるためにPCRを行う場合でも、IMSが環境水中のPCR妨害物質を取り除くことがわかっており、今後分離精製においてはIMSが主流になることは間違いないと思われます。
観察のためのウェルスライド法ですが、前段の精製がうまくいけばとてもきれいなスライドが作成でき、観察時間が大幅に短縮できます。 固定、染色、封入といったプロセスでかなりの試料が流れ出すという人もいますが、前段の精製がうまくいっていて、ステップステップで十分に乾燥させれば、ほとんど流れ出すこともないようです。
夾雑物をできるだけ除くことと封入剤を入れすぎないようにすることがオーシストのロスを防ぐためにとても重要です。
また、以前の蛍光抗体試薬は交差反応を起こしやすく、いわゆる非特異反応粒子が非常にたくさん出現しました。 それは、検鏡を煩雑にするだけでなく、誤陽性という重大な結果を招きます。 今では、特異性の高い(値段も高いですが)試薬も販売されていますので、作業労力の軽減と検査の精度を上げるためにもお勧めです。
さらに、オーストラリアのDr. Veseyはサンプルと同時に陽性コントロールも検査すべきだといっています。 ちょっと、カラーシードの営業かとも思いましたが、やはりそのときの処理方法によって、顕微鏡像は微妙に異なることがあります。 IMSやIFAがちゃんとできているかの確認にもなりますので、同時に陽性コントロールの検査もやるほうが望ましいでしょう。
浄水場としてはとにかく浄水処理を行う上で微粒子の管理を徹底する事が重要です。
ただ、微粒子測定の確定された方法がないので、微粒子測定法の確定は急いでほしいものです。
また、オーシストの水源での実態把握も重要であり、とにかくオーシストの存在を簡便にモニタリングできる方法の確率が急務です。
そしてもし原水や浄水での存在が確認された場合、次にそれが生存しているかとか感染力があるかとかが重要になってきます。 この確認のためにはPCRや培養細胞への感染実験が考えられますが、まだこれらは研究段階です。
浄水処理の検討を行うときに除去実験ならば存在の確認で事足りますが、不活化実験の検証には少なくとも生存を調べる必要が出てくるのは当然の事です。
これら、生存や感染力の検査にはバイタル染色、脱胞試験、感染試験、培養試験等が必要ですが、これらもまだ研究段階です。
しかし簡便な方法も色々と開発されてきてますので、水道でPCRを始めるのもそう遠くないかもしれません。
☆厚生省の新聞発表等
97/08/12 クリプトスポリジウム等病原性微生物対策検討会の設置
97/08/19 水道水源におけるクリプトスポリジウム等の検出状況
97/09/16 「クリプトスポリジウム等疾患に関する研究班」の設置
96/09/30 水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針
97/10/08 クリプトスポリジウム等原虫類総合対策について
97/12/17 クリプトスポリジウム等の水道水源における動態研究について
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