作品への評価を自分への評価だと過信しなければ
この先もやっていける―
制作 ブラボーTV/ザ・モーメント・プロダクションズ(2003年、アメリカ)
放送 NHK-BS2 2005年11月3日
司会 ジェームズ・リプトン James Lipton
ゲスト クリント・イーストウッド Clint Eastwood
2003年、ゲフィン劇場で録画
| ●「許されざる者」 西部劇の主人公をこんな風に描くとは。 | |
|---|---|
| リプトン | 約10年間 この番組の中で題材にした映画の中で― 本当の傑作は数えるほどですが― 次の作品はまさにその1つでしょう。 「許されざる者」です。 |
| (会場、大きな拍手) | |
| イーストウッド | どうもありがとう。 |
| リプトン | この映画が生まれたきっかけは? |
| イーストウッド | 私の製作会社にある脚本が持ち込まれた。 かなり前だ。 1980年だったと思う。 ところが、人に読ませたらさんざんな反応で 書き直さなければ使えそうになかった。 書き手を探していたら 脚本家、デビット・ピープルズが いいものを書くと聞き、見せてもらった。 西部劇で素晴らしいものだった。 題名は「ウィリアム・マニーの殺人」。 それを書いたかったが、無理らしかった。 フランシス・F・コッポラが映画化する予定だと言うんだ。 私はピープルズの事務所に電話してこう言った。 “あの脚本がとても気に入ったので 彼に仕事を頼みたい” すると相手は “あの脚本を売りますよ” コッポラの件を聞くと “昨日で期限切れです”と言う。 信じられなかった。 すぐ条件を聞いて買ったんだ。 ただ、自分が演じるには もっと歳をとるべきだと思い、 実際に着手したのは1991年だ。 脚本のほこりをはらって準備を始めたんだ。 難しい企画だとは思ったが、 本当に気に入っていてぜひやりたかった。 それが決めてだった。 |
| リプトン | 主人公マニーに自分と似た点があるとか。 |
| イーストウッド | 彼は西部劇らしくない人物だ。 養豚が仕事で、子連れで、薄汚れていて、 貧しく、みすぼらしい。 |
| リプトン | 馬にも乗れない。 |
| イーストウッド | ある男がマニーの昔の悪業を持ち出して 賞金目当ての殺しに誘う。 生活苦にあえぐマニーは話に乗ることを決め 久しぶりに馬に乗ろうとするが、乗れない(笑)。 |
| (会場、笑) | |
| 脚本家の想像力に感心するよ。 西部劇の主人公をこんな風に描くとは。 | |
| 映画「許されざる者」 | |
| 旅立つマニー(イーストウッド)と 子供たちとの別れのシーン。 | |
| マニー | 「(息子に)妹の面倒を見てやれ。 鶏を食べてもいいぞ。 病気の豚は分けておけ。 何か困った時はサリーに相談しろ」 |
| マニー、馬に乗ろうとする。 が、なかなか乗れずに苦労する。 ついには仰向けにひっくり返る。 それを見ている子供たち。 | |
| 映像ここまで | |
| イーストウッド | 彼は過去の悪事を恥じている。 そして亡き妻の思い出を忘れようと苦しんでいる。 |
| 映画「許されざる者」 | |
| マニーと顔に傷のある娼婦デリラ (アンナ・レヴィン)との会話。 | |
| デリラ | 「あなたも寝たい?」 |
| マニー、驚いて彼女を見る。 | |
| マニー | 「…いや。やめておく」 |
| デリラ | 「私と寝るって意味じゃないのよ。 アリスやシルキーが相手をしてもいいって… それを言いたかったの」 |
| マニー | 「傷のせいであんたと寝たくないと 言ったわけじゃない。 あんたはおれと似てやしない。 おれみたいに醜くない。 あんたも、おれも、 傷があるってだけだ。 あんたはきれいだ。 選べるなら、あの二人じゃなく あんたがいい。 ただ、女房を裏切れないんだ」 |
| 映像ここまで | |
| イーストウッド | 西部劇にしては風変わりな要素が多い。 異論もあるだろうが、私はそこが好きだ。 |
| リプトン | フェミニズムの傾向が強い作品ですね。 本作に限りませんが…。 この映画では、娼婦たちが団結し 残忍な客2人に復讐しようとする。 |
| イーストウッド | 彼女たちは明かにひどい扱いを受けていた。 だから正義を果たそうとしたんだ。 これは運命に導かれるように展開する物語だ。 列車が走り出すと、もう誰にも止められない。 運命によって結末を迎える。 客2人に懸けられた賞金をめぐって 歯車は回り始め、もう止められない。 |
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●彼は“暴力的な役はいやだ”と言った。 “粗暴なだけの単純な役じゃない”と私は説得した。 | |
| リプトン | 配役が絶妙です。 ジーン・ハックマンはこの映画のことを ここ(番組出演時)で話しました。 乗り気ではなかった彼を あなたが説得したとか。 |
| イーストウッド | ああ。 彼は“暴力的な役は嫌だ”と言った。 そこで私はこう話した。 “君の気持ちはわかるよ” “私にも子供がいるし、粗暴なだけの映画は嫌いだ” “この役はそう単純じゃないんだ” “皆を脅す黒い帽子の悪党なんかじゃない” “立派な人間で強い心の持ち主で―” “銃を規制しようとする” 可能かどうかはともかく…(笑)。 |
| (会場、笑) | |
| 彼は町の秩序を保とうとしている。 フランシス・フィッシャー演じる娼婦がこう言い出す。 “客2人に報復してくれたら賞金を出す”と。 そこで妙な者たちが集まってくる。 | |
| リプトン | ここで私からひと言。 アクターズ・スタジオの一員でもある この人を紹介します。 今、話に出た フランシス・フィッシャーです。 |
| (客席にいた彼女が席を立つと、 会場は拍手に包まれる) | |
| リプトン | ジーン・ハックマンは 監督・共演のあなたを称賛していた。 彼はどうでした? |
| イーストウッド | 役に納得して引き受けてからは 一心に打ちこみ、プロそのものだった。 |
| リプトン | この映画には、隠された意図が あるように思えます。 瞑想的とも言える「許されざる者」の― 真のメッセージとは何でしょう? |
| イーストウッド | 私が演じた主人公はひどい過去を持っている。 極悪人で、人殺しだった。 彼は決して― 清廉潔白な模範的人間ではないんだ。 |
| 映画「許されざる者」 | |
| マニーと保安官ビル(ハックマン)の対決。 倒れながらも銃を抜こうとするビル。 マニーは彼の腕を踏みつけ銃を突きつける。 | |
| ビル | 「私にはふさわしくない… こんな死に方は… …家を新築している」 |
| マニー | 「そんなことは関係ない」 |
| ビル | 「…地獄で待ってるぞ」 |
| マニー | 「…ああ」 |
| 撃つ。 さらに去り際、手下も撃つ。 | |
| 映像ここまで | |
| ●観客は信頼できる | |
| リプトン | この映画の照明は「第三の男」から影響を受けたとか。 顔の一部だけが照らし出される。 光は細くさしこむ。 あなたはこんな興味深い見解を… “観客は賢い” “すべてを映してみせる必要はない”と。 これは俳優や監督の一つの指針と言えます。 あなたの判断では観客は信頼できるのですね? |
| イーストウッド | そうだ。 2時間ずっと同じような撮り方をする映画もある。 照明は単純で顔はいつも同じように映る。 一方「第三の男」のような見事な撮り方もある。 顔の下にだけ光が当たり、 目は映らないこともある。 オーソン・ウェルズ演じる男が歩み出ると― 顔は映らないのにすぐ分かる。 この人物の話を1時間してきているからだ。 あの映画は観客に想像のチャンスを与えてくれる。 ただ見るだけではなく考えさせて― より深い見方ができる映画だ。 |
| リプトン | 「許されざる者」はアカデミー賞を4部門で受賞。 どんな体験でしたか? |
| イーストウッド | そうだな。うれしかったよ(笑) |
| (会場、笑) | |
| それまでやってきたことを思い返した。 「ローハイド」や初期の出演映画… 歳月を経て、この映画を監督し 西部劇は不利なはずのアカデミー賞をとれた。 | |
| リプトン | そうです。 |
| イーストウッド | 作品への評価を自分への評価だと過信しなければ― この先もやっていける(笑)。 |
| (会場、拍手) | |
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●演技の最高の瞬間はいつ訪れるかわからない。 逃したら二度とないかもしれないんだ。 | |
| リプトン | 「許されざる者」は伝統的な西部劇への弔辞であり あなたが演じてきた役への弔辞でもあります。 こう書いた本もあります。 “あの映画でクリントの従来の役柄は消えた” “より傷つきやすい人物像に変化する” “最もいい例が名作「マディソン郡の橋」だ” |
| (会場、拍手) | |
| 出演作を監督するのは大変でしょうね。 演技をする時は― 監督としての自分は隠さなくてはならない。 | |
| イーストウッド | そうだ。 |
| リプトン | メリル・ストリープは― 共演中にあなたが急に監督になるのを目撃した。 ラヴシーンの時、あなたの手が― 彼女の背後でカメラに指示していたと。 |
| (会場、爆笑) | |
| イーストウッド | (笑)。 確かに演出は難しかった。 メリルのせいじゃないよ。 彼女はすばらしい人だからね。 私が自分を客観的に見るのが難しいんだ。 頭をすぐに切り替えないといけない。 慣れるためには経験が必要だ。 監督として新人のころは― 立ち止まって考えないとまごつくことがあった。 スタッフの動き、自分の演技… 把握しきれなくなる。 ドン・シーゲル監督がこう助言してくれた。 “焦らずに一場面ずつ仕上げろ” “そのうち頭を切り替えながら 二役をこなせるようになる” メリルが出た多くの映画では― リハーサルを積んで撮影していた。 すぐ撮る私のやり方を彼女は気に入ってくれた。 |
| リプトン | ええ、聞きました。 |
| イーストウッド | やがて彼女は“リハーサルも撮ったら?” 私は“名案だ” 演技の最高の瞬間はいつ訪れるかわからない。 逃したら二度とないかもしれないんだ。 |
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●悲しいことを思い出せば涙はいくらでも出せる。 だから涙を撮ることにそう意味はないと私は思う。 | |
| リプトン | メリルも言っていた。 あなたの最高の場面は― ラスト近くの泣きぬれる姿です。 ただ彼女は言ったそうですね。 “なぜすぐ背を向けたの” “アカデミー賞ものの見せ場なのに” |
| イーストウッド | 目で見えるものより見えないものの方が― 大切な時もある。 カメラの前で感情をさらけ出して (泣くフリをしながら) “神様…” こういうのは誰でもできる(笑)。 |
| (会場、笑) | |
| 悲しいことを思い出せばいい。 よくあるのは “7歳のとき僕の犬が車にひかれたな” | |
| (会場、笑) | |
| リプトン | お決まりの手だ。 |
| イーストウッド | そういうことを思い出せば 涙はいくらでも出せる。 だから涙を撮ることに そう意味はないと私は思う。 この映画では主役二人は それぞれ深く苦悩している。 だが彼女に焦点を当てた方が いいと思ったんだ。 |
| リプトン | 二人とも名演でした。 |
| 映画「マディソン郡の橋」 | |
| 上述の話にも出てきた フランチェスカ(メリル・ストリープ)と キンケイド(イーストウッド)の会話シーン。 | |
| キンケイド | 「君にこう思わせたかい? 何度もこういう出会いを経験してきていると? 特別なことじゃないと? そう思わせたなら謝る」 |
| フランチェスカ | 「…違うというの?」 |
| キンケイド | 「なぜ僕は写真を撮っているのか 理由はたった1つだ。 ここに来るためだったんだ」 |
| フランチェスカ | 「…(涙が頬をつたう)」 |
| キンケイド | 「今までの人生すべては 君と出会うためにあったんだ。 なのに明日は去らなければならない。 君を残して…」 |
| 抱き合う二人。 | |
| 映像ここまで | |
| ●「雌ジカの目」 | |
| リプトン | 「ドゥ・アイズ(雌ジカの目)」
というテーマ曲は誰が? |
| イーストウッド | 私が書いた。 |
| リプトン | なぜ“雌ジカの目”? |
| イーストウッド | 雌ジカの目はとても美しいだろう?
(指さして)客席にも雌ジカが(笑)。 |
| リプトン | 彼女を思って書いた? |
| イーストウッド | そうだね。 |
| リプトン | 皆に紹介しましょう。 |
| イーストウッド | 恥ずかしがるよ。 |
| リプトン | 雌ジカの目の持ち主、 ディナ・イーストウッドです。 (立つように促す) |
| (会場、拍手の中 ディナが立ちあがって挨拶する) | |
| イーストウッド | 妻は暗くて怖い獣だよ(笑)。 |
| リプトン | まさか。 |
| イーストウッド | とにかくシカだ。 |
| リプトン | なるほど。 |
| ●市長時代(1986〜88年) | |
| リプトン | カーメル市長になった目的は? |
| イーストウッド | 復讐。 |
| (会場、笑) | |
| リプトン | 何への? |
| イーストウッド | 市議会へのだ。 カーメルは小さな町で 人口は4,000人と少し。 ただ、厳しすぎる条例があったり 住民をかなり締めつけていた。 私は誰かがなんとかすべきだと思い 改革を目指す人物を支援したいと思った。 でも、誰もが人任せで名乗りをあげようとしない。 ある夜、皆で飲んでいたら “君がやらないか?” “町の悪を全部暴け”と言われた(笑)。 |
| (会場、笑) | |
| 私は“暴けるかどうかわからないが―” “市長は任期2年、市議会議員は4年だから―” “市長ならやるよ”と言い 立候補した。 小さな町の市長だから 気づかれないと思ったが大間違いだったよ。 大変な騒ぎになってしまった。 (画面には新聞紙上をにぎわす写真の数々が 映し出され、大注目を浴びたことがうかがえる) | |
| リプトン | 仕事は楽しんだ? |
| イーストウッド | ああ。 |
| (つづく) | |