忠実でいいスタッフたちにはこちらも忠実になる。
ほかのセットを訪ねると、うるさくて驚くよ。
私は子供や新しい人たちと仕事をする中で、コツを見つけた。
できるだけ仕事をしやすい雰囲気を作るんだ―
制作 ブラボーTV/ザ・モーメント・プロダクションズ(2003年、アメリカ)
放送 NHK-BS2 2005年11月3日
司会 ジェームズ・リプトン James Lipton
ゲスト クリント・イーストウッド Clint Eastwood
2003年、ゲフィン劇場で録画
| ●皆、この脚本を愛していた | |
|---|---|
| リプトン | 3日前、私が光栄にも見られたのが― 「ミスティック・リバー」です。 この映画もまた、単純な解釈を受け入れません。 つらい記憶を共有する幼なじみの3人の物語。 衝撃的な犯罪の物語。 捜査によって事実が次々と暴かれます。 陰影に富んだ人物たちが織り成す 見事なドラマを― 今、キャリアの頂点にある俳優たちが演じます。 やはり、まさに頂点である監督のもとで…。 監督という仕事は膨大な時間と労力を要します。 題材のどこにそれほど引かれたのですか? |
| イーストウッド | これは子供時代の純真さの喪失を描いた物語だ。 虐待によって人生が失われ― それが周りの人々すべてに影を落とす。 3人は社会人となり45歳になっても 過去の記憶につきまとわれる。 いい出演者がそろった。 ショーン・ペン、ティム・ロビンス、 ケビン・ベーコン、ローレンス・フィッシュバーン、 ローラ・リニー、マーシャ・ゲイ・ハーデン。 誰もが完ぺきだった。 |
| 映画「ミスティック・リバー」 | |
| S・ペンと妻が 刑事(K・ベーコン、L・フィッシュバーン)に 事情聴取を受ける。 表記…LF(L・フィッシュバーン) …SP(S・ペン) …KB(K・ベーコン) | |
| LF | 「娘さんは、土曜日は大体あなたと一緒に?」 |
| SP | 「ああ。でも私は店の奥に」 |
| LF | 「客ともめるとか何か変わったことは?」 |
| SP | 「(首を振りながら)いや 陽気にしていたが……」 |
| LF | 「何か?」 |
| SP | 「…べつに」 |
| LF | 「どんな事でも手がかりです」 |
| SP | 「…娘が幼い時 母親が死に おれが出所したてのころ― 独りでいるのを嫌った。 泣いていようと いまいと 同じだった。 時々 もう会えないというような目を… 土曜日も一瞬 そんな目をした。 目つきだけだが…」 |
| LF | 「(メモしながら)とにかく情報を集めて 組み立てなくてはいけない。 あなたは刑務所に?」 |
| KB | 「(LFに)何言い出す」 |
| LF | 「(KBに)一応、確認を」 |
| SP | 「(うんざりした表情で) 16年前、窃盗罪で2年間入った。 娘を殺した犯人捜しに 関係あるのか?」 |
| KB | 「この話はもうよそう」 |
| SP、テーブルに拳を叩きつける。 | |
| 映像ここまで | |
| イーストウッド | 出演者は、自分たちでリハーサルを重ねていた。 夜遅くまで読み合わせをしたんだ。 新しい出演者がやって来ると その役を加えて全体を読みなおした。 私も励ましたよ。 皆、この脚本を愛していた。 そういう愛着があると セリフは自然に出てくる。 ひと言も変える必要のない脚本だった。 |
| 映画「ミスティック・リバー」 | |
| 夜。暗い部屋で、 ティム・ロビンスと茶髪の女性の会話。 | |
| 女性 | 「もうずっと昔よね。あなたが子供だった時… (ロビンスに寄っていって顔に手をあてる)デイブ」 |
| ロビンス | 「(その手をいやがって)デイブは死んだ。 (立ちあがり、部屋の中をうろうろする) あれから おれは別人になった。 (ひどく動揺し) わかるかい?まるで吸血鬼だ。 体に入り込んで― 居座るんだ」 |
| 女性 | 「何が?」 |
| 映像ここまで | |
| ●私は口数は多くない | |
| リプトン | この物語の舞台は? |
| イーストウッド | ボストン。 |
| リプトン | ボストンで撮影したとか。 |
| イーストウッド | 原作者もボストン出身だ。 音楽はボストン交響楽団と ダングルウッド合唱団に頼み 室内も屋外も全シーンをボストンで撮った。 |
| リプトン | 今回の撮影監督は? |
| イーストウッド | トム・スターンだ。 ジャック・N・グリーンと ブルース・サーティーズの下で 私とは長年付き合ってきた。 |
| リプトン | スタッフには義理堅いですね。 |
| イーストウッド | 忠実でいい人たちには、 こちらも忠実になる。 彼らは仕事ぶりが私の好みに合うし、 言いたい事を理解してくれる。 私は口数は多くない。 ビールを飲めば別だが…。 |
| (会場、笑) | |
| ジェスチャーで指示を伝えることが多いし、 皆の準備ができたら、ただ“撮ろう”と言う。 助監督も“静かに!”なんて叫ばず “撮ります”と言うだけだ。 裏方にもその言葉がきっと伝わって 皆 静かになる。 ほかのセットを訪ねると、うるさくて驚くよ。 私は子供や新しい人たちと仕事をする中で コツを見つけた。 セットを静かに保ち できるだけ仕事をしやすい雰囲気を作るんだ。 ミュージシャンのように― その場の流れに対応していく。 その瞬間にね。 | |
| リプトン | 即興のように。 |
| イーストウッド | 俳優はよく即興をやらされる。 若いころ、 何週間も即興だけ練習したこともある。 それは人生の大切な瞬間を とらえる訓練だ。 普通は見逃すものをね。 |
| リプトン | いいアクシデントもある。 |
| イーストウッド | (微妙に口元をほころばせる) |
| ●観客は答えを知っている | |
| リプトン | 私は「ミスティック・リバー」の試写を見たあと、 あなたの製作会社マルパソのオフィスに招かれ、 この映画の編集者と話しました。 ジョエル・コックスです。 あなたの編集室はオフィスのすぐそばだ。 編集作業には、大抵あなたも立ち会うのですか? |
| イーストウッド | ああ。最近は編集室以外でも編集できるんだ。 編集用コンピューター(“AVID”と言っている)は 小型トラックで運べるからね。 |
| リプトン | この映画の音楽は誰が。 |
| イーストウッド | 私だ。 |
| リプトン | ピアノで作曲を? |
| イーストウッド | ああ。 3人の男の物語だから、3つの和音を考えた。 その3和音を発展させていった。 そしてシンセサイザーなどを持つ友人の家に行き コンピューターに曲を取り込んだ。 そこに彼がシンセでオーボエや弦の音を加えて 大筋が出来上がった。 おおまかに仕上げた音楽を ボストン交響楽団に仕上げてもらった。 楽ちんさ(笑)。 |
| (会場、笑) | |
| リプトン | 映画のラストでは、 全編を通じて問いかけられてきた 倫理的な質問が― 改めて突きつけられます。 あなたはしばしば 観客に判断をゆだねますね。 答えは示さずに…。 観客を信頼しているから? |
| イーストウッド | そうだ。 |
| リプトン | そうですか。 |
| イーストウッド | 観客は答えを知っていると思う。 |
| 映画「ミスティック・リバー」 ショーン・ペンとティム・ロビンスの会話。 | |
| ペン | 「(泣きながら)あの夜 台所に二人でいた時… …地球最後の 生き残りのような気分だった。 忘れられて 疎まれて… 自分が泣けないことに 急に腹が立ったよ。 娘のために泣くこともできない。 (手で顔を隠すように額を押さえる)」 |
| ロビンス | 「ジミー…今は泣いてる」 |
| ペン | 「(手を額から離し)そうだな… あの子をもう一度 抱き締めたい。 (よりいっそう、つらそうな顔をする)」 |
| 映像ここまで | |
| (つづく) | |