何事も積み重ねだよ―
新作に取り組むたび、何かを学ぶんだ―
俳優であることの最もすばらしい点は
決して終わりがないことだ―
だから面白くてやめられない。
制作 ブラボーTV/ザ・モーメント・プロダクションズ(2003年、アメリカ)
放送 NHK-BS2 2005年11月3日
司会 ジェームズ・リプトン James Lipton
ゲスト クリント・イーストウッド Clint Eastwood
2003年、ゲフィン劇場で録画
| ●10の質問 | |
|---|---|
| リプトン | 学生との対話の前に、 マルセル・プルーストが考え ベルナール・ピボーが完成させた― 恒例の質問です。 好きな言葉はなんですか? |
| イーストウッド | “落ち着いて” 周りがせわしない時よく言う。 “フラミシュト”も。 |
| (会場、笑) | |
| リプトン | 何です。 |
| イーストウッド | “困った”というか… “お手上げ”。 |
| リプトン | 嫌いな言葉は? |
| イーストウッド | “ユビキタス”。 |
| リプトン | “ユビキタス”? |
| イーストウッド | そう。流行しすぎている。 流行には逆らいたくなる。 |
| (会場、笑) | |
| リプトン | 心躍るものは? |
| イーストウッド | ユーモアのセンスがすばらしい人。 興奮させられる。 |
| リプトン | 幻滅するものは? |
| イーストウッド | ただの― 決まり文句。 |
| リプトン | 好きな音は? |
| イーストウッド | トランペット。 |
| リプトン | 嫌いな音は? |
| イーストウッド | ロックは苦手だ。 1960〜70年代にも 一度もロックにはまったことはない。 3つの音が主体の音楽なら ロックより、 リズム・アンド・ブルース(R&B) を聴きたい。 (60〜70年代にも、と あえて発言したのは、 ビートルズなどによって ロックが大流行した時代だからか?) あれは黒人の芸術だ。 ブルースの演奏家や 南部の人々が生み出した。 ロックはR&Bから派生したもので 副産物というか…加工品で、 どうも私の好みには合わない。 やはり本物の方が好きだ。 |
| リプトン | 好きな悪態は? |
| イーストウッド | (しばらく考えたあと)“ジャンフ”。 |
| リプトン | なんです? |
| (会場、笑) | |
| イーストウッド | (笑)。 “JAMF(ジャンフ)”。 |
| リプトン | 略語ですか? |
| イーストウッド | “インチキなMF(マザーファッカー)”(笑)。 |
| (会場、爆笑) | |
| リプトン | (笑)。言っていいですよ。 |
| イーストウッド | (笑)。 昔、ミュージシャンの スキャットマン・クローザースが よく言ってた。 “インチキなMFめ よく覚えとけ” (スキャットマン・クローザース(1910〜86)… ジャイヴ歌手。 スウィング・ジャズが大衆音楽の 主流だった30〜40年代あたりに、 笑いや魅せる要素をタップリ盛り込んで 人々を楽しませた、 “歌手と芸人のあいだの職種”の1人。 強烈なキャラクターだったらしい。 映画「シャイニング」、 「ブロンコ・ビリー」、 「ラスト・シューテスト」など、 俳優としても多くの出演作がある。) |
| リプトン | 今の仕事以外でやってみたい事は? |
| イーストウッド | 昔に戻ってピアノを猛練習すれば カーネギーホールで弾けたかな。 実は弾いたことはあるんだ。 猛練習はしなかったけど。 |
| (会場、笑) | |
| リプトン | 絶対にやりたくない仕事はなんですか。 |
| イーストウッド | 政治家だが、手を染めてしまったな。 |
| (会場、笑) | |
| 正直言って、もうやりたくないよ。 | |
| リプトン | もし天国の門に着いたら、 神に何と言われたいですか。 |
| イーストウッド | “ようこそ 永遠にいていい” |
| (会場、笑) | |
| “どこへも行かなくていい” “72人の処女が待っているぞ”(笑) | |
| (会場、爆笑) | |
| (奥さんとF・フィッシャーは 顔を見合わせ、笑) | |
|
●学生からの質問 学生「新しい脚本にどう取り組みますか?」 CE「考え過ぎず“ありのまま”が大切だ」 | |
| 女子学生 | こんにちは。 新しい役のために脚本を読む時、 どう取り組みますか? |
| イーストウッド | 脚本を初めて読む時 理解しようとするのは “作者の狙いは何か”や “それを実現するためには何が必要か”や “自分にどう当てはめ、 独自のものをどう出せるか”だ。 演技を純然たる知的作業だとは思わない。 肉体や精神そのものも重要な要素で、 最高の俳優は自分の内面から 演技を引き出す。 考えれば考えるほど、駄目になることも多い。 “ありのまま”が大切だ。 どうしたら、“ありのままの自分を出せて リアルに演じられるか”と考える。 “どうすれば、共演がうまくいくか”もだ。 私1人ではなく、全員を考える。 演技は全員でするものだから。 |
|
●学生からの質問2 学生「独特の持ち味を出すことは重要ですか?」 CE「自分に何が重要かを見極めるのは難しい」 | |
| 男子学生 | 俳優志望です。 “沈黙” “よく聞くこと” “寡黙さ” について話されましたね。 それらは俳優・イーストウッドの トレードマークで とてもユニークな個性だと思います。 独特の持ち味を打ち出すことは 俳優にとって重要ですか? |
| イーストウッド | 自分に何が重要かを見極めるのは 難しいものだ。 “よく聞け”といっても いちいち かみしめるように 間を取れという意味ではない。 1950年代、やたらに考え込む 演技が流行したがね。 |
| (会場、笑) | |
| 対照的なのが1940年の 「ヒズ・ガール・フライデー」だ。 (参照→史上もっともテンポの速いコメディ映画) 主演はロザリンド・ラッセルとケイリー・グラント。 2人の会話を見ていると―― 猛烈にしゃべり言葉がかぶさるが 相手の話は聞いている。 反応を無視して話しだすことは決してない。 彼らの会話は、磨きぬかれて 超特急で走りながらも うまくかみ合っている。 誰も人の話を聞かない政治討論番組とは大違いだ。 | |
| (会場、笑) | |
| ああいう番組では、皆が人の話を遮り 言いたいだけ言って 一切 聞こうとしない。 速い会話の手本なら 「ヒズ・ガール・フライデー」だ。 ハワード・ホークス監督の最高傑作だ。 若い君たちは 大胆に何でも演技に取り込むといい。 | |
| 男子学生 | ありがとうございました。 |
| ●伝説の代理人 | |
| リプトン | ここで俳優から伝説的な代理人へ 目を転じましょう。 |
| イーストウッド | (笑) |
| リプトン | L・ハーシャンです。 どうぞ立って。 |
| (客席の後方に座っていたハーシャン、立ちあがる。 会場内は拍手に包まれる。) | |
| リプトン | クリントとは何年前から。 |
| ハーシャン | 40年前だ。 |
| (会場、再び拍手) | |
| イーストウッド | 僕は5歳でデビューして 代理人が必要だった。 |
| (会場、笑) | |
| ハーシャン | 私は6歳だったよ(笑)。 |
| イーストウッド | (笑) |
| リプトン | どんなきっかけで関係を? |
| イーストウッド | “関係”はないよ。 |
| (会場、笑) | |
| よしてくれ(笑)。 | |
| リプトン | 奥さんの手前?(笑) (ハーシャンに)どうぞ。 |
| ハーシャン | マカロニ・ウェスタンのころから ずっと組んできた。 彼の経歴をたどる今までの話を聞いていたら― 私の人生を振り返るようだ。 代理人としての仕事を ニューヨークで始めたころ― テレビ番組のキャスティングで― ある若い俳優に声かけていました。 彼の名前は ジェームズ・リプトンです。 |
| (会場、拍手) | |
| リプトン | イーストウッドと同じ代理人だったと自慢しよう。 |
| (会場、笑) | |
| イーストウッド | (笑) |
|
●学生からの質問3 学生「恐れや不安を感じることは?」 CE「恐いものなんかねえ(笑)」 | |
| 男子学生 | こんにちは。 作品に対して恐れや不安を 感じることはありますか? |
| イーストウッド | ……(しばらく沈黙) |
| (会場、笑) | |
| (ハリー・キャラハンの口調で) 恐いものなんかねえ。 | |
| (会場、爆笑) | |
| (笑) 何事も積み重ねだよ。 一生をかけて たくさんの経験を積めば― 自身が持てるようになる。 例えば 電気技師なら 長年やれば熟練して 何でも楽に扱える自身がつくだろう。 ただ俳優や監督は無限に学ぶことがある。 私はこの年になっても まだ勉強が続いている。 新作に取り組むたび何かを学ぶんだ。 人間について、俳優について 演技や演出について…。 だから面白くてやめられない。 俳優であることの最もすばらしい点は 決して終わりがないことだ。 90歳でも20歳でも学生であり続ける。 当然ながら― 90歳になれば物忘れはするだろう。 | |
| (会場、笑) | |
| でも この仕事は楽しい。 本当にすばらしい。 こんな仕事で生活できて プロでいられることは― 本当に幸運だ。 | |
| ―スタッフ― Exective Producer James Lipton Directed by Jeff Wurtz Produced by Mike Kostel John Servido Written by James Lipton Editor Jeff Wurtz ―日本語版スタッフ― 日本語字幕 米沢啓子 | |
| この書き起こしは、米沢啓子さんの 字幕に基づいて作成しました。 クリント・イーストウッド自らを語る(後編) (終わり) | |
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