六章
宇宙を舞うユウ
T
「サマナ、準備は良いか?」
ユウ・カジマは後ろに控えていたサマナ・フュリスに声をかける。サマナはユウの後方で立ち止まっている。
「大丈夫ですよ」
いささか緊張しているのだろう。無理も無い。地上から宇宙へ配属命令が下り、配属先が同じ連邦軍であるが、正規部隊とは違う。エリート部隊と謂われるティターンズなのだからな。
かといって、ユウ達がティターンズに入ったわけではない。あくまでもティターンズに協力する連邦の正規軍という立場である。
「失礼します!」
サマナを引きつれ、ユウはブリッジへと入室する。
「ユウ・カジマ少佐にサマナ・フュリス大尉だね。話は聞いている。私がこの艦アル・ギザの艦長、マモル・レドナだ」
ブリッジの艦長席座っている男がそう言う。
若いな。
それがユウの率直な感想だった。
どうみてもユウと同じか年下くらいにしか見えない。
だが軍服の階級章はユウよりも上の大佐の称号を付けている。
「はっ、レドナ大佐。ユウ・カジマ、サマナ・フュリス両名只今、着任致しました」
「我々は諸君らを歓迎する。よく来てくれた」
レドナはそう言うがユウにはとてもそうは感じられなかった。艦長個人とはしては歓迎しているのかもしれないが、周りの部下達は明らかに嫌悪感を出しているのを肌で感じる。
オペレーターを中心に視線が痛い。
特にレドナの後ろに控えている男からの視線には威圧感すら感じる。ユウより一回りほど年上だろうか? 睨んでいるのもあるが人相が悪い。
「少佐」
サマナが後ろで不安な声をあげるが、ユウが制止しようとするがその前にレドナが二人を気遣い、後ろで控えている三人を目で注意し、こう付け加える
「どうも我が部隊の皆は血の気が多い。不快感を持たせてすまなかった」
「いえ、お気遣い感謝します」
「君達の実績は報告書等では聞いている。別命があるまで自室で待機していてくれ」
「ハッ!」
敬礼後、二人は部屋を後にする。
「……モンシア大尉、共に戦う戦友なのだから、もうすこし温かい目で見てくれたまえ」
鋭い眼光でユウを威嚇していた、ベルナンド・モンシアをレドナは叱責する。
「分かっちゃ、いるんですがね。いままでの経緯もありますからね」
今までのレドナの部隊に配属されたパイロット達は誰も新米であった。育てても直ぐに戦場で消えていくか、自分の実力に限界を感じ、退役か配置転換を求める人材がほとんどであったのだ。
今回は大丈夫なのかとさすがに疑心暗鬼になっているであろう。
モンシア達を納得させるには、彼らの実力が本物なのかを示すのが一番良い。しかし、それは実戦でないと分からない。
何か良い案が無いものかと、レドナが思案をめぐらす。
その思案を遮るように警戒アラームが艦内に響き渡る。
「状況は!?」
「レーダー外円に艦隊反応!」
「……近くに友軍がいるという情報は無いな……全艦戦闘配置! オペレーター、デッキに連絡。ユウ少佐らに出撃命令! サマナ大尉には新型を回せ!」
これはまたとないチャンスであった。
U
敵軍偵察の命がユウたちに下る。
着任早々の任務だ。パイロットスーツを着用したユウは自機へと向かう。この偵察には、ユウの機体は実に適任であろう。
ギャプラン。
MA形態での巡航能力は、他の追随を許さない。
オーガスタ基地からテストで受領した機体ではあったが、テスト終了後もユウが使い続けることを許された。否、使えるパイロットが限られているためにそのまま渡されたという方が適格だろう。
爆発的な加速力に常人では耐えることができず、人工的にニュータイプ能力を付与され、肉体改造をされた強化人間といわれる特殊な人間でなければ扱えない仕様になっている。
ただ極まれに強化手術を受けていない人間でも扱えるケースがあり、ユウはその極まれなケースに当てはまる。
「少佐、こちらの準備は完了しました」
「サマナ、新型の調子はどうだ」
「正直、驚きましたよ。こんな機体が量産機だなんて。マラサイでしたっけ? 良い機体ですよ」
機体の無かったサマナはマラサイを受領していた。
マラサイは、まだティターンズの中でも選りすぐりのパイロットにしか配備が進んでいない新型機だ。それを配属されたばかりのサマナに回させるのは、レドナの期待の現われだろう。
「カジマ少佐、出撃準備はできたか?」
「大佐、こちらの準備は整いました」
「こちらでは敵の規模が分からない。現場に急行し規模の確認に及び調査を頼む!」
「了解! ユウ・カジマ、ギャプラン出るぞ!」
MA形態のギャプランがアル・ギザのカタパルトから弾丸の様に放たれる。同時にユウはフットペダルを踏み込む。その行動に呼応して、ギャプランに装着されたブースター・ユニットが起動する。
ギャプランは目にも映らない程の速さで宇宙空間を切り裂くように飛ぶ。重力が無い宇宙空間でこそ、ギャプランの真の加速力を発揮するのだ。
このスピードにはさすがにサブ・フライト・システムに乗ってもマラサイは追いつけないので、ギャプランの片側にマラサイは係留されている。マラサイに乗っているサマナはただただ、その加速Gに耐える。
幸い、マラサイに搭載されているリニア・シートは最新式であり、対G性能はかなり向上していることもあり、耐える事は可能だった。
マラサイを係留しているギャプランだが、スピードは衰えることは無く、すぐに艦隊が見えてきた。サラミス改級三隻からなる艦隊である。
サマナも確認をしたようで、即座にマラサイに装備されていた照明弾を打ち上げる。同時にギャプランから離れ、早速ビームライフルでサラミス改級のカタパルト部を狙う。
サマナとユウには、この初出撃を偵察だけで終らせる気は無かった。ビームの弾丸がサラミス改級のカタパルトに直撃する。一発で炎上する程、艦船の装甲は薄くは無い。ただ、カタパルトの損傷でMSの出撃が遅れるのは必至だ。ユウ達が来る前に出撃していた機体はごく僅かだ。
サマナのアシストのお陰で、ユウはギャプランをいとも容易く艦隊へと突き進め、両翼に内蔵されたビーム砲のトリガーを引く。
その後、艦隊とギャプランがすれ違う。直後にサラミス改級三隻の動力部から火が上がる。それを確認すると、ユウは旋回して、サマナの元に戻る。
まさに電撃戦であった。
ユウは即座にMS戦に移行する。
艦隊は沈黙したといっても、艦船の弾幕と出撃しているMSは健在だ。
これ以上の被害拡大を防ごうと、敵MSが二機に襲い掛かる。敵機はジムUが三機、ジムタイプの新型が一機。新型はギャプランの試験運用の地上戦で一度確認している機体である。
ユウはギャプランをMS形態へと変形させる。MA形態は一撃離脱戦法に便利だが、いかんせん小回りが効かない。MSにはMSということである。
両翼は腕になり、変形で内蔵されていた足が伸びる。ユウは射撃の狙いを定める。MA形態では固定的だった照準も腕の稼動範囲の分、定めやすくなっている。固定火器なので、ビームライフルと違い、トリガーを引いてからの弾丸が出るロスも短い。
射撃ロスが無いので絶え間なくユウは撃ち続ける。敵はユウの射撃を回避するので精一杯であった。そこに側面からサマナが、的を射抜く様にビームライフルを放つ。
光球に貫かれたジムUは爆炎を上げながら沈黙する。もう一機のジムUがその巻き添えを喰わないよう、ブースターを吹かし、緊急退避する。そこをユウは見逃さなかった。
退避先には既にユウが待ち構えていた。ギャプランの腕にはビームサーベルが握られている。滅多に使う機会は無いのだが、護身用として装備されているものだ。だからといって威力が弱いということは無い。一般的なビームサーベルと同程度の攻撃力はある。
コクピットを一突き。爆発を起こす事無くジムUは機動を止める。
あと一機。
「少佐! 後ろ!」
敵の新型機がギャプランの背後に回っていた。友軍の爆風を利用して身を隠し、ユウの背後まで気付かれずに移動したのだろう。
サマナはユウを援護しようとビームライフルのトリガーに手をかけるが、ギャプランの真後ろに敵機がおり、そのまま狙えばギャプランに確実に当たる。
苦虫を噛み潰した表情で、サマナは機体を動かす。艦隊の火砲がサマナに集中し始めたのである。MSの発進に手間取っている中で、唯一出来る援護らしい援護であり、サマナにユウを援護する隙を与えない。
完全に相手優位の形であった。新型機は既にビームライフルをギャプランに向けており、トリガーに手をかけていた。
(避け切れんか!)
ユウはダメージを少しでも軽くしようと、体勢を反転させようと操縦桿を操るが、どう考えても反転する前にビームライフルが直撃のタイミングである。
「素晴らしい電撃戦だった。合格だ」
その声と共に新型機が爆発する。
一体何が起こったのかユウには理解できなかった。
ただ事実としてユウは無事であり、彼を狙っていた新型機は跡形も無く、その場には“ザク”がいた。
ザクはザクでも、連邦の量産機として開発されたハイザックではなく、MS史の始まりとも言えるジオンの名機ザクUである。
七年も前の旧式機がなんでこんな場所に。
「レドナ大佐なんですか!?」
「そうだ。二人ともよくあの短い時間でこれだけできたものだ」
ザクのパイロットはレドナであった。艦長自らMSに乗って出撃、しかも乗っている機体はザク。驚きも驚きであった。
その驚きもつかの間、戦場が再び活気立つ。
艦隊のカタパルトの修理が終ったのだろうか、次々とMSが出撃してくる。
「くっ、敵が本格的に始動したか!」
あっという間に、戦場でのMS数が逆転する。
さすがのユウも焦りが顔に浮かぶ。サマナも同様であった。歴戦の猛者がこの状況がいかに危ういか理解できないわけがない。
ただレドナは冷静そのものであった。
「カジマ少佐、サマナ大尉、以後私の命令通り動くように」
「了解」
当然二人とも、一時撤退の命を待っていた。
「両機とも艦隊撃墜を最優先に行動せよ、援護は私が受け持つ」
「「!?」」
「行くぞ!」
ザクが先行して敵艦隊へ突き進む。慌ててユウ達もレドナを追いかけ、命令通り艦隊撃破の任に着く。両翼に二人が配置され、二人の間の後方にレドナが控えるV隊形となる。そこに迫り来るジムU。だが、二機に近づく前に宇宙の塵と化す。レドナのザクが所持しているマシンガンから薬きょうが吐き出されていた。
目にも留まらぬ攻撃であった。
レドナはマシンガンを止める事無く撃ち続ける。その撃ち方はまるで下手な鉄砲数撃てば当たるかのような、無茶苦茶な射撃に見える。
だが、銃弾の行き着く先には必ず敵機がおり、次々と撃墜されてゆく。無駄な弾は一発も無く、全てコクピットを的確に射抜いている。
まるで相手の動きが分かっているかのような動きだ。弾丸を装填する時も一時の油断も無い。マガジンを切り替える時に一切敵の攻撃が来ない。敵を片付けた後か敵がいても射程外で攻撃できないのだ。
まさに完璧である。
鉄壁の盾に守られながらユウとサマナは艦隊に取り付く。
二機の銃口から撃たれた光線が艦のブリッジを貫く。残った一隻もレドナの砲撃で轟沈する。
帰り場所は失ったジムUら数機は、捨て身覚悟の特攻をしかけてくる。せめてもここにいるMSに一矢報いようとの考えだ。
レドナもそれを読んでいたようで、すぐにマシンガンを相手に向ける。が、すぐに銃を降ろした。獲物は既に先に狩られていた。
「大佐、一人でこっそり出撃なんてあんまりじゃありませんか!」
声の主はベルナンド・モンシアであった。
ジム・クゥエル二機とジムキャノンUが残った残存戦力を一掃している。三機に後方にはアル・ギザも控えている。こちらの本隊が到着したのである。
「さすが、蒼き稲妻ですね」
ジムキャノンUのパイロット、チャップ・アデルはそう呟く。レドナの力を借りたとはいえ、二人であそこまで艦隊を翻弄したのは事実である。
「それはこちらの台詞です、思い出しましたよ、紅き閃光と言われた、第一機械化混成鹵獲部隊のマモル・レドナの事をね」
ユウはそう語った。
連邦軍には、一年戦争時にMSを鹵獲する専属の部隊が存在していた。MS数の絶対数が少なかったあの頃は、ジオンから鹵獲されたMSは貴重な戦力であった。
その重要な任務とは逆に環境は劣悪であったと聞く。物資不足は日常茶飯事で友軍から物資を盗む、生身でMS鹵獲の任務をこなす等、その環境は伝え聞くだけでも壮絶なものである。
そのあまりに過酷の状況で、結成された大半の部隊が終戦前に機能不全に陥ったという。
ただ最後まで機能していた鹵獲部隊が二つ存在していた。今、ユウ達の目の前にいるマモル・レドナが率いていた第一機械化混成鹵獲部隊と、黒き疾風と呼ばれたミット・クライブが所属していた第三機械化混成鹵獲部隊であった。
後に第三機械化混成鹵獲部隊は解体され、純粋なMS部隊に再編成されたが、第一機械化混成鹵獲部隊を終戦まで任務を続けたという。
この二部隊が存続できたのは、マモル・レドナ、ミット・クライブの両名の力が大きいと言われている。
最新鋭のゲルググが奪取し、圧倒的な力で戦果をあげたミット・クライブ。
天才と称され、その操縦技術と戦況把握能力で任務をこなし続けたレドナ・マモル。
彼らは地上戦からの叩き上げのエースパイロット達なのである。レドナは現在、アル・ギザの艦長に就任しながらも、時折、こうして出撃する事があるそうだ。その能力は色あせていない。
もう一人のエース、ミット・クライブはサイド3防衛隊に配属されたが、最近になって消息不明になったとの情報がユウの耳にも届いいた。
「……古い話だ。とにかくこれで君らの実力は証明された。全機、アル・ギザに帰艦せよ!」
V
ギャプランとマラサイはMSデッキに回され整備が始まっている。特にダメージは負っていないので、時間はそうかからないだろう。
二機の隣ではレドナが乗っていたザクも整備が行われていた。パッと見、一年戦争時から仕様が変わっているとは思えない。先程コクピット内も見たがリニア・シートや三六〇度スクリーンと最新式になっていたが、それ以外は特に変わっていなかった。性能的にはほぼ変わっていないだろう。
「この機体であんな芸当ができるものなのか?」
「あれは芸当なんてもんじゃないさ。ザクでも戦況次第ではまだまだ使えるって事さ」
ユウの背後にはレドナが立っていた。既にパイロットスーツを着替え、最初に会った頃のように軍服に袖を通していた。
「でも紅い閃光の力を見せていただきましたよ」
「こちらも君らの実力を拝見させてもらったよ。これで彼らアルファ小隊も納得しただろう。今後も我々に力を貸してくれ」
「ハッ!」
互いに敬礼をし、レドナは踵を返し、その場を後にする。
代わるようにアルファ小隊隊長のアルファ・A・ベイト大尉がユウの元に駆け寄る。
たた無言で握手を求めるベイト。
それはユウを認める証拠であった。
二人はガッチリと握手を酌み交わす。