第七章
T
ウェイ・アルダンは個室の前に立っていた。そして一息、大きく息をする。個室に掲げられているネームプレートには『コウ・ウラキ』と書かれている。
地球からの補充パイロット、コウ・ウラキの部屋である。ただ、編成時のいざこざがあった為か、それ以来、彼は部屋に閉じ困ったまま出てこようともしない。既にウェイ達、特遊隊には次の命が下っている。そろそろ彼にも準備をしてもらわないと行けないのだ。
「ウラキ少尉、入るよ」
ノックをして、ウェイは入室する。
部屋は真っ暗になっており、ベッドに付いているライトに僅かの灯りがあるだけだ。コウはベッドに体育座りでポツンと座っている。
出された食事にも手を付けた形跡が無い。
「何か用ですか?」
弱弱しい声で、コウはそう問う。薄明かりなので表情は良く見えないが、随分やつれている様だ。無理も無い、警備の者に聞いても部屋を出たのは用を足す時くらいで、あとは閉じこもったままだったというし、食事も取っていないのだ、そうなるのは当然だ。
本当に、戦力になるのだろうか?
ウェイはその事が頭によぎる。
ミットとフェイクは、先日街に出かけた時にシミュレーションで戦ったらしく、彼の実力は認めている。二人がその力を認めているからには、嘘ではないだろう。ただ、その力が現在フルに発揮できるかといえば、ノーだ。
抜け殻のような彼を戦場に出しても、みすみす殺すだけだろう。
自分はそう思っているのだが、MS隊長のミット、上司のレイゲンは必ず連れて行くと言って聞かない。そう言われてはウェイも反論はできない。
「命令でね、我々は次の任務のため月を立つ。君にもそろそろ我らが母艦に乗ってもらいたくてね」
「僕は乗りませんよ。もう戦いたく無いんです」
「まぁ、そう言うと思ったよ」
ウェイは暗視ゴーグルをかけ、コウに銃を向け、首筋目掛け一発放つ。銃からは細い針が飛び出し、コウの首突き刺さる。
「……くっ!?」
一瞬、苦悶の表情を浮かべたコウだが、すぐに糸が切れたようにベッドに倒れる。ウェイが放ったのは、即効性の麻酔銃であった。
「すぐに彼を母艦の医療室へ。点滴でも良いので、栄養を与えてあげてください」
「お任せを」
部屋を外に控えていた、看護兵にそう指示を出す。ウェイは任務完了をレイゲンに伝える為、部屋を後にする。無理やり従わせたので、ウェイは釈然としない。レイゲンらが何故あんなにコウ・ウラキという人物に期待しているのか理解に苦しむ。
ミット隊長とのシミュレーション結果? デラーズ紛争での活躍? 分からない。
それはあの人自身に聞くしかない。
「ウェイ・アルダン入ります!」
「おおっ、ウェイか。どうだった?」
「大尉が持たしてくれたものが役に立ちましたよ」
ウェイはレイゲンに暗視ゴーグルと麻酔銃を渡す。コウの部屋に行く前にレイゲンの部屋に寄った所、これを渡されたのだ。
まさか本当に使うことになろうとは思わなかったが、レイゲン得意の先読みだ。さすがとしか言えない。
手渡された荷物を早々に片付けながら、レイゲンはモニターから目を離さない。
ウェイが何を見ているのか聞くと、
「エゥーゴの地上支援組織カラバから送られてきた最新映像さ。お前も見るか?」
レイゲンはウェイにも画面が見えるようにモニターを動かす。画面には市街地で戦うガンダムmk‐Uが映し出されていた。
ガンダムmk‐Uはあのアムロ・レイの再来と謂われるカミーユ・ビダン少年が駆り、その活躍は目覚しい。エゥーゴのフラグシップ機になりつつある。
そのガンダムmk‐Uの相手もまたガンダムであった。
「黒いガンダム!? ……なんだ? この大きさ!?」
その黒いガンダムはmk‐Uの二倍はあろうかという全長であった。まるで大人と子供のような違いだ。本当に同じMSという兵器なのか疑いたくなる。
黒いガンダムから無数のビームが発せされ、市街地が一気に廃墟と化す。すさまじい火力である。
「たしかにこの火力は凄まじい。だが、この機体の一番の武器はここだ」
レイゲンは映像を早送りし、重要であろう部分で映像を再開させる。
黒いガンダムに向けて、カラバ側が攻撃を行っているシーンだ。ビームライフルから打ち出された光線は、何発も黒いガンダムへの直撃コースを描いている。
しかし、光線を直撃ギリギリで弾かれ、黒いガンダムに傷一つ付いていない。
「ビームを弾いた!? まさか対ビームバリアーですか?」
「ご名答。Iフィールドだ」
現在MSにおいて最強の矛がビーム兵器である。有効な防御方法がほとんど確立されておらず、装甲を厚くするより、軽量化して被弾率を下げるというMS設計が主流な程だ。
ただ一つ最強の矛を無効化する最強の盾がある。それがIフィールドだ。Iフィールドに指向性を持たせずに機体全体を包むように発生させるとビームに対するバリアーになる。との事だが、ウェイには理論が良く分からない。
だが確実に言えるのは、Iフィールドがある機体には、MSに標準装備されつつあるビームライフルはまったく効かないのだ。
ビームサーベルに対して、Iフィールドは無意味らしいが、格闘の間合いに入られなければ、有効な攻撃となりえない。黒いガンダムの映像を見る限り、圧倒的な火力の前に近づくことさえ困難に見える。ましてや、あの大きさだ。動きが鈍重だが、その分装甲は厚いはずだ。並みの武器では歯が立たないだろう。
「Iフィールドジェネレーターは、小型化が進んでないから、どうしても機体サイズは大きくなってしまう。たがいずれ、小型化され一般のMSに搭載されてみろ。MSのあり方が変わるぞ」
「……はぁ」
「そうなる前に、先手を打たんとな。……もしもし、私だ。ニナ君か? 先日話した件だが、……ああ、例の品物の設計・製作を急いでくれ」
レイゲンは室内の内線でシステムエンジニアのニナと会話を始めた。内容からすると、MSに装備させる新兵器の内容だろう。
内線での連絡が終ると、レイゲンはそそくさと、身支度を整える。
「ぼさぼさするなよ、そろそろ船が出るぞ」
「あっ! そうでしたね」
二人は次の作戦の為、レイゲンの部屋を後にする。
レイゲンにコウの事を質問することをすっかりと忘れていたウェイであった。
U
ミットの眼前にはアーガマが再び姿を現していた。しかしあくまでも形だけであった。
今回の作戦は、エゥーゴのパイロットカミーユ・ビダンとクワトロ・バジーナが地球からシャトルで脱出してくるのをアーガマが回収するという作戦がまず、エゥーゴ内に発せられた。
当然エゥーゴの旗艦であるアーガマが大気圏周辺で単独行動を取れば、敵側の攻撃が激しくなる可能性がある。そのため、アーガマに偽装した艦船を囮として出向させ、敵戦力を分散させる手筈になっている。
それが今、ミットの目の前に存在するアーガマの偽装艦なのだ。ただ、ここまで完璧に似せられるという事は、母体とした艦船はペガサス級の流れ汲んだ物なのは間違いない。二対ある出撃用カタパルトはそうそう他の艦船で表現できるものではない。
しかも驚きなのは、今後この戦艦が自分達の母艦となるのだ。それだけ特遊隊は期待されているのだろう。
「どうした隊長、乗らないのか?」
「フェイクか、まさかペガサス級を母艦にする日が来るとは思わなかったからな」
「それは俺もさ。木馬に乗ることになるとはね」
「すいません! 退いて下さい!」
二人の会話に割ってはいるかのように、複数の看護兵が担架と一緒に艦船へと走ってゆく。担架には見覚えのある顔が乗っていた。補充パイロットして特遊隊に配属されたコウ・ウラキだ。
「彼には麻酔で眠ってもらいました。隊長や大尉があんまりにも彼に固執していましたからね」
と、答えたのはウェイであった。
「麻酔か……レイゲンさんが考えそうなことだ。さぁ、俺達も搭乗を急ぐぞ。我々が出ないとアーガマは一向に出航できんからな」
既にミット達のMSは納入されており、あとは人員が全員乗れば即出航の運びとなる。
三人はブリッジへ上がるため、エレベーターに乗る。
ここでフェイクにとある疑問が浮かぶ。
「そういえば、この艦の艦長って誰なんだ?」
ペガサス級の戦艦を任せられるからには、本家アーガマの艦長ブライト・ノアとまでいかないまでも、相当な凄腕艦長のはずである。
アーガマの前任艦長といわれる、ヘンケン・ベッケナーであろうか?
「レイゲンさんに作戦前に聞いたが、詳しく事は教えてくれなかった。ただ、俺とウェイは面識のある方らしい」
「そうなんですか?」
ウェイは初耳らしく、驚いた表情をしている。
期待を膨らませながら、ブリッジに到着した三人。一言入れてから入室する。
ミットとウェイは一瞬、目が点になった。そして二人の声が交錯する。
「「ゼニス・アルフレード艦長!」」
かつて一年戦争で苦楽を共にしたゼニスがそこにいた。
元々ミット達が所属していた第三機械化混成鹵獲部隊が解体され、宇宙へ出向、純粋なMS部隊として再編された時の部隊の艦長が彼なのだ。
「久しぶりだな、ミット大尉にウェイ中尉」
気さくな笑顔で二人を出迎えるゼニス。その表情は一年戦争時とまるで変わらない、あの頃のままだ。
ゼニスを確認したミットはブリッジ内を世話しなく、見渡す。彼がいるという事は、体が反射的にとある人間を探す。それを見たゼニスは笑いながら「心配するな、娘は既に軍を辞めたよ。寿退社という奴か」と伝える。
「そうですか……」
心底安心するミット。前回はゼニスの娘にかなり振り回され、苦労した経験がミットにはあった。正直ホッとしているがあのムードメーカーがいないのは、やはり寂しいものだ。
「艦長、物資の積み込み、人員の搭乗が全て完了しました」
「ご苦労、よし直ちに出向する。進路はサイド3方面に取れ!」
サイド3は地球からもっとも離れたコロニー郡だ。敵を引き寄せるにはベストだろう。
「サイド3か……」
この戦いに引きこもれたのは、あの地だったな。
感慨深くミットは感じる。サイド3防衛隊という閑職にいた自分が戦場に再び戻ってこようとは、あの時は思いもしなかったな。ノルグ艦長以下、防衛隊の皆はどうなのったのだろう。おそらくもうこの世にはいまい。
ミットは自らを再び戦いに引きずりこんだその地へ帰還しようとしている。
「ペガサス級に似た艦船が月を出向したか……。ベイト大尉はどう思う?」
そんな情報がレドナの元に届いた。
「前回我々が戦ったアーガマなのではありませんか?」
ペガサス級に類似した艦で現在稼動している艦は、エゥーゴのフラグシップ機であるアーガマしか存在しない。
答えはそれしかないはずだ。
だがレドナは首を振る。
「いや、この情報は嘘だ。いや、正確に言えば、戦艦は出向したが出向した戦艦はアーガマではない」
「何故そうお思いになるのですか?」
「エゥーゴの旗艦の情報がそう易々流れると思うかい? これは我々を引き寄せるための罠さ。本物のアーガマはこの船とは逆の進路を取ると思うね」
「逆と言うと……地球方面。となるとアーガマの目的は地球に残っている味方の救出?」
「そうなるな。そこで我々はこの出向した艦を追う!」
「何ですって!?」
ベイトもさすがにそれには驚く。
相手の罠だと判断しながら、それに引っかかろうとしているのだ。レドナの腕は認めているのだが、時々こういった分からない采配をすることがある。
だが、その采配がことごとく成功しているが不思議である。先読みが鋭いという一言では済まされない気がする。
「罠に引っかかってやらんと相手も疑うだろ? ただし、罠に引っかかるのは我々だけだ。さらにアル・ギザは使わん。サラミスを使用する。アル・ギザは本命のアーガマに宛てる。MS隊はアルファ小隊とカジマ少佐、サマナ大尉、そして私だ。良いな?」
「……ハッ!」
あくまでも単艦で引っかかり、またサラミス改級巡洋艦を使用するのは、戦力の分散を極力避ける算段だ。
アーガマの偽造艦の部隊の実力はそれなりにあるだろう。ペガサス級が与えられるというのは、それだけの意味を持つ。
レドナ一行は手に入れた情報を元に月を出向したペガサス級の後を追うことになった。
U
ブリッジクルーは暇あれば、外円レーダーを目にする。だが、レーダーは無反応だ。まるで海面にさざなみ一つ無い状態のようだ。
この状態に、艦を任されたゼニス・アルフレードは思い悩むだけであった。何故だ? 艦隊が囮だと気づかれたのだろうか? しかし、本部からはアーガマが発見され攻撃を受けたとの情報はまだ入っていない。
偽装艦の他にはサラミス改級巡洋艦のバルーンダミーを二隻随伴させている。少々のことでは囮部隊とは見分けられないはずである。
「焦ってもしょうがないですよ、ゼニス艦長。ここで焦ってはブリッジのクルーが動揺します。あくまでも冷静に」
ゼニスの後ろで控えているレイゲンはそう助言する。既にMSの整備も終わり、参謀役として現在はブリッジに上がっているのだ。
無論、戦闘が激化すれば彼もMSデッキに向かわねばならない。その為、服はツナギのままで、耳にはインカムを付けて、常にデッキとの連絡が取れるようにしている。
「それはそうだが……ここまで静かだとな」
「ならば偵察を出しましょう。……私だ。ウェイとフェイクの二人を偵察に出せ」
インカムを通じて。レイゲンは下のデッキに指令を出す。
「彼ら二人で大丈夫なのか?」
二人の仲が良くないのはゼニスも既に知っている。ジオン嫌いのウェイと、元ジオン軍人のフェイク。まさに水と油である。今まで仲介役にミットが入っていたが、一時ミットが戦列を離れた時、細かいぶつかり合いが色々とあったと聞いている。
レイゲンはやや強い口調でゼニスに理由を説明する。
「二人の仲が悪いのは百も承知です。だからですよ、これから戦況が悪くなれば、より小隊のチームワークが重要になってきます。信頼無くして、自分の背中は任せられませんよ」
「……確かに」
戦艦からマラサイとリック・ディアスが出撃する。ゼニスはいささかの不安に抱えながら、その光球を見送る。
「行ったか」
二人をMSデッキから見送るミット。あまりの静けさに不審に思ったブリッジからの命令で、ウェイとフェイクに偵察命令が下った。
お安い御用とばかりに快諾したフェイクに比べ、嫌々ながら出撃した。ウェイがとても対照的であった。
ブリッジが、否レイゲンが二人を偵察に出したのは、おそらく今後を考えての事だろう。いつまでもいがみあっていては、これから戦ってはいけないだろう。と言っても嫌っているのは、ウェイだけなのだが。
元々ジオン嫌いのウェイだが、フェイクとは以前、敵同士で戦い、やられた過去があるのが原因かもしれない。
ふと、ミットは後ろに人の気配を感じた。彼だな。
確信通り、ミットの後方にはコウが控えていた。最初に会った頃より大分弱弱しい雰囲気であった。一言で言えばやつれている。ほとんど食事を取らなかったと聞く。当たり前か。
「どうして自分は連れてきたんですか?」
「……と言われても、君とシミュレーションで戦って、その力を見たからじゃ不服かい?」
「ですが、あのゲームではあなたが勝っている」
「ゲームの勝敗で素質は測っていない」
ミットはコウを高く評価している。
月のゲームセンターで戦ったシミュレーションで、コウはミットの敷いた作戦に最後まで耐え抜いたのだ。スタート直後のケンプファーでの高速巡航、ショットガンを広範囲兵器としての使用、全てはミットが仕組んだ作戦だ。少なくとも作戦は二つ目で確実に仕留められると思っていたのだ。
だが、コウは全てに耐え、逆にケンプファーへ重い一撃を喰らわせたのも事実。そこで急遽、ミットも自らの装甲をギリギリまで削ぎ落として、スペック以上の加速を得た特攻を仕掛けざるを得なかったのだ。
最近接してきたパイロットの中では一・二位を争う素質を持っていた。
「でも今の自分が戦場に出ても無駄死にするのは目に見えてますよ」
「たしかに……でも月であのままじっとしていても状況はいつまで経っても変わらないと思うよ。だったら戦場に接していた方が、何かのきっかけにはなるはずだ。無論、今のままでは君をMSに乗せる事はできない。そのきっかけがあるまで、俺もレイゲンさんも気長に待つことにしているのさ」
「きっかけ……」
「身の危機が降りかかれば、自ずとパイロットの本能が働くと思うよ。じゃ、俺はこれで。MS内での待機が命じられているんでね」
コウにそう伝えるとミットはゲルググのコクピットへ向かう。ウェイとフェイクが偵察に出た今、いつスクランブルがかかるか分からない。敵の奇襲も考えられない訳ではない。常に出撃準備をしていて損は無い。
MSで待機するミットを見て、コウは違和感を覚える。自分もMSパイロットだった。その自分が他人を見送る。この状況そのものが初めてなのだ。
なんとも言えないその感情に体が疼く。これがミットの言っていた、パイロットの本能なのだろうか?
コウはデッキの上からミット達を見送る事しかできない。
V
沈黙する時間がもどかしい。
モニターに映る同僚の姿。普段なら世間話の一つでも出てくるのだが、相手が相手だ。こちらから声をかけたくない。
ウェイはともかく任務をこなす。精神を研ぎ澄ませ周囲を見渡す。モニターには何ら反応は無いが。こんな時こそ注意が必要だ。
「相変わらず、任務に性が出ますな」
逆に相手から話してきた。
通信相手は一緒に出撃したフェイクである。
無視しても良かったのだが、やはりウェイ自身も声を出したかったので、思わず受け答えする。
「任務ですからね」
「中尉は少し気張りすぎだぜ、もう少し肩の力を抜いていこうぜ」
「あなたは気楽ですね」
やっぱり会話するじゃなかった。ウェイは後悔しながら通信回線を切った。そして緊急回線以外の回線を全て遮断する。
既に任務が嫌になってきていた。どうして上は自分と彼を一緒に出撃させたのだろうか? そんな事を自問自答していた。
せめて単独の偵察ならもう少し気が楽だったんだけどな。
「勝手に通信を切るなよ」
通信回線を切ったはずなのにフェイクの声がウェイに届く。その理由は簡単だった。絶対に遮断することのできない究極且つ機密性を保てる装甲越しでの通信、いわゆる触れ合い通信である。
「ちゃんと、緊急回線は開いています。何かあった時はそれで知らせてくださいよ」
「……ったく、そんなに俺が嫌いか」
「誰もそんな事……」
「お前を見てれば分かるさ。あんたは俺が嫌い……いや、ジオンが嫌いなんだろ」
反論の余地は無かった。まさにその通りである。
「ジオンは前大戦でコロニー内に毒ガスを使い、何億という人間を無残に殺したんだぞ。許せるものか」
「あの時はこちらも毒ガスだとは知らされていなかった……それに今だってティターンズがコロニーに毒ガスを使った」
「でも、ティターンズじゃジャミトフの私兵……」
「連邦には変わりねぇ」
そう言われては、ウェイはぐぅの音も出ない。連邦がジオンと同じ事をするはずが無い。ウェイが信じていた理念が崩れたのはつい最近だった。反地球連邦組織といわれるエゥーゴにも迷わず参加できたのは、そのせいかもしれない。
それでもウェイには、ジオンを許すことが出来ない思いが心のどこかにあった。ここでジオンを許してしまったら、今まで自分がやってきた行為が全て反故になってしまうからだ。
ただ、ウェイがフェイクを好きになれない問題がもう一つある。それはかつてお互いが刃を向けて戦いあったからである。そして、その結果はウェイの敗北で終わっている。
「まぁ……俺の事を好きになってくれとは言わんよ。ただ信頼して欲しい。警戒されたままだと背中は任せられねえからな」
「信頼……ハッ!? 危ない!」
ウェイの言葉に反応して、フェイクは反射的に機体をウェイのマラサイから離す。その間を光線が突き抜けたのは、その直後であった。
二人は即座に戦闘体制に入り、同時に信号弾を打ち出す。敵発見の合図である。だが、レーダーを確認した二人は愕然とした。
「くそ! 釣れなかったか!」
フェイクは思わずその言葉と共にコクピット内の壁を叩く。レーダーには艦船と思われる反応が一つしか確認されておらず、MSの反応も数機足らずである。
これは囮役としては失敗だ。
だが、悲観してもいられない。まずは目の前の敵を倒させねばならない。
マラサイとリック・ディアスは自機の火器の火蓋を切る。
「カタパルト準備してくれ! 出撃する!」
二つの信号弾を確認したミットは、直ちに出撃体勢に入る。
MSデッキからゲルググがカタパルトへと移動される。この艦は前脚の上面にカタパルトが設置されている。
ゲルググが出撃位置に固定されると、折りたたまれていた出撃カタパルトがまっすぐに伸びる。出撃準備が完了した。
「ミット大尉、残念ながら敵はサラミス巡洋艦一隻のようだ。完全に作戦が読まれていた」
「のようですね。ですが出撃しない訳には行きません。出撃後の援護をお願いします、艦長」
「了解だ」
「ミット・クライブ、ゲルググ出るぞ!」
ゲルググがカタパルトから弾き出される。その後急速に体を覆うGにミットは懐かしさすら感じた。しばらく戦場から離れていたからだろう。その感覚を感じたまま、漆黒の機体は飛翔する。
それを見送るコウもまたどこか懐かしい感覚にとらわれていた。ゲルググの出撃の様子を自分はどこかで見た事があるような気がしていたのだ。この艦に以前乗っていた気がしてならないのだ。
「ウラキ少尉、既に第一種戦闘配置です。居住ブロックへとお戻りください」
「あぁ」
整備兵に言われるまま、コウはMSデッキを後にする。ただひどく足取りは重かった。やはり自分はMSパイロットなのだと実感する。
居住ブロックへ帰るコウを尻目に、MSデッキ内のモニターには敵の姿が映し出されていた。
敵の機影はジム・クゥエル二機にジムキャノンU一機
かつての戦友達の機体であった。