第八章 交じり合う天才と天才
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切れ目の無い攻撃の嵐が二人を襲う。少しでも息を抜いたら援軍が来るまで持ちこたえられない。水と油であったフェイクとウェイもここは手に取り合って戦線を維持するしかない。
「待て! 深追いをするな!」
敵を追おうとするウェイを制止する。普段ならウェイは制止を振り切り突っ込んでいただろう。だが、相手が相手だけに素直にフェイクの指示に従う。
すると、岩陰からジム・クゥエルが飛び出して来た。即座にリック・ディアスのビームピストルがそれを威嚇する。
そのまま突っ込んでいたら、ジム・クゥエルの餌食になっていたかもしれない。フェイクの冷静な戦況判断の賜物だ。ウェイが手を組む気が無かったときでも、フェイクは彼の癖や動きを観察し、コンビを組むことを常に想定していたのだろう。
マラサイのレーダーが新たな敵を知らせる。敵の増援だ。そこでウェイは目を点にする。
「敵は新型が一機とマラサイと……それにザク!?」
間違いなくザクであった。現在稼動しているハイザックではない。ジオンの名機ザクUのそれだ。
新型はウェイの機体データベースに存在しない。機体形状からしてMAであるが、能力がまったく想像できない。相手の出方を見るべく、ウェイはビームライフルを敵の援軍に向ける。
が、敵MAは一瞬でフェイクとウェイの戦線を突き抜けた。春を告げる強風、春一番のように。
速い、そう気付いた時には既にMAはウェイ達の戦線を突破していた。ビームライフルで追撃する間も無く、逆にジム・クゥエル達の反撃に晒される状況に陥った。ウェイらの一瞬の隙を彼らは見逃していなかった。
新型MAとザクは戦線を抜け、残ったマラサイはジム・クゥエルの小隊と合流していた。
このままでは母艦の危機であるが、今この戦線を維持する為、ウェイとフェイクはここを離れるわけには行かない。これ以上戦線を下げれば、それこそ分が悪い。
「ウェイ、フェイク、その二機は俺に任せろ!」
突如、二人の下に通信が入る。隊長のミットであった。二人の信号弾を見て出撃してきたのだ。たしかに戦線を下げるより、後方にいるミットに任せたほうが二人には都合がいい。
「よろしくお願いします」
「すまねぇが、任せる」
「増援のネモ二機はお前らの戦線に向かわせる! 頼んだぞ」
その一言を聞いて、二人はコクピット上ながらも振り返る。ミットはあの二機を一人で相手しようというのか。ザクはどうにかなっても、能力も把握もままならないMAを相手にするのは、一機では無理だ。
いや、まだ母艦にはMSがある。ただパイロットがいない。彼に期待するしかない無いのだろうか?
淡い期待ながら二人はそれに期待するしかなかった。
最前線はより激しさを増す。
さて、どこまでできるものか。
復帰明けでいささか体に重さを感じていたが、そんな物は戦場に出れば、すぐに無くなってしまった。
ミットは軽快にフットペダルを踏む。
飛来する敵の数は二。一機はジオンのザク、もう一機は新型のMAだという報告だ。
「……MAなら、初撃はここだ!」
一年戦争時、ミットはMAと戦った経験がある。おそらくその経験が無かったらここを狙うことは無いだろう。
ゲルググのビームライフルの光線が一直線にMAのある部分へと向かう。
それはMAのメインカメラであった。
MAの装甲は厚く、旧タイプの兵装であるゲルググの火器では、有効のダメージは与えられない。ただ一点、装甲の薄いメインカメラを除いては。
敵MAの異変が起こったのは、ミットがビームライフルを放った直後だった。突如、足が生え、両翼であった翼が可変し、中から両腕が姿を現し、その翼でビームを受け止めた。
「MSに可変した!?」
可変MSの開発がされていたのは噂で知っていたが、まさか既に実用化されているとは……。
感心する間も無く、ミットはアームレイカーを手前に引き、フットペダルを踏み込む。敵は新型だけではないのだ。ミットの指示でゲルググは推進剤を吹かしながら、機体がバックする。
すると、ゲルググの元いた場所に銃弾の嵐が通り過ぎ去った。
「そこか!」
弾幕が来た方向そのままに、ミットはビームライフルのトリガーを引いた。
ビームの光球が辺りの岩石を砕き、敵の姿が露になる。新型MAと一緒にいたザクだ。今の攻防でミットはある事に気付く。
あのザクの性能は一年戦争のままだ。
ウェイ達の通信でザクがいるというのは理解していた。おそらくは自分のゲルググと一緒で、特殊な改造を施し性能が上昇したザクだろうと、予測していた。
しかし、目の前に現れたのは、旧式そのものザクであった。装備も能力も一年戦争の頃のままだ。ただ一つ違うのはパイロットの質であろう。
ザクは攻撃の手を休めず、ミットに一二〇ミリマシンガンを浴びせ続ける。その攻撃は洗練されており、的確であった。
「この動き……只者ではない! ……しかしそれは見切っている!」
ミットは素早くビームサーベルとビームライフルを持ち替え、ビームサーベルを掲げ回転させ始める。ビームサーベルはプロペラのように回り始め、簡易的なビームシールドを形成する。直後、それにビームが接触する。
可変した新型機のビームサーベルが振り下ろされていた。上方からの攻撃はビームシールドで防御しつつ、ザクへの牽制も忘れない。この状態はある意味、格好の的であるからだ。
シールド内蔵のビームガンでザクの攻撃の糸口を紡ぐ。体勢が悪いながらも狙っているはずであったが、ザクは軽やかにビームガンから逃れている。決してザクのそのもの動きが良い訳ではない。
はじめからミットの動きと射撃を予測していたのだ。
思わず舌打ちをするミット。しかし、悪いことがさらに重なる。突如コクピット内にアラームが鳴り響く。モニターに表示されている、ゲルググの各部分を示す三面図の右腕の部分が赤くなっている。
相手の新型MSの攻撃を受け止めていた右腕は、相手のパワーによって悲鳴をあげていたのであった。このままでは右腕が吹っ飛び、相手の攻撃を直で受けることになる。そうなれば、勝負は決する。
ミットはビームサーベルを回転させるのを止め、一一〇ミリ速射砲を新型MSへと向ける。
相手もそれが何かを一瞬で気付き、すぐに身を引き、ゲルググの射線を外すべく、両腕のビーム砲を発射する。ミットもシュツルム・ブースターを駆使して、すぐにその場を離れる。
敵MS二機と間合いを取るミット。しかし、優劣の差がはっきりしている。
「……こいつは分が悪いな」
新型MSの想像以上の性能、ザクのパイロットの類まれな素質。ネモ部隊をウェイ達の増援に向けたのは間違いだったかもしれない。たった一時の攻防で既にゲルググの体は悲鳴をあげ始めていた。特に新型MSの攻撃を受け止めていた右腕のダメージは顕著だ。
もう一機でも友軍が入ればな……。
しかし、母艦には既にパイロットはいない。
否、一人だけいる。
今こそ彼を連れて来た意味があるというものだ。彼が出撃するか、しないかでミット達の命運がかかっている。
「レイゲンさん! ネモをいつでも出撃できるようにしておいてください!」
母艦に向けて、ミットはそう言い放つ。
「……かなり戦火が近いな」
絶え間なく続く弾幕の音、慌しくフロアを駆けていく人の足音。自室にいるコウでも、戦闘がどこで行われているのが分かる。
かなり近い位置まで押し込まれている。
ミットもそうだが、ウェイもフェイクもパイロットの能力は確かだ。それはコウも理解している。三人はいずれもエースと言っても差し支えないし、使用機体も新型やカスタマイズされた能力向上機だ。彼らは十分にそれを乗りこなしている。
彼ら三人の力を持ってしても、こんなに押されている。相手の戦力が膨大だから? いや、相手はサラミス改級巡洋艦が一隻と聞いている。そうなればMS数ではそう大差は無いはず。
この程度の局地戦なら彼らの能力とMSの性能からすれば、十分有利に進められたはず。
だが、戦況はコウの感じた通り、不利なものである。
直後、大きな爆音と共に艦内が大きく揺れ、コウはバランスを崩し、フロアに崩れる。
『居住フロア被弾! 各員消火作業を急げ!』
「……ここまでか。くそっ!」
部屋にかけてあった自分のパイロットスーツを引ったくり、コウは部屋から出る。フロアの空気が勢い良く外へと流出している。とりあえず、コウはその方向とは逆へと走り出す。空気が流れる先は宇宙空間だ。生身のままでは命が危ない。
走っている最中、コウはとある装置のボタンを見つける。咄嗟にそのボタンを殴るように押す。ウォールフィルム射出ボタンだ。
ウォールフィルムは艦に穴などが開いたときに、空気の流出を止める物だ。ボタンを押すと風船のようなものが射出され、空気の流れに乗り艦内を移動していった。
これで空気の流出は止まるだろう。
コウは走り続ける。
どこに向かおうとは考えていなかったが、体が自然に動いているのだ。先ほども感じた感覚、何故か体がこの艦の見取り図を知っているかのように動く。
最短の道を辿ってきた場所は、MSデッキであった。
デッキではコウの到着を待っていたかのように、ネモの最終調整が終わろうとしていた。
「やはり来たな、コウ君」
「レイゲンさん」
「既にネモの出撃準備は完了している。あとは君次第だ」
コウの心は既に決まっていた。
ネモの元へと駆け出していった。
「整備班! コウ少尉がそちらに向かった。すぐに出撃準備だ!」
U
情勢は誰が見ても不利であった。
シールドでザクの一二〇ミリマシンガンを受け止めながら、新型MSへの牽制をする。だがそれも一人では限界があった。徐々にだがゲルググのダメージが増していく。
新型MSのメガ粒子砲を回避し、追撃の一撃を放つ為ビームライフルを向けるが。粒子は収束されず銃口から打ち出されることは無かった。
ビームライフルの弾切れ。武器の弾数を把握していなかったミットの致命的なミスだ。咄嗟にシールド内蔵のビームガンの銃口を新型に向ける。ビームガンの弾数にはまだ余裕がある。
しかし、それは敵側の思う壺であった。今までザクの攻撃を防いでいたシールドを攻撃に転用した事で、ゲルググの守備に隙が生じた。
そこを逃さまいとザクがヒートホークを手に取り、ゲルググを狙う。一二〇マシンガンよりヒートホークを選んだのは、おそらく撃破への確実性である。遠方から打つより、直接白兵戦に持ち込んだ方が撃破の確率が高いのは明白である。
今から再度シールドを守備に回せば、今度は新型MSの攻撃に晒される。かといって、ザクの攻撃を防がなければ、致命傷いや、それ以上の損傷を追いかけない。
そしてミットが取った行動は、自らの身を切ることであった。
シュツルム・ブースターを
ミットの予想通り、ザクの攻撃はワンテンポ遅れる。その間に新型MSにビームガンで牽制し、すぐさまその場を離れる。
なんとか急場を凌いだが、ゲルググは白き翼を失った。ゲルググの武器であった機動力が大きく削がれた事を意味する。
次の猛攻をもう一度防げるかといえば疑問が浮かぶ。既にビームライフルの弾は無い。ゲルググのビームライフルは旧式な為に、戦場で弾切れを起こしてしまった場合、その場で弾を補充する術は無い。
今度は確実に仕留めるべく、ザクと新型MSはゲルググに向かって襲い掛かるが、そこに一線の光が見えた。
「まだ諦めないでください! 大尉!」
その声と共にゲルググ用のビームライフルが飛んでくる。援護に来たネモが投げたものだ。それを素直に受け取るミット。
「ウラキ少尉、俺は信じていたぞ」
誰がネモに搭乗していたのかは、疑うことも無い。遂に戦場へパイロットは帰ってきたのだ。
「これも運命でしょうね。ここにいることも……それに眼前にいる敵も!」
コウはビームライフルをミットに手渡すと、我先にと新型MSへと攻撃を定めた。
まさしく、あの機体だ。
地上でのシャトル防衛線でコウ合間見えた新型機。あの部隊に親友のキースを失った。それまで抑えていた気持ちが暴走した。
戦場に私情は禁物だが、あの機体だけは!
今のコウの行動力は全てこの一点に凝縮されている。
「この動き、……似ている」
敵戦艦から出撃してきた援軍のGMタイプの動きを見たユウの感想だ。地上でのエゥーゴのシャトル打ち上げ阻止作戦の時、一戦交えた機体の動きにそっくりなのだ。
しかもその機体が執拗に自分を狙ってきている。ゲルググが動きを制するように振舞っていたようだが、GMタイプの機体はこちらに迫ってくる。
間違いないか。
「大佐、すまないがあのGMタイプの相手は私一人でやらせてもらう」
レドナの了承を得ずにユウはGMタイプへと照準を合わせる。まず、右腕のビーム砲で相手の出方を見る。
ビーム砲の一線がGMタイプの機体を襲う。だが、相手はいとも簡単に回避してみせる。その移動後の隙を付き、ユウは左腕の本命のトリガーを引く。
それより一瞬早く、ギャプランのコクピット内のアラームが鳴り響く、反射的に回避運動を取ったが、そのため狙っていた射角がずれた。
ゲルググのビームライフルであった。それの攻撃を利用して、GMタイプのMSは回避運動を終え、再びギャプランへと強襲してきた。ビームサーベルの閃光がユウにも見える。
即座にユウもビームサーベルを取り出す。
振り上げられた斬撃を辛うじて受け止める。そこから突然、ふれあい通信で相手パイロットが問いかけてくる。
「貴様! 最近ノルウェーで戦ったことがあるか!」
「ノルウェー!? ……そうか、やはりあの時のパイロットか!」
ユウは力任せにGMタイプのビームサーベルを弾きにかかる。こいつがフィリップのパイロット生命を奪った相手だと思うと、自然に操縦桿にも力が入る。
ギャプランの馬力はGMタイプの比ではない。予測どおり、ビームサーベルの鍔迫り合いは一瞬で終わる。敵の斬撃を振り払い、即座に左腕のビーム砲をGMタイプに撃ち込む。至急距離からのビームである、直撃はまぬがれない。その証拠に爆風があたりに立ち込める。
「呆気なかったな。敵討ちがこうも簡単に終わってしまうと……ッ!」
咄嗟に回避運動を起こすギャプラン。ビームサーベルがギャプランの頭部をかすめていた。
GMタイプは生きていた。左腕をボロボロにしながらも尚をもユウに向かってきていた。ボロボロになった左腕にはシールドの残骸がかすかに残っている。シールドで直撃はまぬがれたらしいが、ビーム砲の威力を全て相殺できなかったようだ。
「カジマ少佐! ゲルググが真下だ!」
レドナの声がユウの危険を伝える。
声に反応し、すぐさまユウはコクピットから真下を確認する。だが、ギャプランのコクピットからはその姿を捕られる事ができなかった。三六〇度スクリーンのコクピットであったが、真下が真っ黒になっていた。
「真下が死角だと!? クッ!」
コクピットに衝撃が響き渡る。その衝撃でユウは前後に揺られる。このまま状態では不利と判断したユウは、GMタイプを振り払い、緊急後退してレドナのザクとの合流を計った。ギャプランの装甲が幸いしてか、機体を失うような大きなダメージには至らなかったが、損害は甚大だ。先程の攻撃で変形機構がいかれてしまったようだ。
「ダメージは大丈夫か?」
「はい、ただ変形機構が駄目になってしまったようです」
「引くか?」
「いえ、まだやれます!」
変形機構がやられたとはいえ、MS形態での行動に何の不調も無い。戦闘になんら支障は無い。
敵対する相手はGMタイプが左腕破損、ゲルググは機動力の源であるブースターが無くなっており、戦闘能力の低下が顕著だ。一気に決着は付けられる。
四機がにらみ合い、しばし戦場が硬直する。
V
戦闘に一時の無の時間が流れている。一連の戦いに一息が入り、お互いを牽制しあっている状況だ。次に動くときが決戦になるだろうと、ここにいる全員が分かっている事だろう。ただ、明らかにミット達の分が悪い。
敵には大きな損傷は無いが、こちらには目に見える損傷がある。特にコウのネモは満足に戦える状況ではないだろう。
だが、そう考えている間に状況はミット達が悪い方向へと進み始める
「ミット大尉、聞こえるか? フェイクだ!」
「聞こえているぞ」
「すまないが、戦線を突破された! そちらに敵機四体が向かっている!」
最悪な報告であった。
今まで敵となんとか戦い会えたのは、フェイク達が前線にいた敵機を引き付けていたからだ。二対二から二対六に、不利になるのは明らかである。
しかも敵四体はミット達の後ろから来ている、言わば挟み撃ちだ。
「ミット君、至急帰艦したまえ、作戦は成功だ」
通信はアルフレードからの物であった。
「作戦成功とは」
「アーガマが地上に行った部隊の回収に成功したそうだ」
ここでミットは自分達の作戦を思い出した。
アーガマに敵戦力が向かないための囮である。それが成功したとの報告だ。だがそれで自分達の戦況に好転する訳ではない。
「各機に告ぐ、急いで障害物に盾にしろ、今から偽装をパージする! ただし相手に悟られぬようにしろよ」
その通信を最後に大きな音と共に母艦から偽装されていた装甲板が飛び散り、爆発と共にミット達の母艦の姿が露になる。
そこには白い丘がそびえ立っていた。
「あれは……アルビオン!」
元搭乗員コウ・ウラキはそう呟いた。
眼前には自分達がよく知っている、懐かしき母艦が姿を現している。
アルビオンだ。
アルファ小隊の三人はすぐに理解できた。あの激戦を一緒に潜り抜けてきた戦友だ、忘れる事なんてできはしない。
しかし、元母艦が今敵として立ち塞がっている。その事実が一人の人間の怒りを駆り立てた。
「くそぁ! エゥーゴが!」
モンシアのジム・クゥエルがアルビオンへ一直線へと加速する。それを静止しようとベイトとアデルも動くが、後ろから追撃してきた敵の二機のMSによって動きを邪魔される。今からモンシアを追っても、同じ機体であるベイトでも追いつく事は不可能だと判断し、すぐさま敵のMSの迎撃体勢を取る。
一方のモンシアはアルビオン目掛けて突進していく。しかし突如その行く手を阻む弾丸がモンシア機をかすめる。
弾が放たれた先にはゲルググがモンシアに銃口を向けながら立っている。しかしそれはミットのゲルググではない。
海兵隊仕様と言われるジオン公国軍のゲルググMであった。
「この宙域で戦闘をしている各部隊に次ぐ、双方ジオン共和国陣内へと入りかけている。早々に立ち去られよ!」
知らず知らずのうちミット達はジオン共和国の領域に差し掛かっていたようだ。いくら連邦の傘下の傀儡国家であろうとも一国には代わりない。許可なく領空侵犯すれば大問題である。
「うるせぇ、このジオン野郎が!」
モンシアはそんな事をお構いなく標的をアルビオンからゲルググMへと変える。地球至上主義のモンシアにとってジオンは憎しみの対象でしかない。
トップスピードに入り、背中のビームサーベルを抜く。
ゲルググMも危険を察知し素早く腰部からビームサーベルを引き抜き、相手の攻撃に備える。
相手の行動を鑑みて、モンシアは大きくサーベルを振り上げる。
その時、モンシア機に衝撃が走る。
サーベルを振り上げて隙が出来たジム・クゥエルにゲルググMのスパイクシールドが胸部に突き刺さっていた。だがコクピットにまでスパイクシールドは到達していない。
「もう一度言う、早々に立ち去れ。従わねばスパイクシールドが貫通するぞ」
それはつまり死を意味する。
「この宇宙人無勢が!」
モンシアは必死に抵抗しようとするが、少しでも抵抗すればスパイクシールドが動くのが分かっていて動けない。
「モンシア大尉。撤退するぞ! 作戦は失敗だ! アル・ギザがアーガマの攻撃に失敗したようだ」
その声はレドナであった。
ここまで敵を追い詰めておきながら、本作戦が失敗しては意味が無い。せめて一矢報いたいがこの状況ではどうすることもできない。
「ちきしょう!」
モンシアは怒りで操縦桿を壊しそうになりながらも全力でブーストを吹かし後退する。
それを確認した他の機体も一様にサラミス改級を目指して後退を開始する。
あれだけ膠着していた戦いがジオン共和国の一機のゲルググMによって終結した。
W
「終わったのか」
ティターンズが撤退していく。
ボロボロになり絶体絶命の危機であったが、一機のゲルググMの戦闘介入により戦闘が収束した。
ミットはホッとして操縦桿から手を離す
正直負けてしまう戦いであっただろう。
「貴様らもすぐにこの場を去れ、命令に背けばお前達も容赦をせんぞ」
そう言うのは先ほどのゲルググMのパイロットである。ミットのゲルググのモニターに姿を映る。右目の上部に切り傷が見えるが至って顔立ちは整っている。
「助けてもらってすまない、礼を言う」
「礼などなど要らぬ、彼らがこちらの命令に聞かなかったから攻撃したまで。さぁ、この空域から立ち去れ」
「分かった、しかし、一応恩人だ、名前を聞かせてくれ俺の名前はミット・クライブ大尉だ」
ミットの名前を聞くと、ゲルググMのパイロットは少し眉をしかめたが、すぐに返答があった。
「ジオン共和国防衛隊隊長、ケン・ビーダーシュタット大尉だ」
「ケン大尉か、ありがとう。ウラキ少尉引くぞ……ウラキ少尉?」
ミットはコウに帰艦命令を伝えるが、ネモからは何も反応が無い。慌ててモニターで確認すると、コクピット内で生気が抜けたようにグッタリとしている。
体調不良のままMSを操縦していたのである、倒れても何ら不思議ではない。
ミットは急いでネモの手を引き、母艦へと帰艦する。
ゲルググとGMタイプのMSは白い戦艦へと帰艦していく。こちらの命令に従ったのだ、これ以上動く必要は無い。
しかし、これに異を唱えるものが一人。ケンの後ろにもう一機ゲルググMが控えていた。
「隊長! なんで攻撃しないんです! あいつは先日うちの防衛隊を壊滅させた、連邦の黒き疾風ですよ!」
ケンの部下であるジェイク・ガンスである。彼は先日のケンが不在時に起きていた事件の事を言っているのだろう。
「ジェイク、確かにミット・クライブは我々の部隊に壊滅的な被害を与えた。だが、ティターンズの言いなりで部隊を派遣させざるを得なかった、お前にも問題があるのだぞ」
「……うっ」
そう言われては、ジェイクは黙るしかなかった。
ケンの不在中防衛隊を指揮していたのは紛れも無くジェイク自身であった。普通なら死で償っても足りないくらいである。
そこはケンの温情もあり、無罪放免とはいかないまでもそれに近い待遇で済んでいる。
「我々の任務は終わった帰還するぞ」
「了解!」
「どうにか敵を退けられたな」
アルフレードはホッと一息をつく。
MSが全機無事なのは奇跡と言っていいだろう。
「艦長、MSの収容が全て完了しました」
格納庫からの内線でレイゲンの声が耳元に届く。
「ご苦労、それでこれからどうする、敵機は去ったとはいえこの宙域近くにいるだろう」
「私の息子がいる民間補給施設へ行って見ませんか。あそこならこの艦船を隠すこともできましょうし、物資の補給もできるでしょう」
暗礁空域にあり、息子ヨウゼイが営んでいる民間の補給施設へ行くことをレイゲンは進言する。しかし以前にもティターンズに襲撃を受けている。
相手方も次の行動は予測していよう。
「しかし、以前にもそこは攻撃を受けているのだろう? 施設機能共々大丈夫なのかね?」
「施設の機能は回復していると聞いています。大丈夫です、あそこの守りは以前より強固になったとも聞いています。それと月から連絡がありまして私が製作していたMSが完成したようです。それの受領も含めて進言いたします」
「君が言うなら信じる事にしよう、どちらにせよ物資の補給が必要だ、よし進路をサイド3暗礁空域へ取れ!」
アルビオンは進路を暗礁空域へ向け、移動を開始し始めた。