遙か短文弁慶×朔部屋です。一番上が最新のものになります。
シリアスほのぼのコメディごっちゃまぜ、ネタバレ考慮一切しておりませんのでご注意!




子供の名前




「望美、よ」

子供の名前は何にしますか、という問いに対する朔の答えは簡潔だった。

「望美、ですか」
「ええ、決めていたの」

もう今は遠い時空の向こうへと帰ってしまった親友の名。
それを生まれてくる我が子につける。
少々感傷的すぎる気もするが、それでも遠く離れた親友といつでもすぐ傍にいられる気がするから。

「そうですか・・・でも僕、きっと子煩悩になると思うんです」
「え・・・?」
「きっと子供が可愛くて可愛くて可愛くて仕方なくなると思うんですよ。それはもうべろべろに甘やかして毎日頬ずりして抱っこして」
「・・・・・・」
「病気にでもかかろうものなら薬草薬湯かきあつめて一晩中つきっきりで看病してずっと名前を呼びながら手を握っててあげますねーうん絶対」
「・・・・・・」
「で、どうしますか名前?」
「・・・別のを、考えておくわ」
「そうですか」

朔の答えを聞いて、弁慶は満足そうに笑った。
その顔を見て、朔は苦々しく顔をしかめる。

全く、なんて人だろう。
朔が妬くのを見越してわざわざそんなふうに言うなんて。
だけど分かっていながらそれに踊らされる自分が一番どうしようもない。
なんてずるい人なんだろうと思いながら、それでも好きだなんて。
本当に、どうしようもないわ。

そんな朔の様子を眺めながら、弁慶はやれやれと内心で嘆息する。
朔がどれだけ子供を大切に育てるか、それは簡単に想像できてしまう。
ただでさえ、朔と望美の絆の強さには敵わないと思うことがあるのに。
これ以上、彼女の心を占めるのは・・・弁慶には許せるはずもない。
同性の友人にすら妬いてしまうなんて、滑稽なだけだと分かっているのに、自分の感情すらうまく制御できない。
全く、僕も重症ですね。

夫婦となり愛し合いながら、それでも相変わらずお互いの心中には気付かずに、二人はそっとため息をついた。




弁慶×朔では暗い話が多くなってたのでふつーに明るい話とか書けないかなーと思ったらこうなりました。
全てをすっとばしていきなり子供か!そこまでいかないと明るくならないのか!と自分で思いました(笑)



許せない心




もう誰も愛さないと思っていた。


誰も心の中に入れたくなかった。
彼を裏切らない為に。
いつだって、少しはなれた場所から眺めていた。
そのはずなのに。

彼の告白に揺れ動く、こんなにも弱い心。

「許さない・・・貴方だけは、絶対に」

己の口から自然とこぼれ落ちた言葉。

許さない。
私の愛した龍を滅したというこの人を。
許さない。
彼以外に心を動かされるこの心を。

どうして貴方は泣きそうな、それでいてほっとしたようなそんな切なくなる微笑をみせるの?


許さない、絶対に。

貴方に手をのばしたくなる、そんな自分が一番・・・

許せない。




弁慶←朔。もうちょい↓にある弁慶→朔くらいよろこび朔編。



微笑みの下




何を考えているのか分からない、とよく言われる。
そう、微笑みの下にどんな感情だって隠しきる自信があった。
これまでは。

ただ一人の少女にふわりとした微笑みを向けられて、その自信はあっさりと砕けちった。


ああ、もう離れてしまったほうがいいのかもしれない。
自分の理性が消え去る前に。

彼女の前に跪き許しを請い、あさましい想いをみっともなくさらけだす、その前に。




弁慶→朔。



くらいよろこび




ずっと恐れていた瞬間だった。
そして望んでいた瞬間だった。

透明な雫をぽろぽろとこぼす彼女は、とても美しかった。

「許さない・・・貴方だけは、絶対に」

強い怒りに身を震わせ、涙に塗れた頬をみせて。
彼女はとても美しかった。
その姿に目を奪われながら、沸き起こるのは。

ずっと恐れていた瞬間だった。
そして望んでいた瞬間だった。


今この瞬間は、彼女は僕だけのもの。




弁慶→朔。


深い闇の向こうがわ




気づいたのはヒノエだけだったのかもしれない。
最初にそれに気づいたのは、桜の咲く春の京でのこと。
ふとした時に目にした、彼女を追う視線。
己の対である少女と談笑する黒龍の神子を、見つめていた叔父の姿。
見つめている事に気づかれないように一定の距離をとって、一方的に向けられる視線。

それは甘いものでもなく、厳しいものでもなく、それまでヒノエの知る弁慶が見せることの無かったもの。
それはどこか遠くを見るような、深い闇の向こうを見るような、虚ろなものだった。





「あんたらしくないじゃん」
「何のことですか」

わかっているだろうに、いつもの笑顔で返される。
いつもそうだ、いつだってどんな感情も笑顔の中に隠してしまう。
それが時折ひどくヒノエの神経を苛立たせる。
何を言っても、どうしても、何も変えることができないのなら、放っておくしかない。
そう思っていたのだけれど。

「分かっていないなら言ってやるけど、あんたの」
「ヒノエ」

それ以上は言わせない、とばかりにはっきりと遮られる。
声を荒げたわけではないけれど、厳しいほどの拒絶を感じてヒノエは口をつぐむ。

「何を勘違いしているのか知りませんが、私と朔殿の間には何もありませんよ」
「何もない?そんな言葉を俺が信じると本気で思うほど馬鹿じゃないだろう、アンタは」

変わらぬ笑顔を浮かべたままで、ひやりとするほどの眼差しを向けられる。
そうだ、本気になれよ。
本気の顔を見せろよ。

「何が言いたい」
「あんたが動く気がないのなら、俺がもらうよ」

首筋に刀を突きつけるように、核心に触れる。

「あんたが長い間彼女を見てたのは知ってたさ。それが甘いだけのものでないことも知ってた」
「・・・だから?」
「だからこそ俺も彼女が気になった。それが切欠といえばそうなるけど」

たとえ切欠がそうだとしても。

「あんたが動かないなら、俺がもらう」
「・・・どうぞ、ご自由に」

ここまで言っても平静を保ったようなその言葉にひどく苛立つ。

「彼女の心に他の奴がいたって、俺なら忘れさせるよ」

八葉として、一緒に過ごすうちに知った彼女の過去。
そして烏から受け取った情報。
それらを結ぶうちに気づいたのは、春の京で見た叔父の、あの視線の意味。

「あんたがゴチャゴチャと余計な事考えてまごついているうちに、俺が忘れさせる」
「・・・僕には、彼女に近づく資格なんてないんですよ」
「資格?」

そっと顔を背けて表情を隠して。

「僕はそんな卑怯者にはなれない」

彼女から幸せを奪っておいて。
それを隠したままで彼女に近づいて。

これ以上、踏み込むことなどできない。

「だから、好きにしなさい」

止める権利など、ないのだから。

言い捨てて、表情を隠したまま足早に弁慶は立ち去った。まるで逃げるように。
苦々しく顔を歪め、ヒノエはそれを見送った。

「泣きそうな声、出してんじゃねえよ」

あんたらしくないじゃん。

それはひどく彼を苛立たせた。
そして彼を悲しませた。


秋の風はただ静かにヒノエの傍を通り過ぎた。




弁慶×朔←ヒノエ。弁慶×朔はねー加害者と被害者だから。しかも被害者はそれ知らないから。なんてドラマティック!!
書きたいなーと思ってました。んで書いちゃいました。わー暗いけど楽しい(笑)。