今日の収録が終わり、休憩所はガヤガヤと騒がしい。
ジュースを飲んだり、お菓子を食べたり、雑談したり。
みな一様にリラックスムード。
その一角に、半径3m程の異質な空間があった。
長椅子に腰掛けた二人が解き放つオーラ。
正確にはそれを出しているのは1人である。
目に見えない球体を作り出している。
もう一人はその円の中に入る事の許された唯一の人物。
加護の背中は時折、「誰も近づくな」的なものを放つ。
それが出ている時、辻さえも近づかない。
怒っている訳ではない。
「ちょっとほっといてね」に近い。
どんなに魅力的なお菓子でも釣れない。
小川はその円の中に、強引に引き込まれた。
「なぁなぁ。まこっちゃん」
「何ですか?」
「例えばやで。例えばの話として聞いてほしいねん」
「は?」
「今から言う話はた例えやから。そこんとこ、よろしく」
「は、はぁ」
ど頭から言っている意味がよく分からない。
もう少し先を聞いてから、色々考えてみよう。
今暫しお待ちを。
「ここに一本のマッチ棒があります」
「はぁ」
「ここに一本の鉛筆があります」
「へぇ」
「どう見える?」
「ふにゃ?」
ええと?マッチ棒があって鉛筆があって、何だっけ
「なぁ。二つ並べた時、どう見えるかなぁ」
「ああ。そういう意味ですか。ええと」
「うんうん」
加護が興味深そうに顔を覗き込んできた。
どんな言葉を期待しているのだろう。
何を言えばいいの?この状況で。
喜ばすような事を言うべきなのか。
が、肝心の「何を言えば喜ぶのか」が分からない。
考えるのも億劫になってきたので、思った事を口にする。
「別になんとも思わないんですけど」
「ぐぇ。もうちょっと考えてみて」
「えーっ」
「頼むわー。その・・・バランス的にどう?」
「鉛筆とマッチ棒ですか?」
「そうそう」
加護の表情が再度、興味津々な感じになった。
バランス、バランス、バランス?
「アンバランス」
「えっ?何で?」
「だって長さも全然違うし」
「やっぱり・・・そうか。んじゃんじゃ!」
「なんですかぁ。もう」
本質の見えない質問に、少々イライラ気味の小川。
「子犬と馬が並んでたら、どう?」
小川は犬を育てる馬を想像してみた。
「聞かなくてもわかるんじゃないんですか?」
「だよね」
そこで加護は「ふーっ」と大きくため息をついた。
小川カンピュータはショート寸前。
そんな時、加護を呼ぶ声が聞こえた。
「なぁ加護ぉ、プロレスごっこしようよー」
いとも簡単にカゴオーラをぶち破って話し掛けてきた。
その声が聞こえた瞬間、ふいに加護の表情が変わった。
いつも通り、黒いジャージ姿。
自然体で何も気にせず、カゴオーラに入ってくる。
無視する。というよりも、その存在に気づいてすらいない。
この人物は、加護を釣り出す唯一の武器といえる。
「えー、どうせ加護が技かけられる方なんでしょ?」
「まぁそうだけどさ。新しい技覚えたんだよ。手伝ってよ」
「やだなぁ」
「絶対痛くしないからさ」
やだといいつつ、加護の顔はどこか嬉しそうだ。
頬は仄かに赤い。化粧のせいではない。
小川はコロコロと変わる加護の表情についていけない。
加護とその人物は向こうへと消え去った。
と同時にカゴオーラも消える。
あにきー、私は無視ですか?
嬉しそうにそっとその人物の腕に手を回した加護は、 見上げるように大きな笑顔を見せていた。
取り残された小川は、先程の質問について考えたが、
何も答えは出てこない。
「なんだったんだろうなー」
「わかんないの?まこっちゃん」
「えっ?」
小川が後ろを振り返ると、全て分かっているような顔をしている紺野がいた。
紺野カンピュータは、例のごとく正確に素早く反応する。
「ほら、あの二人の並んでる姿、見てみてよ」
「ん?」
小川は見えなくなりそうになる二人の後姿を見た。
見たけど?何?
「何なの?あさ美ちゃん?」
「わかんないの?鈍いなぁ、まこっちゃんは」
「えー、何よ?」
「ホント、何にも分かってくれないんだから」
紺野は少し寂しそうにそういい残して去っていった。
「わかんねー!」
小川は頭を掻き毟った。少し離れた所からその姿を紺野は見た。
「マッチ棒と鉛筆の長さって、二人の身長差。加護さんも可愛いなぁ」
あの人も相変わらずだなぁ
なーんも知らない所、まこっちゃんとおんなじ
辻が「あさ美ちゃん、これおいしいよ、一緒に食べよ」と、
紺野を誘ってきた。紺野は素直に「はーい」とついていく。
微妙な表情で、ずっと頭を掻き毟っている小川を見ながら。
小川はまだ考えていた。が、ここで新たなる疑問が沸いてきた。
「あさ美ちゃん、私達の話、どこで聞いてたの?」
もう、これ以上問題出さないでよ!
3人それぞれ頭を悩ませる。
若干一名、そんな状況の蚊帳の外。