1.

以前はそれこそ嵐のようだった。
大きな声で叫びながら走り回る二つの影があると、近くに雷が落ちたような怒声が響き渡っていた。
きゃっきゃと逃げ惑う村娘達と、眉を吊り上げながら追いかける鬼。
その構図は、それこそ毎日のように見られた。
二人は鬼をからかう楽しさを覚えてしまっていた。

それが無くなったのは、単純に一緒に過ごす時間が激減したからである。
二人は少しずつ、そして確実に大人へと変わっていっているのも要因として大きい。
二人も鬼と同じ立場にもうすぐなる。

二人は考えた。
明日は鬼の31歳の誕生日。プレゼントを贈ろう、と。
私達二人ももう大人だから、ここでふざけるのは止めて真面目に贈り物を考えよう、と。
二人はこれまで使ったことの無いぐらい頭を悩ませ、何を渡せば喜んでもらえるか考えた。

「「そうだ!」」

同時に同じ物を思いついた。
さすが私達二人は息がぴったり。
色んな番組に出るたびに似ているだの、区別がつかないだの言われて腹が立つ時もあったが、
これほどまでに息の合う関係に、誇りを持つようにさえなっていた。
相手を一番よく分かっているのは自分なんだ、と。

これならきっと鬼も喜ぶ、そう確信した二人は一緒にそれを買いにいった。
早く明日になあれ。

2.

その日、中澤裕子は朝から憂鬱だった。
「三十路、三十路」と三十路ではない段階から言われ続け、昨年ついに迎えた三十路。
そして今日、そこから一年経ってしまった。
学生時代のように手放しでは喜べなくなってしまった誕生日。
時は止まる事無く流れている。

「もう31やで、早すぎるわ・・・」

この一年はあっという間に過ぎていったような気がする。
昔の友人がこの一年で数人、そして同じ業界の友人も結婚してしまった(一番意外だった人)。
なんだかんだ言っても、取り残されている事実がある。
気にしていないようにしていても、本音をついついもらしてしまう。

運の悪い事に、今日元メンバー達とは会わない。
収録日は明日である。誰に祝ってもらおうか。

そして誰もいなくなっていた。

「さ、て」

携帯のメモリーを調べてみる。
自分の誕生日の日にわざわざ電話して呼び出すのが、何だか申し訳ない。

「何で今日が収録じゃないねん」

携帯をベッドの下に投げ捨てた。今日はオフ。
何ともまぁ良い巡り合わせで。

「不貞寝するしかないやん。ありえへんわ」

せっかく朝起きたのに、もう一度ベッドに潜り込んだ。
これまでにないぐらい、切ない誕生日の朝だった。

ピン・・・ドン・・・ポン・・・ドン・・・

一日中寝て過ごすという、これまでにない誕生日の事をすっかり忘れてベッドの中にいたが、
意識の向こう側で何かの音が鳴り響いていた。
もそもそとベッドから抜け出すともう太陽は落ち、外は真っ暗だった。
さんざん寝たはずなのにまだ眠い。
寝すぎて一周回ってさらに眠い。 睡眠は程々が一番。

「うっさいなぁ。ピザなんか頼んでへんちゅうねん」

ピンポンというインターホンを鳴らす音と、ドアを乱暴に叩くドンドンという音が混ざり合い、 耳障りでしょうがない。
しかも一向に治まる気配は無く、その音はさらに激しさを増し、ループする。
だるい体でハイハイしながら玄関へ向かった。

「中澤さーん」
「31さーい」
「おかーさーん」
「元リーダぁー」

玄関に近づくと、騒がしい音と同時に叫び声が聞こえた。
どうやら自分を呼んでいるようだ。
一瞬にして頭は冴え、チェーンロックを下ろしてドアを開けた。

「「あ、出てきた出てきたー。どうもー、ダブルユーでぇーす」」
「うん、知ってる」

さすがすごいハモリや。 アンタら抜群の相性やわ。
二人でデビューは絶対売れるわ。 元リーダーが太鼓判押したろ。

「加護、辻。どないしたん?ってーか、何でここ分かったん?」

ここに住んでいる事は、メンバーでさえ誰も知らない筈だ。
同じ格好をした満面の笑みの二人。

「「今日中澤さんの誕生日じゃないですか。プレゼント贈らなきゃなって思って。
 ここの住所は事務所に行って調べてきました」」
「わざわざここまで・・・か?」

この子らの事や、何か企んでるに違いない。
警戒しながら、二人の表情を読み取ろうとする。

ま、何考えてんのか全然わからんねんけどね

「「誕生日プレゼントだから、その日に渡さないと意味ないじゃないですか。
  だから持ってきたんですよ。中澤さんへのプレゼントを」」

お見事。長文まで息ぴったり。素晴らしいわ。
特に打ち合わせてる訳やないのが、また素晴らしい。

「「はい!受け取ってください!」」
「あ、ありがと。ごめんなわざわざ」
「「じゃ!!」」

紙袋を1つ置いていき、仲良くてを繋いでその場を去る二人の後姿は、
一卵性双生児以外のなにものでもなかった。

家の中に入り、紙袋の中身を確認すると、1枚のTシャツが入っていた。
それを広げて手に取ると、何だか違和感を感じた。

「これって・・・マジでプレゼントか?」

こんな事を言うのは癪だが、あまりにも子供っぽ過ぎる。
もっと言ってしまえば、若かりし青春時代でも着たことがないようなもの。
が、このまま何事も無く過ぎていってしまいそうだった誕生日に、
こういったハプニングは嬉しい。

「酒でも飲みにいこかな」

少し気分が晴れ、外に出たくなった。
酒を飲めるメンバーを集めて、みんなでドンチャン騒ぎしよう。
もしかしたら誰か何かくれるかもしれんし。
急いで携帯電話を鳴らす。
しかし、全員仕事中で誰も電話に出る事は無かった。

何ともまぁ良い巡り合わせで。

スッピン、ジャージで酒屋で向かった。

3.

誕生日から一日たった朝。今日は朝から収録である。
昨日二人からもらった、Tシャツを手に取る。
今日これを着ていくと、あの子達は喜んでくれるだろうか。

「でもなぁ、やっぱ・・・子供っぽ過ぎるんよなぁ」

鏡の前で合わせてみると、それは誰が見てもきっとそう思いそうな姿。
が、せっかく二人で買いに行ってくれた上に、オフ返上で持ってきてくれた代物。
着ていかない訳にはいかない。

「ええか、二人が喜んでくれたらそれで。よう見たら結構可愛いし」

そういう風に思考を変えると、心はウキウキしてきた。昨日とは大違い。
人を喜ばせる事が出来るのは、何て幸せなんだ。
少し恥ずかしいながらも、中澤はそのシャツに袖を通し、部屋を出た。

道路が混んでいた為、現場には少し遅れて着いた。
急いでスタジオに向かうと、プレゼントを欲しい人物がこっちを見ている。

「ゆーちゃん、おはよー。ってあれ?それどっかで・・」
「おはよー矢口。今日も可愛いなぁ。実はな、昨日な・・・」

矢口は何か言いたそうだったがその瞬間、絶妙のハーモニーの乱入者が登場。

「「中澤さーん。おはよーございまーす!あれ、今日の中澤さん・・・」」

お、気付いた?アンタらにもらったヤツ、着て来たで。
どうやねんどうやねん、感想は。

モデルポーズで、二人にアピってみる。

「「そのTシャツ・・・」」

間までぴったり合ってるやん。
さすがはツートップ。
ちょっと恥ずかしいけど、着て来たで どうやのどうやの、感想は?

加護、辻は少しだらしなくポカンと口が開いている。
そして二人顔を合わせ、ニターっとにやけた顔で、中澤の方に顔を上げた。

「「中澤さん。それ・・・・・若作りしすぎだっちゅーのー」」

わかづ?何て?何て何て?

「「自分の年の事考えなきゃー。30過ぎてこれは無いよねーぇ」」
「ああ!!??何やとーぉ!!」

アンタらがくれたんやんけ!
似合うからってくれたシャツやんけ!
百歩譲って他の子らに言われるんはまだわかるけどな!

アンタらがそれをゆうな!!

ドッカン

数年に渡り、そのエネルギーは蓄積されていた。
発散させるその対象を見つけ、一気に落雷。
久しぶりに雷が落ちる。 避雷針は無い。

久しぶりに見る中澤の眉間の皺を、苦笑交じりに見る人達。
初めて見る鬼の形相に、ひたすら恐怖し怯え、抱き合いながら震える人達。
同じコーナーをやっていく上で、せっかくいい感じになってきたのに、
新しい悩みを抱える事になった人達。

暫く続く鬼と村娘達との追いかけっこを、それぞれの想いで見守っている。

二つの背中を追いながら中澤は思った。
まだまだやってけるな、と。
この子らが二十歳になろうが、自分が35、40になろうがいつまでも。
たまには違う子達を追っかけてやろうか、と。

今やるべき事はこの子らを捕まえる事で。
捕まえたら久しぶりにセクハラ行為でもしてやろうか。

「ま、何にしてもありがとな」
「「なになにーっ!?聞こえないよー、おかーさーん!」
「こんなでっかい子供産んだ覚えないわ!」

久しぶりにじゃれ合う、という二人からのプレゼント。
3人が着ているシャツに、色違いでクマのイラストがプリントされていた。