「ふぁ、仕事の後の一服っちゅうもんは最高やな。これがビールやったら
 もっと最高やのになー。ま、昼間っから飲む訳にはいかんねんけど」

収録を終えた中澤は、自分の楽屋でまどろんでいた。
少しきつめにかかった暖房がポカポカと体温を上げ、眠気を誘う。
さっき自分で入れた湯飲みの中をふと覗き込んだ。

「うおっ!茶柱立ってるやん!何かええ事あるかなー」

そういえば最近、いい事が無いような気がする。
こんな些細な出来事で喜べる自分はまだまだ若い。
飲んでしまってはもったいないので、湯飲みをそっとテーブルの上に置き、
両手の上にアゴを乗せて茶柱を眺めた。

「ええ事、幸せな事、あるかなー」

いい具合の室温と、ほんの少しの幸せな気分と、仕事後のまったりとした時間。
この状況で眠るなという方が酷というもの。
中澤は微笑を浮かべながらウトウトし始めていた。

バタン!

勢いよく開いたドアの音によって、違う世界に行きかけていた中澤は現実に引き戻された。
「なんやねん・・・」と不機嫌に顔を上げると、物凄い形相をして誰かが立っている。
何かを叫んでいるような気もする。
寝ぼけているせいか、顔の輪郭がはっきりと見えない。
目をよく擦って見るとその立っている人は、茶色の髪をオールバック気味にセットした人が立っていた。

「中澤さん!」

あ、さっきからウチの名前を叫んでいたのね

「何やよっすぃやん。どしたん、そんな恐い顔して」
「何ニヤニヤしてるんすか!どんな夢見てたんすか!」
「ん?さみしなって会いに来てくれたんちゃうの?」
「違いますよ!今日のワイド、そでで見てたんですよ!」
「へっ?ワイド?ワイドが何?」
「何であんな事させたんですか!私だってまだ・・・」
「何の事?何ゆーてんの?」

すごい形相で(オールバックである事がさらにその表情を助長させている)
怒鳴り散らす吉澤のおかげで、すっかり眠気は覚めた。
何をそんなに怒ってんねんやろと思い、中澤は今日のHPWの収録内容を思い出した。

確か最初にバレンタインネタで軽く挨拶して、ピーマコラップ始まって。
あれはなかなか出来がよかったな、うんうん。
で、ミニモニのアルバムの紹介して、自分の新曲のPR・・・したよな。
おじゃまるが来て、いつも通りしっちゃかめっちゃかな感じで終わって。
自分で喋っただけやったもんなー、結局。
そういえば、あん時おじゃまる何しとったっけ?


・・
・・・

「あ!」

もしやあれの事?
もしかして・・・?
理由に辿り付いて、怒られているのに何だか嬉しかった。
仁王立ち吉澤に、色気全開で聞いてみた。

「よっすぃ・・・妬いてる?」
「なっ・・・」

一瞬たじろいだ吉澤だったがすぐに体勢を立て直し、中澤を睨んだ。

「そんなんじゃないですよ!それにしたって、紺野にあんな事までさせる必要はないでしょ!」
「や、だってしゃぁないやん。台本に書いてあったしやな」
「台本無視する事なんて日常茶飯事じゃないですかっ!何で膝枕なんて許したんですか!」
「そんなに怒っちゃいやん」
「かわいこぶっても意味無いですよ!」

な、なんやとぉ!
ウチかてかわいこぶるぐらい出来るわい!
でもこんな時になんやけど、怒ってるよっすぃの顔もいけてんなぁ
ものっすごいドキドキするんですけど
そのきりっとした眉とか

「中澤さん!私が怒ってるっていうのに、何でまたニヤニヤしてるんすか!」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて話そうや」
「落ち着いてられませんよ!帰ったらちゃんと家にいて下さいよ!私も終わったら中澤さんの  
マンション行きますから!裁判ですよ!でももう有罪は確定ですからね!」

青筋を立てたまま吉澤は中澤の楽屋を去った。

「アイツあんま感情表にださんから、こういうのがあると新鮮でええなぁ。あんな事ぐらいで
 叱られたら、ゆーちゃんかなんわー」

さんざん怒鳴り散らされた後なのに、妙に幸せな気分な中澤。
それは彼女と気持ちが繋がっているという証拠の一つだから。

「そういえば裁判がどうとかいっとったな。アイツ、裁判でウチに勝つ気でおるんかな。
 こっちには温存してある物的証拠がたくさんあるっちゅーのに」

中澤は片肘をついて、家にあるビデオテープを思い出した。
そこにはゴロッキーズが全て録画されてある。

「小川に紺野に。亀井とかもあったような気がするなぁ。裁判したら君の方が圧倒的に不利ですよ、
吉澤君。自分の事をたなにあげて、ほんまに。ウチが有罪なら、君は無期懲役やん」

中澤は今日帰るのが楽しみでしょうがなかった。
確実に吉澤が来るという事。
何だか面白い事が起こりそうな予感がする事。
テーブルの上に置いてあった湯飲みの中の茶柱が揺れていた。
その湯飲みの底には、二人で撮ったたった一枚のプリクラが張られてあった。
そのプリクラに写るシャイな二人は、お互い反対側を向いている。