『HAPPY END』

俺  ・・・・20代前半の男性。本編の主人公。

彼女 ・・・・10代後半の女性。主人公の彼女。

友人 ・・・・20代前半の男性。主人公の友人。

友達 ・・・・10代後半の女性。彼女の友人。



俺M:朝の清々しい空気を求めて、目を擦りながら自室の窓を開けた。
   特に寝起きという訳ではない。
   自宅に持ち帰った書類を片付けている間に、
   スズメの鳴き声に気付いたというだけの事だ。

   今からじゃ仮眠も取る事が出来ない。
   大きく背中を反らすと、諦めて珈琲メーカーの電源を入れた。
   暫くして珈琲の香りが部屋に立ち籠める頃、
   携帯のメール着信音が俺の耳に届いた。

彼女:『おはよう。今日も徹夜明けかな?
    少し相談があるんだけど・・・会ってくれないかな?』

俺M:彼女はパソコンのチャットルームで知り合った
   今の俺の彼女だ。
   他府県と言う事になるが車で高速を使えば大した時間はかからない。

   「会ってくれないかな?・・・か。」

   どうせ、断れば数日は拗ねられるのだ。
   提案という形の文面だが、その実、命令に近い。
   『おはよう、金曜の仕事あがりに家まで迎えに行く。』
   そうメールを返信すると忙しなく出勤の準備に取り掛かった。

【金曜の夜】

友人:なぁ今日はもう仕事終わりだろ?
   これから飲みに行かないか?

俺 :わりぃ・・・これから野暮用があるんだ。

友人:何だよ、また例の彼女かよ?

俺 :そう言うな(笑)
   俺だって今晩ぐらいはゆっくり寝ようと思ってたんだ。

友人:まぁな、最近まともに寝てないんだって?
   肉体労働じゃないけど、サラリーマンだって体あっての商売だぜ?

俺 :ああ、わかってる。

俺M:こいつは腐れ縁というか学生時代からの悪友だ。
   特に成績が良い訳じゃなかったが、何かと頭の回転が早く。
   狡賢いと言う表現が一番しっくりくる。
   それでも人はいい奴で、社会人になってからも何かとつるんでいる。

友人:まぁ人の恋路を邪魔する訳にもいかんからな。
   今日のところは諦めるよ。

俺 :そりゃ悪いね。

友人:寝不足で車あまり飛ばすなよ?
   最近、高速での事故が多いそうだからな。

俺 :ああ、気を付けるよ。

俺M:奴と別れて缶珈琲を片手に愛車の軽に乗り込むと
   会社近くのインターから高速へと入る。
   浮腫んでだるい足がアクセルをベタ踏みにする。
   軽自動車ではベタに踏んでもそうスピードは上がらない。
   身体の疲れもそろそろピークだ。
   ひと息つけば、動けなくなりそうだった。
   「空が真っ赤だな・・・」
   不意に西日が運転中の俺の視界に差込み、思わず目を顰めた・・・・



友人:・・・・ん?気が付いたか?

俺 :・・・ここは?

彼女:良かったぁ・・・!!
   高速道路で側壁にぶつかって、丸一日意識を失っていたのよ?

俺M:気が付くと額に包帯を巻かれ、消毒液の臭いが微かに漂う部屋に寝かされていた。
   無機質なベッドの横にはお見舞いの品らしきフルーツや花束が置かれている。
   ・・・・そうか、事故ったのか・・・
   病室には彼女と友人しかおらず、
   二人は疲れた顔で安堵の表情を見せていた。
   ずっと、付き添って居てくれたのかも知れない。

友人:お前の会社の上司がさっきまで見舞いに来て居たぞ。

俺 :上司が?

友人:月曜からは有休の手続きをしておくから、
   貯まった有休を消化するつもりで、ゆっくり休む様に伝えてくれとよ。

俺 :そっか、まぁ退院出来ない事にはゆっくり休むも何もないけどな。

彼女:有休ってどの位余ってるの?

俺 :そうだな、ほぼ一ヶ月近いんじゃないか?
   入社してまだ有休は一度も使っていないからな。

友人:まったくお前は真面目だな・・・
   俺なんて一週間残ってるかどうかだぜ?

俺 :盆や正月は休暇があるしな、週休2日のあの会社じゃ
   こんな時ぐらいしか有休なんて使う気が起きないよ。
   そう言えば、相談って何だったんだ?

彼女:ぇ?・・・ああ、それは・・・

友人:ああ、悪い悪い・・俺は席を外すぜ。

彼女:ん〜ん。居てくれてもいいです。

友人:そっか、とりあえず飲み物買って来るよ。
   紅茶で良いかい?

彼女:はい。すみません・・・

友人:お前は珈琲で良いよな?

俺 :ああ。

彼女:実はね、最近ストーカーに遭ってるみたいなの。

俺 :・・・ストーカー?

彼女:うん。何かされてるって訳じゃないんだけど・・・
   後ろから足音が聞こえたり、一日中誰かの視線を感じたり・・・

俺 :ずっと、つけられてるって訳か・・・

彼女:うん。

俺 :そうか・・・なら丁度俺も有休を大手を振って取れる訳だし。
   退院したらストーカーをとっ捕まえてやるよ。

彼女:うん。有難う。

友人:お待たせ〜、ってもう話は終わったのか?
   ほい、紅茶。ミルクティで良かったかな?

彼女:あ、有難う。

俺 :ああ、こいつがストーカーに遭ってるらしいんだ。

友人:ホントか?で、大丈夫なのか?

俺 :まぁな、有休も取れるみたいだし、退院したら暫くこいつの家に行って
   ストーカーを追い払ってやろうと思ってな。

友人:そうか、それなら一安心だな。

俺 :ああ。

友人:じゃあ俺はこの辺で帰るわ。
   目さえ覚ませば、後は怪我だけだしな。

俺 :ああ、悪かったな。

友人:水臭せぇよ。ま、元気そうだし、退院も早いだろ?

俺 :・・・・そうだな。

俺M:友人の言う通り、退院まではすぐだった。
   元々怪我らしい怪我もなく、至って健康だった俺は
   簡単な検査を受けた後、月曜の昼には退院との運びとなった。

   会社には退院は出来たものの調子が出ないので
   暫く休暇を貰いたいと連絡したが、思ったより快く承諾され。
   殆ど有休を使い切る形で休みを取る事が出来た。

【月曜の午後】

彼女:でも、こんなにゆっくり会えるのって久しぶりだね!

俺 :そうだな・・・

俺M:退院の手続きを済ませ彼女のマンションへと電車でやって来ていた。
   これまで彼女とは金曜の仕事あがりに会いに行き、日曜には帰る。
   というデートばかりしていた。
   流石にそれも毎週という訳にもいかず、月に二度会えるかという程度だ。
   彼女がそれを寂しがっている事も分かってはいたのだが・・・

彼女:たまには事故を起こすのも良いかもね?

俺 :ははは、滅多な事言うなよ(笑)

彼女:ごめんごめん。じゃあ晩御飯作るね。

俺M:そう言って彼女は台所の方へと姿を消した。
   しかし、俺はずっと違和感を感じていた・・・
   視線・・・いや、視線を感じると言っても、
   ここは彼女のマンションの部屋の中である。
   窓にはカーテンが掛けられ誰かが覗く様な事は出来ない。
   にもかかわらず、ずっと視線を感じるのだ。
   それは最早、視線と言うより殺気にも近いものに感じた。

俺 :なぁ、ストーカーってどんな感じなんだ?

彼女:どんな感じって?

俺 :視線を感じたり、足音が聞こえたりするんだろ?

彼女:うん。

俺 :どんな時に感じるんだ?

彼女:うーん。それが、最近は怖い怖いと思ってるせいか・・・
   部屋に居ても、学校に居ても、ずっと視線を感じるんだ・・・

俺 :そうなのか・・・

俺M:やはりそうだ・・・これはストーカーなんてモノじゃない。
   例えようがないが、どちらかと言えば心霊現象とか、そう言ったモノだ。
   昔から俺は霊感とかそう言ったモノは持っていた。
   だからと言って何か出来る訳ではなく、
   ただ感じたり見たりするだけなのだが・・・

俺 :いつ頃からなんだ?

彼女:んー・・・ここ一ヶ月ぐらいかな。

俺 :その頃何かなかったか?どこかに行ったとか・・・

彼女:一ヶ月前?んー・・・旅行に行ったぐらいかな?

俺 :旅行?そういえば言ってたな、どこに行ったんだった?

彼女:瀬戸内海の孤島だよ?
   友達の実家が民宿をやってるって言うから・・・

俺 :そうなんだ?
   ・・・・そうだな、その島にまた行ってみないか?
   良かったらその友達も呼んで・・・

彼女:ぇ?・・・いいけど。
   この前行ったばかりなのよ?

俺 :分かってるよ。まー旅費は心配すんな。
   その友達の分もちゃんと出してやるからさ。

彼女:うん・・・じゃあ友達に連絡してみるよ。
   でも急にどうしたの?

俺 :地元に居たんじゃストーカーとかに悩まされるだろ?
   俺も折角の有給だし、どこか行きたいからさ。

彼女:ふ〜ん。まぁいいけど・・・

俺M:こいつにストーカーの正体が幽霊かお化けだなんて話をしても
   下手に怖がられるか、馬鹿にされるのがオチだ。
   時期的に考えて、瀬戸内海の孤島で何かがあったに違いないが、
   生憎、俺は霊媒師じゃない。
   あいつに相談するか・・・

   その夜、予想通りというか、久しぶりに心霊現象を経験する事となる。
   ラップ音に金縛り、俺は無理矢理それらを気付かないフリをして
   眠りにつく。
   今夜の夢は悪夢を見るに違いないな・・・

【翌日の火曜】

友人:えぇ??ストーカーが幽霊だってぇ?

俺 :そんな変な顔するなよ。

友人:普通するだろ。まぁお前って昔からそういうのよく見てたもんな・・・

俺 :まぁな、で、お前の知り合いとかに霊媒師とか霊能者とか居ないわけ?

友人:いくら俺の顔が広いって言っても、流石にその手の特殊技能の持ち主はなぁ・・・

俺 :そうか・・・まぁ今週末にでも、その孤島とやらに行ってくるよ。

友人:彼女の友達も連れて三人でか?

俺 :ああ、そのつもりだ。
   友達の子の方が土地に詳しいだろうしな。

友人:三人分の旅費と言ったら結構な出費だろ?

俺 :まぁなぁ・・・

友人:仕方ない。俺が半額持ってやるよ。

俺 :どういう風の吹き回しだ?

友人:お前も鈍いな・・・俺も連れてけって言ってんだよ!

俺 :おぃおぃ・・・俺は有給で休んでるからいいけど、
   日帰り旅行じゃないんだぜ?
   少なくとも何泊かはするつもりだし・・・

友人:えっへん!まだ有給は一週間近く残ってるさ!

俺 :まったく、お前って奴は・・・

【土曜日の朝】

友達:初めまして〜

俺 :初めまして。

彼女:彼女が、実家が民宿をしてる私の友達よ。

友人:こんちゃ!よろしくねぇ〜

俺 :こいつは俺の友人で、今回のスポンサーだ。
   何か欲しい物があったらこいつに言ってくれ。

友人:おぃ酷いなぁ・・・

俺 :無理矢理ついてくると言ったのはお前だろ?
   それに、どうせ頼まれたら奢るんだろ?景気よく。

友人:そりゃあねぇ、こんな可愛い子に強請られたら、
   男なら断れないってもんだろ?

俺 :ま、こういう奴だから気をつけてね?

友達:ぷっ・・あはは、解りました!

友人:みんなして酷いなぁ・・・

彼女:そう言えば、実家には連絡してくれたの?

友達:あー・・・それがさ、いくら電話しても通じないのよ・・・
   まぁこの時期に満室になる程儲かっていないし、
   部屋の方は安くしますよ。毎度アリ!

友人:しっかりしてるや・・・

俺 :それでさ、一ヶ月前にも実家に帰ったんだよね?

友達:ええ、彼女も一緒にね

俺 :今回もその時と同じコースで観光したいんだ。

友達:え?・・・・別に良いですけど?
   まぁそんなに大きな島じゃないですし、観光する場所も限られてますから・・・

友人:兎に角、出発しようぜ?
   行きの電車の中でもゆっくり話す時間はあるんだからさ。

俺 :そうだな。

俺M:旅行に出掛けるには絶好の行楽日和だった。
   列車の窓からは移りゆく景色が後方に流れ、
   俺は半ば例の視線の件も忘れ、行楽気分を楽しんでいた。
   乗り換えの駅で駅弁と飲み物を買い込み
   昼食を済ませると、漸く島へ向う船の出る港街に到着した。


友人:もう1時過ぎか・・・

友達:次の便は2時に出るそうですよ。

彼女:じゃあ、まだ少し時間があるわね。

友人:10分前には戻るとして、まだ40分はあるな。

友達:それなら今の内に買い物でもしておきましょう?
   島にも小さな雑貨屋はありますけど、品数は少ないですし・・・
   必要な物はこちらで買っておいた方が良いですから。

友人:そうだな。

彼女:必要なものねぇ〜お菓子ぐらいかしら?

俺 :だそうですよ?スポンサー。

友人:お前の彼女だろー??そのぐらいお前が出せ。
   こちらのお嬢さんは俺が面倒見るからさ!

友達:ふふっ、じゃあ一杯お強請りしちゃお!

友人:はは、お手柔らかに頼む。

俺M:俺達は40分後に船着場で待ち合わせをすると
   二手に分かれ各々買い物に行く事になった。
   俺はタバコとカップラーメンを買い溜めし
   彼女は両手一杯のお菓子類をレジ袋で提げていた。
   少し遅れて友人達も船着場に到着し
   30分程、船に揺られ友達の実家のある孤島に到着した。

友達:この船着場からすぐ近くなんですよ。
   と言っても随分と坂道を登りますけど。

友人:へぇ〜、ま、俺は普段から歩くのには慣れてるからね。

友達:こっちですよ。

彼女:またこの坂を登るのかぁ・・・

友達:この前は途中でへばってたもんね。

彼女:私は普段歩き慣れてないの!

友達:少しは運動しないと〜すぐ太っちゃうよぉ?

彼女:お生憎様、私って食べても太らない体質だから。

俺M:思ったよりもハードな上り坂だった・・・
   最初は張り切っていた友人も次第に無口になり、
   そろそろ根をあげるかという所で、彼女の実家に辿りついた。

友達:可笑しいなぁ・・・元々古い民宿だけど・・・
   玄関先の掃除は毎朝やってる筈なのに・・・

俺M:彼女が首を傾げるのは当然である。
   少なくとも客商売である民宿なのだから
   客を迎え入れる玄関先は綺麗にしているのが当然だろう。
   しかし、眼前の民宿は、まるで何日も放置されていたかの様に
   木の葉や小石が転がっていた。

友人:こんにちは〜!
   どなたかいらっしゃいませんか〜!

俺M:友人の呼び掛けにも、何の反応もない。

友達:可笑しいなぁ〜
   ちょっと様子見てきますね?

彼女:あ、じゃあ私も一緒に行く。

俺M:玄関脇を通り裏口へと向う二人。
   俺は友人と共に玄関先でしゃがみ込んでいた。
   実を言うと、俺もあの上り坂は堪えた・・・
   日頃の運動不足を恨むしかあるまい。

友達:きゃぁああああ!!!

彼女:早く!早く来て!!

友人:んぁ!?どうした!?

俺M:突然の悲鳴・・・
   荷物も置き去りに俺は友人と共に悲鳴の聞こえた裏口へと向った。
   裏口には、尻餅をついてへたれ込む彼女と
   唖然と立ち尽くすその友達の姿がある。
   開かれた勝手口の扉を覗き込むと、
   そこには真っ黒な人型の物体が転がっていた。

友人:うっ・・・なんて事だ・・・

俺M:人型の物体は、まさに人間だった。
   腹部から長い棒の様な物が伸びており、
   そこから吹き出したと思われる返り血が時間を経て赤黒く変色している。
   生臭さはもう消えてはいるが鉄ザビの様な臭いと強烈な腐敗臭が
   部屋に充満していた。

友人:割烹着を着た女性だな・・・
   彼女のご家族か?

友達:はい・・・・私の母です・・・

友人:・・・・なんと言っていいか・・・ご愁傷様です。

彼女:ねぇ、小父さんは・・・?

友達:・・・・わ、分からない・・・

友人:そりゃそうだ・・・兎に角・・・どうしよう?

俺 :警察に連絡だろ!?

友人:ああ、そうだ・・な・・・

彼女:まだ警察にも届けられてないの!?

俺 :届けられていたら遺体は供養されているだろうし・・・
   彼女にも連絡が入ってる筈だよ。

友人:すまないけど、二人で警察を連れて来てくれないかな?
   どう?動けるかい?

友達:・・・・はい。

彼女:・・・・行こ・・・

俺M:よろめきながら今来た坂を下って行く二人。
   母親がこの状態で放置されているのなら・・・
   父親も・・・娘であるあの子には見せられない状態だろう・・・
   友人もそれを分かってか、二人に警察を呼びに行かせたのだろう。

友人:これはまた・・・大変な事になったな・・・

俺 :そう言う割りに、案外落ち着いているんだな?

友人:馬鹿言え・・・俺だって内心ビビリまくりだ・・・

俺 :そりゃそうか・・・

友人:どうする?
   中に入って父親の安否を探るか?

俺 :そのうち警察が来る。状況からして死後数日が経過してるのは
   素人の俺にでも分かるからな。
   俺達が疑われる事はあるまい。

俺M:とはいえ、警察が来てしまえばこの民宿に立ち入る事が出来なくなる。
   せめて状況把握が出来る程度には現状を見ておきたかった。

俺 :どのみち疑われる可能性がないなら、色々調べておこう。

友人:分かった。

俺M:俺は彼女の友達の母親に手を合わせて一礼すると厨から廊下へと出た。
   ひと気は感じない・・・
   土壁が所々何かで削られた跡があり傷跡は二階に続く階段へと続いている。

友人:刀傷か・・・?

俺 :分からん・・・どうやら二階に何かありそうだな。

友人:そうだな・・・傷跡は階段の方に続いてる・・・

俺M:恐る恐る階段を上る。
   二階の廊下に出た所で俺は急に眩暈を感じ立ち尽くした。
   冷や汗とも脂汗とも言えぬ汗が流れ落ち、
   頭の中でこれ以上近づくなと警報が鳴り響く・・・
   これ程の眩暈は子供の頃、朽ちた御堂に忍び込んだ時以来だ。

友人:どうした?何か見つけたのか?

俺M:心配そうに顔を覗き込む友人。
   恐らく俺は顔を蒼白にして立ち尽くしていたに違いない。
   不審がりながらも友人は俺をおいて、先へと進む。
   廊下の突き当たりの部屋をこっそりと開くと友人はこちらを振り返った。

友人:な、なんじゃこりゃ・・・
   おい・・・どうなってんだ?

俺M:友人に呼ばれるままに部屋を覗くと
   そこには鬼の様な形相のまま朽ち果てた初老の男性の姿があった。
   自らの手で腹を引き裂き、部屋のほぼ半分を返り血で塗り替えた・・・
   そう、割腹自殺の現場がそこにはあった。

友人:親父さんが犯人なのか?

俺 :さぁ・・・

友人:あの子には見せなくて正解だったな・・・

俺 :ああ・・・

俺M:暫くして島の駐在さんが到着する。
   俺達4人は事情聴取の後、事件とは無関係だと言う事で開放され
   島の滞在中の宿として、島の漁師が使っていない空き家を無料で
   提供してくれる事になった。
   駐在所では県警から応援の刑事を呼んだらしく。
   刑事が許可を出すまでは島を出ない様にと通達があった。
   容疑者として見ている訳ではないが、
   関係者として聞きたい事もあるとの事だ。

【1日目の夜】

友達:どうして・・・どうしてこんな事に!?

友人:・・・・ごめん、何て声を掛けて良いか・・・

友達:父が母を殺したんでしょうか・・・?

友人:・・・・それは・・・

俺 :違うと思うよ。

彼女:それってどういう事?

友達:何か知っているの?

俺 :信じて貰えるかは分からないけど・・・

友達:・・・信じるわ。

彼女:ねぇ、話してあげて・・・

俺 :わかった。これはお前にも関係があるんだ・・・

彼女:私にも?

俺 :うん。・・・実は今回の旅行・・・こいつには話してあったんだが、
   お前のストーカーの正体を知る為に計画した事なんだ。

彼女:私のストーカー!?
   ストーカーとこの島に何か関係があるの?

俺 :俺は昔から霊感があってな・・・
   まぁ別に何かが出来るって訳じゃない。
   ・・・ただ見えたり感じたりするだけなんだが・・・
   ストーカー話を聞いてお前の部屋に行った時
   殺意にも似た視線を感じたんだ。
   怨念とでも言うのかな・・・それで何か心当たりがないか聞いたろ?

彼女:ええ、この島に旅行に来た後ぐらいから誰かの視線を感じるようになって・・・

俺 :そう、だからストーカーとかじゃなかったんだ。
   たぶん、幽霊とかお化けの類。今思うに怨念じみた何か・・・

友達:ふざけないで!?父さんや母さんがお化けに殺されたって言うの!?

友人:まぁまぁ、落ち着いて・・・
   こいつが昔から霊感がある事は俺が保障する。
   とりあえず、最後まで話を聞こうじゃない。

俺 :時期的に言って、一ヶ月前この島に二人が来た時に全ては始まったんだと思う。
   俺は霊媒師でもないから、何かが出来る訳じゃないけど
   この島に発端があるのなら、この島に来れば何か分かるんじゃないかって
   思ったんだ。
   そして、この島にやって来て、今の状況だ・・・

友人:この子の両親が謎の変死を遂げていた・・・って訳か。

俺 :状況だけで推測すれば、お母さんを殺した後、自らも腹を引き裂いて自殺・・・
   そう考えるのが妥当だろう。
   だけどそんな事をする必要がどこにあると思う?
   遺書すら見当たらなかった。

友達:父さんがそんな事する訳ない!

彼女:そうよね・・・とても仲の良いご夫婦だったもの・・・

友人:つまり、何か・・・この島には殺意を持った怨霊が居て・・・
   そいつの仕業で、彼女のご両親は亡くなり、お前の彼女は不気味な視線に
   悩まされていたって事か?

俺 :ああ、大まかに言うと、そういう事になる。

友達:一体、どうなってんのよぉ!!!

友人:こんな話、駐在にしろ今度来る刑事にしろ、信じる訳ねぇな・・・

彼女:そりゃそうよ・・・私だってまだ・・・

友人:俺達だけで解決しろって事か?

俺 :そういう事になる。
   兎に角、手掛かりを掴む為にも、明日から一ヶ月前に行った場所を
   一つずつ調べ直していこう。

彼女:でないと、あの小父さんが犯人にされちゃうんですもんね・・・

俺 :それに怨念はお前や彼女にも手を出して来るかも知れない。

友人:いや、関わった俺達全員、もう安全じゃないのかも知れないぜ?

俺 :確かにな・・・

彼女:分かった・・・いいわ!
   怨霊だか怨念だか知らないけど、やってやろうじゃないの!
   小父さん達をあんな目に遭わせといて・・・許さないんだから!!

友達:私も信じる・・・
   だって、父さんが母さんを殺すなんてありえないもの。
   それに私の友達にまで怨むなんてお門違いもいいとこだわ!

友人:・・・腹くくると女ってつえぇーな・・・
   俺だって半分はビビッてんのに・・・

彼女:私だって怖くない訳じゃないわよ?

友人:そうは見えないですけど?

彼女:・・・・ひどーい。

俺 :分かったから、今晩はもう寝よう。
   明日から行動開始なんだ。色々興奮してるだろうけど・・・
   しっかり寝てないと肝心な時に動けないからな。

彼女:そうね・・・

俺M:謂われの無い不安感のせいか、
   居間に詰める様に布団を近づけ敷き、4人で眠る。
   この島に渡ってから俺を突き刺す殺意の視線は、より強さを増し、
   胃の中を掻き回す様な吐き気が襲って来ていた。
   この島には何かがある。
   俺の予想は確信へと変わっていた。



                      ・・・・つづく。