『HAPPY END』3

俺  ・・・・20代前半の男性。本編の主人公。

彼女 ・・・・10代後半の女性。主人公の彼女。

友人 ・・・・20代前半の男性。主人公の友人。

友達 ・・・・10代後半の女性。彼女の友人。

刑事 ・・・・40代中盤の男性。ベテラン刑事。

老婆 ・・・・80歳をとうに過ぎたお婆さん。



刑事M:瀬戸内海の孤島に変死体があがったとの報告を受け、
    県警に応援要請があったのはつい先日の事だ。
    ホトケさんは島で民宿を経営する夫婦で、
    妻、加部 碧、五十歳は複数の刺し傷と共に
    腹部への銛の一撃が致命傷となり、出血多量により死亡。
    夫、加部 洋、六十二歳は腹部を短刀により割腹。
    状況からして、妻を銛によって刺殺した後、
    自らも自殺を計ったとみられる。
    第一発見者はその娘と、一緒に来島していた友人3名だ。
    死亡推定日時からして彼等が事件に関与しているとは、
    到底思えない。しかし、彼等の行動は明らかに違和感を覚えるものだった。

刑事:彼等が島の観光を?
   ご両親の遺体を発見して翌日だと言うのにですか?
   ・・・・ええ、何かを探している風だった・・・?
   そうですか、ご協力有り難う御座います。

刑事M:素人探偵気取りで事件を荒されてはいい迷惑だ。
    ・・・しかし、誰かに聞き込みをする様でも無く、
    ただ島の彼方此方を捜索している様子である。
    何かが臭った。
    刑事の勘、そんなモノは最近では鼻で笑われる代物だろう。
    しかし、長年の刑事としての勘が、彼等の行動に
    何かがあると感じずにはいられなかった・・・


俺M:神社から町に戻った俺達が最初に向ったのは島の歴史資料館である。
   町役場が管理するこの資料館は見学無料の施設であり、
   古い民家を改修して作られたモノだった。
   入り口の鍵は開いている。
   中に入ると予想通り、無人であった。

友人:やっぱり誰も居ないな・・・

友達:うん。本当なら管理をしている人が居る筈なんですけど・・・

彼女:外も暗闇のままだもの・・・

俺M:予想通り・・・それは町に戻って来て、暫くして気付いた事だ。
   人の姿が無い。
   都会では無いこの島だから人の姿をあまり見かけない。と云うのでは無い。
   全くの無人。居るべき人間の姿も見当たらないのだ。
   道往く人は勿論、商店にも港にも、人の姿は見当たらない。
   時刻は午後十六時、夕方に差し掛かろうという時刻ではあるが
   それ以上に俺達を包む暗闇は、深夜を連想する様な漆黒の闇だった。
   神社の裏手にあった小屋で突如襲われた地震。
   その直後から太陽が停電を起こした様な暗闇に包まれ、その状況が今も続いている。

友人:でも、電気は点くんだな。
   少しは安心したよ。

俺 :懐中電灯も使えたしな。
   時計も無事進んでいる。
   太陽の光が消えた事と人の姿が消えた事を除いては、
   全て正常に働いてるみたいだな。

彼女:それが如何かしたの?

俺 :いや、今の状況を考えて居たんだけど・・・
   元の世界によく似た異次元にでも飛ばされたのかとも考えたんだ。

友達:異次元?

友人:考えられない事でも無いよな。
   如何考えたって普通じゃない状況なんだし。

俺 :まぁ断定は出来ないけど、
   時間は流れているし、電気も通常に流れてる。
   特殊な状況ではあるものの・・・異空間にやって来た訳では無い様だな。

友人:あー、脱出したら浦島太郎になってた。ってのは困るもんな。

友達:それ、困るぅ〜!

友人:だろ?まぁその可能性は少ないって事が分かったって事さ。

彼女:其れよりも神社についての資料を探しましょ?
   どの途、こんな真っ暗な世界じゃ困るんだから。

友人:其れもそうだな。

俺M:資料館は彼女の友達が言っていた通り、展示室に昔の漁に使われていた
   木造の小船や銛や網、以前の島周辺の写真や今はされなくなった漁法などの
   説明等がパネルで展示されている。

友人:展示室には手掛かりになりそうな資料はねぇな。

俺 :管理室の方に行ってみよう。

彼女:そうだね・・・お邪魔しますねぇ・・・・

俺M:関係者以外立ち入り禁止の札が掛かったドアを開け、中へと入る。
   簡単な事務所の様な部屋で机と資料保管棚がある以外何も無い。

彼女:こっちが資料室だって。ほら。

俺 :鍵は開いてるのか?

彼女:・・・うん。開いてる♪

友人:俺は一応、この部屋の資料を当たってみるよ。

俺 :そうか、じゃあ任せた。

友人:了解。


刑事M:彼等が古い神社を訪れて数時間が経とうとしている。
    本殿の裏手にあるコンクリートの小屋に入った所までは確認した。
    しかし、其処から忽然と姿を消し去ったのである。
    発見は出来なかったが、何処かに抜け道でもあるのかも知れん・・・
    そう思った私は島の警察署に戻り、神社について調べてみる心算でいた。


俺M:資料室を調べる内に神社に関する記述を幾つか見つける事が出来た。
   神社が建てられたのは江戸の末期頃。
   神の使いである白蛇を祀った比較的平凡な神社らしい。
   しかし、戦後になり本土の人間が島を往来する様になる頃、
   島の娘が旅の若い男に騙され命を絶つという事件があったらしい。

彼女:何時の時代にも悪い男って居るのよね!

俺 :悪いのは男に限った事じゃないさ。

彼女:其れはそうだけど・・・

友人:如何やら、その騙された村の娘の呪いが
   この島の裏の伝説になってみたいだな。

友達:この島で生まれたけど・・・知らなかったなぁ・・・

友人:ここ、見てみろよ。

俺 :ん?蛇の絵か?

彼女:神社で祀ってるのが蛇なんでしょ?

友人:ああ、白蛇な・・・けど、これ白蛇に見えるか?

友達:墨で書いてるし・・・白蛇って言うより・・・只の蛇?

俺 :確かに白蛇を描くなら輪郭を線で書いて中は塗潰さないよな・・・

友人:黒い蛇・・・か如何かは判らんけど・・・
   変じゃないか?

俺 :娘の呪いに手を貸した力・・・
   この黒い蛇はその象徴なんじゃないか?

友達:そんな話なら聞いた事あるよ・・・
   確か黒蛇は神の使いの白蛇を恐れるんだって。

友人:へぇ・・・

友達:だから黒蛇の呪いを防ぐ為に白蛇の御札を貼ったりするそうよ?

俺 :白蛇の御札?例の社にはなかったよな?

友人:御札って紙だろ?神主も居ない神社じゃ張り替えたりしないだろうし
   古くなってボロボロになったんじゃねぇか?

俺 :白蛇の御札で封じていたモノが御札が剥がれて開放されたって訳か・・・

彼女:じゃあ、あの銅鏡は?

俺 :益々解らなくなって来たな・・・


刑事M:署の資料では神社に抜け道や隠し部屋の存在の有無は
    確かめられなかった。
    だが、以前神社で巫女をしていたという老婆が
    現在も島に住んでいる事が判った。
    神社の内部にも詳しいだろう・・・

老婆:あんた・・・この島のモンじゃないね?

刑事:県警本部の者です。
   2、3お尋ねしたい事が在りましてね・・・

老婆:刑事さんかぃ・・・?

刑事:はい、捜査協力という事で・・・幾つかお話を、

老婆:そうかい、まぁ婆の話で役に立つなら何でも聞いとくれ。

刑事:有難う御座います。
   それで、この島の神社についてなのですが・・・
   お婆さんが以前、神社の巫女をしていたと聞いて参りまして。

老婆:古い話だね。

刑事:本殿の裏にあるコンクリートの小屋には
   入口以外の出入り口があるのですか?

老婆:・・・何を言っとるね。
   そんなモンありゃせん・・・あんた・・・中に入ったんか?

刑事:はあ、若い連中が中に入って行くのを見かけまして、様子を窺って居たのですが、
   何時になっても出て来る気配がなく・・・

老婆:憑蛇様じゃ!

刑事:・・・ツクヘビサマ?

老婆:憑蛇様じゃぁ〜何という事じゃ・・・白蛇様、白蛇様、どうかお守り下されぇ・・・

刑事:お婆さん!如何しました!?

老婆:本殿裏の封呪の社は憑蛇様を封印した祠じゃ。
   出入口は一つ、中に入った連中は憑蛇様の祟りで神隠しにあったに違いない・・・

刑事:そんな・・・今のご時世に神隠し等と・・・

老婆:刑事さんも社に入ったのじゃろ?

刑事:まぁ、中の様子を探っただけで直ぐに出ましたが・・・

老婆:封呪の鏡・・・銅鏡は見なされましたか?

刑事:銅鏡・・・?さて、そんな物は社内に見ませんでしたが・・・
   何処かに隠してあったのですか?

老婆:いんや、社の正面に奉納されとったのじゃから
   見過ごす筈はない。持ち出されたのかも知れぬ・・・


俺 :兎に角、この絵にある黒い蛇が呪いの正体なら
   その白蛇の御札とやらを手に入れるしかないな。

友人:御札ねぇ〜、気休めには成るだろうけど・・・
   効果あるのかねぇ・・・

俺 :気休めでも無いよりマシさ。

友達:ねぇ・・・・変な音が聞こえない?

友人:ん?そういや何だ?この音・・・

俺M:余程資料漁りに没頭していたのか・・・
   全く異変に気が付かなかった。
   この資料館の周囲から布の擦れる様な音に混ざり
   小さな穴から空気の漏れる様な音が確かに聞こえていた。

彼女:何処から聞こえて来てるのかしら・・・?

友人:何処って其処等中さ・・・囲まれちまった様だぜ?

俺M:恐る恐る換気用の窓から外を覗き込む・・・
   其処に見えたモノは無数に蠢く蛇の群れだった。
   この資料館を取り囲む様に隙間なく蛇は絡まり合い
   侵入出来る隙間を探しているのか、建物の凹凸に頭を突っ込んでいる。

友達:きゃああぁ!!

友人:如何した!?

友達:天井っ!

友人:コイツっ!何処から!?

俺M:屋根裏に忍び込んで居たのであろう。
   天井の点検口の隙間から此方の様子を窺う蛇の頭が覗いていた。

彼女:もう嫌っ!

俺 :火だ!何か燃やせる物は無いか!?

友人:隣の管理室にストーブ用の灯油があったぜ。

俺 :なら棒切れに灯油に浸した布を巻けば松明が作れるな・・・

彼女:棒切れと布なら展示室にあるかも。

俺 :展示品を使うのは止そう、現実の世界とも繋がっているかも知れないし
   町が保存している物を燃やすのは拙い!
   棒切れは、この閲覧用に置いてある木の机の脚を折れば四本確保できるし
   俺のシャツは綿100%だから松明に利用できる。

彼女:綿じゃないと駄目なの?

俺 :化学繊維だと直ぐに燃え尽きてしまうだろ?
   巻いた布を固定する針金とかがあれば良いんだけど・・・

友人:針金のハンガーを持って来た。

俺M:友人は木の机を逆さ向けると次々に机の脚を蹴り折る。
   俺は上着の下に着ていた長袖のシャツを脱ぐと四つに破り分け
   灯油に浸して、机の脚に巻き付ける。

友人:んーっ!!硬ってぇ〜
   ハンガーの分際で硬てぇな〜っ!!

俺M:ハンガーの針金を元俺のシャツであった襤褸切れに巻き付け様と   
   努力するが固定する為にきつく縛ろうとすると意外に硬く
   指先に真っ赤な痕が付く。

友人:ペンチか何か無いか?

彼女:そんなの何処にあるの・・・?

俺 :このペンを挿んで捩じれば何とかならないか?

友人:ふんっ・・・ぉ、何とか成りそうだ。

俺M:急場凌ぎの松明だが、使えそうなモノが出来た。
   普通の蛇なら火を嫌がる筈である。
   四本の松明を各自に持たせライターで火を点けた。

俺 :此処に閉じ篭って居ても危険だ。
   白蛇の御札を探しに行こう!

彼女:でも、外は蛇でいっぱいだよ?

俺 :だから松明を作ったんだ。
   化け物でもない普通の蛇なら火には怖がって近づいて来ないよ。

友人:あー確か、火って不動明王の浄化の力とかで化け物にも効果あるんじゃなかったか?

俺 :妙な事に詳しいな・・・でもそれって仏教の話だろ?
   神社に封じられてたモノに効果があるかは判らないぞ?

友人:まー、気休めには成るって事さ。

彼女:粗塩の清め塩もあるし?

友人:そうそう。

彼女:もっとまともなお守りの方が良かった・・・

友達:・・・・巫女を遣ってた人なら御札とかまだ持ってるかな?

彼女:心当たりあるの?

友達:今はお婆さんだけど、以前神社で巫女をやってたって人が居て・・・

友人:そうか、その巫女遣ってた婆さんには会えなくても、
   その婆さんの家に行けば御札を手に入れられるかも知れないな!

彼女:そっか、人は居ないけど物とかは其の儘だもんね!

俺 :その巫女を遣ってたお婆さんの家は分かる?

友達:ええ。

俺 :よし、なら此処を出てそのお婆さんの家に向かおう!
   先頭は俺が行く。
   殿を任せても良いか?

友人:仕方無いな・・・

俺 :案内は頼むよ?

友達:はい。

俺M:俺達は資料館の玄関に向かうと
   松明の炎で牽制しながら蛇の群れの切れ間を進む。
   蛇の群れは、まるで俺達に怨みでもあるかの様に威嚇し
   飛び掛かる隙を窺っている。

彼女:いや〜ん!蛇も付いて来るよぉ?

友人:ォラ!ォラ!付いて来んな!

友達:こっちです。

俺M:殿の友人は松明の炎を振り回し、追い付こうとする蛇を牽制する。
   島中の蛇が集まって来て居るのか・・・
   其れよりも島に此れだけの蛇が生息して居たのかも疑問な程の数である。
   蛇の群れを突破した所で女性陣を先行させ俺も友人に加勢する事にした。

友人:こいつ等、案外速いな・・・

俺 :確かに・・・でも全力で走れば振り切れるだろう?
   囲まれたら厄介だしな。

友人:その状況は・・・ゾッとしないね・・・

俺 :ほら、俺達も早く行くぞ!

友達:もう、直ぐ其処ですから!

俺M:蛇の群れから多少の差が開いた所で俺達は全力で走り出す。
   辺りは漆黒の闇、松明で周囲の視界だけは確保されているが、
   松明の明かりが届かない暗闇には
   何か悍ましい得体の知れないモノが潜んでいる気がした。


刑事M:老婆から話は、的を得ないオカルトチックなモノしか聞けていない。
    銅鏡が本当に無くなっているのであれば盗難事件として
    扱わなければ成らないだろうが・・・
    神隠しだの、祟りだの・・・
    そろそろ話を切り上げて退散した方が良さそうだ・・・

老婆:あの銅鏡は憑蛇様を封じた御神体じゃ、
   あれが無ければ祟りを治める事は出来ぬぞぃ!

刑事:分かりました。銅鏡の紛失の件は盗難の疑いも持って捜査致します。
   変死事件との関連も調べなければ成りませんので、
   一旦、署に戻って・・・あー、駐在所にですが・・・
   また何か有りましたら、お話を聞かせて貰うかも知れません。

老婆:・・・・そうか、為らばせめて此れを持って行きなされ。

刑事:これは?

老婆:神社で祀る、白蛇様の御札じゃ。
   憑蛇様の呪いから身を守って下さる。

刑事:・・・あー、これはどうも・・・
   では有難く頂戴致します。
   では急ぎますので・・・なっ!?

俺M:元巫女のお婆さんの家の門扉を通り抜けた直後、
   また大きな揺れが俺達を襲った。

刑事:地震か!?

俺M:玄関先でつっ伏せ揺れが収まるのを待つ。
   俺達が白蛇の御札を手に入れる事を拒んでいるのか・・・
   激しい揺れの中、自分達の推測が的を得ていた事を確信していた。

刑事:何だ・・・あれは?

老婆:ひっ!白蛇様ぁ〜お守り下され・・・

刑事M:突如襲われた地震の中、信じられない光景を目にしていた。
    地震と共に目の前に現れた黒い人影、
    文字通り、人の形をした影が徐々に色彩を取り戻し、
    例の被害者の娘とその友人達に姿を変えていったのである。

彼女:ぇ!?明るい?

友人:本当だ・・・光が戻ったのか?

刑事:お前達、一体・・・

友達:ぁ・・・刑事さん。

刑事:何があったのだ?詳しく聞かせて貰うぞ。

友達:その前に、お婆さんから御札を頂きたいんですが・・・

刑事:御札?・・・これの事か?

老婆:その様子じゃと、駐在所よりウチで話を聞いた方が良さそうじゃの?
   刑事さん、構わんじゃろ?

刑事:・・・・はぁ、兎に角、今まで何をしてたのか、
   何を探って居たのかを聞かせて貰わんとな・・・

老婆:ほれ、あんた等もお上がりなさい。
   白蛇様の御札はまだ有るで・・・

刑事M:彼等の話は俄かに信じ難いモノではあった。
    彼等があの様な不可思議な現れ方をしなければ
    到底信じる事は出来なかっただろう

俺 :それで俺の霊感を頼りに真相を探ろうと、この島にやって来たんです。

刑事:つまりは何か?
   君の彼女が悪霊からの視線に悩まされて、原因がこの島にあると考えた君が
   皆を連れてこの島にやって来た・・・
   其処で彼女の友人である、此方の彼女の御両親の遺体を発見した。
   で、其れも悪霊の仕業だと・・・そういう事か?

俺 :ええ、状況から見れば無理心中なんでしょうけど・・・

友達:お父さんがそんな馬鹿な事する訳ない!理由だって無いもの!

友人:まー、信じて貰えないかも知んないすけど、
   この島にやって来てから、俺達も呪いか祟りとしか言い様の無い事件に
   巻き込まれて来たんですよ。

刑事:その社での地震の後の暗闇の世界の話か?
   まー、ついさっき迄の私なら失笑した所だろうがな・・・

俺 :俺達がこの島の歴史資料館でこの島の伝説を調べてた時、
   蛇の集団に襲われました。
   それに、この島には黒い蛇の呪いの伝承があるみたいなんです。

老婆:憑蛇様じゃ。

友人:憑蛇様?

老婆:この島には古くから憑蛇様という土着神が棲んで居られた。
   じゃが憑蛇様は人の怨念を喰らう祟り神じゃ、
   恨みを持った人間の命と引き換えにその者の望みを聞くと言われておる。

彼女:この島は元々から白蛇の信仰では無かったの?

老婆:憑蛇様の祟りを恐れた島の者が、本土より白蛇様を信仰する神主を招いて
   江戸の頃に神社を建て、祟りを治めたのじゃよ。

俺 :成る程・・・其れで戦後頃、島の娘が旅の若い男に騙され命を絶つという事件が
   ありましたよね?其れも憑蛇様が関係しているのですか?

老婆:よく知っておるの・・・
   そうじゃ、娘は男に騙された恨みを晴らす為、
   自らの命を憑蛇様の御供えとしたのじゃ。
   余所者には死を与える様にとな。

彼女:私が悪霊に目を付けられたのは、余所者である私がこの島に入ったからなの?

友達:じゃあウチは民宿なんて余所者を迎え入れる事してたから・・・

刑事:しかし、来島者は今まで大勢居てるんだ。
   君の家が民宿を創めたのも今年や去年の事じゃないだろう?

俺 :其れはここ最近に憑蛇様の封印が解けたからじゃないでしょうか?

刑事:例の銅鏡が紛失した事と関係するのか・・・?

友人:それは俺達が・・・悪霊の正体を探って社に入った時
   こいつがこの銅鏡に何かを感じるって言うもんだから持って来たんだ。

老婆:これは・・・正しく封呪の鏡!

俺 :封印が解けたのは、この銅鏡のせいじゃありませんよ。
   社から持ち出したのは今日の昼過ぎの話です。
   彼女の御両親が亡くなる前・・・いえ、彼女達が一ヶ月前にこの島を来島した時には
   憑蛇様の封印は解けて居たでしょうから。

老婆:うむ、この封呪の鏡は憑蛇様の祟りを封じる為の祭器。
   憑蛇様の御霊を封じるは、社に貼られた白蛇様の御札じゃからな。

友人:社に貼られた御札って、御札なんて貼られて無かったぜ?

老婆:何じゃと?

俺 :剥がれたか、剥がされたか・・・どちらにせよ、
   その御札の効力が失われて封印が解けたって事でしょうね。

彼女:じゃあ、社に御札を貼りに行けば憑蛇様っていう黒蛇の呪いは
   封印出来る訳?

老婆:一度解けた封印を元に戻すには御札を貼るだけでは役に立たん。
   封呪の鏡に憑蛇様の御身を映さねばならんのだ。

友人:憑蛇様を銅鏡に映すったって・・・
   如何遣って・・・!?

俺 :場所なら判るさ。
   俺の霊感で反応を探ればいい。

彼女:今度は御守りになる、白蛇様の御札も有るんだもんね!

刑事:だとしても無茶をしてはいかんぞ。
   そろそろ日も暮れる。今晩はゆっくり休んで疲れを取るんだ。

老婆:其れなら今晩は家に泊まって行くといい。
   刑事さんも一緒にの。

刑事:わ、私もですか?

老婆:刑事さんとはいえ、あんたも島の者では無いじゃろ?
   憑蛇様の祟りに対してなら、この家は島一番安全じゃ。

刑事:正直、何処までが本当なのか・・・
   祟りで人が死ぬ等と調書に書ける筈も無い。

老婆:皆、本当の事じゃ、刑事さんにも分かっておろうが?

刑事:たくっ・・・こんな状況を受け入れとる自分の頭が信じられんよ・・・

俺M:夕暮れの茜色が空の雲を紅く染めるのを見上げながら
   昨日からの目紛るしい出来事を改めて思い返してみる。
   そう言えば疲れた。
   暗闇の世界から抜け出せたせいか・・・
   其れとも事情を理解してくれる人との出会いに安堵を覚えたのか、
   緊張の糸が途切れる様に体中の力が抜けるのを感じていた。

彼女:お風呂気持ち良かった〜♪

友達:檜のお風呂だもんねぇ〜

彼女:ねぇ、お風呂頂いて来たら?

俺 :あ、あぁ・・・何かボーっとしてた。

彼女:本当にお疲れの様ね。

俺 :まぁな。お婆さんから話を聞かせて貰って、
   銅鏡の使い方も解ったし、御札も手に入ったからな。
   一気に緊張が解けちまって・・・

友人:無理もないぜ。
   霊感の強いせいで体調悪かったんだろ?
   胃の気持ち悪さとか大丈夫なのか?

俺 :あぁ、この家に来てからスッキリしてるよ。
   お婆さんの言う様に、この家には悪霊は近付けないみたいだな。

友人:じゃあ、お言葉に甘えて風呂でも行くか!
   明日の為に英気を養わないとな!

俺 :そうだな。

俺M:お婆さんの家は古い民家が多い島の中でも一際古く。
   浴室は母屋から外に出た離れに作られている。
   流石にガス給湯を使っているものの、
   元は薪で風呂釜焚く様になっていた五右衛門風呂を改装したものだった。
   湯船となる桶は檜で作られており、
   仄かな檜の香りが湯気に溶け込んでいた。

友人:あの二人・・・如何やって二人で此の風呂に入ったんだ?

俺 :女性の神秘だな・・・

友人:お前と抱き付いて湯船に浸かるなんて勘弁だからな?

俺 :奇遇だが俺も其の意見には同意だ。
   先に浸かってろよ、体を洗ったら交代だ。

友人:ヘィヘィ、はぁ〜あ・・・良い気持ちだ・・・!?熱っ!!

俺 :ぁ?大丈夫か?

友人:底の方にある鉄板がクソ熱くなってやがった!

俺 :五右衛門風呂だからな。気を付けろよ・・・

友人:俺、こんな風呂に入った事ねぇもんよ。
   ・・・・で、明日から如何すんだ?

俺 :兎に角、憑蛇様とやらを探す。
   銅鏡に映し込めば祟り神としての力は封じられるらしいし
   その間に御札で封印してしまう事も出来るだろ?

友人:其れはそうだけど・・・其の方法は判ってるのか?

俺 :そんなもん知らないさ。
   だが俺が今こうして安心して過ごせてるって事は
   白蛇様の御札ってのの効力は確かに効いてるって事だ。
   何とか成るだろ?

友人:案外、アバウトだな・・・お前。

俺 :此処迄来たら出た所勝負さ。
   お婆さんが封印について詳しいなら話してくれるだろうし、
   判らなくても何とかするしかない。
   ・・・・さて、風呂交代してくれ。

友人:あぃあぃ、力になれないが影ながら応援してるよ。

俺 :応援だけかよ・・・


刑事M:その夜、この老婆のお宅には余所者と呼ぶべき人間が集まっていた。
    神聖な力で守られているという此の家と言えど、
    憑蛇様なる化け物が放っておく訳も無かったのだ。
    その異変は深夜を回り、午前二時を過ぎた頃に起きたのだった。



                      ・・・・つづく。