『HAPPY END』4

俺  ・・・・20代前半の男性。本編の主人公。

彼女 ・・・・10代後半の女性。主人公の彼女。

友人 ・・・・20代前半の男性。主人公の友人。

友達 ・・・・10代後半の女性。彼女の友人。

刑事 ・・・・40代中盤の男性。ベテラン刑事。

老婆 ・・・・80歳をとうに過ぎたお婆さん。

憑蛇 ・・・・島の祟り神。



憑蛇:「娘よ・・・そなたとの誓いを守ってやろう・・・」

俺M:以前、此の島の神社で巫女を遣っていたというお婆さんの家を訪れ
   憑蛇様という祟り神の邪気から逃れる事の出来た俺達は安堵の時を過ごしていた。
   お婆さんの御言葉に甘え、其の儘お婆さん宅に泊まる事となったのだが・・・

憑蛇:「我が島に余所者が立ち入る事、許さぬ・・・
    下衆な命じゃが、喰ろうてやる・・・」

俺M:俺は夢を見ていた。

憑蛇:娘よ・・・何故、余所者を憎む・・・?
   ・・・・・・
   答えられぬか・・・まぁ良い、久方の贄じゃ・・・
   そなたの憎しみと命、我に捧げよ・・・
   さすれば、そなたの望みは我が呪いによって叶えてやる。

俺M:藍染の着物を着た若い女が、波の打ち衝ける音の中
   岩に囲まれた洞窟の様な場所に立っている。
   其の震える手には匕首を握り締め、堅く閉じられた唇と一点を睨み付ける其の眼は
   決死の覚悟を窺えさせた。

憑蛇:そなたの生き血で、此の島の大地を汚せ・・・
   その刃で己の腹を切り裂け・・・
   さすれば我がそなたの代わりにその憎しみを晴らしてくれよう・・・

俺M:女は一息間を置くと其の手の匕首で自らの腹部に突き刺した。
   しかし、女の死は直ぐには訪れなかった。
   腹部からの大量の出血、手足はガクガクと震えている。
   蹲り鮮血に染まる自らの手を眺め、振り返る様に此方を見る、
   自分と目が合った様に錯覚を覚えて、俺は無意識に目を反らした。
   だが、女の蒼白な表情には後悔の念に囚われているかの様に俺には思えてならなかった。

憑蛇:苦しかろう・・・いずれ死が訪れる・・・
   じゃが・・・未だ当分は楽には成れん・・・
   気をしっかりと持て・・・気など失っては興醒めじゃ・・・
   そなたは自ら選んで、自らの手で死に逝く・・・
   我が贄としてその短い生涯を終える・・・
   良い表情じゃ・・・そなたの願い・・・聞き入れてやろう・・・

【3日目 午前二時】

俺 :ぅ・・うぅぅ・・・

友人:おぃ・・・如何した?

俺 :っ!?・・・・夢・・か・・・。

友人:なんだ・・・驚かすなよ。

俺 :ふぅ・・・酷い寝汗だ・・・俺、魘されていたか?

友人:ああ、お蔭で目が覚めちまったぜ。

俺 :すまん。多分、憑蛇様の夢だ。
   着物を着た女性が憑蛇様の前で割腹していた。

友人:・・・・其れって例の・・・

俺 :多分な・・・

友人:未だ午前二時か・・・今度こそゆっくり休め。

俺 :ああ・・・けど、眠気がすっ飛んじまった。
   少し、涼んでくる。
   お前は気にせず寝ててくれ。

友人:分かった・・・って言いたい所だが、
   俺も目が覚めちまった。
   寝たのも九時だしな、五時間は寝てるし、俺も付き合うよ。

俺 :そっか。

友人:・・・外、雨降ってるのか?

俺 :・・・みたいだな。

友人:んっ、ハァ〜・・・やっぱ疲れてたんだなぁ・・・
   体が凝り固まってるぜ。

俺 :まぁ、無理に付き合わせた訳じゃないからな?
   でも、サンキューな。

友人:別に?無理に付き合わされてる訳じゃないからな。

彼女:ねぇ・・・起きてるの?

俺 :ん?あぁ・・起こしたか?

彼女:ん〜ん、さっきから起きてたよ。

友達:寝たの九時なんだもん。
   今時、小学生でもそんな時間から寝ないよね?

友人:まぁね、でもネットもテレビも無いんじゃ夜更かしし様が無いって。

俺 :疲れてた所為か、直ぐに寝付いたしな。

彼女:でも、こんな時間に起きても、する事ないしなぁ・・・

友人:あー俺、ちょっと小便行って来るわ。

友達:ちょっと、そういう事態々言わないで下さいよぉ。

友人:悪りぃ悪りぃ・・・でも生理現象だからよ。

友達:そういう事じゃなくて・・・

俺 :ほら、早く行って来い。

友人:おう。

友達:もぉ・・・!

俺M:午前二時、この深夜の時間に俺達四人は目を覚ましてしまったが
   刑事さんや家主であるお婆さんは未だ寝てるに違いない。
   起こしては悪いので皆で縁側に出る事にした。

【離れの厠】

友人:ふぃ〜・・・ぁー、結構溜まってんなぁ・・・

憑蛇:「お主・・・余所者か・・・?」

友人:ぁ?

憑蛇:「お主・・・余所者であろう・・・」

友人:ひぃっ!出た!!

憑蛇:「呪ってくれる・・・」

友人:うわぁぁああっ!!!



俺 :おい!如何したっ!!?

友人:出た・・出やがった!

俺 :憑蛇様か!?

友人:うん!うん!分かんねぇけど、お前は余所者か?って声がっ!

刑事:今の悲鳴は何だ!何事だ!?

俺 :憑蛇様が出たそうなんです。

刑事:憑蛇様が出た?何処にだ?

友人:お、俺がトイレに行ってたら、行き成り声が聞こえて・・・
   お前は余所者か?って!

刑事:お嬢さん達、お婆さんを呼んで来て貰えるか。

友達:はい。

友人:刑事さん如何します?

刑事:俺に聞かれても困るぞ。
   化け物の捜査等、した事も無いんでな。

友人:うぁ!

俺 :また地震!?

友人:また暗闇の世界に飛ばされるのか!?

刑事:今はどちらにせよ、暗闇だろうに・・・

俺 :でも、人の姿が消えてしまうかも知れない。

老婆:封呪の鏡は何処じゃ!

俺 :ぁ、銅鏡なら枕元に・・・

老婆:早よう、取って来い!

俺 :分かりました!

彼女:ねぇ待って!私も一緒に行く!

俺M:地震の揺れの中、銅鏡を求めて寝室へと這って行く。
   気分が悪い・・・
   此の家の守りが侵されつつあるのか、
   憑蛇様の邪気が、また俺を襲いだした。

老婆:結界が張られておるというのに・・・

憑蛇:「忌々しい・・・余所者は許さぬ・・・
    此の小賢しい結界等、今に破ってくれる・・・」

俺M:庭の木が強風に煽られて激しく揺れる。
   雨風は次第に強くなり、雷雲がお婆さんの家の真上に集まり渦を巻き始めている。

刑事:この暴風雨は此の家の周辺だけか!?
   蛇の祟りってのは本当らしいな・・・

友達:全部本当だって言ってるのに〜!

刑事:疑ってる訳ではない。
   ただ、こう口にでもせんと、こんな状況を納得できんのだよ。

友達:あんな雲だって、今迄見た事も無いよ!?

刑事:呪いの雷雲か・・・見るからに禍々しいモノだな・・・

俺 :お婆さん!銅鏡、持って来ました!

老婆:憑蛇様は此の近くに居られる!
   その御身を探し当て封呪の鏡に映し出すのじゃ!

俺M:俺は自らを襲う邪気に意識を集中に憑蛇様の居場所を探る。
   しかし、此の家全体を包み込む様な巨大な邪気に紛れ
   本体を探し出す事が出来ない。

彼女:きゃあ!!

俺M:落雷!
   上空で渦を巻く雷雲に溜まりきった高電圧が狙いを定めた様に四筋
   家の四方を取り囲む様に落ちて来た。
   落雷周辺の庭の木々が瞬時に炭と化し燃えている。

老婆:結界の鳥居が・・・

俺M:燃え崩れる木々の隙間から中央から真っ二つに破壊された鳥居の残骸が見える。
   その刹那、今迄感じていた邪気の強さは数十倍にも膨れ上がり、
   全身が炎に包まれたかの様に熱い。

彼女:如何したの?大丈夫!?

俺 :ああ、何とか・・・

老婆:あんた邪気を受け易い様じゃね。
   此の札を胸に貼っておきなされ。

俺 :ぁ、有難う御座います・・・

友人:もう嫌だ!全部お前所為だろうがっ!!

俺 :何っ!?ぐはっ!・・・おい!行き成り如何したんだ!?

友人:俺は何も悪くねぇ・・・お前が死ねば祟りも収まるんだ・・・
   変な事に何時も巻き込みやがって・・・
   殺してやるよ・・・俺が殺してやる・・・!

友達:止めて!止めてよぉ!!
   急に如何しちゃったの!?

老婆:呪いの力に取り憑かれおったか!?
   封呪の鏡にその子を映すのじゃ!

俺 :くっ・・・はい!

友人:うぅぅ・・・止めろ!眩しい・・・ぐあぁ!!!

彼女:別に銅鏡は光っても無いのに・・・

俺 :此の銅鏡には俺達に見えない力が働いているんだ!

友人:ぉ・・俺・・・何で?

老婆:正気に戻った様じゃな。
   皆、白蛇様の御札を胸元に貼り付けるんじゃ!
   邪気に呑み込まれて正気を失う事は防げる筈じゃ。

友人:銅鏡・・・雲の渦の中心に向けてくれ!

俺 :え?

友人:早く!

俺 :ぁ、ああ・・分かった。渦の中心・・・こうか!

刑事:なっ!これは・・・

彼女:きゃあ・・・

友達:あれ・・・何なの・・・?

老婆:憑蛇様じゃ。

俺M:銅鏡に映し出され、雲の渦の中に姿を現した其れは、
   巨大な黒い蛇・・・ただ、其の大きさは尋常ではなかった。
   十五メートル、いや二〇メートルはあるかも知れない。
   ツチノコの様な太い胴体に亀の様な頭をしていた。

友人:さっき、渦の中心から何かに心の奥を覗かれた様な感じがしたんだ。

憑蛇:「おのれ・・・ニンゲンめ・・・」

老婆:憑蛇様に御札を貼るのじゃ!

友人:そんな事言ったってよ・・・俺達は空飛べねぇし・・・

友達:地面に降りて来てくれたら・・・何とかなるのに・・・

刑事:退いてろ!

俺M:刑事さんは胸元から拳銃を取り出し上空目掛けて発砲する。
   三発の銃声が鳴り響く。

刑事:糞っ!駄目か!

老婆:・・・・
   『天に仕いたもう白蛇の命以って
    封呪の鏡、此処に祭りて、過ち犯しけむ憑蛇の
    諸々の禍事・罪・穢、有らむをば
    祓い給い清め給えと、申す事を聞きこし召せと、
    かしこみ、かしこみ申す・・・』

憑蛇:「ヌゥゥ・・・此の島は我が主というに・・・
    下衆共が・・・我を封印すると言うか!!」

老婆:『祓い給い清め給えと、申す事を聞きこし召せと、
    かしこみ、かしこみ申す・・・』
   憑蛇様、どうか眠りについて下され!

憑蛇:「我に逆らうとは愚かな・・・最早ニンゲン等要らぬ
    此の島全ての命喰ろうてやる!」

俺M:逆上し怒りを剥き出しにする憑蛇様とは対照的に
   お婆さんの祝詞に反応する様に邪気が薄らいでゆく。

彼女:雲が晴れて行く・・・

俺M:先程迄、頭上に禍々しく渦巻いていた雷雲は
   次第に消え、圧倒的な存在感であった
   憑蛇様の姿も徐々に霞み消えていった。

刑事:ヤッたのか!?

老婆:まだじゃ・・・

友人:封印したんじゃないんですか!?

老婆:祟り神として力を封じたに過ぎぬ・・・
   そうじゃな・・・半日は悪さを出来ぬじゃろうが、
   その間に封印を成功せねば、
   復讐心に駆られた憑蛇様によって、
   此の島の人間全てが呪い殺されてしまうじゃろう。

友達:そんなっ!

刑事:で、お婆さん・・・其の封印は如何すれば良いですか?

老婆:先刻言った通りじゃよ・・・
   憑蛇様の御身を封呪の鏡に映し出し
   白蛇様の御札を直接貼り付けるのじゃ。

友達:其れで憑蛇様は今何処に居るんですか?

老婆:其れは分からぬ。
   憑蛇様が大人しくしておる此の半日の間に
   見つけ出し、封印せねばなるまい・・・

友人:そんな無茶苦茶な・・・

俺 :あの、此の島の海岸沿いに洞窟とか在りませんか?

老婆:洞窟?・・・さて、在るやも知れんが、聞いた事はない。
   漁師ならば知っておるやも知れんな。

彼女:其れが如何かしたの?

俺 :実は・・・今日、夢を見たんだ。

彼女:夢?

俺 :憑蛇様の夢・・・着物を着ていた女性が自らを生贄として
   憑蛇様の前で命を絶つんだ・・・

友達:余所者の男に騙されて命を絶ったっていう例の?

友人:ああ、俺もそうじゃないかって言ったんだ。

俺 :うん。そして其の光景に出てきた場所ってのが
   憑蛇様の本来の棲家なんじゃないかって・・・そう考えたんだ。

彼女:其の場所ってのが海辺の洞窟だって言うの?

俺 :ああ、夢の中での光景は岩肌に囲まれた狭い洞窟の様な場所だったけど
   波が打ち衝ける音がずっと聞こえていた。
   だから、海岸沿いにある洞窟なんじゃないかって・・・

刑事:しかし、其れは君が見た夢の中での話しなんだろ?

俺 :はい、そうです。

刑事:じゃあ、只の空想でそんな場所は本当は無いのかも知れんぞ?

友人:刑事さん、こいつは霊感っていうのかな・・・
   ちょっと特殊な力があるんですよ。

刑事:昨日もそんな事を言っていたな?
   彼の霊感で此の悪霊騒ぎに気が付いたとか・・・

友人:ええ、だからこいつが夢に見て、其れが気になるって言うなら
   調べて損は無いと思うんすよ。

友達:当ても無く島中を探せって言われても、半日じゃ探しきれないしね。

刑事:そういう事なら、まぁ・・・私も協力をしようじゃないか。
   人間相手の聞き込みならば、私の専門分野だからね。

俺 :宜しくお願いします。

刑事:半日の間は安全ならば聞き込みは私一人で十分だ。
   君達はお婆さんと一緒に封印の手筈を相談しておいてくれ。

俺 :解りました。

刑事:では、情報が入り次第、此方のお宅に戻って来る。
   呉々も勝手な行動は控えて、大人しく私の帰りを待って居てくれよ?

俺M:刑事さんは一旦署に戻り、漁に出る前の漁師に聞き込みをする為、
   港へと出掛けていった。

老婆:さて、わし等は如何するかね?
   刑事さんが戻る迄、当分掛かるじゃろうが・・・
   封印の手筈と言うても、憑蛇様を見つけぬ事には何も始まらん・・・

友人:じゃあ確認だけど、憑蛇様に白蛇様の御札を貼れば封印出来るんですか?

老婆:そうじゃ。

友人:で、憑蛇様ってのは、さっきみたいに実体化してるんですか?

老婆:其れは分からん。

友人:霊体だったら札なんて貼り様が無いぜ?

俺 :御札の効力は直接貼らなくても効果はあるさ
   もし実体化してたとしたら、あんな巨大な大蛇と戦う事になるんだぜ?
   あんなのに暴れられたら俺達なんて一溜りも無い。

老婆:祓いの祝詞は憑蛇様の動きも封じた。
   わしも付いて行く・・・安心せい。

友達:ねぇ、洞窟が見つかったら其処に行くんでしょ?

俺 :そうなるね。

友達:何か灯りになる物を持って行った方が良いよね?

彼女:其れなら松明を作りましょうよ。

友人:松明?

彼女:憑蛇様の本拠地に行くって事でしょ?
   また、沢山の蛇に囲まれるかも知れないよ?

友達:ヤダなぁ、蛇・・・苦手なのにぃ〜

老婆:為らば、刑事さんが戻る迄に松明作りをしておくかえ?
   祭事用の松明の薪が残っておった筈じゃ。

友人:よし、他にする事も無さ気だし・・・
   気合居れて作るか!

俺M:俺達は薪を組み合わせた祭事用の松明を作り始めた。
   机の脚に布を巻き付けただけの松明に比べ
   木切れを組む作業は苦労したが、此れならば火持ちが良さそうだ。
   東の空が白けて来る頃、漸く2本の松明を作り終えた所で
   刑事さんが聞き込みから戻ってきた。

刑事:其れっぽい情報を仕入れて来たぞ!

俺 :本当ですか?

刑事:ああ、此の島の海岸には洞窟と呼べる程の洞穴は無いそうなんだが・・・
   唯一洞窟と言っても過言ではない洞穴が、海岸沿いの崖の下に在るらしい。

友達:ん?

刑事:いや、漁師も存在を知るだけで中に入った事は無いそうなんだ。

友人:如何いう事です?

刑事:漁船では近付けない岩礁地帯でな、干潮時にのみ姿を現す洞窟だそうだ。
   小型のボートなら行けなくも無いそうだが・・・

彼女:本当に其れっぽいですね・・・

刑事:ただし、現地の漁師すら入った事の無い洞窟だ。
   危険かも知れんぞ?

友人:そりゃ危険だろうけど、憑蛇様なんて化け物を放置しておく方が
   もっと危険だろ?

刑事:確かにな。

俺 :干潮時のみか・・・今日の干潮は何時頃なんでしょう?

刑事:うむ、午前8時43分。
   今は6時を少し回った所だから、後3時間程だな。

俺 :なら行きましょう!ボートを誰かに貸して貰わないとならないし・・・
   
刑事:心配するな。ボートの手配はもう済んでいる。
   其れよりも「腹が減っては戦は出来ぬ」だ。
   お婆さん、何か軽く朝食を用意して貰えませんか?

老婆:えぇ、えぇ。

刑事:洞窟迄は1時間もあれば行ける。
   少し余裕を以って7時半に出発しても十分間に合うだろう。
   其れ迄に食事と休息を取っておくんだ。

俺M:もう直ぐ此の悪霊騒動、いや、憑蛇様の祟り事件が決着する
   居ても立っても居られない様な、焦燥感に苛まれ、休息等し様も無かったが
   お婆さんの用意してくれた朝食を皆で囲み、温かいお茶を飲むと
   少しは気が安らいだ。

刑事:ボートは此の近くの浜に置いてある。
   そろそろ行こうか。

俺M:小さな浜迄移動した俺達は其処にあったボートを海に浮かべ、乗り込む。
   刑事さんがモーターのエンジンを回すと石油臭い白煙を立てながら
   ボートは海上を跳ねる様に走り出した。

彼女:ちょっと!刑事さん、危ない!
   もっと安全に運転してよぉ〜

刑事:悪い悪い。慣れて無いから仕方ないだろう。

俺M:ボートは島の海岸沿いを半周する様に走ると、島の東側、
   丁度、神社の裏手となる海岸で速度を緩めた。
   絶壁の岩肌の海面ギリギリの所に洞窟らしき小さな窪みが見える。

友人:あれじゃないか?

刑事:そうだな、干潮迄、未だ30分ある。
   もう少しすれば中に入れるだろう。

俺M:ボートを洞窟の近く迄寄せ、憑蛇様の棲家の入り口が開くのを
   固唾を飲んで待つ。
   30分後、俺達の眼前には邪気を漂わせた洞窟の入り口がその姿を現した。

彼女:不気味ね・・・

俺 :ああ、此処で間違い無い・・・凄い邪気だ。

友人:松明に火を点けるぞ。
   刑事さん、一つは持ってて貰えますか?

刑事:よし、分かった。

俺M:松明の炎を灯りに岩々の影が不気味に揺れる。
   洞窟の中は寒い程に冷え、松明の熱が暖になり
   身が振るえるのを防いでいた。

友人:かなり広いな・・・

刑事:まだ奥に続いてそうだ・・・

彼女:お婆さん、足元気をつけてね?

老婆:ああ、大丈夫じゃ。

友達:ひゃっ!

彼女:あんたがコケて如何するのよ?

友達:岩がヌルヌルしてるんだもん・・・

友人:大丈夫か、俺に掴ってろよ。

友達:・・・・うん、ありがと。

俺 :普段は海中に沈んでいるだろうからね。

友人:ぉ、この辺からは地面乾いてるぜ?

友達:ホント?良かった・・・ずっとヌルヌルじゃなくて。

俺M:暫く洞窟を進むと
   段々と夢の中に出てきた風景に近付いて来た・・・

友人:鍾乳洞か?嫌な雰囲気だぜ・・・

憑蛇:「ニンゲンめ・・・我が寝床に迄・・・」

老婆:憑蛇様じゃ・・・憑蛇様の気配がしよる・・・

俺 :ええ、如何やら此の辺りですね。

憑蛇:「許さぬ・・・許さぬ・・・許さぬ・・・」

俺 :うっ・・・

俺M:白蛇様の御札に守られているというのに
   心臓を杭で打ち抜かれた様な邪気が身に刺さる。
   気が付くと、周囲には何万何千という無数の蛇が
   鎌首を持ち上げ、俺達を睨みつけていた。

友達:きゃあぁ!

友人:大丈夫か!俺の後ろに居ろ!
   コノヤロっ!只の蛇の分際で・・・!

俺M:友人と刑事さんは手にした松明で蛇達を追い払う
   しかし、洞窟内という狭い空間ではそう巧く立ち回れない。

刑事:クソっ!切が無い!

老婆:『天に仕いたもう白蛇の命以って
    封呪の鏡、此処に祭りて、過ち犯しけむ憑蛇の
    諸々の禍事・罪・穢、有らむをば
    祓い給い清め給えと、申す事を聞きこし召せと、
    かしこみ、かしこみ申す・・・』
    蛇共よ退けぃ!

俺M:お婆さんの祝詞に、蛇達は怯んだ様子を見せた。

彼女:見て!奥に何かある!

俺M:行き止まりとなった洞窟の広間に
   半ば朽ちかけた祠が建っている。
   そしてその祠に塒を巻く様に大蛇の骨が巻き付いていた。

老婆:あれじゃ、あの祠を燃やしておくれ!

刑事:お婆さん、良いのかい?

老婆:あれは憑蛇様を信仰した邪道の祠じゃ。
   あの祠さえ浄化してしまえば、憑蛇様の力は失われる。

刑事:解った。ぅおぉりゃ!!

憑蛇:「ヤメロォォ・・・・・・!!!」

俺M:松明を両手で振り上げ、刑事さんは憑蛇様の祠に叩き付ける。
   その瞬間、周囲に漂う邪気に引火した様に
   辺りを炎が包み、祠を燃やし尽くした。

友人:ぇ?

友達:ちょ、ちょっと・・・

彼女:何あれ・・・・きゃあ!!

俺M:無数の蛇が憑蛇様の呪縛から解き放たれ、
   洞窟の出口に向かい一斉に移動し始めた。
   其れは無数の蛇の洪水となり
   俺達を押し倒し、体の上を這い過ぎて行く。

   暫くの蛇の洪水を耐えた後、立ち上がった俺達の前には、
   肌に鱗を生やした大男の姿が呆然と立ち尽くしていた。

憑蛇:「何故、我が領土を侵略する・・・?
    此の島は我の守護する島ぞ?」

俺 :侵略等する心算は無い。
   只、呪いや祟りを防ぎに来ただけだ。

憑蛇:「其れもニンゲンの願いを聞き入れての事ぞ?」

俺 :確かに、誰かを呪いたいと願った人間が居たかも知れない。
   けど、俺達はそんな事を望んではいない。

友人:望むどころか、いい迷惑だ!

憑蛇:「何と身勝手な言い分なのだ・・・
    矢張りニンゲン等滅び去れば良いのだ・・・」

刑事:其れこそ身勝手ってもんだ。
   あんたが人間を滅ぼしたいなら、
   あんたは人間に滅ぼされても文句は言えまいよ・・・

老婆:憑蛇様・・・人間の勝手な事情とは理解しておりますがの・・・
   憑蛇様の祟りのお力は最早人間達には必要無きモノなのですじゃ。
   どうかお眠り下され。

俺M:お婆さんの言葉に何も言葉返さず、
   憑蛇様は遠くを見つめていた。

老婆:封呪の鏡を・・・

俺 :はい。

俺M:お婆さんは拝む様に白蛇様の御札を憑蛇様の御身に当てると
   憑蛇様は青白く光る一匹の大蛇にその身を巻かれ
   掻き消される様に姿を消してしまった。

老婆:さて、帰るかの・・・

俺M:呪いの元凶であった憑蛇様。
   しかし、其れは此の島の土着神で・・・
   神様を封じるなんて大それた事を行ったという実感は
   全くと言って良い程、何も無かった。

彼女:兎に角、此れで全て終わったのよね?

俺 :そうだな。

彼女:何か、凄い出来事だった様な・・・
   呆気無かった様な・・・

俺 :ああ、俺・・・憑蛇様が最後、封印されるという時に、
   何の抵抗もしなかった事が、何処か心に引っ掛かってね・・・

友人:力を封じられて、あの洞窟に逃げ込んだんだろ?
   祠も燃やされて、抵抗する力がもう残って無かったんじゃないか?

俺 :かもな・・・けど、別の答えもある様な気がしてさ。

友人:考え過ぎだって、兎に角無事解決したんだ。
   もっと素直に喜べって!

友達:お父さんやお母さんの仇も討てたしね。

刑事:その御両親の事だが・・・
   真相は如何あれ、お父様がお母様を刺殺した事には間違い無い。
   書類上は無理心中だったという事になるが・・・許して貰いたい。

友達:・・・・それは・・・仕方ないですね。

友人:少なくとも、俺達の中では真相は分かってるからよ。
   そんなに落ち込むなよ。

友達:うん。

俺 :じゃあ・・・帰るか。

彼女:そうね。

俺M:こうして、俺達の非現実的な冒険は幕を閉じた。
   街に戻った俺達はあの出来事が夢だったかの様に
   慌ただしく、平凡なモノとなっていたが、
   そう言えば、友人はあの友達と帰ってからもよく会っている様だ。

憑蛇:「最早、我の力は不要となったか・・・
    だが、お主達にかけた呪いは・・・未だ消えておらぬ・・・
    その呪いに気付く事もあるまいがな・・・」



                      ・・・・終。