砂上のマルアーク 第一話『出航』 

レナート(16歳)男:裕福な医者の家に生まれた戦災孤児の少年。
マルコ(16歳)男:貧民街の孤児。掃除夫の仕事をしている。
エルモ(16歳)男:貧民街の孤児。かっぱらいで生計を立てている。
ジルダ(16歳)女:酒場で働く少女。同じく戦災孤児。
アリチェ(14歳)女:レナートの妹
ウーゴ(38歳)男:スループ『酔いどれ鼻唄』号の艦長




ウーゴN:機動装甲兵、
     今から八年前の大戦で投入された人型兵器。
     歩兵の汎用性と戦車の火力、機動力を併せ持ち
     あらゆる局面での作戦行動が行われた。
     前大戦で大きな戦果を上げたそれは、全長約8m.重量約50t
     兵装の変更が容易であり、戦時中、兵士達から甲冑の愛称で呼ばれた事から
     今でも甲冑の名が使われている。

エルモ:バーカ、俺が捕まるようなヘマする訳ないだろ?

レナート:そういう事じゃなくて・・・人の物を盗むのは良くないって事さ!

エルモ:良くない?良くないのはこの国の政治だろ?
    俺たちゃかっぱらってでも食いモン手に入れねぇと餓死しちまうし
    盗みが悪いとか良いとかの問題じゃねぇよ。

レナート:食べ物なら毎日、分けてあげてるじゃないか?

エルモ:ちっ・・・パンにチーズに薄めたワインか?
    ・・・まぁな、確かにお前には感謝してるよ。
    でも、それとこれとは話が別!
    お前も食ってみろよ、このジェラート甘いんだぜぇ〜?

レナート:いいよ・・・俺は・・・

マルコ:やぁやぁお二人さん!今日はご機嫌かい?

エルモ:よぉ、マルコ!今日は仕事休みか?

マルコ:今日は昼までだったんだ。
    親方の奥さんが急に産気づいてさ〜
    親方ったら大慌てで・・・ん?エルモ、良いモン持ってんじゃん!

レナート:マルコ、それはエルモが屋台から盗んで来たモノなんだ・・・

マルコ:分かってるよ。
    エルモがジェラート買う金持ってる訳ないだろ?

レナート:マルコも盗みはやっても良いと考えてるのかい?

マルコ:そうだなぁ〜、俺は親方の下で働いて安月給でも稼いでるから・・・
    でも、働きたくても今のご時世、仕事なんて見つけられないし
    いい事じゃないにしてもさ、エルモを説教するのは可哀想じゃないか?

レナート:・・・・そりゃ、事情は分かるよ・・・でも。

マルコ:ま、どうせお前んちみたいな金持ちには
    俺達みたいな貧乏人の気持ちはわからねぇよな。

レナート:・・・・・・

マルコ:ぃや・・・すまん、言い過ぎた。
    感謝してるぜ?

レナート:うん。いいって・・・

マルコ:それよりだ!今日はイイ話があるんだ!

エルモ:ぁ?なんだ!?

マルコ:仕事だよ!仕事!

エルモ:へ?

マルコ:甲冑の操縦者を募集してんだ!
    テルミニの丘にレギオンを載せたスループが停泊してたんだよ。
    で、冗談半分で何でも手伝うからレギオン操縦させてくれっていったらよ!
    「小僧、こいつを扱えるのか?なら雇ってやろうか?」だってよ
    なんでも、操縦者をこれから募集するところだったらしくてさ!
    エルモもレナートも甲冑の操縦できるだろ?

エルモ:マジかよ!?

マルコ:マジマジ!!

レナート:でも、レギオンって軍用の甲冑じゃないか・・・

マルコ:それがどうかしたのか?

レナート:帝国正規軍ではないだろうけど・・・傭兵か何かじゃないのか?

マルコ:砂海を渡ってカナンの遺跡に行くそうだぜ?
    護衛か何かの仕事だろ?ちょろいって!

エルモ:そうそう、レナートは心配性過ぎんだよ!

マルコ:で、どうすんだ?
    二人ともやるだろ!?俺は今晩、親方に暇もらって行くつもりだぜ?

エルモ:行く行く!!当然だろ?

レナート:俺は・・・俺は行かない。

エルモ:マジかよ!?レギオンだぜ?
    土木用の甲冑を乗り回せるだけでもテンション上がるのによぉ〜
    それがレギオンってなりゃ乗るしかねぇじゃん!

レナート:うん。・・・止めはしないよ。
     折角見つかった仕事だし・・・でも、俺は嫌な予感がするんだ。

エルモ:はぁ〜、レナートはいつもこれだぁ・・・
    後で俺も乗りたかったって言っても遅せぇんだからな!

レナート:で、いつまでの仕事なんだい?

マルコ:さぁな〜?カナンの遺跡っていや、砂海の向こう側なんだから
    船でも10日以上かかるだろ?
    少なくとも1ヶ月以上は仕事にありつける筈だぜ?

レナート:カナンか・・・追放の民の聖地だったよね・・・
     そんな遺跡に何の用があるんだろ?

マルコ:そこまでは聞いてないけどよ・・・

エルモ:いいじゃん!レギオンに乗って、金も貰える!
    帰ってきたらレナートにジェラート食わせてやるよ!
    ちゃんと店で買ってだぜ!?

レナート:ああ、楽しみにしているよ。

エルモ:よぉ〜し、燃えてきたぁ〜!

マルコ:じゃあ、明日迎えにくるからよぉ!
    俺はそろそろ帰るわ〜!

エルモ:ああ!また明日な!



レナートM:カナンの遺跡・・・八年前の大戦で帝国に滅ぼされた追放の民の聖地
      戦争が終わって八年も経つというのに、
      帝国軍は追放の民の掃討戦を今も継続している。
      表向きはテロ対策の取り締まりだとなっているけど・・・

ジルダ:レナートぉ〜!

レナート:ぇ?なんだ、ジルダか。

ジルダ:なんだ、じゃないでしょ!
    ボーっとしてぇ、考え事?

レナート:まぁそんなとこ。

ジルダ:何悩んでんの?言いなさいよ。

レナート:・・・・ぃゃ、何でもないよ。

ジルダ:嘘!あ、またエルモ達の事でしょ!
    今度は何やらかしたの!?

レナート:別に悪い事じゃないんだよ?

ジルダ:でも、やっぱりエルモ達の事なのね!
    
レナート:・・・ぅん。

ジルダ:で、どうしたのよ?

レナート:テルミニの丘にスループが停泊してるって知ってる?

ジルダ:あー、遺跡調査だか何だかの船でしょ?
    調査に同行する甲冑乗りを探してるとか酒場の客が話してたけど・・・あ!
    エルモ達、その船に乗るつもりなの!?

レナート:うん。あの二人は子供の頃から
     工事現場の甲冑を盗んで乗りまわしてたりして
     甲冑の操縦は出来るから・・・

ジルダ:レナートも行くの?
    確かレナートも甲冑に乗れたよね?

レナート:ん〜ん。俺は行かない。
     嫌な予感がするんだ。

ジルダ:嫌な予感って?

レナート:分からないけど・・・

ジルダ:・・・・・。
    うん、分かった!私も一緒に行ってあげる!

レナート:えっ!?

ジルダ:あいつらが心配なんでしょ!?
    それなら一緒に行ってバカやらないように見張ってたほうが
    きっと気が楽よ!

レナート:でも・・・

ジルダ:あいつらには内緒で着いて行けばいいのよ!

レナート:どうやって?

ジルダ:着いて来て!



レナート:・・・ここは?

ジルダ:私のお祖父ちゃんが借りてた倉庫。ま、秘密の研究所ってところね!

レナート:ジルダのお祖父さんって博士だっけ・・・

ジルダ:そ!でも内緒よ?
    お祖父ちゃんは追放の民出身の研究者だったの。

レナート:え!?・・・じゃあ・・・・

ジルダ:そ、私も追放の民の血が流れてるわ。
    父は帝国の人間だったけどね。

レナート:そうなんだ・・・

ジルダ:そしてコレが・・・お祖父ちゃんが私に残してくれた宝物!

レナート:こ、これは・・・甲冑!?

ジルダ:マルアーク。帝国軍との戦いを逆転させる筈だった
    追放の民・・・フェニキアの民の秘密兵器なの。
    ま、マルアークの完成を待たずに
    戦争はフェニキアの敗北で終結しちゃったけどね。

レナート:これ・・・・動くの?

ジルダ:失礼ね!ちゃんと動くわよ!
    私のお祖父ちゃんは、このマルアークの開発責任者だったの。
    それで戦争が終わった後、この研究所で密かに完成させたのよ。

レナート:真っ白で綺麗な機体だね・・・

ジルダ:マルアークはフェニキアの民の言葉で『天使』って意味なの。

レナート:マルアーク・・・天使か。
     この甲冑にぴったりな名前だな。

ジルダ:でしょ?
    このマルアーク、レナートに使わせてあげる。

レナート:これを・・・俺に?

ジルダ:運搬用のバルシャがあるわ。
    小型船だけど甲冑一機ぐらい載せれるし、
    砂海を越える事もできるわよ?

レナート:バルシャなら2人でも運行できるけど・・・

ジルダ:大丈夫よ。アリチェにも手伝って貰うから!

レナート:ちょ、ちょっと!アリチェまで巻き込むつもり!?

ジルダ:お兄ちゃんのピンチなのよ?あの子なら間違いなくついて来るでしょうね。
    それにアリチェはクルーザーの運転が出来るんじゃなかった?

レナート:そうだけど・・・参ったなぁ・・・



ウーゴ:お、小僧来たな!?

マルコ:もちろんだよ!

ウーゴ:でぇ〜隣のが昨日言ってたダチかい?

エルモ:エルモってんだ!よろしくな、オッチャン!

ウーゴ:オッチャンじゃねぇ!艦長って呼びな!

エルモ:艦長ねぇ・・・良いとこ船長って感じじゃねぇか?

ウーゴ:うるせぇガキだなぁ〜、
    それで、ちゃんと甲冑は操縦できんだろうなぁ!?

エルモ:それなら任せとけよ!
    ガキん頃から乗り回してっからよ!

ウーゴ:てめぇはまだガキだろうが・・・
    まぁいいや。
    報酬はてめぇらの働き次第だ!
    使い物にならなかったら砂海の真ん中に放り出してやるからな!!

マルコ:ご自由に。
    でも、俺たちゃ甲冑の使い方には自信があるぜ?

ウーゴ:イイ度胸だ。
    乗りな!



アリチェ:メインエンジン出力最大。ホバー浮力安定。
     ジルダさん、いつでも出航できます。

ジルダ:レーダーの反応よし、あいつらの乗った船はまだ出航してないわね。
    アリチェありがとね!

アリチェ:お兄様を放って置けませんもの。

ジルダ:そう言ってくれると期待してたわ。

アリチェ:ふふふ、不束な兄ですがどうぞ見捨てないでやってくださいましね。

ジルダ:ええ、手のかかる子ほど可愛いって言うしね?

レナート:おぃ!二人ともひどいぞ!

アリチェ:あら、お兄様。

ジルダ:マルアークの整備は終わったの?

レナート:ああ、調整も終わった。燃料も満タン。弾薬も装填した。
     整備は元々行き届いてたしな・・・

ジルダ:当然!私の宝物って言ったでしょ!

レナート:しかし、マシンガンからランチャーまで・・・
     よく今まで隠し通せてきたなぁ。
     軍に見つかれば没収だけで済まないぞ?

ジルダ:女は誰にもバラさない秘密をいくつも持ってるモノなのよ?

レナート:もう俺達にバラしたじゃないか!

ジルダ:バカね、レナートに隠したい秘密は他にたくさんあるの。
    いくつも持ってるって言ったでしょ?

レナート:はいはい、別に興味ないからご自由にお隠し頂いて結構ですよ。

ジルダ:ちょ、ひどーい!アリチェあんな事言ってるぅ〜!

アリチェ:お兄様、甲冑の扱いの前に女性の扱いをお覚えになってはいかが!?

レナート:なんだよ2人して・・・

ジルダ:アリチェはホントいい子ね!

レナート:そりゃ自慢の妹だからね。

ジルダ:あらそ・・・あ、動き出したわよ!
    アリチェ!

アリチェ:推進出力上昇!出ます!



ウーゴ:全速前進!取り舵いっぱーい!
    通信を格納庫に繋げ!
    「あーあー、小僧ども聞こえてるか!?
     砂海に出たら、レギオンのテスト運転を兼ねて
     お前らの実力を見させてもらう。
     マニュアルとシミュレーターは用意してあるから準備しとけよ!?」

エルモ:ちぇっ、レギオンったって要は甲冑だろ?
    マニュアルなんて必要ねぇっての・・・

マルコ:でも、ホバリングやバーニア移動とかあるぜ?

エルモ:・・・何それ?

マルコ:ほら、他にも・・・

エルモ:ショルダーウエポンの換装手順に・・・機体固定アンカー?
    何だこりゃ?

マルコ:支援攻撃は高火力のショルダーウエポンを使うらしい。

エルモ:あー、俺ちょっとシミュレーターやってくるわ・・・
    マニュアル読んどいてくれるか?後で教えてくれ・・・

マルコ:文字読むの苦手だもんな、お前・・・



ジルダ:何?何か来る!

アリチェ:どうしました?

ジルダ:レーダーに反応!北西より大型艦影1隻。
    これ『ガレアス』クラスよ!?

レナート:ガレアスって帝国軍の戦艦クラスじゃないか!!

アリチェ:ジャミングは出してますし・・・まだ目視で発見されてないと思いますが・・・

ジルダ:狙いは多分、あいつらの乗ったスループの方でしょうね・・・

レナート:ジャミングはそのまま、速力最大、取り舵40度、
     スループの左側を迂回!俺、マルアークで出るよ!

ジルダ:ぇ・・・?わ、わかった・・・。

                       第二話『出撃』に続く。