三騎士英雄譚〜第十章〜

フォルテウス・エイブス(41歳)男
近衛騎士団団長。船乗りあがりの騎士。
元海賊であったという噂もあるが
その噂に似合う豪胆な性格。
エドを近衛騎士に引き立てた人物でもある。

ギルバート・アシュレイ(31歳)男 愛称=ギル
フォルテウス・エイブスの知人
セルディア人の貿易商であり、また海賊でもある
港町アムシーダを拠点に大規模な海賊団を率いている。
月の湾曲刀の所有者

ウォルター・ラザフォード(24歳)男
ギルバート提督の参謀を務める地理学者
剣の腕はないが連射式弩弓を持ち、
その威力は素人のウォルターを強力な弓兵へと変える。
新測量技術を考案したり、巧みな会計術により
ギルバートの海賊団を支えている。

シーギスムンド・ベールヴァルド(26歳)男
エスティア人の暗殺者
ミカエルの側近であり腕利きの暗殺者

シュティーナ・リンドホルム(23歳)女
エスティア人の暗殺者
踊り子の一員として身を潜めている。
マデリーネと偽名を名乗る。

舞台説明



エイブスN:港町アムシーダ
      セルディア王国の南岸西側の貿易港である。
      南から吹く季節風がオレンジ色の屋根をすり抜けてゆく
      「懐かしい景色だ・・・」
      アムシーダの小高い丘にある一軒の酒場『鴎達の休息』亭
      その屋根裏部屋・・・
      それが私の今の寝床だ。

シーギス:月の聖剣を持つ男は、この港を根城にする海賊の首領ギルバートだ
     シュティーナ・・・コンタクトは任せてよいな?

シュティ:ああ、出入りの酒場は押さえている。

シーギス:また連絡をする。

シュティ:ああ・・・

【鴎達の休息亭】

ギル:親仁!酒だ!

ウォルター:ギルバート提督・・・明日は出航です。
      控えて下さいよ?

ギル:ふんっ!わかっている。
   まったく・・・お前と居ては酒を不味くされるな・・・

ウォルター:ならば、呑まなければ良いでしょう?
      航海中のエールは壊血病の特効薬となりますが
      新鮮な野菜を摂れる陸(オカ)では、お酒の必要性は薄いのですから・・・

ギル:わかった!・・・黙っていろ!
   酒は薬じゃねぇんだ!景気づけや気分をよくする為に呑むモンなんだよ。

ウォルター:お呑みになる前から、十分・・・景気がよろしいのではないですか?

ギル:うっせぃ!

エイブス:やってるな?

ギル:ぉ?フォルテウスの旦那ぁ!!一緒にやりませんか!?

ウォルター:フォルテウス卿、ギルバート提督にあまり呑み過ぎない様に言ってやってください

ギル:お前・・・旦那にまで・・・

エイブス:まぁまぁ…呑み過ぎはイカンが、海の男が酒場で素面(シラフ)でも格好がつかん
     潰れぬ程度ならば、酒は人生を楽しくするものだ・・・

ギル:いやぁ〜わかってらっしゃる♪
   流石は大海蛇(サーペント)のフォルテウスだぁ!!

エイブス:また懐かしい名前が出てきたな・・・

ギル:今はセルディア王国近衛騎士団長様でしたなぁ〜

エイブス:それも今や微妙な立場だがな・・・

ギル:まぁ呑みましょうや!

シュティ:あら・・・楽しそうですね
     良かったらご一緒させて戴けますか?

ウォルター:ゃ〜これは・・・・

ギル:へぇ〜、こりゃ可愛らしい人だな!
   ああ、是非一緒に今宵を過ごしましょう!

シュティ:ありがとうございます。
     素敵な殿方ばかりですわね?ご一緒できて嬉しいですわ!

ギル:ウォルター!お前ナニ顔を紅くしてやがる!?

ウォルター:いえ・・・

エイブス:お嬢さん、そのナリは踊り子か何かかね?

シュティ:ええ、偃月刀(エンゲツトウ)を用いての剣舞を披露しております。

ギル:偃月刀使いかぁ・・・俺と同じだな!まぁ舞は踊りはせんが・・・
   俺は敵を踊らせるのが専門でな!

シュティ:まあ!面白い方ですわね!
     それに素敵な刀!

ギル:これは二百年も前に鍛えられた偃月刀でな・・・
   だというのに最新の鍛冶技術を以ってしても真似の出来ん切れ味だ
   造られた当時なら相手の剣を折り、盾や鎧ごと斬り臥せてしまっただろうなぁ

シュティ:そんな凄い刀ですの?
     よく見せて戴けません事?
     商売柄、美しい刀・・・特に偃月刀には興味がありますの!

ギル:あんたの様な美女に頼まれては・・・断れるものじゃない

シュティM:・・・・間違いない、三聖剣の1つ『月の湾曲刀』だ・・・

ギル:如何かしたかい?

シュティ:いえ、こんな美しい偃月刀を見たのは初めてだったもので・・・

エイブス:酒場で刀剣の話は興を削ごう・・・
     刀自慢はこの辺に、盃を酌み交わそうじゃないか

シュティ:そうですわね・・・

ウォルター:その・・・お嬢さんのお名前は?

シュティ:あ、申し遅れましたわ!踊り子のマデリーネよ

ウォルター:マデリーネ・・・エスティア人系の名前ですね。

シュティ:ええ、よく御存知ね。
     父はエスティアの人だったと聞いております。

ウォルター:ぁ・・・これは不躾な事を申したみたいですね・・・失礼・・・

シュティ:気にしていませんわ、貴方は繊細な方なのね。

ウォルター:はは・・・

エイブス:この街にはいつから来られたのかな?

シュティ:3日前ですわ、
     ですから・・・そろそろ仕事をさせてもらえる酒場を探さなければ・・・

ウォルター:ちょうどいい、ここで一つ舞を披露して戴けませんか?
      この店でしたら、顔も利きます。
      貴女さえ良ければ・・・ですが・・・

シュティ:ええ、では・・・



ギル:ぉ、始まった!

エイブス:ほぉ・・・あの偃月刀は真剣か・・・にしても、隙のない動きだ・・・

ウォルター:剣舞の踊り手は実力次第では
      剣士に退けを取らない剣技を身につけると言いますからね。

エイブスM:それにしては・・・殺伐とした舞だ・・・

ウォルター:美しい舞ですね・・・

エイブス:ん?・・・ああ・・・

【深夜の港】

シーギス:どうだ?

シュティ:間違いなく本物だった・・・

シーギス:そうか・・・

シュティ:明朝、岩塩をデミドーラの貿易都市バルマに運ぶ為、出航予定と話していたわ

シーギス:バルマに塩?・・・大方擦れ違う商船が目当てだろう・・・

シュティ:狙うなら、今晩の内に・・・

シーギス:わかっている。

【鴎達の休息亭、二階宿部屋】

ウォルター:マデリーネさん・・・綺麗な人でしたね

ギル:お前・・・惚れたな?

ウォルター:なっ・・何言ってるんですか!?
      私はまだ・・・

ギル:まだ?なんだ?

ウォルター:いえ、今日お会いしたばかりですし
      惚れるとかそういった事では・・・
      それにマデリーネさんにもご迷惑ですよぉ!

ギル:フンッ、何を言うかと思えば・・・
   女に惚れるのにそんなに時間が必要か?
   第一、あれだけ顔を真っ赤にしていて、こっちが恥ずかしいぐらいだったぜ!

ウォルター:いや、あれはですねぇ・・・

ギル:・・・・シッ!!待て!

シーギス:俺の気配に気付くとは流石だな・・・

ギル:誰だい?

シーギス:通りすがりの旅行者さ・・・

ギル:ふっ・・・面白い奴だな・・・最近の旅行者ってのは
   通りすがりに人の塒(ネグラ)に息を殺して忍び込むモノなのか?

シーギス:ふふふ・・・お喋りが過ぎたようだ・・・

ギル:くっ!イキナリかよっ!!

ウォルター:提督!!

ギル:悪いが旦那を呼んできてくれ!ちっと手強い奴みたいだ・・・

シーギス:・・・・シャッ!≪短剣と投擲≫

ウォルター:ぐあ!!

ギル:投げナイフか・・・ウォルター!大丈夫か!!

ウォルター:大丈夫です!ぐっ・・・足に短剣が刺さったぐらい・・・
      提督と一緒に居れば慣れっこになりますよ・・・

シーギス:なら、もう1本くれてやろう・・・シャッ!

エイブス:フンッ!≪投擲された短剣を叩き落とす≫

シーギス:何!?

エイブス:大丈夫か!?

ギル:旦那ぁ!

ウォルター:フォルテウス卿!大丈夫です!
      それより今、貴方を呼びに行こうと・・・

エイブス:嫌な予感がしたんでな・・・
     で、・・・お主は何者だ!?

シーギス:ちぃ!面倒になってきやがった・・・

エイブス:三対一じゃ卑怯と言いたかろうが・・・
     忍び込んだお主が悪いのだ・・・諦めろ。

シーギス:ククッ・・・この程度を卑怯と呼ぶようでは・・・
     余程甘い世界で生きてきた様だな・・・

エイブス:大した余裕だな?で、どうするつもりだ大将?

ギル:どうする事も出来ず切り刻まれるんだよ!!
   ≪不意打ちで放った横薙ぎの一撃を躱される≫
   チィッ!!

シーギス:卑怯などと言わんが、分が悪い様だ・・・
     今日は退かせてもらおう・・・

ウォルター:逃がしません!!
      ・・・・なっ・・躱(カワ)された!?

シーギス:さらばだ!!

エイブス:あの身のこなし・・・只者ではないな・・・

ウォルター:二連射したリピーター・ボウの太矢(クォレル)を両方躱(カワ)してしまった・・・

エイブス:ふむ、しかしその弩弓は凄いな・・・リピーター・ボウと言うのか?

ウォルター:はい、私が発明した連射式弩弓です
      弦の巻き上げをハンドル操作による機械化にし
      速射速度を向上させました。
      矢の装填も自動化し連射も可能にしたのですが・・・
      威力の低下とメンテナンスの複雑さがネックですので
      普及させるにはまだ改良が必要でしょうね・・・

エイブス:いやいや、大したものだ。

ギル:それより旦那・・・見てくだせぇ・・・

エイブス:ん?これは・・・

ギル:奴の投げた短剣です。

ウォルター:エスティア王国で使われている短剣ですね・・・けど・・・

エイブス:どうした?

ウォルター:セルディアで造られたモノです。
      使われてる鉄もセルディアの物ですが・・・
      油を使った焼き入れがされているんです。
      水を使うより安定度が高いんですが
      エスティアではそういった技法は使っていません。

エイブス:つまり、エスティアの短剣を使い慣れた者が
     セルディアで装備を整えている・・・

ウォルター:どういう事でしょう?

エイブス:セルディアの人間がエスティア人を雇い入れてるのだろう・・・

ギル:確か・・・ガルビア・フォン・クライセン侯爵の下に
   エスティアの貴族が亡命したとか・・・聞いた事があったな・・・

ウォルター:確かに貴族の後ろ盾があれば、エスティアの物をセルディアで造るなんて
      手間のかかる事でも出来るでしょうね

エイブス:クライセン候・・・また、ヤツか!!

ギル:どうやら旦那の敵に俺も狙われてるみたいですね。

エイブス:狙いはわからんが・・・どうやらそういう事らしいな

ギル:ウォルター!明日からの出航は副長のゼフに任せる!
   俺はちょっとの間、旦那と行動するからよ野郎共に伝えといてくれ!

ウォルター:わかりました。けど私もお供させてもらいますよ!
      短剣の借りもありますが・・・提督を監視しないといけませんからね!

ギル:ケッ!そっちかよ!?



エイブス:身を隠す立場になってすら、血腥い戦いから逃れる事が出来ぬらしい
     しかし、ガルビア・フォン・クライセンの飼う毒蛇共は
     このワシが喰ろうてくれよう
     この先、大きな内乱が待ちうけるやも知れんな・・・
     ギルバートには悪いが、協力してもらうとするか・・・
     「親仁!今日の勘定はワシ付けてくれ!」
     海賊を敵に廻せば如何なるか・・・覚えておれ!クライセン!!



                  十一章へつづく・・・
                           次回に続く。