三騎士英雄譚〜第十六章〜

セドリック・フォン・ラグワルト(32歳)男 愛称=セディ
セルディア王国ラグワルト伯爵家の次男。第二白銀騎士団中隊長。
貴族の名家の生まれだが華やかな社交界を嫌う変わり者。
いまだ独身を通しており、剣の道に進むが
うらはらに婦人からの人気は高い。
物腰は柔らかく、文才に長けるが剣の腕は白銀騎士団随一の腕を持つ

ティナ(15歳)女
ラグワルト家に盗みに入った泥棒。
セディに一目惚れして付き纏う。

カルヴィン(19歳)男
昔つるんでいたティナの盗賊仲間。
ティナを妹の様に可愛がっていたが、同時に恋心を抱いている。
自分の仲間の元へティナを連れ戻す為に現れた。

舞台説明



ティナN:緊張の続く最前線の要塞内部。
     それでも貴族や騎士達と囲む食卓は・・・
     セルデンの下町でギリギリの生活をしていたあの頃と比べると
     夢のお城でのお姫様の様な暮らしだった。

セディ:ティナ・・・こんな所にいたのか?

ティナ:あ、セディ様・・・
    ・・・少し前の事を思いだしてたんだ・・・

セディ:少し前?

ティナ:そう、まだ盗賊仲間達と裏町で暮らしてた頃の事・・・
    まだ2ヶ月も経っていないのに、ずっと昔の事みたい。

セディ:そうだね・・・今の生活は何か不満はないのですか?
    まぁ・・・ティナの様な若い娘に、
    この様な血腥(チナマグサ)い世界は似合わないのかも知れないですけど・・・
    本当に助かってます。・・・・すまないね。

ティナ:ん〜ん。その逆・・・。
    この戦場の最前線が危険じゃないって訳じゃない。
    けど・・・ご飯だって毎日三食。
    朝の十時と昼の三時にはティータイム。
    服も寝床も用意されていて、何不自由ない。

セディ:シャルはティータイムをやけに重要視していますからね(笑)
    さぁ、テラスでは・・まだ冷えます・・・中に入りましょう。

ティナ:うん。

セディ:そう言えばティナ、初めて私の屋敷に忍び込んで来た夜より
    当たり前の様に共に行動していますが・・・
    知り合う以前の暮らしに残してきたモノは無いのですか?
    仕事とか、仲間とか・・・

ティナ:あは♪盗賊の仕事は盗みだよ?
    まぁ貴族の密偵ってのも盗賊の仕事の内だしさ。
    組織からの足抜けも、あまり五月蝿くなかったからね!

セディ:まぁ紹介料という名目で随分と支払わされましたけどね。

ティナ:それホント!?私からも足抜け料取っといて、二重取りかよー!
    ・・・・けどさ、仲の良い仲間達はいたよ?
    カッパライとかして裏町で生活してた頃から
    ずっと5人組で活動しててさ・・・

セディ:うん。

ティナ:一番年上の兄貴分がカルヴィンっていって
    そのカルから盗賊としての色んな業(ワザ)を教えて貰ったんだ・・・

セディ:へぇ・・・

ティナ:情報操作に尾行術。鍵開けに、スリに、護身術もね。

セディ:そういえばティナは美術品や宝石にも詳しかったですね。

ティナ:それは組織に入ってから。
    文字の読み書きから、鑑定術までね。

セディ:組織で読み書きを?
    それまではどうしてたんです?

ティナ:あのねぇ・・・セディ様?
    街の・・・特に私達、下層の人間には文字なんて滅多に必要としないし
    読み書きが出来る人の方が少ないのよ?

セディ:そうなのですか・・・?
    それは少し驚いたな・・・

ティナ:やっぱり・・・セディ様は貴族なのよね・・・

セディ:・・・すまない。気がまわらぬ事を言ってしまったようです・・・

ティナ:ん〜ん。
    ・・・・ただ、少し・・・セディ様との身分の差を思い知らされただけ・・・

セディ:何を言っているんです。
    私にとって、ティナは最も大切な人物の一人なのですよ・・・。

ティナ:・・・嬉しいけど・・・
    そう言って貰えるのは嬉しい・・・けど。

セディ:けど?

ティナ:やっぱり、セディ様は伯爵家に生まれた高貴な方で
    私は裏町の・・・それも親も家族も居ない・・下賤な人間なの

セディ:気にする事はありませんよ。
    今はこうして立派に働いています。
    それに、私個人から言えば、ティナは掛替えのない人なのですから!
    身分など、どうでも良いではないですか・・・

ティナ:じゃあ、あたしがセディ様を好きになったら・・・
    セディ様はあたしをお嫁さんにしてくれるの!?

セディ:っ!?・・・お嫁・・って・・・

ティナ:いくらなんでも無理でしょ?
    うん。わかってる・・・
    貴賎結婚なんて貴族のセディ様には許されないものね・・・

セディ:待って!・・・その・・・
    ・・・・今までティナをその様な目で見てきた事がなかったので・・・

ティナ:うん。知ってる。
    初めて会った時なんて少年と間違えられたぐらいだしねぇ〜?
    ・・・けど、あたしがセディ様と一緒に居たのは・・・
    一緒に居たいと思っているのは・・・セディ様の事が・・・
    ・・スキ・・ダカラ・・・。

セディ:・・・・ティナ・・・
    本気で言っているのですか・・・?いや・・冗談だとは思っていませんよ。
    しかし私とティナでは歳も離れています・・・

ティナ:そんなの、かまわないじゃない!
    私だってもう15よ?結婚しても可笑しくない歳だもの。
    それに、貴族様達の間じゃ・・・もっと歳の離れた夫婦だっているでしょ!?

セディ:バーニィの奴が聞いたら、卒倒しそうな話ですね・・・
    いや・・常々、早く身を固めろというあれは手を叩くでしょうか?

ティナ:っ!!?

セディ:どうしました?ティナ・・・

ティナ:誰か居る・・・出てきなさい!

カル:・・・・フッ・・久しぶりだね。ティナ

セディ:何者です・・・?

ティナ:カルヴィン!?・・・貴方どうしてここに!?

セディ:カルヴィン?さっき話していた・・・ティナの昔の仲間ですか?

カル:そう。けど、昔じゃない。
   ティナは今でも俺達の仲間さ。

ティナ:それより、どうしてここに貴方が居るの?

カル:ティナ、お前を連れ出しに来たんだ。

ティナ:何を・・・

カル:こんな所で貴族共のお守りをやる必要なんてないんだ!
   俺達はずっと一緒にやって来ただろ!?
   ベイクもアルマもチャドも・・・
   お前の妹分だったエレンだって待ってる!

ティナ:別に私は囚われの身じゃないのよ?
    好きでここに居るの!

カル:その貴族の事が好きなのか・・・?

ティナ:エレンやみんなを忘れた訳じゃないわ・・・

カル:俺達を裏切ると言うのか!?

ティナ:裏切りとか・・・そんなんじゃない・・・

カル:そんなにコイツが好きなのかよ!?
   俺だってお前の事、大事にしてきた。
   本当の妹の様に・・・

ティナ:うん。

カル:でも、お前が組織を抜けて・・・
   俺達の前から姿を消して・・・わかったんだ!
   俺はお前の事、妹なんかじゃなく・・・一人の女として見てるって!!

ティナ:・・・・

カル:みんなだって本当に寂しがってるんだ・・・

ティナ:・・・・ごめん。

カル:俺・・・お前達の話聞いてたんだぜ?
   ソイツ、お前の事なんて女として見てねぇじゃねーか!

ティナ:わかってる・・・そんな事、わかってるのよ!

カル:歳だって俺より年上なんだろ!?

セディ:そうですね・・・しかしカルヴィン。

カル:気安く呼ぶんじゃねぇ〜よ!

ティナ:カルっ!

セディ:そうですか、それは失礼しました・・・
    しかし、ここで君にこれ以上騒がれては
    衛士達に君を捕らえさせなくてはならなくなる。
    ここは前線の要塞内なのでね。

カル:俺を脅そうってのか?
   貴族ってのはそういうのがお得意だからな!

セディ:確かに君の言う通り、
    私はティナの事を女として見てきていなかったのかも知れません。
    ・・・しかし、私にとっても彼女は大切な人なのです。

カル:ケッ・・・知らねぇーな。そんなこたぁー。

セディ:随分と勝手ですね?
    確かに、私の事は知った事ではないでしょう・・・
    しかしティナの気持ちを聞いてもまだ・・・退かないというのであれば・・・
    私も黙っている訳にはいかない。

カル:どうするっていうんだ?

セディ:どうすれば君が納得するのか・・ですね・・・

カル:俺と決闘ででもするって言うのか?

ティナ:やめてよ!

セディ:君がそれで良いのなら、決闘でも受けますが・・・
    騎士団の隊長を務める私は剣技には自信を持ってますよ?
    それでも良いんですか?

カル:ふんっ!そうやって上からしか人を見れないんだな。
   まぁいい。その自信へし折ってやるよ!

セディ:わかりました・・・ではルールは貴方が決めてください。

カル:ケッ、そーかよ、ならファーストブラッドだ。
   最初に血を流した方の負け、武器は自由に選んでいいぜ?

セディ:心得ました。
    では私は腰の剣でお相手致しましょう。

カル:俺は盗賊らしく選ばせてもらうぜ!

ティナ:カル・・・本気なの?

カル:決闘が騎士貴族だけの十八番じゃないって事を教えてやらねぇとな?

セディ:では行きますよ。
    投げた金貨が床についた時点で開始です。
    では・・・

≪親指で弾いた金貨が宙で回転しながら床に落ちる≫

カルM:俺は小さな頃からティナを見守ってきたんだ。
    満足に食えない時もあった・・・
    仕事でドジッた時も、仲間が抗争に巻き込まれた時も
    どんなに苦しいときも仲間と一緒に凌いできた!
    お前の様な坊ちゃん貴族にティナの何が分かるってんだ!!

カル:オラッ!

セディ:小剣!?
    間合いには入らせませんよっ!

カル:甘いぜっ!!
≪腰元の短剣を投擲する≫

セディ:チィッ!盗賊らしい武器って訳ですか!?

カル:盾がないのが残念だったな!隙だらけだ!!

セディ:巧いですが、それは読んでますよ!・・そこっ!!

カル:くっ!・・・ヘヘッこれも読めてたか?

セディ:・・ぅっ!?
    腕に隠剣(オンケン)を仕込んでいましたか・・・
    しかし、私の一撃の方が一瞬早かったですね・・・

カル:チッ・・・確かに俺の負けだな。
   だが、勝つのは俺だぜ?

セディ:どういう事です?
    っ!?・・・・ぅ・・・身体が・・・

ティナ:盗賊らしい武器・・・ぁ・・・まさか!?

カル:ティナ、勝ったのは俺だろ?
   これこそ盗賊の流儀ってもんだ。

ティナ:カルヴィン!毒を塗ってたのね!?

カル:貴族の死は剣による傷でなく毒によって訪れる。
   貴族との決闘にはお誂(アツラ)え向きの盗賊らしい武器だろ?

ティナ:カルヴィン・・アンタ・・・
    誰か!誰か来て!!

カル:お前っ!?

ティナ:セディ様が・・・セディ様が大変なの!!

≪衛士が数名、部屋に飛び込んで来る。≫

カルM:チッ・・退路なしかよ!クソッ!!
    俺よりその貴族の男を選ぶっていうのか?ティナ・・・

ティナ:曲者よ!その男を捕らえて!!

カル:なんだよ!何なんだよぉ〜!!
   こいつら・・・離せ!くそぅ!
   ・・・ティナ!俺は本気なんだ!!
   俺と一緒に・・・一緒に帰ろう・・・なぁ!?

ティナ:貴方は大切な仲間だったわ・・・
    今でもみんなの事は好き。
    でも、私は自分で選んだの!
    報われない恋でも・・・私の意思でここにいるの・・・
    わかって・・・これ以上、貴方を嫌いにさせないで・・・

【翌日】

セディ:・・・うぅ・・・ここは・・・
    ・・・・
    ティナ・・ずっと一緒に居てくれたのか・・・

ティナ:・・ぅぅ〜ん・・・セディ・・・さま・・・Zzz

セディ:確か傷口から身体中に痺れが広がって・・・
    毒か何かが塗られていたのでしょう・・・
    まぁいいでしょう・・・
    ティナの事をレディとして扱っていなかった報いかも知れませんね。

ティナ:ぅ〜ん・・・

セディ:可愛い寝顔ですね・・・私のお姫様は・・・
    本当はずっと前から、ティナを女性として見ていたのかも知れない。
    野菊の様に素朴な笑顔を見せるこの少女に・・・

ティナ:・・・今の・・・本当?

セディ:っ!?ティナ起きてたのですか!?

ティナ:今、起きた(照)

セディ:・・・・っ。(照)

ティナ:セディ様・・・あたし今はその言葉で十分だよ。

セディ:・・・・はは。
    あのカルヴィンという男はどうなりました?

ティナ:あの後、衛士達に捕らえられて地下牢に入れられてる。

セディ:そうですか・・・ずっとティナは私の看病をしてくれていたのですね。

ティナ:コルネリアさんが毒を中和させる薬を調合してくれて・・・
    昨日は私だけじゃなく、みんな遅くまで心配してたんだよ?
    ・・・・でも、目が覚さめてくれて良かった・・・

セディ:ありがとう・・・ティナ。

ティナ:ううん。当たり前だよ♪

セディ:カルヴィンという男も
    ティナを大切に思っていたのは本当なのでしょう・・・
    私は無事に目を覚ましたのですから、
    牢から出してやってもいいでしょうね。

ティナ:セディ様・・・

セディ:ティナの大切な仲間なのですから・・・

【要塞前】

カル:生きてやがるとは、しぶとい野郎だな!

セディ:生憎、有能の人材が揃っているのでね。

カル:決闘の結果は俺の負けだったな・・・

セディ:そうですね。

カル:仕方ねぇ・・・ティナの事はアンタに任せるぜ!

ティナ:カル・・・

カル:俺様特性の致死毒を塗ってあったんだがな・・・
   毒を使って生き残られたんじゃ・・・暗殺者としても俺の負けだ。
   ・・・・ティナを泣かすなよ?・・・そん時は容赦しねぇからな!

セディ:心得ました(笑)

カル:じゃあなティナ!頑張れよ!

ティナ:うん。みんなにも宜しくね!

カル:ああ!

カルM:貴族を狙った俺は、あのまま処刑されても可笑しくなかった・・・
    それでもティナはあいつの為に俺を捕らえさせたんだ。
    ティナの奴、幸せそうに笑いやがって・・・
    本当の居場所・・・見つけたんだな・・・
    ・・・元気でな。

セディ:さて、バーニィのお小言を聞きに行きますか・・・
    そんなに私は甘いのですかねぇ〜。



ティナ:今朝の寝起きに聴こえてきた優しい声が
    あたしは泣きたいぐらいに嬉しかった・・・
    でも、泣いちゃダメだよね?セディ様が笑顔を褒めてくれるなら・・・
    あ〜ぁ、なんか安心したらお腹減っちゃったなぁ〜
    厨房に行って盗み食いでもしてやるか♪
    カルヴィン・・裏町のみんな・・・今度遊びに行くからね!
    今送っている夢の生活を自慢してやろ♪





                  十七章へつづく・・・
                           次回に続く。